415 名前:新歓帰り 投稿日:2009/08/27(木) 21:55:52 pChA2CCT

「うえのさん、りーちです!」
「はいはい。一発ツモね。」

突発的な話題とかみ合わない会話と回っていないろれつ。
いつもはめったにはめを外さない美穂子が不思議な行動に出だす。
それはかなりのレアもので本気でめちゃくちゃ襲いたくなっちゃいたくなりそ
うなほど可愛いいものなんだけど、ちょっと困ってしまうとこがある。

今日は大学の新歓。めでたく同じ大学に入学したわたしと美穂子はやはり麻
雀部に入った。高校の功績のおかげか先輩に熱烈に歓迎され、楽しみつつもし
っかりとした部活であったためにわたしも美穂子も十分に気に入っていた。
問題はというと、そこがやや体育会系のノリであり、飲み会がすごいってこと
だ。そして、とくに今日の新歓会では一年はかなり飲まされたのだ。


「うえのさーん、うえのさーん!」
「はいはい、なぁに?」
「呼んだだけー」
「…」
ずっとこの調子。
わたしに支えられながらよろよろと歩いている美穂子。

さっき言った困ったこととは、美穂子の暴走である。

 まことふざけてお酒を飲んだことがあるせいか、わたしはかなり強いらしくあ
まり酔いが回って来なかった。一方で美穂子は弱いらしく、少し飲むだけで目
がとろんとしてふらふらとし出した。美人な美穂子は色んな先輩に気に入られ
たようで次々とグラスにお酒を注がれていた。
断れない美穂子はそれを全部飲んで酔いがまわって、わたしに絡んで来たのだ。
まず抱きつかれて押し倒されてちゅーをねだられた。
周りは黄色い声を上げておもしろがって止めずに見ていて、終いにはもっと
やれーとか言う先輩もいてかなり焦った。さりげなくかわしていくと、
途中で美穂子は糸が切れたようにすやすやと寝だして、なんとかその場は免れた。

寝ていた美穂子と家が近いという理由でわたしが送ることになり、今に至る。

「ほら、美穂子。家よ。」

何度も来てる美穂子のアパート。そこではきちんと掃除がいきわたって整理整頓された部屋がある。
とりあえず、美穂子を部屋に入れる。

「美穂子、水いる?」
「・・・いります」

だんだんと酔いが醒めてきたのか、受け答えがきちんと出来てきたようだ。
ベットまで連れて行き、丁寧に美穂子を寝かせる。
まぶしいのか、美穂子は手を目の上に乗せていた。水を入れに行こうとすると、
ぐいっと目に当ててる手と反対の手で腕を掴まれる。

「どうしたの?気分悪い?」
しゃがんで美穂子の顔をのぞきこむ。首をふる美穂子。じゃあなんだろうとしばし考えていると、

「うえのさんのばか」「んぁ?」

意外な言葉だった。

「…え、と」
何しただろうと今日一日を頭でめぐらす。わからない。

「…うわきもの、天然」
「もう!何なの?」

覚えのない言われように少しむっとして美穂子の顔にある手を掴んで無理やり顔を見た。
そこでわたしははっとする。奪い取った手の間から見える美穂子の目。
潤んだ赤と青の目はこっちをにらむように見ていた。

「わたし以外の人としゃべらないで。わたし以外の人と触れ合わないで。わたし以外の人と笑わないで。
…わたしを、わたしだけをずっと見て!!」

ずくんっと背筋に電撃が走る。目を射通されて動けなくなる。綺麗な目から離せなくなる。
こんなときにまで美穂子の目はほんとに綺麗だな、なんて見惚れてしまう自分にあきれてしまう。
まるで子供のようなわがまま。そんなこと出来る訳ないと美穂子も当然わかっているんだろう。

美穂子が絶対に言わない可愛いわがまま。
でも、それが本当の、本気の奥底の美穂子の心なんだということはわかった。

「ねぇ、うえのさんのいちばんはわたしのよ?」

涙をすくい取ると、手を重ねられる。じっと見つめられる目は純粋無垢な子どもの目で美穂子が退化したよう。
可愛くて可愛くて仕方なくて顔がにやけるのを我慢して頭をそっとなぜる。
するとだんだん眠くなったのか美穂子の目が閉じてゆく。

「…ひさは、わたし、の」

少したつと、すうすうと規則正しい寝息が聞こえた。しばらく綺麗な寝顔を堪能しながら髪をといてあげる。

そっと栗色の前髪をかきあげておでこにキスをした。

 「おやすみ、美穂子」

わたしはあなたのよだなんて言葉、意地っ張りでいじわるなわたしは言えやしないのよ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年09月02日 21:06