445 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/30(日) 22:22:51 ID:AT6THutv
最初に誰が言い出したのかは定かでないが、県予選後鶴賀の面々は蒲原家に集まってお疲れ様会兼お泊り会を催していた。
基本智美の部屋開催だが、ほぼ完徹状態になることは目に見えていたので、階下の和室に布団を敷いていつでも寝られるよう手筈は整えている。

自室へと招き入れた智美はその後一旦部屋を出、缶ジュースとお菓子がそれぞれ一杯に詰まったコンビニ袋を両手に持って帰還した。

「どうしたんだ、それ?」
「打ち上げするって言ったら親が軍資金くれた。
ささ、遠慮せずにぐいっと。どれにする?」

どれと言われても特にこだわりのないゆみは、開いた袋から適当に一本選びプルタブを起こす。
一口飲むと、意外と喉が渇いていたのか冷たい液体が心地よくほとんど一気に飲み干してしまった。

「おー、いい飲みっぷり」
「なんだこれ、不思議な味だな」
「ん?何だったかな、急いで適当に買い込んで来たから。
えーと……あ…」
「あ?」
「ごめんユミちん、それ酒だ」

たった一言だったが、その場を凍りつかせるには十分な一言だった。
ゆみはぴたと動きを止め、やがて静かに缶から口を離す。
軽く揺らしてみるが、水音はほとんどしなかった。

「全部飲んだ後で言うな!」
「だ、大丈夫だって、多分。
20も18も大して変わんないだろ」
「そうか…?
これも、これも、半分近く酒じゃないか」

缶を選別すると、かなりの数のアルコールが発見された。
ビールではなくぱっと見がジュースに似ている酎ハイやリキュール系で、単純に間違えたらしい。

「いやー、最近のはパッケージがわかりにくいなぁ」
「ここに『お酒』って書いてあるだろ」
「見てなかった」
「はぁ…なんか頭痛くなってきた…」


あっけらかんと言い切る智美に、ゆみは頭痛を覚えた。
酒だと自覚した途端に思考は霞み始め、体は纏わりつくような倦怠感と熱を帯びる。
小言の二つ三つくれてやろうと思っていたが、考える端から全て消えていってしまい言葉が出ない。
終いには何故怒っていたのかもよくわからなくなり、結局
「蒲原のばか。あついじゃないか」
という簡単な、しかも論点がズレている文句を捻り出すのが精一杯だった。

「暑いのか?」
「あつい」

羽織っていた上着を脱ぐが、まだ暑い。
もう一枚脱ごうとして、その下は下着だったことを思い出した。
流石に露出狂になるのは躊躇ったゆみは、目の前の冷えた缶に手を伸ばす。

「ユミちん、そっちは酒…」
「一本空けたんだ、今更変わらないだろう」
「いやー違うと思うけど」
「20も18も一緒なんだろ?」

結局智美の制止を振り切りもう一本べきっと開け飲み出したのを見ると、
「まあ良いか…こんなの残ってても私が怒られる」
智美も一本手に取った。

「飲むんですか?」
「捨てるのももったいないし、親に見られたらややこしい話になるからな。
無理には勧めないけど、みんなも飲むか?
あ、佳織は飲むなよ」
「いえ、遠慮しておきます。
ていうか何で佳織限定なんですか?」

どうせなら全員飲むなよ、と密かに思いながら睦月が尋ねると、何かを思い出した智美の表情が曇った。

「昔、佳織が洋酒の入ったチョコレートを食べたことがあってな…」
「…何が起こったんすか?」
「私は何も覚えてないし、どんなに聞いても教えてくれないんです…」

フフフ、と焦点の合わない瞳で暗く笑う智美にそれ以上聞くことも出来ず、後輩たちは口を噤むしかなかった。






「モモ」

突然ゆみが、焦れたように桃子を呼んだ。
若干拗ねたかのような珍しい表情に、桃子は内心ときめきながら近づく。

「はいっす」
「モモ」
「いるっすよ。見えてないんすか?」
「いや、うん、見えてはいるんだがな。
モモ、こっちへ来い」
「へ?」

ゆみはぐいっと手を引くと桃子を足の間に座らせた。
後ろから包むように抱きしめてくる腕に、桃子は嬉しい反面かなり戸惑う。

「せ、先輩」
「蒲原ばっかり構うな」
「ひゅーひゅー、見せつけてくれちゃって!」

ゆみは智美の野次にも動じず、むしろますます桃子を抱きしめた。
嬉しいやら苦しいやら恥ずかしいやらで、桃子は真っ赤になり頭から沸騰しそうだ。

「ユミちん、そんなにモモが好きかー」
「うん、好き」

へにゃっと笑う赤い顔には、普段の知的で冷静な面影など欠片もない。
アルコールの破壊力に桃子はきゅんとなり、智美と睦月は恐れ戦いた。

「『うん』…?今ユミちん『うん』って言ったよな…?」
「凄いですね…あんな風に話すの初めて聞きましたよ…」

酒って怖いなぁ完全に理性飛んでるよ、などとのんきに言い合っていると、突如智美の背後から何かがタックルばりに襲いかかった。



「ぐはっ!」
「さーとーみーちゃんっ」
「か、佳織!?」
「私のことも構ってー」

ごろごろと肩口に擦り寄ってくる佳織は、いつもと何か様子が違う。
大きくなってからは人前で『智美ちゃん』などとは呼ばなくなったし、そもそも後ろから突撃なんてキャラでもない。
その辺りで智美は、佳織の呼気が酒臭いことに気付いた。

「まさか、佳織…それ飲んだのか!?」

振り向くと、ちゃぶ台の上にはゆみが空けたものとは別の缶が二つ。
隔離していた方をうっかり開けてしまったらしく、赤い顔で智美に絡みつつも右手は既に服の下にあった。

「うん、美味しかったぁ。
智美ちゃーん」
「ばっ、佳織、やめ、どこ触って」
「あ、睦月さんだ。
睦月さんも混ざる?」
「い、いや、遠慮しておく。
蒲原先輩、遠慮ついでにそろそろ布団お借りしますね。
お休みなさい私のことは気にせずにどうぞごゆっくり」
「ま、待ってくれ!
見捨てないで、頼むから、待って、戻って!あ、アッー!」

空気の読める子睦月は、部長の断末魔を背に受けながら断腸の思いで振り切り階段を駆け降りた。
佳織の智美に対する想いは知っていたし、こうでもしなければお互い踏み出せないだろうと思ってのことだったが、何故だろう、獣に生贄を捧げたような気がしてならない。
これで良かったんだ、と自分に言い聞かせるも目尻には涙が光っていた。

「先輩、ご武運をっ…!」





二階へ戻って──

背後から主導権を取られた智美は、あっという間に押し倒されていた。

「智美ちゃん、ちゅー」
「かお、んんっ…」
「可愛いー…。
もっとたくさんしようねー」
「こ、こういうのは良くないと思うんだ。
ほら、私たちまだ付き合ってもないし。な?」
「私は智美ちゃん大好きだよ?」
「なっ!?」
「だーいすき、えへへ」


そんな光景を、桃子は微妙な気分で見守っていた。
自分だけならまだしも、確実にゆみも纏めて空気扱いを受けている。

「…向こう、かなり盛り上がってるっすね…」
「モモもあれがしたいのか?」

きょとんと小首を傾げるゆみに本日何度目かもわからないがきゅんと来た桃子は、子供にするように頭を撫でた。
いつもは赤くなって嫌がるゆみが、もっともっとと笑顔で手を押し上げてくる。気をよくして撫で回す手が頬に伸びたあたりで、ゆみは小さく欠伸をした。

「ふぁ…」
「眠いっすか?下行きましょうか」
「いやだ」

ゆみはまるで子供のように駄々をこねると、桃子を抱えたまま床に転がった。クッションを枕代わりに、猫がじゃれあうようにいちゃいちゃする。

「下、行かないんすか?」
「むつきが、いるだろ」
「ここには二人もいるっす」
「あいつらは見えてないみたいだから」
「こんなところで寝たら体痛くなるっすよ」
「んー…」

返事はあれど、動こうとする気配はない。
ごそごそと居心地の良いポジションを探り、やがて落ち着いたのか桃子の腕枕に乗るような体勢で止まると規則正しい寝息しか聞こえなくなった。

「仕方ない人っすね」

桃子はゆみが脱いだ上着を手繰り寄せると、仕方ない先輩の背へとかけた。ついでに閉じた瞼へ唇を落とす。

「お休みなさいっす」

抱きしめると、若干酒臭いがいつものゆみの匂いがした。腕に収まった頭を撫で、柔らかい肢体を堪能する。
今桃子の五感はくまなくゆみを感じるためだけにあり、そのため他の二人がしていること

「か、佳織、ユミちんやモモたちもいるんだし」
「うん、せっかくだから二人にも見てもらおうねー」
「佳織!?あ、だめっ」
「智美ちゃん、ここ気持ち良いの?
えと、みっつずつ…みっつずつ…」
「そ、そんなっ!三点攻めなんてどこで覚えてきたんだっ…!?」

など、意識の遥か彼方にあった。



おまけ




「おはようございます、先輩」
「お、おはよう…」
「昨日のこと、覚えてるっすか?」
「忘れてくれ…」
「続きは二人きりのときに…っすね」
「……////」


「あたまいたいー…」
「佳織…」
「え?智美ちゃん?
…ああ、そっか昨日打ち上げをして……あれ?」
「…覚えてないのか?」
「う、うん…私なにかしました?」
「いや、覚えてないなら良いんだ、ワハハ…ワハハ……ハァ…」


その後折を見て戻ってきた睦月は、部長から無言でクッションを投げつけられるという地味な八つ当たりを受けたとか。

「私は悪くないのに…」




終われ


以上です。
携帯からで切れ切れになってしまった…途中改行制限にかかって読みにくい箇所がいくつか…

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最終更新:2009年08月31日 17:44