415 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 18:58:27 ID:y8D+HeBN
>>409
GJです。
自分もSS投下します
カマボコ主人公、本編から2ヶ月~1年後
長いので注意



 その後の私たち


『おいでよ僕のベッドに 僕の可愛い人 二人の愛の夜を 静かに過ごそうよ
 
 きみのやわらかな肌に そっと手を置けば  答えるきみの瞳 答えるきみの愛

 求め合う唇 求め合う心 求め合う体・・・。  いつしか夜もふける

 さあおいでよ僕のベッドに 僕の可愛い人 二人の愛の夜を 静かに過ごそうよ』
               (「僕のそばにおいでよ」 作詞 日高 仁) 

 これはある昔の歌の一部を抜粋したものだ。ロマンチックな歌だ。
 私には一生無縁な話だな。・・・しかし今、まさに私はその状況にいた。
 何でそうなったのか、少し長くなるけどお話したいと思う。


 去年九月。私が高校三年生だったときのある一日のことだ。

「私は卒業したら、この学校の麻雀部のコーチになりたいと思っているんだ。
 名門風越のコーチと違って給料なんて出るわけないから他でアルバイトでもするが・・」
 
 私とゆみちんは二人で部室にいたときに、卒業後について話し合っていた。
 私たち二人は二学期になってもロクに受験勉強もせず、毎日部室に来て、
 休日はみんなで遊びに行くという生活スタイルだったのだ。
 それでゆみちんに進路を聞いてみたところ、コーチになると言ってきたのだ。
 ゆみちんがそんなことを考えていたとは。私はゆみちんに答えた。
「いや、いいんじゃないか?睦月一人で来年何十人をまとめるのはやっぱ無理だし、
 ゆみちんみたいな優秀でかっこいいコーチがいれば部もますますよくなると思うよ」

 そう。この年の県予選で決勝まで進んだ私たちへの注目度は高まり、
 来年は何十人も新入部員が入るのではないか、と言われていた。
 
「モモや津山、妹尾がいるうちに、もう一回夢が見たいんだ。
 このことを言ったのはお前が初めてだ。モモにもまだ言っていないんだ。
 きみのそばにずっといたいから・・。離れたくないから・・・。
 なんて本人の前ではとても言えないよ。恥ずかしくてな・・・」

 なるほど。やはり桃子のためか。そしてそれはゆみちん自身のためでもあるんだな。
 ゆみちんにとってそのことは、きっとプロの世界で活躍するより、
 大学に行って将来の安定をつかむことよりも有意義で魅力的なのだろう。




「ところで蒲原、お前は卒業したらどうするんだ?」
 私に矛先が来た。実はこの時点でまだ具体的には何も考えていなかった。
 県外の大学にでも行こうかな・・と少しだけ思っていた程度だ。
 それをゆみちんに伝えると、なるほど・・。と一言言われて終わった。
 興味が無いなら聞くなよ・・。私は話題を変えたのだった。

「ところでゆみちん、最近私の時代が来たよなあ!人生初のモテ期だ!」
「そうだな。世の中何が起こるかわからないとはこのことだな」
 あの大会の後、私たちの校内での知名度は急激にアップしたのだ。
 私は少しモテるようになり、お菓子をもらったりサインを欲しがってくる子たちもいた。
 こんなことは生まれて初めてだったので、私は最初は悪い気分ではなかった。
 だが最近気になることがあったのだ。

「ところでゆみちん、最近佳織、私に対して冷たくないか?
 どうしてなんだ?なんか少し怒ってる感じだしよ~・・・」
「言われてみればそうだな。私にも見当がつかないな・・」
「この間も後輩の子が私のために焼いてくれたクッキーを一緒に食べよう、って言ったら
 何も言わず出て行っちゃったしさ、私のモテ自慢も全然聞いてくれないんだよ」
 私がモテ始めたころから佳織がご機嫌斜めなのだ。なんでだろう。

「蒲原先輩、普通に考えればわかるでしょ。佳織は嫌なんですよ。
 先輩が他の子たちと楽しそうにいちゃついて浮かれているのが」
 
 いきなり声が聞こえた。気がつくと少し離れたところに睦月が座っていた。

「お、お前は睦月、いつからこの部屋に!?」
「最初からいましたよ。気がついていなかったんですね」
「津山・・。すまん。私もお前がこの部屋にいるの全くわかんなかったよ」
 睦月の地味ぶりは相変わらずだなあ。あまり喋らないし、桃子に劣らず存在感薄いな。
「ごめんごめん睦月。でも私が他の子たちといちゃついて佳織がどうして怒るんだ?」
「先輩。まだわからないんですか?佳織が先輩をどう思っているかを」

 わかっていないのはお前だよ睦月。
 私と佳織は単なる幼馴染でそれ以上でもそれ以下でも・・。
 いや、私にとっては実はそれ以上の感情を抱く相手になっていたが、
 佳織にとって私がそんな相手な訳がないし・・・。
 この間私自身でそのことはもう確認済みなのだ。
 
「実は前に佳織に聞いたんだ。今好きな奴とかいるのかって。いるんだとよ。
 どんな奴か聞いたら、とてもカッコよくて優しくて、自分のことより他人を思いやる人。
・・・どう考えても私のことじゃないだろ!?だから違うんだって」
 私がそう言うと、二人は納得したような表情をした。

「そうですね・・。どう都合よく解釈しても蒲原先輩とは思えないですね・・」
「ああ。お前がカッコよくて優しい?全く当てはまるところが無いな」
「少しは否定してくれよーーー!」
 私は思わず叫んでしまった。ゆみちんも睦月も案外酷い奴だなあ。



 すると、人のいないはずのところから声が聞こえた。
「・・・私が思うに・・。妹尾先輩が言っているその人は部長のことだと思うっす。
 妹尾先輩には、部長のことがカッコよくて、優しい人に見えるんすよ。
 恋しているときは相手を現実以上に美化しちゃうものっすからね」

 こんな喋り方をするのはあいつしかいないな。ゆみちんが驚いた様子で言った。
「モ、モモ!お前もいたのか!・・・いつから聞いていたんだ・・・」
「当然最初からっす。先輩がコーチになってくれるって言ってたことも、
 きみのそばにずっといたいから・・。って言ってくれたのも聞いてたっすよ!
 私だってずっとそばにいるっすよ!やっぱり先輩は最高っすね!
 ま、それはいいとして、部長は妹尾先輩のこと、どう思ってるんすか?」

 佳織が私に恋している?私は動揺していた。頭が真っ白になっていた。
 だから桃子の質問にもついポロリと本当のことを答えてしまった。
「・・うん。佳織のこと、とても好きだ。友達とか・・じゃなくて」
 ずっと内緒にしておくつもりだったのにな。ついにばれちゃったか。
 私は小さくワハハと照れ隠しに笑った。
 しかし桃子の顔はさっきと違い全く笑っていなかった。
「だったらどうしてその気持ちを伝えなかったんすか?あと半年で卒業だというのに。
 どうして他の人たちに囲まれていい気分でいて・・それを妹尾先輩に自慢したりして・・。
 本当に妹尾先輩だけを愛そうと思っているんすか?私にはそうは見えないんすけど」

 ワハハ。桃子、口調は普段の柔らかい感じだったけど、言ってることはきついぞ。
 でもそう言われても仕方が無いか・・・。えーい。もう全部言ってしまえ。
 
 
「私は佳織が好きだ。でも佳織が私を好きでいてくれるなんて私は考えてもいなかった。
 だから気持ちを言えなかったんだ。言ったら、もう友達じゃいられなくなるんだから。
 それに仲良くなればなるほど別れが辛くなる。だから今の幼馴染のままでよかったんだ。
 そう思って、他の女の子たちで気を紛らわそうと思ったんだ・・。
 でもダメだったよ。やっぱり佳織しか愛せないって最近わかった」
「だったらやはり一か八かアタックしてみるべきだったのでは?」
「・・・そうかもな。でも、よーく考えたんだ。私じゃ駄目だ。
 私じゃ佳織を本当に幸せになんかできない。私は見守るだけでいいんだ。
 本当にカッコよくて優しくて思いやりのあるヤツが佳織の前に現れるのを。
 それで佳織が笑顔でいてくれること、私はそれで満足なんだよ。それで十分だ」




 はぁ。言ってしまった。普段ゆみちんのことをヘタレとか言っていた私が
 まさかこんな腰抜けだったなんて知られたら大笑いだろう。
 どうぞ笑ってくれ。意見も説教もご自由にどうぞ。
 やけになっていた私だが、みんなの反応は意外だった。

「部長、そのどこまでも不器用なところ、なんかカッコいいっすね・・」
「うむ・・。意外と繊細なんですね・・」
「蒲原、お前、自分の幸せより妹尾の幸せを考えているなんて・・。
 案外妹尾の言っていたことも美化じゃあないのかもしれんな」
 あらら。これは予想外だった。まあ笑われるよりはましか。
「ワハハ・・でもこのことは佳織には内緒な。本当に頼むぞ!
 私は今のままでいいんだからな!余計な気を回すなよ!」
 私は念を押しておいた。私と佳織はずっと友達のままでいいのだ。
 すると三人はにやりと笑って言ったのだった。
 

「はい。私たちは言いません。でも先輩自身が言ってしまう分にはかまいませんね?」
 あ?何を言っているんだ睦月。
「部長、部長は今のままでよくてもそうじゃない人もいるみたいっすよ?」
 桃子まで・・。まさか・・・この部屋にいるのか?あいつが・・。
「覚悟を決めるんだな蒲原。もう逃げる時間も無いとおも」ドテッ
 
 
 ゆみちんが喋っている途中で、私は椅子から落ちていた。何が起きたんだ。
 目を開けると、涙をいっぱい流した佳織が私の目の前にいた。私は押し倒されていた。
「智美ちゃん・・わたし・・・。とってもうれしい・・智美ちゃん・・・大好き・・」
 まずいな。こんな近くに顔があって体は密着している。
 しかもそんな顔をされたら私はどうにかなってしまいそうだ・・・。
 体や心が溶けてしまうような感覚がした。もう十分どうにかなっていた。

「佳織・・私も大好きだ・・。私と佳織はずっといっしょだぞ・・」
 
 私は他三人がいるのも忘れ、佳織に優しい口づけをした。
 私と佳織がもう友達でなくなり、新しい関係になった日だった。
 ありがとう、佳織。そしてありがとう、みんな。
 

 そして今年。私とゆみちんは新生鶴賀麻雀部のコーチとして指導していた。
 結局私は大学にいくのをやめ、実家の家業を手伝いながらゆみちんの補佐をしていた。
 佳織やみんなともう少しいっしょにいたいからだ。
 去年、数十人新入部員が入るとか言われていたが、実際はなんと一人も入ってこなかった。
 例年通り有力選手は風越に行ったし、他は新星の清澄に人が流れてしまったようだ。
 部員三人に指導者二人という変な人数バランスだった。

 でも私たちは心配など全くしていなかった。何とかなるだろう、という感じがした。
 去年だって佳織を連れてきたのは大会の一週間くらい前だったしな。
 私たちは今までと変わらず楽しい日々を過ごしていた。
 現に、今年も無理やり一年生の助っ人二名を連れて、県大会の決勝まで駒を進めた。



 だが、決勝の当日になってその二人が用事で来れないとか言ってきたのだ。
 昨日はしっかり打ってくれたのになあ。肝心の今日来ないのかよ。
 私たちは悩んだ。三人しかいないのだ。辞退しかないのか。すっかりお通夜ムードだった。

 でも、そんなの私たちらしくない。だから私は言ったのだ。
「みんな、私たちの今回の一番の目標は何だった?勝つことじゃないだろ!?
 楽しんでくることだっただろ?去年だって、負けたけど最高だったじゃないか。
 それはゆみちんが言ってたように後悔なく終われたからだろ!?
 このままやめちゃったら、絶対後悔するぞ。だからやれるところまで頑張ろう」
 そうだ。どんな結果になろうと、後悔だけは残してはならない。
 後々になって良い思い出にしたい。私はみんなに強行出場を訴えた。

「・・そうだな。蒲原。やはりお前がいてくれてよかった。ありがとう」
「そうですね。行ける所まで行きましょう。精一杯頑張りますよ」

 元々今回の決勝、私たち鶴賀が群を抜いて格下だったのだ。
 主力の宮永と原村が二年になりますます強力になった昨年の覇者、清澄。
 リベンジに燃える最強の五人衆、一昨年の覇者、龍門渕。
 昨年からメンバー総入れ替え、全国から集めた麻雀特待生の精鋭で臨む古豪、風越。
 私たちは並の打ち手三人に帰宅部二人のヘボ校だ。その二人すら来ないのだから問題外だ。
 
「中堅までで他校をトバせるかもしれないっす!だからやるだけやってみるっす!」
「智美ちゃんを胴上げするって決めたんです!だから私も頑張ります!」
 
 大会本部には助っ人二人は来ないことは内緒にし、メンバー順の変更だけした。
 先鋒桃子、次鋒佳織、中堅睦月という順で臨むことにした。
 最後の打ち手、睦月が事実上の大将だ。麻雀部に最初からいてくれたご褒美だ。
 万全でも元々勝ち目は薄かったんだ。奇跡を信じ、行けるところまで行こう。

 そして始まった決勝戦、結果はいいから楽しんで来い、とゆみちんは言った。
 本来大将の桃子が先鋒戦でトップに躍り出た。ただ大勝ちはできなかった。
 そして次鋒の佳織なのだが・・。力が入りすぎていた。大物手を狙いすぎた。
 和了れる手も逃してしまい、半荘二回で一回しか和了れず、2位に落ちていた。
 私は佳織が戻ってきたときに佳織に問いかけた。




「何でマイペースで打たなかったんだ?あんな後悔の残る打ち方を・・。
 どうせ私たちはここで終わりなんだ。佳織にとって最後の大会だったのに」
 すると佳織は下を向いたまま私に答えた。
「だって・・。最後にしたくなかったんだもん・・。諦めたくなかったんだもん。
 まだまだ智美ちゃんといっしょにいたかったから頑張ったのに・・・」

 佳織は卒業後は大学に行くことを決めている。だからこの大会が終わったら、
 あまり部室にも顔を出せなくなるだろう。少なくとも去年の私とゆみちんほどには。
 そうか。こいつは諦めていなかったんだ。私のために頑張ってくれていたんだ。
 私は佳織を抱きしめると、佳織の眼を見て言った。
「大丈夫だよ、佳織。ここで負けちゃっても、何があっても私たち二人の絆は切れないさ。
 佳織と初めてキスをしたときに言っただろう?ずっといっしょだって。
 この「ずっと」っていうのは私たちが大人になっても、いつまでも・・。
 二人はいっしょだっていうこと。だから・・安心していいんだよ」

 私が佳織の顔を見ると、タコのように真っ赤になっていた。
 桃子とゆみちんも少し顔を赤らめこちらを見ていた。
「蒲原コーチ、今のって・・。プロポーズっすか?いつまでもいっしょって・・」
「私だってモモにまだそんなこと言ってないのに・・やるな、蒲原・・」
 
 私は別にそういう意味をこめて言ったんじゃ無かったのに・・。
 ただ佳織を慰めたかっただけ、安心させたかっただけなのに・・。
 ワハハ。私まで真っ赤になってしまったじゃないか。
 私たちはしばらく誰も言葉を発さなかったのだった。

「あれ?そういえば津山部長の対局どうなったっすか?」
「あ!もう半荘一回終わってる!全然気がつかなかった!」
「ワッハッハ~・・本当に睦月は気づかれないやつだなあ・・・」
 気がついたときには途中の休憩時間も終わりもう残り半荘一回だけ、という状況だった。
 睦月、ごめんよ。全く見てなかった。これからお前の勇姿をみんなで見るよ。
 
 
 結局何もこれといった出来事が無いまま南3局、睦月のラス親となった。
 ただ、勝利のチャンスが僅かながらあった。ここはラストチャンスだった。

 風越 160300  鶴賀 113800  龍門渕 79000  清澄 46900

 これが現在の点数状況。そう、風越の新一年特待生たちは強すぎたのだ。
 大分出身の南、鳥取出身の沢田。さすがその地方で敵なしだっただけある。
 先鋒から中堅までは大した選手のいない清澄を大きくヘコませてしまうくらいに強かった。
 無論清澄としては12万点差など副将大将で十分取り返せる点差だ。
 私たちの優勝の可能性は、ここで睦月が清澄に親役満直撃、その一点だった。
 清澄をトバし、風越との46500点差を捲くりきる唯一の可能性だ。
 清澄の中堅は大したことのない一年生の新人だったが、
 龍門渕は実力派の国広、風越は北海道の中学大会チャンピオン、松山。
 とても何回も連荘を許すような甘い面子ではない。役満一回で決めるしかない。




 ただ、睦月は本人も今まで人生で一回も役満を和了ったことが無いと言っているくらいの
 ツキなし人間だし、それは厳しいな。佳織くらいの豪運があればな・・。
 現にここまでの配牌10枚、全て一九字牌。ゴミクズもいいところ・・。
 あれ?確かこれは・・。ん?次の2枚も一九字牌・・。しかも全部被りなし・・。
 なんと配牌で十二種十二牌。国士無双イーシャンテンだ。13面待ちまで見える。
 
 私はほほをつねった。夢ではないようだ。ゆみちんは口からコーヒーを噴いていた。
 そして3巡目、早くもテンパイ。待ちは東。何だこの展開は。
 私は佳織の方を見た。すると佳織はこんなことを言い出した。
「津山さんにいい牌が来たらいいな、と思ってお願いしてたの・・
 智美ちゃんや皆さんともう少し楽しいときを過ごしたかったから・・」
 どうやら佳織は本当に幸運の星のもとに生まれていたようだ。
 他人の運まで操作してしまうとは。やっぱ佳織はすごいや。

 そしてその2巡後。清澄もテンパイ。こちらもリーチをかければ跳満以上確定手。
 テンパイするためにはなんと・・・・東があふれる。まだ5巡目。当然無警戒で出た。
 その瞬間、私たちの優勝が決まったのだった。
 
 佳織が私に抱きついてきた。私も佳織を抱きしめ返した。
 横を見ると、ゆみちんと桃子も同じことをしていた。
 モニターの中では、あの普段無表情の睦月が人目も気にせず涙をぼろぼろ流していた。
 ワハハ。酷い顔だな。大笑いだ。でもなんで私まで涙が止まらないのだろう。

 そのときの会場は一瞬のどよめきと悲鳴の後、空虚な静寂で包まれていたらしい。
 各校の選手はおろか、観客、記者、解説者すらただ愕然、呆然としていたようだ。
 何故なら、清澄の原村も、昨年の全国中学チャンピオンで風越大将の吉田も
 登場する前に終わってしまった。各校の真打が出る前に決着してしまった。
 何より、全ての者の夢であり最高の楽しみであった宮永対天江の対決が本当に夢と潰えた。
 
 でもそんなこと私たちには関係ない。みんなで泣いて笑って喜んだ。
 盆と正月が一緒に来たようなめでたいこの日を私たちはずっと忘れない。



 
 その日の夜。ゆみちんと桃子の同棲していたアパートで祝勝会が行われた。
 ビールや焼酎、チューハイを何本も開けた。おっと、学校とか麻雀連盟には内緒だぞ。
 他に人もほとんど住んでいないアパートで、周りに家も無いので大いに騒いだ。
 深夜。私と佳織以外の三人はすっかり酔いつぶれて寝ていた。佳織は私の隣にいた。
 佳織は一年前よりとても強くなった。そして・・。ますます綺麗になった。
 私のそんな視線に気づいたのか、佳織は私のほうを見ると、小さい声でこう聞いてきた。

「智美ちゃん、今日言ってくれたこと、本当?私と結婚してくれるって・・」

 言ってないよそんなこと!かなり酒が回ってるだろこいつ。
 ・・いや、待てよ。確か昼間佳織にプロポーズと勘違いされたシーンがあったような・・。
 あれのことを言っているのか?だからあれは違うって・・・

「私、智美ちゃんのお嫁さんになりたい。智美ちゃんならきっと私を大事にしてくれるし
 幸せにしてくれると思う・・。だから・・。智美ちゃんは、私でいい?」
 手をぎゅっと握られた。佳織は全然酔っ払っている様には見えず、真剣だった。
 
 私は、その手をもう片方の手で握り返し、こう言った。
「ああ。こんな私で良ければな。絶対に佳織を大事にするよ」

 そして私たちは手と手が合い、目と目が合い、唇と唇が・・・・。
 今の私のこの熱い火照った気持ちは、酒に酔っているせいではないことは確かだ。
 そして私たちは最初の歌のようなことを生涯初めて体験するのだった。

『きみのやわらかな肌に そっと手を置けば  答えるきみの瞳  答えるきみの愛

 求め合う唇   求め合う心   求め合う体・・・    いつしか夜もふける

 さあおいでよ僕のベッドに 僕の可愛い人 二人の愛の夜を 激しく過ごそうよ』

 私たちは最高の気分のまま意識を手放した。

 
 翌日。私が目を覚ますと、私は他の三人からニヤニヤした顔で見られていた。
「蒲原コーチ、昨晩はお楽しみでしたね。私も恋人が欲しいなあ・・」
 げ、睦月・・。見ていたのか・・!?
「結婚って・・。私たちよりも先にその言葉、出ちゃったっすね~・・・」
 あれ?桃子?寝てたんじゃなかったの?
「おめでとう蒲原。だが、人の家でやる行為じゃあないな・・・」
 ゆみちんまで・・・。まさか・・。

「ワ・・ハハ・・もしかしてみんな起きてた・・?」
「当たり前だろ。みんな寝たふりしてたんだよ。あんな状況で寝れる奴なんかいないだろ」

 三人からの視線とその後も続く言葉攻めに私は今までになく小さくなっていた。
 そんなことに気づかず私の横ですやすやと眠る佳織の表情はとても幸せそうだった。

                                 終わり




 おしまい。
 鶴賀の一年後を妄想してみたら長くなりすぎました。

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最終更新:2009年08月31日 17:40