406 :きっと犬も食べないそういう喧嘩:2009/08/30(日) 14:11:38 ID:cTN4a4wW
 
 
 制服も冬服になって等しい、真冬の部活時間。
 私は、現在付き合っている彼女と喧嘩をしています。


「だから、みはるんしつこすぎるし!」
「そ、そん事ないよ、それより、まだ風邪が治りきってないんだから、今日は帰りなよ!」
「華菜ちゃんは元気だー!」
「熱でふらついてるじゃない!」

 ぎゃあにゃあぎゃあにゃあ。

「キャプテンが引退して、キャプテンになったんだから、風邪ぐらいで休んでられないよ!」
「華菜ちゃんは最近頑張りすぎなんだよ! 少しは私に頼ってくれてもいいじゃない!」
「み、みはるんに頼るのは嫌だし!」
「なっ?!」

 ぷいっと横を向いちゃう華菜ちゃん。
 ガンッとショックで一瞬固まりながらも、それでも、断固として今日は早く帰らせようと拳を強く握る。
 華菜ちゃんの顔はまだ引いていない熱のせいで火照って、目も必要以上に潤んでいる。
 コートとマフラーで熱を逃がさないように着膨れしていても、これじゃあ治りかけの風邪が悪化するだけだ。
 でも、キャプテンがいない今、現キャプテンの華菜ちゃんを支えたいと思う私は、これぐらいじゃへこたれない。

「と、とにかく、今日は帰るんだよ」
「嫌」
「華菜ちゃん!」
「嫌ったら嫌だし、みはるんしつこい!」

 にゃーと抵抗する華菜ちゃんに、私は心を鬼にして、いつもなら押されてしまうけど踏ん張って首を横に振る。

「駄目ったら駄目!」
「……ぐ、ううぅう」

 じんわりと涙目の華菜ちゃん。
 熱とは違う意味で盛り上がるそれが、大いに罪悪感に突き刺さるけど、此処は華菜ちゃんの為だと今にも華菜ちゃんのお願いを聞きたくなる自分を叱る。

「な、なんだよ……」
「っ」

 あ、泣きそう。
 オロオロして、でも負けるな私! と華菜ちゃんとにらみ合う。

「もう、もう……みはるんなんてみはるんじゃない! みはりゅんで充分だ!」
「はっ?! りゅん?!」

 予想外の攻撃だった。

「やーい、みはりゅんめー! 意地悪みはりゅん!」
「ちょっ、や、やめてよ華菜ちゃん!」
「やだね、みはりゅん」

 ぐっ、なんか、よく分からないけど悔しい。


 何でか知らないけれど、してやられたみたいな気持ちになって胸に熱いものが込み上げてくる。
 というか、全然してやられていないのに、華菜ちゃんは私を負かしたと本気で思っている顔だから、ぐぐぐっと更に悔しさが募っていく。
 私は華菜ちゃんが心配だからこうしているのに、華菜ちゃんは私に意地悪してくるから、ぷるぷると我慢をしていたのにぷっつんしそうだ。
 というか、ぷっつんした。

「そ、それなら華菜ちゃんなんて、華菜きゅんで充分だよ!」
「きゅん?!」

 びしいっと華菜ちゃん、ううん、華菜きゅんを指差して言う。

「や、やーい、華菜きゅんめ!」
「うぐ、ぐぐぐ?!」

 華菜ちゃ、きゅんは、一瞬たじろいですぐに悔しそうにじだんだを踏むと、また熱が上がっちゃったのか、顔を真っ赤にしてうにゃあと私に飛びついてぽかぽかしだす。

「な、なんだよ、みはりゅんみはりゅんみはりゅん!」
「いた、痛いよ、華菜ちゃ、か、華菜きゅん華菜きゅん、かなきゅんかなきゅん!」

 ぽかぽかするかなきゅんを抑えて、机や椅子にぶつかりながら声を大にして言い争う。

「みはりゅんみはりゅんみはりゅん!」
「かなきゅんかなきゅんかなきゅん!」

 がたんばたんと、もうよく分からないけど負けられないって言い合って、派手な音が一杯に広がる。
 そこで―――


「何をしているの二人とも?!」


 ガタンと、部屋のドアを開けて、キャプテン、いや、元キャプテンが酷く困惑した顔で慌てて入ってきた。
 その後ろには、心配そうな顔をした下級生や同級生の姿。
 私たちは、皆の部活の邪魔にならない様に別室で話し合いをしていたのだけど、こうまで騒いでしまい、誰かが慌てて元キャプテンを呼んだらしい。

「ふ、二人とも、一体どうしたの?」

 オロオロする元キャプテンに、今までの熱がプシュンと抜けて、華菜ちゃんと二人、気まずくなって「ぅあ」と口ごもる。
 でも、これだけは言いたい。

「だ、だってかなきゅーが……」
「み、みはりゅーが、意地悪するし……」

「………………え?」

 片方だけ見開かれた目が、まんまるになった。

「か、かなきゅーが風邪なのに、無理をするから」
「わ、私は大丈夫だって言ってるのに、みはりゅーが意地悪するんですよぉ」

 急いで元キャプテンに現在の状況を伝えようともごもごと言い訳めいた事を言いながら、二人で気まずげに目をそらしてしまう。



 怒られるかな、ってしょんぼりしていたら、元キャプテンは急に、一歩、二歩、三歩下がって、何だか赤い顔で、気まずげにもじもじと頭を下げた。

「……お、お邪魔しました」

 へ?

 パタン、と閉められるドア。
 私とかなきゅーはあれ? と目を合わせて、「?」と見詰め合って、「えーと?」と暫し、困惑してしまった。
 
 でも、元キャプテンのおかげで、頭の血が下がったのも確かだし、私はこほんと咳払い。
 かなきゅーも、今度はちゃんと私の話を聞いてくれるみたいで、じっと私と見つめあう。

「あのね、私はかなきゅーが心配だから、口うるさく言ってるんだよ?」
「……わ、分かってるし」
「だから、早く風邪を治して欲しいの。私に頼るのは嫌だって言うけど、私は、頼って欲しいよ……?」

 かなきゅーは、視線を彷徨わせて、しょんぼりと唇を尖らせる。

「……だって、私キャプテンみたいなキャプテンになりたいのに、全然それっぽくなくてさ、キャプテンは一人で何でもそつなくこなしてたのに、私がみはりゅーの手を借りたら、ずるっぽいなって」
「かなきゅー……」

 ぎゅっと制服を握る手の、小さな震えを、私はそっと包み込んで、「うん」って頷く。
 そうだね。
 かなきゅーは、そういう頑張り屋さんだものね。

 でも。

「……それなら、尚更に早く、風邪を治して」
「…………」
「そして、早く立派なキャプテンになって、私を、私たちを導いてね。来年こそ、全国に行く為に」
「……うん!」

 ぎゅっと手と手を握り合って、私たちは見つめあう。
 大丈夫だよって心を込めて、たくさん愛情を込めて、触れ合った手を静かに重ねて、絡ませる。

「……みはりゅーの、お節介」
「……かなきゅーだって、意地っ張りだよ」

 そう言って、私たちはえへへと笑いあう。
 喧嘩はお終い。
 
 最後に、私たちそっと抱き合ってから、照れ臭くて顔を見合わせないまま、部活を早引けした。
 早く大事なキャプテンを復帰させるために、今日はたくさん、愛情をこめて看病をする為だ。

「ねえ、かなきゅーは何が食べたい?」
「……んっと、みはりゅーが作ってくれるなら何でもいいし!」
「も、もう、かなきゅーったら」
「な、何だよみはりゅー」

 手を繋いで、歩いて帰りながら、たまにはこんな日があってもいいよねって、幸せな気持ちで並んで歩いた。








 おわり


 
 以上です。

 きっと、きっとこの二人ならナチュラルに恥かしいニックネームで呼び合う筈。

 というまさに妄想の産物です。本当に失礼しました。

 ちなみに、キャプテンはあの後、二人を心配する部員たちに赤い顔で必死にフォローしてました。

 きっとキャプテンは風越一番の気配り上手。

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最終更新:2009年08月31日 17:36