984 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/25(火) 19:45:49 ID:e6MlRBOP
蒲原→かじゅモモ。あまりにニッチ産業だから埋め埋め用。
まぁ全然埋まらない量なのだけれど。


「むっ、だいぶ遅くなっちゃったなぁ。」

そう一人ごちて、部室へと向かう。
今日私は日直だった。
日誌にダラダラと、今日あったできごとを書き込んでいたらすっかりと時間がたっていて…。
こんなことならユミちんに手伝ってもらえばよかったなぁ。
けど、最近のユミちんは放課後…正確には部活の時間が近づけば近づくほどニコニコしちゃって、どうもそれもはばかられる。
部室では取り繕って、いつものお堅い表情だけれども、それもいつまでもつかは定かじゃない。

あんな性格とルックスだからユミちんはクラスの女の子にもカッコイい王子様のように扱われている。
あの間の抜けたニヤニヤデレデレした顔を見れば、そんな幻想は吹き飛んでしまうかと思ったのだけれど、
彼女たちに言わせれば「最近のユミちゃんは可愛くて一層魅力的」だそうな。

それは確かだと思う。
ユミちんは本当に表情が軟らかくなった。
そして多分、本当に可愛く…綺麗になった。
怖そうに見える。だけど本当は優しいことも私は知っていた。
けれど、モモに出逢う前のユミちんはそれでもどこか冷めていて、感情をさらけだすことはなかった。

やはりあれは恋なのだろう。
ユミちんのそれが生まれたのは、見つけ出したモモがとても可愛らしかったから?
それともモモが注ぐ恋心に絆されたから?
ううん、多分どちらも違うのだ。
あの日…校内麻雀にモモが初めて顔をだした日、ユミちんはまるで天と地がひっくり返ったみたいに変わってしまったんだ。
それは一目惚れとかそういった類のもので、陳腐な言葉になってしまうのだが運命というものだったのかもしれない。

まるで超大作のジグソーパズルだ。
何千何万ものピースをはめこんで出来上がったユミちんの、最後の1枚のパズルピース。
当てはまるピースは世界に一つ。唯一無二。
当てはまるべくして当てはまったのが多分モモだったのだろう。
けれど本当に、本当に最後のピースはモモでなくてはいけなかったのだろうか。
ぴったりではなかったかもしれない。
それでも無理矢理に押し込んだら、はまるピースもあったのかもしれないじゃないか。
…くだらないことだ。
もうすっかりと最後のピースは馴染んでしまって、それがはずれた姿は思い描くことすらできない。
胸の奥をチクリとした痛みがつついたが、私はそれをどこか遠くの世界のことのように感じていた。

ーーーーーーーー

自然と足が止まった。
もう2年以上も通い続けた部室。
通いなれたはずのそこへと続くドアがどうしようもないほど厚く思えた。

ふぅ。軽く息を整えると、ドアノブへと手をのばす。
その行為もひどく気が進まない。
季節は初夏。静電気がたまっているはずもなかったけれど、気分としてはそんなものだった。

ふぅ。もう一度息を吸い込むと、やっとこさ触れえたそれをグイとひねる。
それは驚くほど軽くて、拍子抜けしてしまった。

ドアがひらくと、少しだけ淀んでじめじめした空気が鼻についた。


「換気ぐらいし…。」

換気ぐらいしろよな、ユミちん。
そう紡ぎだそうと思っていた言葉は、ユミちんの唇の前に人差し指を立てたジェスチャーでせき止められた。
大きな音をたてるな蒲原。ユミちんの目がそう語っていた。

「どったの?」

ユミちんの耳元で囁く。
すると彼女は困ったような顔をして頬を赤らめた。
指をもじもじとさせて、なにか言葉を喉元まで持ってきては、また飲み込んでいるようだった。
なんとなく。感覚ではなくて多分本能的に、これにはモモが関わっているであろうことを理解した。

「モモがどうかしたか?」

ユミちんは目を白黒させて私を見る。
驚くなよ。この部室と同じだけ付き合いがあるんだ。
それぐらいのことなら私でも分かる。もしかしたら私だから分かる。

そのままユミちんにじっと視線をそそぐと、意を決したように彼女は自らの太ももを指さした。
はぁ?一体それがどうしたのだ…分かった。
そこにいることさえ分かれば、私にも見える。
ユミちんの太ももの上。いわゆる膝枕という体勢で、モモが眠っていた。
困った困った。多分そんなことを言いたいんであろう表情。けれどユミちんの頬はそんな表情とは裏腹に、綻んでいた。
ユミちんの無意識がモモを求めている。
本人もまだ気がついていないのかもしれないけれど、確かな事実だった。

「ユミちん…手ぇ貸して。」

返事も待たずに彼女の手をとった。
ユミちんの手は柔らかくて、暖かくて、なぜだか胸に鈍い痛みがはしった。
かぷり。そのまま人差し指を甘噛みする。柔らかい。
蒲原っ!!今にもそう叫びそうなユミちんの前に今度は自らの人差し指を差し出す。
静かに。そういうジェスチャー。
そのまま舌先を指先に這わせると、少しだけしょっぱい。
なんだか意味もなく悔しくて、少しだけ力を強めた。
がりっ。皮が擦り切れる音が聞こえたような気がした。
本当は私の歯がユミちんの指の皮に小さな穴をあけただけ。
舌先にほんの少しだけ血の味を感じた。

「今日はもう帰ることにするよ。」

ユミちんの指から唇を離すと、耳元でそう囁いた。

「ごめんな。それは‘猫’にでもかまれたことにしといてくれ。」

‘泥棒’はつかないヤツだから安心しろ。
そうつなげたけれど、ユミちんは不思議そうな顔でこちらを見るだけだった。
荷物を持って、そのまま部室をでる。
途中、ユミちんが私の名を呼ぶ声が聞こえたけれど、私は振り返らずに手を振るだけだった。
きっとまだあの不思議そうな表情をしているから。鈍いというのは罪なんだよ。
もしかしたら分かっていて分からないふりをしているのかもしれないけれど。

バタン。少し大きな音をたててドアが閉まる。
今のでモモは起きてしまっただろうか。
それとも実は途中から起きていたりしたのだろうか。
胸に響く鈍い痛みはまだ消えないみたいだった。

Fin.


皆様今スレもGJでした。
加治木先輩と蒲鉾はなんか信頼というか独特の絆で結ばれている気がします。
かおりんとの組み合わせも好きですが加治木先輩のことが好きな蒲鉾も好きです。

タイトルは片思い固思い。固いと堅いで迷ったけれど固執の固で。
なんだかタイトルのつけ方が毎回かぶる気がします。連続が好きです。

次スレも盛り上がっていけばいいですね!!

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最終更新:2009年08月26日 15:52