575 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/21(金) 16:11:39 ID:t/YwsMOh

 投下します。

 鶴賀で、カマかおです。

 マイナーですが、大好きなんです。
 





 佳織は、私の幼馴染だ。
 家も近くて、よく一緒に遊んでいた。
 あちこち走り回って、擦り傷だらけの私を、飽きる事無くいつも後ろにわんわん泣きながら付いてくる佳織。
 そんな佳織という存在が、子供心にも嬉しくて、勝手に子分一号とか決めて、けっこう危ない場所を探検したりと、引っ張りまわしていた。
 手を繋ぐと、それまで泣いていたのが嘘みたいに大人しくなって、笑ってくれるのがくすぐったくて好きだった。
 ―――だから。

『よしっ! 佳織を私のお嫁さんにしてやるぞ!』
『ええ!?』
『ワハハ、決定!』

 とか、恥かしい事に人生初のプロポーズの相手も佳織だった。
 あの頃は、おままごとの延長でおもちゃの指輪なんて持ち出して「一生幸せにするからな」なんて、ませた事を言ったりもしたものだ。
 ちょっと照れ臭い、笑い飛ばせない、そんな記憶を共有する幼馴染。

 そう。
 私の我侭を呆れながらも聞いて、付いてきて、私の後ろを当たり前みたいに見つめながら歩んできてくれる、妹尾佳織という存在。

 そう、なんだ。

 だから、そんな佳織なら断らないだろうと、麻雀部にも無理やり引っ張り込んだし、初心者のまま試合に出したりと無茶をさせたりもしたし、出来たのだ。

 でも、近況も落ち着いて少しでも冷静になると、私は佳織に、流石に我侭を言いすぎていた気がして、ユミちんにも「ちゃんと労ってやれよ?」なんて言われてしまい、慣れないながらも考えたのだ。
 どうやって報いるべきか、私になりに思考したのだ。

 考えて、結果。
 先輩風を吹かせて言ったのだ。

『何か困ったことがあれば私に言えよ。何でも相談に乗るからな』

 って。




「もう、智美ちゃんってば、聞いているんですか?」
「え? ああ、聞いてる、聞いてるぞー? ワハハ」

 そして。
 それが、まさかあの台詞が、こういう事態を引き起こすなんて、当たり前だけど予想もしていなかった……




 現実逃避気味の過去回想を頭の中で繰り広げながら、私は頭を抱えたくなる。
 佳織にお願いされて、わざわざ屋上にまで連れ出されて『その』相談を聞いたら、誰だってそういうリアクションを取りたくなるはずだ。

『私、好きな人がいるんです』

 なんて……

『だから、す、好きな人に好きになって貰うには、どうしたらいいか、相談に乗って下さい』

 そんな……

「……な」

 何なんだ? そのベタかつ痛々しい展開って。

 よろりと、軽くよろめきながら、佳織の微かに赤く、恥らっている表情にショックを受ける。
 そう、ショックだった。本気で。
 何がこんなに私を揺さぶるのか、想像以上に、滅茶苦茶に、痛いぐらい、ショックだったのだ……

 ふざけるのすら、ただ痛いぐらい。
 本気で、痛々しくて、ベタな展開だって、何かを呪いたくなる。


「そ、そっか。好きな人ね。……わ、わはは」
「……は、はい」

 じっと私の顔を見てくる佳織は、私のアドバイスを期待しているのだろうけど、私の頭は真っ白でガーンガーンとうるさくて、笑いながらどうにも、本当に自分は笑っているのか自信すらもてなくなっている。
 鼓動が痛くて、心臓に太くて長い、針でも刺されてしまったみたいだ。

「……どういう、奴なんだ?」

 軽く、気づかれない様に深呼吸をして、ワハハって佳織に首を傾げて尋ねる。
 鼓動の音が、ドキドキではなく、ジクジクと鳴っているみたいな、広がる痛み。
 本当に、私の頭は弱いようだと、清澄の中堅の言葉を何となく思い出して、苦笑しそうになる。

「佳織の好きな奴って、私も知ってる奴なのか?」

 こうなって。
 佳織の相談を受けて、佳織に好きな誰かがいると知って、そうやって、すでに出来上がった手遅れの瞬間に。

 佳織の、存在の大きさに気づくなんてなぁ……

「智美ちゃん……」
「ほらほら、教えろよな?」

 ワハハって、笑うしかない。
 応援、とか、気の利いたアドバイスとか、ごめん無理。
 でも、邪魔はしないからさ。それは、それすら私はすべきじゃないから。
 せめて見守りたいと、痛みを無視して思う。
 



「……智美ちゃん!」

 もう一度、佳織が私を呼ぶ。
 気づいたら、私の視線は佳織を避けて、全然別の方向を見て、傍目には全然やる気を感じない姿勢だった。
 佳織の顔を真正面から見ることすら、今の私には痛みしか産まないようで、やれやれといつもみたいに笑う。
 改めて姿勢を正して、佳織の顔を見つめる。

 見つめようと、した。


「ごめんなさい……!」


 視界が途切れて、鼻腔に嗅ぎ慣れた香りが広がり、背中に頭に見知った手が触れている。
 私は、抱きしめられていた。

「ごめん、なさい……」
「……ワハハ、どうした佳織?」

 驚いて、それ以上に、身体から力が抜ける。
 離れる事も、ふざける事も、どれもこれも、力が足りなくて。
 ただ大人しく、突然に私を抱きしめる佳織に捕まるしかなかった。

「ごめ、ごめんなさい。だから、……ごめんなさいっ」
「…………」

 泣き声交じりの謝罪に目を細めて、結局閉じて、佳織の頭を撫でる。出来る限り心を込めて撫でる。

「違う、の……、私、智美ちゃんに、そ、そんな顔をさせたい訳じゃなくて、あんな風に、笑って欲しくないのっ、ただ、私」
「落ち着け佳織、ほら、聞いてるから」

「……智美ちゃんの、気持ち、知りたかっただけ、だったの」

 痛みを感じるぐらい、強く佳織が私を抱きしめる。

 身長差が歴然としているから、こういう風になるのは当然だけど、佳織がらしくないぐらい力を込めるから、ところどころが痛み出す。
 だけど、ジクジクとした心臓の痛みが控えて、ドキドキとドクドクと、別の新しい、優しい痛みを生み出すから、

 まあ、いいかと思った。

 佳織をそっと抱き返して、何だか、キスをしたくなった。


 



 翌日。

 あれから、泣く佳織を何とか宥めて、久しぶりに手を繋ぎながら一緒に帰った。
 手を繋いだら、昔みたいに花開く様に笑うから、変わらない笑顔に、ドキッとしてしまう。
 暫く無言で歩いて、どうにもこのうるさい心臓の音が佳織に聞こえやしないかとずっと不安だった。
 そして無事に送り届けて、軽くメールのやり取りをして、その日は終わったのだ。

 だから今日、佳織に何て言おうかと、ちょっとらしくなくドキドキと緊張しながら放課後の部室に行くと、佳織以外の皆に、それはそれは冷気すら感じる白い目で見られたのだ。

「……ワハ?」

 あまりに異常な空気に固まる。

 そうしたらユミちんが何ともいえない、怒りとか哀れみとか交えた複雑な目で私を見て、静かに近寄ってきた。

「……蒲原」
「え? 何? どうしたの一体?」
「……部長」
「うわ、モモ? え?」
「……先輩」
「あ、あれ? や、やだなぁ、むっきーまで怖い顔」

 焦って、チラリと佳織を見ると、佳織は困った顔でオロオロしていた。
 眼鏡越しに見える瞳は、不安と羞恥に一杯だ。

「昨日の事は知っている」
「――え?」
「部長。見損ないました。先輩並みのへたれっぷりに、呆れました」
「――ちょ」
「妹尾から、相談を受けていたので知っています。それ故に、先輩に言いたい事があります。山ほど」
「――はい?」

 いや、何事?






「妹尾にあそこまで言わせておいて、お前は何をしているんだ?」
「ちょ、ど、どういう事?」
「昨日、私と先輩は屋上にいたんっすよ。それで全部見てましたけど、何ですかアレは! 先輩も告白してくれるのに時間がかかりましたけど、部長も先輩並にじれったくて酷いっす!」
「も、モモ。さりげなくユミちんに不満をぶつけてるだろ? あと、見てたのかっ?! いたのかっ?!」
「先輩、煮え切らないにも程があります。結局、先輩は妹尾に何も返していません。妹尾も、自分に魅力がないと卑下して、落ち込んでいます」
「――――え?」

 睦月の言葉に驚いて、慌てて佳織に近寄ると、佳織は赤い顔で俯いていた。
 だけど、チラチラと、どこか怯えながらも私の様子を伺っていて、罪悪感がじわりと蘇る。

「…………あー」

 参った。降参だった。

 照れ隠しに軽く頬をかいて、しょうがないと、できればもっと後にしたかったけどと、腹をくくった。

「佳織」
「は、はい!」
「あげる」

 ぎゅっと押し付けて渡したのは、古いおもちゃの指輪。
 ある昔。あるませたガキが、ある好きな少女との偽りの結婚式に使った、捨てるに捨てられない、思い出のおもちゃ。

「……い、いつか、本物もやる」

 呆然としている佳織に、耳元でそう囁いて、驚いて顔を上げるその表情に微笑んで。
 割と、私が微笑むって、レアなんだぞ? って馬鹿な事も囁いて、そっと離れる。

 でも、また近づいて、チュッ、って、その頬に口付けた。





「ど、どうだー! これでユミちん並とは言わせない!」
「失礼な奴だな! そして、蒲原、そこで口付けまでいかなかったお前はやはり私並だ!」
「先輩、よく分かってるっす! でもそんな先輩が大好きっす!」
「……う、うむ。さ、流石です蒲原先輩」

 怒るユミちん。惚気るモモ。照れてしまったむっきー。

「……この、お節介共め」

 両手を万歳にして怒る様にしながら、でも、私はその場を動けない。
 私の腰に抱きつく、必死に抱きついて、ちらりと見える耳まで赤い、佳織を振りほどける訳がないから、私はふざけながらも微動だにしない。
 結局、赤い顔で笑いながら、佳織に捕まるしかないのだ。








 あれから、更に後日の話。



「さ、智美ちゃん……」
「あい」
「……相談に、の、乗って、くれますか?」
「あいあい」
「……ど、どうしたら、智美ちゃんは、私をデートに誘ってくれますか……?」
「…………」

 恋人の可愛い相談に、私はほぼ毎日。
 ドキドキしっぱなしだった。

「……じゃあ、佳織からチューすれば、誘うと思うかな」
「……は、はい!」

 照れてるくせに、どこか嬉しそうに、佳織は笑う。
 だから、まあ。
 

 私たちは、幸せだった。

 
 初デートは、プールにでも誘おうと思う。





 おわり



 以上です。

 ちなみに、『更に後日の会話』は部室でやってます。

 以下、蛇足のおまけ。


「先輩、先輩、私も相談事があるっす!」
「モモ?」
「……どうしたら、先輩からキス、してくれるっすか?」
「――――?!」
「……先輩」
「も、モモ……わ、私は」


「……って、あのー。先輩たち、そういうのは他所でしてくれませんか? っていうか、麻雀打ちながらとか、真面目に止めて下さい」



 以上です。
 
 むっきーが実は、鶴賀一の苦労人だと思います。

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最終更新:2009年08月22日 21:37