134 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/13(木) 12:27:26 ID:CDUHCHpL
鶴賀SS投下します
むっきー視点
百合成分かなり薄め



 その日、私たち5人はいつものように遊びに出かけ、今はその帰りの電車内だ。
 もう時間もかなり遅くなっていて、なおかつ私たちの住んでいるところは
 田舎であるので、終電に乗っていた。今日は遠出したので、
 何回も乗換えをしたが、これが最後の電車だ。あと30分程で駅に着く。

 私は蒲原先輩と佳織に挟まれる形で座っていた。左に先輩、右に佳織だ。佳織は寝ている。
 向かいの席には加治木先輩と桃子。二人抱き合いながら寝ていた。
 桃子がすぐ寝て、加治木先輩も、私も寝るから着いたら起こしてくれ、といって寝た。
 今起きてるのは蒲原先輩と私だけ。この人と話をするしかなかった。

「今思うとすごい偶然だよな!私も睦月も同じマイナス18600点なんて」
「私たち二人ともそれだけボロ負けしたってことですよね・・・」
「ワハハ、まあそんな過去の悪いことをくよくよ思い出すのは良くないぞ!」
「・・・先輩がこの話題を振ってきたんじゃないですか・・・」

 この人と話をしているとたまに疲れることもあるが、なぜか憎めない人なのだ。
 そんなことを考えていると、蒲原先輩がこんなことを言い出した。


「いや~・・・ずっと思ってるんだけどさ、私たち、あの団体戦に出れて良かったよな。
 楽しかったし、私は本当に嬉しかったんだよな」
 
 昔を思い返すように先輩は語った。昔といっても、まだ2ヶ月くらい前の話だが。
 もうあれから2カ月たつのか。それでもあの後も先輩たちは部室に顔を出し、
 こうしてみんなで遊びに行ったりもしているが。先輩はさらに続けた。
 
「私たちは勝ち負け以前に人数すら足りなかっただろ?3人だったから卓も囲めないしな。
 やるとしても3人麻雀くらいか。大会出場とかは本当は少し諦めていたんだ。
 でもゆみちんが桃子を発掘して、半ば強引とはいえ佳織も入ってくれた。
 それで出た大会も気がついたら決勝まで行っちゃったからな。
 私はまるで、ゴミみたいな配牌だったのに役満を張った、そんな気分だったよ」
 
 
 実は私もそんな気持ちだった。あの時は、地から天へ一気に駆け上っていく感じだった。
「・・・でも先輩、せっかくだから、その役満、和了りたかったですね。
 あともう少しだったのに、その手はテンパイ止まりでしたね。悔しかったですよ」



 
 大会のあとは、本気で悔しがった。自分の力不足を嘆いた。
 自分が何とかしていれば、という自責の念に駆られた。今はもう落ち着いてきたが。
 先輩も悔しかっただろう、と思っていると意外とそうでは無かったようだ。
 
「いや、私はそうは思ってないぞ。さっきも言ったけど、もともとがゴミ手なんだから、
 あそこまで行けただけでもう十分と考えてる。それ以上欲しがるのは欲張りだな。
 それに・・私はこうして皆で仲良く、楽しく遊んだり、麻雀を打っていたり
 何でもないバカ話で大笑いして・・・これだけのものを得たんだから、
 私はやっぱり役満和了れたって思ってるよ」
 
 先輩の表情はとてもさわやかだった。やはりこの人は器の大きい人間だ。
 鶴賀の大将は何があっても加治木先輩しかいないのと同じで、鶴賀の部長も
 何があってもこの蒲原先輩しかいないのだ。
 
「まあ睦月、でももう私は引退したことに一応なっているからな。
 今の部長はお前なんだぞ。私の後を継いで麻雀部を引っ張っていってくれよな」
 
 そうなのだ。いつまでも先輩方二人が一緒にいるから自分も他人も忘れてしまうが、
 今、私が鶴賀麻雀部の部長だった。しかし、私には多くの不安があった。
 
「しかし先輩、こんな私に務まるのでしょうか。私には先輩のような明るさや大らかさも、
 加治木先輩のようなカリスマ性や麻雀の実力も無いんです。私で大丈夫でしょうか。
 そもそも部員も足りません。皆をまとめる以前に、人すら来ないかもしれないのです。
 先輩が最高の部長だっただけに・・・私は不安なんです」
 
 
 私が麻雀部に入ってすぐのころ、蒲原先輩のいい加減な仕事ぶりを見て、
 この人に部長が務まるんだったら私でも務まるな、むしろ私がやったほうが、とまで考えた。
 しかし月日を重ねるうち、先輩の皆を思う気持ちが分かるようになった。
 私たちに見えないところで苦労し、私たちの前ではワハハと笑って場を和ませていた。
 そしてこの人には皆を引き寄せ、幸せにさせるという力がある。
 
 もともと無口な私、恥ずかしがり屋な佳織、人に全く媚びない一匹狼の加治木先輩、
 存在すら認識されない桃子。そんな私たちが部活動を楽しみ、
 こうして皆で今日は軽い日帰り旅行にも行った。
 それも全て蒲原先輩のおかげではないか、と思うようになった。
 だからこそ、私はこの人の後を継いでうまくやっていけるのか、という不安があった。
 しかし蒲原先輩はまたしても私を助けてくれるのだった。




「大丈夫だって、睦月。お前は私やゆみちんより部長としての資質は上だ。
 睦月は真面目だからな。誠実さ、勤勉さ・・・そういうものを持っている人は
 皆から信頼されるからな。自然と人も集まってくるだろうさ」
 
 真面目さ・・か。自分ではそんな自分をつまらない奴だ、と思っていたが。
 
「真面目さ、これは私もゆみちんも持っていないものだからな。
 私は・・ワハハ。見ての通りだし、真面目そうに見えるゆみちんだって
 1年の頃は部活も麻雀しないで漫画読んだりゲームしたりしてたし、賭け麻雀はしてたし、
 お前が入ってからやっと私たちしっかりした部活を始めたからな。
 今でもあいつ、受験勉強しなきゃいけない時期にこうして私たちと一緒に遊びに行ってるだろ?
 何より桃子といちゃつきまくって・・・不純行為だよな!
 ホテルにも何回も行ってるようだしよ・・だから真面目さ、って案外貴重なんだぞ」

「はあ・・・そう言われてみればそうですね・・・」

「だろ~?だから睦月が一番向いてるんだよ。あとは・・・何があってもマイペースで行け。
 お前の口癖だろ、私なりに精一杯ってな。それでいいんだよ。
 他と比べる必要なんて無い。睦月の麻雀部を作ってくれ」

 私が作る麻雀部か。話を聞いて、少し気持ちが楽になった。

「ありがとうございます先輩。おかげでやっていけそうです」
「ワハハ、これで私も一安心だな。・・今までこんな私についてきてくれてありがとうな。
 そしてこれからも・・もうしばらくはこうしてみんなで楽しく過ごそうな」
「・・はい。これからもよろしくお願いします」
 そうだな。もう少し蒲原先輩に色々教えてもらおう。もう少し甘えてしまおう。

 しかし、こんな蒲原先輩にも早くいなくなってほしい、と思うときが少しあった。




「うーん・・・むにゃむにゃ・・・みっつずつ・・・」
 私の右で寝ていた佳織が私に寄りかかってきた。悪くない気分だ。このままでいたい。
 すると、先輩が私のほうに鋭い視線を向け、こう言うのだった。
 
「おい、睦月、お前なにやってるんだよ!佳織と・・近すぎやしないか!?」
 そう。この人がいると佳織に近づけないのだ。すぐこうしてカットされてしまう。
 
「何言ってるんですか先輩。佳織が寄り添ってきたのです。私は何もしていません」
 先輩が佳織を大事にしているのは知っている。でも、この私にだって・・・
 佳織を好きになる資格はあるはず。好きになってもらう資格も。
 だから、ここは譲らない構えを見せた。佳織の頭を少しなでて見せた。
 
「ほら、先輩、そんな大声出すと、佳織が起きてしまいますよ。気持ちよく寝ているのに」
 すると先輩は席を立ち上がり、私の隣から佳織の隣に移動した。
 つまり今、佳織が私たちに挟まれている状況だ。そして先輩は佳織を自分のほうに引き寄せた。
 
「ほれほれ、見ろ、佳織も睦月の肩より私の肩のほうが気持ちよさそうにしてるぞ」
 呆れた。こうなったら意地だ。私は佳織に体を預ける姿勢をとった。
 すると、蒲原先輩もまた佳織に体を密着させてきた。
 佳織は少し寝苦しそうだったが許してくれ。これは先輩との戦いなのだ。
 そうやって佳織に寄りかかっているうちに私は眠くなってしまい・・・・・・・・



「・・・おい!起きろお前ら!いつまで寝ているんだ!」

 ・・・加治木先輩の声がした。私は寝てしまっていた。気がつくと、駅のホームだった。
「・・・やってくれたな、お前ら」
 ・・?何のことだろう。蒲原先輩はまだ寝ていた。あとの二人はオロオロしていた。
 そういえばこの駅どこだ?いつもの駅ではないし、近所でもない。まさか・・・
「あれほど起こしてくれと言ったのに。全員で寝てしまって終点まで来てしまった。
 しかもお前ら全然起きないし・・・電車から3人で引きずり出したんだ」
「もう終電も終わったっすよ・・・どうするんすか・・・」
「どうしたものかな・・・オラッ、蒲原、起きろ!」
 加治木先輩はグースカ寝ている蒲原先輩に強烈なビンタを放った。すぐに起きた。




「な、な、な、何するんだよゆみちん、あ~びっくりした・・・」
「起こせって言っただろう!何でお前寝てしまうんだ!馬鹿か?」
「あ~!?そもそもゆみちんが寝たからいけないんだろ~?人の事言えないだろ、
 それに私を信じて安心してたなんて、ゆみちんこそ馬鹿か?私を信用するなって!」
「おい蒲原、どうするつもりなんだよ、とにかくお前の責任だぞ」

 不毛な言い争いとなった。まあまあ、と桃子と佳織が仲裁していた。
 でも、よく見ると先輩方は心から怒鳴りあっている感じはしなかった。
 むしろ楽しそうな感じで。ふざけあっているような感じで。
 それを見ているとなんだか私まで楽しい気分になっていた。
 知らない遠くの駅にいるのに、多分今日家に帰れないというのに。
 気がつくと、みんな笑っていた。そしてみんなでワハハと笑い声を合わせるのだった。
 
 これも蒲原先輩の太陽のような影響力なのか。今までの私は何かあっても無表情だった。
 少なくともこんな状況で楽観的に笑うなんて事は考えられなかった。
 加治木先輩だって私ほどではないが感情は表に出さない方だ。
 桃子と佳織だって、そんなに明るいタイプの人間ではなかった。始め出会ったときは。
 
 今、私たちは本当に楽しい青春を過ごしている。笑顔の毎日を過ごしている。
 私もこれからこんな麻雀部を作っていけるようがんばろう、そう思った。




 おわり。
 龍門渕が全員家族なら、鶴賀は全員親友だという期待から書きました。



 蛇足(某ローカルバラエティ番組のシーンから引用)

 その後私たちはこの日泊まれるホテルを探した。やはりこんなところにはなかなか無い。
 何とか一軒見つけた。ところが、ツインルーム一室しか空いていないとの事だ。
 その後色々交渉した結果、ツインルームの5人使用が決定した。
 その部屋に、もともと置いてある普通のベッド2つに加え、
 ボロッちいベッド2つを置いてもらった。これで部屋はいっぱいだ。
 
 ここで、ベッド争奪戦が始まった。ちなみにベッドは一人分足りない。
 私は蒲原先輩がどんな決め方をするのか注目していた。
 年功序列とか言って自分はいいベッドを確保する気じゃないだろうな、と。
 すると蒲原先輩は、こんな提案をしてきた。
「よし、あの県大会でいい成績を収めた順に自分のベッドを決めよう。恨みっこなしだ」
 ・・そうだな。蒲原先輩は部員のことを第一に考える人だったな。
 この順番で行くと、まず佳織、桃子、加治木先輩という順番だ。

「じゃあ私はこのベッドで・・すいません皆さん」
「それなら私もいいやつにするっす。・・・加治木先輩。先輩がよければ
 このベッドに2人で寝てもいいんすよ」
「・・そんなことするわけ無いだろ・・ま、それは今度2人きりの時にな。
 私はこの直接スプリングが体にあたるくらい硬いベッドにする」

 次々に決まった。残るのは、もう一つのボロベッド。加治木先輩のが異様に硬ければ、
 こちらのベッドはかなり弾力があり沈みすぎて傾くような、とんでもないベッドだ。
 だが無いよりはましだ。ベッドが無い者はソファーにでも寝るしかない。
 あんなソファーじゃ絶対寝れない。しかし、ここで問題が起こった。
 私と蒲原先輩は電車の中でも話したように、マイナス18600のタイなのだ。
 さて、どうなるのか、すると蒲原先輩が言った。
「睦月、悪いけどここは年功序列だな。やっぱ若手がここは譲るべきところだよな」

 ・・・私は結局一睡もできなかった。腰も痛めた。
 蒲原先輩も「おかしいよ、このベッド・・」と夜中ずっとつぶやいており、寝れなかった様子だ。
 帰りの電車の中で、私は一言も蒲原先輩と会話を交わさないのであった。



 おわり

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最終更新:2009年08月22日 15:05