100 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/12(水) 15:33:13 ID:GfbD2pDF
最近素敵なssとか増えて、潤いながら投下します。
四校の部長やキャプテンは、全員攻めで面白かったらいいなという話です。
そういえば、と透華が思い出した様にくるりと頭上の毛を回して、ぽんっと手を叩いた。
きっと神経が通っているだろう一部の髪がピーンと尖る光景に慣れた自分に、少し思うところはあるけれど、ボクは透華だしいいや、とよく分からない結論を出しながら「なあに?」と聞き返す。
「ええ、ええ!」
「うん?」
どうして今まで忘れていたんだろう! とばかりに透華は二回ぐらい頷くと、ちょっとした雑談をするみたいな気安さで、意味もなく仁王立ちになる。
「実は私、先週の休みにナンパされましたの」
「へー……」
ナンパかあ。
そりゃあ、ボクの透華は可愛いしね。
普通に佇んでいるだけで美人さんだし、ゴージャスさとか面白さとか魅力的な部分が全面に押し出されるから、そりゃあナンパの一つや二つ………………
「―――ナンパぁ?!」
「ええ、そうだと言っているでしょう?」
「い、いつ?!」
「ですから、先週の日曜ですわよ。もう、聞いていませんでしたの?」
ぷくう、って頬を膨らませる透華の可愛さに、ボクはいつもみたいに見惚れる訳にはいかない。
何だよそれっ?! 初耳だよ。っていうかそんな大事な事を今まで忘れてないでよ!
「だ、誰に?!」
「清澄の中堅。貴方と戦った竹井久ですわ」
「ハアッ!?」
顎が外れそうになるぐらい驚いた。
一瞬頭に蘇ったあの人と、ナンパという単語が絡み合わなくて酷く苦労した。
「あ、あの人に、ナンパ、されたの? 勘違いとかじゃなくて?」
「ええ。『そこに行く龍門渕透華さん。私と一緒にお茶でもいかが?』という感じに」
「ナンパだッ!?」
間違いなくナンパだねそれ! 分かった。今日からあの人をボクのライバルにするよ!
「それで、その後は皆さんとお茶をしてショッピングをしてメールアドレスを交換して別れましたわ」
「楽しそうだね?!」
「ええ、久しぶりに一人で出てみたのですけど、その甲斐あってなかなかに実りある時間でしたわ」
「よしっ、ボクちょっと清澄に乗り込んでくるよ! …………って。『皆さん』?」
ふと、引っ掛かった透華の台詞。
ボクは手品用の様々な器具を懐に、あれ? と立ち止まる。
見ると、透華は「はじめったら、何をそんなにテンションをあげているのかしら?」と不思議そうだ。
「……え? あのさ透華」
「ええ」
「その、竹井久の他にも、もしかして誰かいたりした?」
「あら、言っていなかったかしら? ええおりましたわよ。風越と鶴賀の部長が」
そ、そうですか……
脳裏に、竹井久と並んで映る、片目が青眼の風越と、特に目立った所はなかったボクと対戦した鶴賀の部長。
……それ、ナンパじゃなくて普通のお誘いじゃん。
「ふふっ、どうやら清澄の部長は、風越のキャプテンに練習試合を申し込もうとしていたみたいで、会う約束をしていた様なの」
「……へえ」
それはちょっと面白そうだね。
心の平温が訪れたボクは、素直にそう思った。
「それで、待ち合わせ場所に向かう途中、久々に街を闊歩する私を見つけて、声を掛けたという事ですわ」
「ああ、なるほどね……」
ある意味で凄い偶然と、面白い巡り会わせだった。
「そして私の機転で、ならば鶴賀の部長も呼んで、四校合同の練習試合をしてはどうかと」
「……はあ」
……うん。分かったよ透華。事情はよく分かった。
だけどね、そういう事情ならボクは尚更に今まで忘れないで欲しいと思うよ。
……っていうか、鶴賀の部長はどうやって呼び出したんだろうと気になったけど、気にするだけ無駄だと感じた。ハギヨシさんにでも連絡先調べさせたのかな……
「ふふっ、衣もあの清澄の規格外とまた打てるとなれば、とても喜びますわね」
「うん、そうだね」
「日程が決まるまでは、変に期待をさせない様に内緒にしようとして、つい本格的に忘却してしまいましたわ」
「……たまに、ボクは透華が衣の従妹で大物だなぁって痛感するよ」
どこまでも透華は透華で、ナンパのお誘いが健全なものだと知って、ほっと一安心だ。
「それにしても、流石に決勝に勝ち上っただけあって、格好の部長たちはユニークな者ばかりでしたわ」
「へー……」
透華が言っちゃうんだ? それ。
ボク、透華のこと大好きだけど、むしろ愛しているけど。透華以上のユニークさんって、悪い意味でまだ見たことないよ?
「……ちなみに、どんな風にユニークだったの?」
「ええ、いきなり練習試合の話し合いからお互いの恋人自慢に発展しましたわ」
「公共の場で?!」
ユニークってレベルじゃないよそれ?!
「勿論、私もはじめの自慢をこれでもかとしてきましたわ!」
「嬉しいよ! 嬉しいんだけど透華、ボクはこれからどういう顔であの人たちに会えばいいのかな?!」
「え? 堂々と会えばいいんじゃないかしら?」
「ボクの葛藤がまったく伝わってないよね?!」
髪の毛がクエスチョンマークっぽくなって、小首を傾げて困った顔をする透華に、何でも許してあげたくなるけど、羞恥に全身が熱くなる。
な、何を話されてしまったんだろう……?
「はじめ、そんなに心配しなくても、はじめはあの方たちの恋人と比べてベストワンの可愛さですわよ。ええ、はじめが一番。負けているわけがありませんわ!」
「……ねえ? 透華たち、その口振りからだと自慢どころじゃなく言い争ってただけじゃないの?」
「まさか。他の方たちが自分の恋人が一番だとほざくのを、少し声高に否定していただけですわ」
「本来の目的を見事に忘れているね!?」
公共の場で迷惑すぎる会話だと思った。
っていうか、ここまでくるとどんな会話をしていたのかすっごく気になるよ!
「あら、気になるという顔ね。ハギヨシ」
「――はっ」
パチンと指を鳴らせば、現れる超有能執事のハギヨシさん。その手にテープレコーダー…………っておい。
突っ込みどころが多すぎるけど、とりあえず微妙なチョイスだと思った。
そんな風に頭を抱えるボクにかまわず、カチリ、とスイッチを押すハギヨシさん。
ジジジ……と機械音がして、聞こえてくる声。
『か、華菜なんてほっぺにキスをするだけでふにゃあってとろけて、にゃうんって笑いかけてくれます!』
『ふっ、そんなの、まこに不意打ちで口付けた時の赤面と涙目と照れ隠しがプラスされて滅茶苦茶になる方言とのギャップに表された絶妙な表情には勝てないわ!』
『どんな限定された可愛さだよ! 佳織なんて毎週私の部屋を掃除しに来てくれるし、お弁当なんて喧嘩しても作ってくれるわと甲斐甲斐しいんだぞ? 『お、お背中流しますね?』ってお風呂に誘われた時なんて、鼻血ものだぞ! ワハハ!』
『幼馴染で通い妻だからと偉そうになさりませんことよ! はじめなんて私のメイド! メイドですのよ! おはようからおやすみまで、果てはおやすみからおはようまで、私たちは常に一緒!』
がしゃんがちゃん。ばしん。どかん。(何やら争う様な音)
『貴方たちの恋人たちの素晴らしさは伝わりますが、それでも華菜が負ける事はありません! あの子ほど猫耳が似合い尚且つ、甘え上手なへたれ受けはありません!』
『言うわね。でも、猫耳ならまこだって似合うわ。真っ赤になって『何考えとるんじゃ、こ、この馬鹿がぁ!』って、猫耳尻尾付きで照れ隠しに怒った姿なんてもう最高よっ!』
『あんたら本当に何やってんだよ!? なら、佳織は犬耳が似合うぞ! 鼻先を背中に押し付けて、構ってとばかりにもじもじして、甘噛みしてくる時なんて、すっごく犬っぽくて可愛いんだぞ!』
『ふっ、片腹大激痛とはこの事ね。犬耳が似合うとなれば、私のはじめにきまっているじゃありませんの! 最近プレゼントした首輪も嬉しそうに着用して、とーかとーか♪ と懐いてくれる姿は必見っ!』
カチリ。
ハギヨシさんがスイッチを切る音と共に、透華が得意げに胸をそらした。
「といった感じでしたわ!」
「……いっそ殺して」
三度目だけど、公共の場で何て話をしてるんだよ……
柔らかい絨毯に頭を押し付けて、あまりのとんでも会話と首輪の事をばらされて、もう羞恥に焼き切れて、今すぐに消えて無くなりたかった。
「さて、それでは練習試合の日程を、そろそろ決めようかしら」
「………ぅう」
止めたくても、きっと止めても無駄なんだろうなぁ……
「そして、その時にこそ、はじめが一番だとあの時の決着をつけて見せますわ!」
「決着付いてなかったの?! っていうか、麻雀! 麻雀はどこにいったのさ?!」
「安心なさいはじめ。敵は強者だけど、貴方が負ける事はありませんわ!」
「目的とか趣旨とか一切合財変わってるよね!」
ボクの全てをもって、全力で阻止しよう!
止めるのは無理だと諦めかけたボクは、その台詞に自分を叱咤して決めた。
これ以上、羞恥で殺されかけない為に、ボクは「止める!」と誓って、携帯を取り出す透華にあれやこれやと、必死になって四校合同練習を阻止しようと企むのだった。
おわり?
以上です。
恋人への愛に溢れる部長やキャプテンたちは大変素敵だと個人的に思います。
そして、きっとはじめは龍門渕一番の苦労人だと思う。
最終更新:2009年08月22日 15:01