844 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/08(土) 03:41:58 ID:+3/ZV4dH

私には好きな人がいます。
だれよりも想っている人が。
きっとその人は私のことを後輩の一人としてしか見ていないでしょう。
でも、それでも、よかった。
傍にいられるだけで満足だった。
貴女が笑っていてくれるなら、それでよかったんです。


…キャプテン。
私は貴女を笑顔にしたかった。
貴女を泣かせたくなんてなかった。
なのに、私は…。


あれからもう1カ月がたとうとしていた。
忘れもしない県予選団体戦。
2年連続の大将。2年連続の敗退。2年連続の貴女の涙。

「あなたは悪くないわ、華菜。あなたはよくやったわよ。」

貴女は涙を流しながら私の頭をなでてくれた。

私は貴女が好きでした。
だから貴女には笑っていてほしかった。
貴女を笑顔にしたかった。

だけど私は…。



私は貴女を泣かせるばかりで、笑顔にすることができなかった。
私の手に握られているのは退部届。
貴女を悲しませた、泣かせてしまった、私の罪。
どうやっても償うことはできないけれど。
麻雀をやると、きっと思い出してしまう。
貴女の涙を。私の罪を。
貴女が引退して、会う機会が減ったのは幸か不幸か…。





「華菜ちゃん?」
新キャプテンになった私の同級生の一人である、吉留未春。
彼女にそれを差し出す。
「本気なの?」
彼女はそれを見つめながら私に尋ねた。
「本気だよ。」
私は答えた。彼女はそれを受け取ろうとしない。
沈黙が二人を襲う。
その沈黙を破ったのは彼女、未春。

「ねぇ、華菜ちゃん。私はそんなに頼りないのかな?」

未春はメガネをはずして、涙を溢れさせていた。
私は戸惑った。
同級生として今まで仲良くしてきた。
だけど、こんな表情見たことなかった。

「華菜ちゃんはいつも1人で抱え込んでる。相談するにしてもいつも福路先輩だったよね…。」

福路先輩。その言葉が私の頭に響く。

「私に相談したりすることなんてなかったよね。…私はもっと華菜ちゃんに頼ってほしいよ。華菜ちゃんの、力になりたいよ…?」

涙を流して私の肩をつかむ未春。

私は人に頼らないで、野良猫のように生きてきた。
人に頼るのは弱いことだって、そう思ってた。
それが違うってことを教えてくれたのは福路先輩、貴女でした。
人に頼るのは迷惑をかけることだって思ってた。
人に頼らないってことが、人を悲しませるなんて思ってなかった。

「みはるん…?」

「華菜ちゃん…。私、華菜ちゃんのこと好きだよ。いつもまっすぐで、心が折れそうになっても立ち上がる、そんな華菜ちゃんが大好きだよ。」

手を肩から背中にまわして私を抱きしめるような形になる。
私は知らなかった。気付かなかった。未春がそんな風に思っててくれたことに。


「みはるん…。私はふく「分かってる!」

私の言葉は未春によってかき消された。

「分かってるよ。華菜ちゃんが福路先輩のこと好きだっていうことは。」

未春は私を抱くのをやめて、涙を拭いながら微笑んだ。

「華菜ちゃん。私の好きな華菜ちゃんはいつも前を向いた華菜ちゃんなんだよ?」

前を向いた私。まっすぐな私。

「だから、それは受け取れないよ。」

そう言って未春は私に背中を向けた。

「ねぇ華菜ちゃん。福路先輩みたいな鈍い人にはね、ちゃんと言わないと伝わらないんだよ。」

はっとなる。
私はただ逃げていただけなんだ。
自分の気持ちから、貴女に想いを伝えることから。
貴女の傍にいられれば、貴女が笑っていればそれでいいなんて、そんなの言い訳にしか過ぎない。

「華菜ちゃんは図々しくしてるのがいいんだよ。」

そうだ!華菜ちゃんはずーずーしいんだ!
想いは言わなくちゃ伝わらないってみはるんが教えてくれた。
これからどうなるかなんて、私にも誰にも分んない。
でも、結果がどうであったとしても福路先輩、貴女には今まで泣かせてしまった分、これから笑顔をプレゼントすればいい。

「みはるん、ごめんね、ありがとう。」

未春は微笑み、私は退部届を破り捨てた。

「頑張ってね、華菜ちゃん…。」

私は走りだす。自分のこの想いを伝えるために。貴女のもとに。





走り出すあなたの背中を見つめて、さっきまで抑えていた感情が溢れ出る。
私はあなたの幸せを望む。
なのになぜ涙が止まらないのだろう。
破り捨てられた退部届を見つめる。
「華菜ちゃん…。」
…これでいいんだよ。よかったんだよって自分に言い聞かせる。
あなたは麻雀部を辞めない道を選んだんだから。
私はあなたとまた一緒にいることができるんだから。

あわよくば、あなたのことを華菜って呼んで、未春って呼ばれたい。
これからは私のことも頼ってほしい。
そんなことを考えて、涙を拭い、私は今日の部活に向かう。

明日あなたに会った時、私はいつもみたいに笑うんだ…。



おしまい

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最終更新:2009年08月08日 15:04