839 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/08(土) 03:19:19 ID:4rlGWMFF
夕刻、気づくと部室にはゆみだけが残っていた。
日はだいぶ傾いて、部屋には長い影が映っていた。
夏も過ぎ、引退したというのに暇さえあれば足は部室へと向かっていた。

秋を思わせる涼しい風を感じる―と同時に背後に人の気配がした。
人、とは言ってもゆみには正体がわかっていた。

「モモか?」

ゆみが言うが早いか、モモはゆみの左腕にじゃれついた。

「先輩、おつかれさまっす。データづくりに夢中だったっすね」

振り切れんばかりにしっぽを振る犬のようなモモに、ゆみはやすらぎを覚える。

モモの気配すらも今まで気づかずに集中していたのか。

「ああ、少しのつもりがいつの間にか時間が過ぎていた。ずいぶん待ったか?すまなかったな」

「かまわないっすよ。クールな先輩をタンノーしてたっすよ!!」
あー、先輩はいつもクールでカッコいいっすけどね、と小さくつぶやくモモ。

「・・・そうか」

表情には出さないが照れくささで、ゆみは言葉が続かない。
いつもストレートにゆみを、ゆみだけを見つめるモモ。
ゆみのことが大好きだと素直に口にするモモ。
モモへの愛しさが日々募っていくばかりだというのに、その気持ちの大きさの何分の一も言葉にも態度にも
表すことのできない自分の不器用さをゆみはかみしめていた。



「モモ」
「なんすっか、先輩」
「わたしにしてほしいことはないか?」

質問の意味を図りかねてきょとんとするモモだったが、しばらくして急に目を輝かせた。

「えっ、待ってたごほうびをくれるってことっすか!?」
「・・ああ。それもある。それに、夏休みにあまり時間をさいてやることができなかったこともあるし」

少しでも自分の気持ちをモモに伝えたいし、な。
最後の一言は心の中で独り言。

「どうだ?」

「先輩やさしすぎるっす!!大好きっす!!」

ゆみははしゃぐモモの頭をなでる。
モモの髪はさらさらしていてさわり心地がいい。

「で、何かあるか?」
「んー、先輩と一緒にいられるだけで充分ごほうびなんすよね・・・あっ、じゃあ」
「ん?」
「久しぶりにゆっくりデートがしたいっす!!」

『デート』という単語に気を取られたゆみだが、そんな素振りはせず即答する。

「そうか。いいぞ。どこか行きたいところはあるか?」

ゆみの問いかけに、モモは少しためらいながら答えた。
「先輩のお部屋に行ってみたいっす。だめっすか??」
「なんだ、わたしの部屋なんかでいいのか?」

それは『デート』というのか?

「はいっ!お部屋デートがしたいっす!!」

ゆみの心を聞いていたかのように返事をするモモ。

・・・場所はどこでも『デート』には違いないのか。モモがいいなら、わたしもいいに決まっている。
だめもなにもあるまい。

「だめなわけないだろう。さっそく明日にでもどうだ?良ければ泊まっていけ」

「わっ、うれしいっす!!お言葉に甘えて泊まらせていただくっす!!充分すぎるごほうびっすよ!!」
頬を桃色に染めて微笑むモモを見て、ゆみも芯から暖かい気持ちになった。

そんなことでこうも喜ばれるのは変な気分だな。
帰ったらまずは掃除をしよう。ごはんは何にするかな、モモの好きなものを―。

ゆみはとりとめもなく考える。



『明日が待ち遠しい』

互いに同じを思いを抱きながら、二人は家路へ向かうのだった。




終わりです。

楽しんでもらえたらうれしいです。

かじゅモモ好きすぎるーー寝れな過ぎるーー。

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最終更新:2009年08月08日 14:59