632 :名無しさん@秘密の花園:2009/08/03(月) 15:34:44 ID:yhRXE65b

 またss投下します。

 かじゅモモ風味と、カマかお風味です。

 一応、まだ誰もくっ付いていない設定です。

 
 
 それは、放課後の部室での事だった。

 私は、前年度県予選優勝高の龍門渕の牌譜に目を通していたのだが、不意にトンッ、と肩に重みが加わり、「ん?」と視線を向けると、そこには、私の肩を枕代わりに、蒲原が牌譜を手に眠気に負けて居眠りをしていた。

「…………」

 無言で「起きろ」とばかりに肩を揺らしても、蒲原が起きる気配はない。
 そういえば、寝つきが滅茶苦茶に良かった事を思い出し、すやすやと罪の無い寝顔を見て、私は小さく溜息を吐く。
 そして、蒲原の手に握られた牌譜を抜き取り、少しだけ肩をずらして蒲原の頭を手に、そのままその頭を自身の太股の上に乗せる。
 ソファではなくパイプ椅子だから、姿勢が少し苦しいかもしれないが、そこは我慢して貰うしかない。
 小さくむずがった蒲原の頭をポン、ポン、とあやすようにしてから、少々乱れた髪を撫でて整え、後から起こしてやればいいか、とまた改めて牌譜へと目を通した。

 しょうがない奴だ、と小さく苦笑を漏らしながら。



 そう、そしてその後の事だ。

 『どよん』というか『ずぅん』というか、何とも言えない、刺す様な空気が満ち満ちて息苦しく、居心地が悪すぎる、背筋がぞくりとする不快な感覚が漂い始めたのは。

「……………」

 何だこれは? と牌譜から目を上げて軽く部屋を見回しも、特に変わった事は起きていない。

 それでも、しいて何かをあげるとするなら、睦月が窓の外を一心に必死に見つめて、脂汗交じりに此方を見ていない振りをしているとか、妹尾が初心者用の麻雀ルールブックをカタカタカタカタと小刻みに震わせて、今にも泣きそうな顔で此方を見ているとか、挙句に。

「……先輩」

 モモが、
 私の隣に実は座っているモモの、手にされている牌譜(厚さ五cm)がぐちゃりと曲がっているとか。

「…………」

 ……そう、だな。
 自分さえ騙せない、苦しい嘘はやめよう。
 特に変かわらないどころじゃない。というか明らかに普通の空気ではないだろう、コレは。

「……どうしたんだ?」

 もしや、という予感はあるものの、いまだ確信にいたれない私は、声が震えない様に気をつけて、冷静という偽りの仮面を被りながら、あえて、この空気に波紋を広がせるべき、投石した。

 その波紋に、最初に触れたのは、新入部員である妹尾だった。

「……っ、か、加治木先輩と、智美ちゃんは、な、仲が良いんですよね。ひ、膝枕なんて、す、すす、するぐらい」
「あ、ああ、まあな」

 声が異常に震えすぎているぞ妹尾。
 心の中で突っ込みつつ、肯定しながら何故か逃げ腰になる。
 私と蒲原の仲は良い。それは事実だが、事実なのだが、何故だろう? 肯定するのがとても息苦しかった。

「か、蒲原は、よく居眠りをするものでな。以前、放置していたら首を痛めてしまった事があって、以来、見かけたらこうする習慣ができたんだよ」

 明るく話題転換を試みて、蒲原をからかう様に言ってみた。
 あえて声を楽しげにするのも忘れなかった。

 ……が。
 


「……っう! ……ぐすっ。じ、じじ、じゃあ、加治木、先輩は、智美ちゃんを、も、もう何度もひ、膝枕……。わ、私なんて、全然ないのに……ぅう」

 妹尾は、バサリ、と。ルールブックを床に落として震えながら俯いてしまうぐらい、ショックを受けていた。
 すでに、眼鏡越しのその瞳に溜まった涙は、いつ零れてもおかしくない勢いで、その姿は雨の日に捨てられた子犬の様だ。

 ……つ、つまり。私はしくじったのか?
 らしくない失敗にあせり、私は声を荒げる。

「い、いや待つんだ妹尾! 確かに私は蒲原に膝枕を数え切れないほどしてきたが、それは蒲原の首を守る為だ! そして強いて言うなら私の為でもある!
 蒲原は首を痛めてしまったが故、体育の着替えの時や、昼食時に、何かと私に手伝わせてきて、色々とわずらわしかったんだ!」

 あーんしろとか、万歳だ、とか。

「―――っ!?」

 だが、心からのどれだけ大変だったかを訴える言葉に、妹尾はガタン! と椅子を震わせながら立ち上がり、酷く傷ついた顔をしてポロポロと泣き出してしまった。
 い、いやっ、何故だ?!
 狼狽して、睦月に助けを込める視線を送ると、睦月は頭を抱えていた。

「……先輩。それって、蒲原先輩と暗に仲良しだって、全力で自慢しているみたいです」
「なっ?! そ、そんなつもりは毛頭無かった!」
「いや、それは分かっているんですけど、でも……」

 そのまま、そっと視線から外されて、睦月は静かに両手を動かす。『×』の形に。
 つまり。

『アウト』

 その温情の無い、冷酷な宣言に唖然として固まる私の肩に、『ポンッ』と蒲原の頭より軽い、だが有無を言わさない力加減をされた、手の感触がする。

「…………」
「先輩。ちょっと、お話があるっす」

 ……。
 私は、投げた投石の波紋が、あれよあれよと津波になる瞬間に立ち会ってしまい、それもその津波を起こしたのは自分自身で、どうやら自業自得らしくて、愕然とした。
しかし、モモが、多分部内の誰にも見えていないだろうという事実にだけ、僅かの救いを見出して、そっと、蒲原の、こんな状態なのにすやすやと眠る、少し妬ましいぐらい幸せそうな寝顔を恨めしげに見つめて、その頭を椅子に乗せてから立ち上がる。





「……す、少し、風にあたってくる」
「…………はい」
「ぐすっ、いっ、……いってらっしゃいです」

 妹尾の震える涙声にチクチクと罪悪感を覚えつつ、哀れな、売られていく子牛を見る様な睦月の目に、ぐっ、と息がつまる。
 まさか、モモが見えている訳はないだろう、と必死に自分に言い聞かせ、モモに手を引かれるまま、ぎくしゃくと歩いていく。

 部屋を出る瞬間。

「……ご武運を」

 と小さく掛けられた睦月の声に、ぴくりと反応しながら、観念した。
「……そうだな、頑張ろう」と、更に小さく呟きながらも、モモの軽く俯かれて、拗ねた様な怒った様な後頭部を見つめながら、「これから大変だな……」と、溜息を飲み込んで、覚悟を決めた。

 どうしてこんな事態になったのか、よりは、どうやってこのお姫様の機嫌を治すか。
それを考える方が、私にとってとても有意義で、そして大切な事だった。

 まあ、とりあえずは。

 二度と、蒲原に膝枕をするのはやめよう。
 と誓う事から始めた。






「んー……」
「あっ、お、おはよう智美ちゃん」

 いつもとちょっと違う。
ふわふわした感触に、「おや~……?」と首を曲げて見上げると、佳織だった。
 佳織越しに見える、見知った天井に、ここはどうやら部室で、ああそうか居眠りしちゃったかぁ、後でユミちんがうるさいなぁ、なんてのんびりと考える。
目を擦って、どうやら佳織に膝枕をされているんだなと、いつも目を覚ましたらユミちんの顔がある位置に佳織の顔があるので、すぐに気づく。

「……ん? ワハハ、どうした佳織。顔が赤いぞぉ」
「そ、そんな事、ないよ?」

 寝惚けつつからかうと、相変わらず嘘が下手な佳織の反応は面白くて、もう一度笑って、軽く首を傾げる。

「んー? でも、どうして佳織が膝枕してるんだー? いつもならユミちんなのに」
「……っ、そ、それは、加治木先輩、急に席を外しちゃったから、その。それで」
「ふーん、そうなのか。ありがとな佳織。いやぁ、佳織の膝枕も気持ちいいな。今度からユミちんじゃなくて、佳織にして貰おうかな? ワハハ」
「えっ、あ、うん。……いい、よ?」

 髪の毛をもぞもぞといじられる感触に、また「ワハハ」と、佳織の口調が、少しだけ敬語を忘れてるなぁ、とか、昔みたいだと、懐かしいものを感じる。
それに、さっきから頭が気持ちいいから、もしかして佳織の奴、寝ている間中、ずっと撫でてくれたのかなぁとか、色々と起きたばかりなのに、また眠くなる要素が多くて。

「……んー、ユミちんは、まだ帰ってこないんだよな」
「た、多分。睦月さんがいうには、今日はもう帰ってこないんじゃないかって」
「そうかー。じゃあ、そうだろなぁ」

 私はぐぐっと、パイプ椅子の寝心地悪いベッドで伸びをして、でもそれに負けない気持ちよい枕を頬に、また瞳を瞑る。

「……じゃあ、私はまた寝る」
「え?」
「足が痺れたら、起こしてくれていいから」
「……ぁ」

 顔を佳織に見せない様に、佳織の白い足に押し付けて、「わわっ?!」ってもじもじする佳織に心の中で「ワハハ」と笑いながら、スゥっと佳織にばれないぐらい小さく佳織の匂いを肺に送る。
 送って、カァっ、と身体が熱くなる。


「……わ、わはは、いやぁ、参った」


 頭上で、「さ、智美ちゃん、恥かしいですから、あの、それは」とかあわあわ言う佳織の声を耳に、私はいやいやする子供みたいに太股に顔を押し付けたまま、カリッと軽く甘噛んだ。
 「うひゃん?!」って可愛い声を出す佳織に、ますます、私は顔を上げられなくなり、「……わっはっは」と力なく笑う。

 流石に、顔が真っ赤で見せられない。とか、佳織に言える訳ないって……っ!


 ちょっとした、幼馴染のお姉さん的な、小さな意地だった。
 こうなったら私は、この顔の熱が冷めるまで、さっきよりも熱を持ち始めた佳織の太股から、頭を上げられそうに無かった。

「……」

 チラッ、と横目に、先程から無言で牌譜を見る睦月を見ると、睦月はあえて私らに背中を向けて、軽く、溜息交じりに、首を振っていた。


 うん。ごめんね?




 おわり



 以上です。

 むっきーは、モモは見えていなくても、ゆみの挙動でバレバレという事で。

 かじゅとワハハは、きっととても仲良しだと、そんな希望を持って書きました。

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最終更新:2009年08月03日 19:30