423 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/31(金) 23:19:20 ID:B0yfzwOI

 三度目のss投下。

 無いなら自給自足しようと、蒲原×妹尾っぽいものを。

 でもかじゅモモも素敵です。


 ワハハ、て笑って私の手をぐんぐん引いて歩いていく、一つ年上の幼馴染。

 小さい頃の彼女は、本当に無茶ばかりして、いつも擦り傷だらけで、私はそんな彼女が心配で、放って置けなくて、一緒に遊んで欲しくて、いつも一生懸命になって追いかけていた。

『ま、待ってよ智美ちゃぁん』
『ワハハッ、早く来いよー、佳織ー』

 運動神経のまったく無い、鈍臭い私には、彼女の当時の野生のおサルさん顔負けの動きに、尊敬するやら呆れるやらで、もう必死になってその背中を追いかけていた。

『ワハハ』

 そして、もう走れなくて、追いかけられないよぉって、泣きそうになると、まるでそのタイミングが分かっているみたいに、彼女はクルッて振り返って、いつものワハハって顔で「しょうがないなー」って戻ってきてくれる。

『……ぁ』

 それが、その笑顔が、当時の私には何より安心できて、置いていかれなかったって、泣きたいぐらい安心した。

『ワハハ、もう限界か? 佳織は本当にカメさんだなぁ』
『……っ、ち、違うよ。智美ちゃんがおサルさんなんだよ』

 引き返して来てくれる彼女に、ちょっとだけ泣きながら安堵しつつも、唇を尖らして反論するのは忘れない。
 智美ちゃんはそんな私に笑って「私は人間だぞー?」って手を差し出す。

『ほら、手を握ってやるから、もう遅れちゃ駄目だぞ? ワハハ』
『う、うん……!』

 差し出すと、すぐにぎゅって握られる手。
 その手は暖かくて、少し汗ばんで泥と擦り傷で汚れた、智美ちゃんの手だった。

『じゃあ行くぞー?』
『う、うん!』

 この暖かな手。

 私は、ただこの手に握っていて欲しくて、いつもいつもがむしゃらに、必死になって彼女の背中を追いかけていたのだと、今なら分かる。

『香織は本当にしょうがないなー』

 って、力強くぐんぐん私を引っ張っていく彼女が、とても好きで。
 どんなに先に行っても、私が転んだらすぐに戻ってきてくれる、優しい智美ちゃんが大好きで。
 ワハハって胸を張って笑う姿が、とても気持ち良さそうで、見ているだけで嬉しくさせてくれるから。
 
 そんな、大好きな智美ちゃんが困ったり辛かったりしたら、私でよければいつでも助けてあげたい、助けるんだ! って、心の底から思っていたのだ。ずっと。






「―――そんな感じで、私は智美ちゃんにお願いされると、昔から弱いんですよ」

 モニターに映る、試合中の智美ちゃんを見つめながら、私は入れたての紅茶の入ったカップを加治木先輩に渡して、智美ちゃんがいない間に、という訳でもないけど、昔の話を少しだけ披露していた。

 話している内に、ついつい智美ちゃんが格好良かった所とか、優しかった所を熱を込めて語ってしまい、気がついたら、うっかりとそんな、少し恥ずかしい事まで話してしまっていた。
 我に返ると「あわわっ……」って焦って、おずおずと皆の様子を見ると、加治木先輩は「成程、蒲原は昔から変わっていないんだな……」なんて涼しげに笑っているし、睦月さんは興味深げに聞いてくれている。桃子さんは、笑う加治木先輩を見て、同じく微笑んでいた。
 何だか、良い人たちだなぁって、まだ短い付き合いの中でも、そう思った。

「……成程な。蒲原が、『佳織なら絶対に入ってくれるから安心していいよ!』などと、大口を叩いていた理由が良く分かった」
「あ、あはは……。私ってば、智美ちゃんのお願いとか、断ったためしがなくて……」
「ああ、その様子だと、そうだろうな」
「……ぁう」

 もしかして、押しに弱いって呆れられただろうか、と心配になったけど、加治木先輩の笑顔は優しくて、何だかホッとしてしまった。

「蒲原は、あそこの清澄の中堅が言っていたように、頭が弱い」
「はうっ?!」
「……だが、決して馬鹿ではない」

 静かに紅茶を飲みながら、加治木先輩はフッ、と智美ちゃんとは全然違う、静かな笑みを口元に浮かべる。

「……だからこそ、私は蒲原の下についているんだ。蒲原以外、鶴賀の麻雀部の部長はいない」
「っ」

 びっくりした。
 あの加治木先輩が、智美ちゃんの事をそんな風に言ってくれると思っていなかったから、本当に驚いた。

「あの人は、いつもワハハって笑うだけじゃないですからね」
「そうだな」
「……な、何だか、先輩ってば部長を凄く信用しているんですね」

 すうっと、不意に隣に気配を感じてビクッとしたら、桃子さんで、どうやら私と同じ疑問を抱いているようだった。
 加治木先輩は、「うん?」と桃子さんに小さく笑いかけて、残りの紅茶をゆっくりと味わって飲み干した。

「当然だな。長い付き合いだし、何より」
「何より?」
「蒲原を褒めるのは、私と、そして妹尾ぐらいしかいないだろうからな」

 あいつがいない内に、褒めさせて貰うよ、と。
 加治木先輩はモニターの、苦戦中の智美ちゃんを信頼の眼差しで見つめたまま、そう楽しげな声で言うのだ。

 ……む、むむ?


 た、確かに、智美ちゃんはあの性格上、あんまり褒められるものがない気もするけど、で、でも、加治木先輩も智美ちゃんを褒める方なんですか?
 そんなに、二人の仲って良かったんだって、ちょっと、ほんのちょっとだけ、もやっとしたものが胸を過ぎってしまう。

「……むむむ」
「あ」

 隣を見ると、モニターをちょっと優しい顔で見つめる加治木先輩に、複雑そうな表情を送る桃子さん。……な、何だか、凄く分かり合えるみたいな、不思議なシンパシーを感じました。

「……せ、先輩は、私のっすよ」

 小さな声。
 う、うん。凄く分かる。

「……さ、智美ちゃんだって、私の、智美ちゃんです」

 だから、私も小声で、ぼそぼそと呟いた。
 そしたら、ハッとした顔をしてこっちを見る桃子さんに、聞かれちゃった?! って、慌てて赤い顔を誤魔化して、加治木先輩に御代わりの紅茶を注ごうとする。
 や、やだなぁ、私ってば何を言ってるんだか……!


「……蒲原は幸せ者だな」
「――っ?!」

 ビクッ、て加治木先輩を見ると、加治木先輩はやっぱりモニターを見たまま、だけど口元がとても優しくて、この人、こういう顔するんだって驚いたり、聞かれちゃったのかって焦ったり、呼吸が苦しくなる。

「あ、あ、ああ、あの。わ、私は、あの」
「大丈夫だ。分かっている」
「う、うぅ?」

 何が分かっているのかいないのか、分からなくて焦ると、桃子さんが何だかホッとした顔をしてたり、睦月さんが、どうしてかあさっての方向を遠い目で見つめて静かに佇んでいたり、訳が分からなかった。

「蒲原も、やるなぁ、本当に」
「ええ、そうっすね♪」
「……ああ、彼女は普通の人だと思っていたのだが。こうなると、私が最後の砦になるのか」
「あ、あの? ええぅ? あうあうあうあう?!」

 結局、訳が分からないけど、何だかこの変な空気は、智美ちゃんの試合が終わって、智美ちゃんが帰ってくるまで続いたのだ。




「……はぁ、ごめん。ユミちん」
「気にするな。蒲原はよくやった。モモ」
「はいっす!」
「行って来い」
「はい! 頑張るっすよ!」

 見つめ合い始めた二人を横目に、私はおずおずと智美ちゃんに近づく。

「お、お疲れ様」
「うん。ありがとう佳織。でも、あの結果じゃあ格好もつけられないや」
「―――そ、そんな事無いです! 智美ちゃんは格好良かった!」
「へ?」

 ぱちくり、と、智美ちゃんの目が丸くなって、私も何を叫んでるんだって赤くなって、あわあわと、智美ちゃんに心を込めて入れた紅茶をえいって差し出す。

「……まあ、ありがとな佳織」
「は、はい」
「うん。うまい! ワハハ、元気でた。よーし、あの清澄の奴、今度打つ時は負けないぞー」

 そう。
 それでこそ、智美ちゃんだ。
 智美ちゃんの笑顔に、私の方こそ元気を貰いながら、私は顔が赤くなっていないかな? なんて、変な心配をしていた。



 それから、桃子さんの試合中に、加治木先輩と桃子さんの話を聞いて、何だか、その、どうしてか智美ちゃんの事を凄く意識してしまって、おかしいなぁって、私は何度ももじもじしながら首を傾げることになるのだった。




 おわり


 以上です。

 蒲原←妹尾って感じで。

 あと、むっきーはこんな百合な仲間たちを見て、変に「……うむ」と達観しているイメージ。

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最終更新:2009年08月03日 19:09