357 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/30(木) 00:09:45 ID:XJ0IjfeZ
 
 二度目まして。

>>338のともきーに触発されて、改めて純×ともきーを書いてしまいました。
 このカップルはもっと増えてもいいなと思います。

 それと、前回sage忘れ失礼しました。


 後、五分もしない内に透華の試合が始まる。
 そんな中、龍門渕の控え室で、オレと智紀は二人きりで、向かい合って座っていた。
 国広くんも透華も、どうせ暫く帰ってこないだろうし、歩もそんな二人を見守っているだろう。つまり、ここに来てようやく。オレは智紀と二人きりになれた。

「なぁ、智紀」
「……」

 キーボードを動かす手を止めず、くっ、と唇を小さく噛む姿に、どうやら、オレが次に言う台詞を予想しているらしい。その小さな仕草に、頬を掻いて、一瞬せき止められた言葉を、外に放つ。

「……鶴賀の素人に負けた事。気にしてるだろ?」

 ぴくり、と智紀の肩が揺れる。
 そう。智紀は、ビギナーズラックだろうが何だろうと、半荘二回だけとか、そういうのも全部含めて、結果三位で終わってしまった現状を憂いて、悔しがっている。
 いつもなら、すぐにでも切り替えて、相手のデータをかき集め、二度目はないとばかりに真剣に情報収集に努めるのに、今日はそれがない。……つまり。

「もしかして、透華に使えない子。とか言われて、ショック受けた?」
「……っ」

 きゅぅ、と唇が引き結ばれて、柳眉が下がる。
 普段無表情だから、その小さな動きが智紀の心情を簡単に見透かさせて、オレはガリガリと頭をかく。
 あーもう。面倒臭ぇなぁ。

「あーのーなー。透華が本気じゃない事ぐらい、分かるだろうが?」
「……」

 こくん、と頷くが、その顔は暗いまま。眼鏡の奥の瞳が、そっと閉じられ、その端に小さな涙を浮かべている。

「……ぐっ」

 声が出ない。
 オレらしくないと分かっているが、カチ、カチ、と。キーを叩く音が弱々しい、雨の日に捨てられてびしょ濡れの子犬みたいなこいつに、どう声をかけるべきなのか、思いつかなかったのだ。
 こいつにとっては、透華は飼い主みたいなもので、その飼い主に叱られた普段叱られ慣れない優秀な犬としては、やはりショックの桁が違うのだろう。

「……」

 オレとしても、無表情にしょんぼりしている智紀の頭上辺りに、真っ白な犬耳と、腰には尻尾の幻覚が見えたりして、ああ、こりゃ重症だわとペチリと額を叩く。

「智紀」
「……?」
「まあ……、次に頑張れ」


 誘惑に負けて、くしゃりと、智紀の頭に手を置く。サラサラとした指通りの良い髪質と、智紀の丸い瞳に、本っ当にオレらしくねぇと、自嘲する。

「……」
「ん?」

 暫く、智紀の髪をすくったり撫でたりしていると、智紀が何か言いたげに、唇をむずがらせたかと思うと、カタカタとキーボードを叩き、さっと、オレにノートパソコンの画面を見せる。

「?」

 覗きこむと、スッ、と智紀は離れて、頭に乗せていた手も一緒に離れてしまう。少々惜しいな、と思いながらも、画面の文字を追う。


『ありがとう』

「…………」

 たった五文字。
 あれだ。それぐらい口で言えよ。とか、どういたしまして。とか、色々と言葉があるのに、全部すっぽ抜けた。

 おいおい、それは反則じゃないか?
 
「…………あー」

 顔半分を手の平でおさえて、微妙に赤くなった顔を隠す。
 やばい。何かキた。

 たったの五文字。でも、それすら言えなかった、無口というより口下手なこいつの、精一杯の『ありがとう』
 しっかりと、伝わった。そしてだからこそ。

 『キュン』としちまったじゃねぇか……!


「智紀」
「……!」

 低く呼ぶオレの声に、驚く智紀の頬を撫でて、そのまま顎先を掴む。眼鏡が邪魔だと、空いた手でそっと奪い、レンズ越しでない智紀の瞳と見つめあう。

「……ぁ」

 瞳が、揺れる。頬が、上気する。
 表情は大して変わらないのに、たったそれだけの動きで、ここまで変わるものなのかと、智紀の『そそる』表情に心を奪われて、オレは、蜜に吸い寄せられる虫みたいに、本能のままに、顔を寄せる。




「じ、じゅん?」
「――黙ってろ」

 拒まれたら、お前の身の方が危ないんだぜ?
 牙を剥く狼に歯向かったら、より残酷に、より悲惨な目にあうんだ。―――だから。


「……ん、んん」


 智紀の、乱れた呼吸と、戸惑い疑問が混じったみたいな、漏れた声を耳に、オレはゆっくりと、智紀の唇を、食べるみたいに貪った。

 途中、オレの服を震えながら握る白い指先を、そっと包み込むと、まるで、オレの方がじわりと、内側から喰われているみたいな、悪くない感触がした。








「ただいまぁ」
「おう、お帰り国広くん」
「……お帰りなさい」

 透華と別れ、一歩控え室に入ったボクは、おや? とそこで何やら違和感を覚えて、足を止めて考える。

「あれ? ともきー何か顔が赤くない?」
「……! ……き、気のせい」
「あと、純さ、何でそんな壁際にいるわけ?」
「それは、ほら、ちょっとした気分転換だ」

 それは。例えるなら、一歩前進した恋人同士が、我に返った途端相手の顔が見られなくなってしまい、もじもじしている図。みたいな?

「……い、いやいや。まさか、ねぇ?」

 だって、純だし。ともきーだし。二人のそういう姿って想像できないし、うん。
 それに、今は大事な試合中だし。いくら何でも、ねぇ?

 ボクは、こほんと、これ以上の詮索をやめて、透華の応援をするために席へと座る。
 そして、やっと壁際から移動してきた純は、わざとらしく咳払いなんてして、「ん、んん」と、チラチラとともきーを見て、その視線をしっかり感じているだろうともきーは、カチッ、カ、カチッ、と指先をぎくしゃくと乱して俯きながら、顔を更に赤くするのだった。

「…………」

 大丈夫。ボクは空気が読める子。

 ボクは何も気づかなかった振りをして、モニターに映る透華を応援すべく、場の空気を徹底的に無視するのだった。

 そして、二人の空気が完全に元に戻る、(純がガツガツと食欲を取り戻し、ともきーの無表情が完璧になる)まで、ボクは無意識の惚気を感じているみたいで、とても嫌な感じだった。
 



 おわり


 
 以上です。
 純×ともきー普及の為、これからも不意にこのカップルを投下していきたいです。

 あと、マイナーだろうけど、蒲原×妹尾とかも増えていいと思う。

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最終更新:2009年08月03日 19:02