22 :透一ともきー部屋:2009/07/24(金) 15:01:12 ID:Bw7NA00n
 透一ともきー部屋


 四校合同合宿、初日の夜。ここは透華、はじめ、智紀の部屋。
 一日の予定を終え、三人は床に入ろうとしていた。
 透華は部屋に入っても立ったまま、敷いてある布団をしげしげと眺める。
「畳に布団で寝るなんていつ以来かしら」
「屋敷じゃベッドだからね。浴衣だってそうでしょ」
 同じ屋敷に住むはじめが答えた。透華は今度は自分の浴衣をしげしげと見る。
「どうにもダサく感じません?」
「そうかなぁ。よく似合ってると思うけど」
「ほんとに?」
「うん、十分魅力的だと思うよ」
「は、はじめも似合ってますわよ」
「浴衣、お揃いだね」
 早くも見つめ合い、二人の世界に突入する透華とはじめ。
 智紀は「私もお揃いです」とつぶやきながら、二人の会話をノートパソコンに逐一打ち込んでいた。
 透華はキーを叩く音で第三者を思い出し、つんと視線をそらす。
「そ、それにしても、はじめ。衣は大丈夫かしら」
「じつはボクもそれが心配なんだ」
「ハギヨシに付いててもらいましょうか」
「女子ばっかだからやめといたほうが……」
「――お呼びでしょうか」
 音もなく透華の前に忽然と現れたのは、執事のハギヨシだった。服装はしっかりスーツを着込んでいた。真面目な男だ。
 執事の登場に慣れているはじめでも、この登場には驚いて呆れた。
「萩原さん、ここ女子の部屋なんだけど……」
「はい、存じておりますよ。透華お嬢様がお呼びになれば、どこであろうと参ります」
 もう何も言えないはじめと違い、透華は満足げだった。
「流石ですわ。ハギヨシ、その気持ちを忘れないように」
「ありがとうございます」

 律儀に頭を下げるハギヨシ。
 はじめは龍門渕には常識が通用しないことを再認識させられ、ただ見てるしかない。
 しかし、見てるだけではいられなくなった。
「それでは衣のことですけど――」
「――わああっ、待った! 透華ストップ! それはまずいって」
「何がですの?」
「衣がいるのは女部屋で、萩原さんは男で……」
「ハギヨシにそんな心配は無用ですわよ」
「萩原さんが信頼できるのはボクも知ってるけど、そーゆー問題じゃなくて」
 必死に訴えるはじめに、透華は少し考えた。
「……しかたありませんわ。ハギヨシ、今日は下がりなさい」
「はい。ではお嬢様、おやすみなさいませ」
 ハギヨシは音もなく消えるように部屋を去った。
 どっと疲れが出たはじめは、布団にくてんと倒れこんだ。
「ボクはもー寝るよ」
「そうですわね。私もそろそろ。智紀、消灯しますわよ」
「わかりました。……夜はこれから」
「何か言いました?」
「いいえ、お気になさらず。私、少し出てきます。先に寝ててください」
 智紀はおもむろに旅行カバンを開け、ビデオカメラを取り出した。
 透華は不思議に思い尋ねる。
「こんな時間からカメラを持って?」
「今夜はいい夜景が撮れそうなので。いろいろと」
「そう。先ほど、きれいな星空が見えましたわ。海辺で波の音を聞きながら見るのもいいかも」
「そこはベストスポットです。いろいろと」
「あまり遅くならないように」
「善処します」
 智紀は予備のバッテリーを確認して、そそくさと部屋を出た。

 智紀の夜はこれからだ!
 沢村先生の次回作にご期待ください。


 未完
 智紀が出て行ったのを見て、はじめは布団から顔を上げた。
「透華、もう寝るの?」
「はじめも寝るのでしょう?」
「いや、透華が起きていたいなら、ボクは別に」
「でしたら、私達も少し外に出ましょうか。星がきれいですわよ」
「いいね」
 眠気はどこへやら。はじめは目を輝かせて透華と一緒に部屋を出た。

 砂浜を歩く透華は、足下に気を取られて星を見るどころではなかった。
「はじめ、暗くて足下がおぼつきませんわ」
「じゃあ、手つなごうよ」
 星の明かりに浮かぶはじめの影が手を出した。
 透華はゆっくりと手を差し出す。
 指と指が触れ、透華は少し驚いて手を止めた。
 そして、はじめは逃げないように手をしっかり握った。
 透華は一瞬で顔が熱くなるのを感じた。はじめの力強い手が、透華の心の扉をこじ開ける。
 その後、透華は急に無口になった。はじめを意識している自分に戸惑った。
 しばらくの間、二人は苦しくて楽しい無言の散歩を続けた。
 そして、二人が手をつないで歩く姿を、智紀のカメラが追っていた。


 終

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最終更新:2009年08月03日 18:09