和泉式部(歌)

  •   花のいとおもしろきを見て
 あぢきなく 春は命の惜しきかな 花ぞこの世のほだしなりける


  • はかなしとまさしく見つる夢の世を おどろかで寝る我は人かは


  •   人に、「世のはかなき事を」などいひて
 いかにせんいかにかすべき世の中を 背けば悲し住めば住みうし


  •    恋

 つれづれと空ぞ見らるる思ふ人 天降り来ん物ならなくに

 黒髪の乱れも知らずうち臥せば まづかきやりし人ぞ恋しき

 君恋ふる心はちぢにくだくれど ひとつも失せぬ物にぞありける


  •    男に忘られて侍りける頃、貴ぶねにまゐりて
    みたらし川に螢のとび侍りけるを見て詠める
 物思へば沢の螢も我身より あくがれ出づる玉かとぞみる
    御かへし
 奥山にたぎりて落つる滝つ瀬の 玉ちるばかり物な思ひそ
    此の歌はきぶねの明神の御返しなり。男の声にて和泉
    式部が耳に聞えけるとなむいひつたへたる。
                  (この部分は『後拾遺集』神祇の歌の部に収載)



最終更新:2010年11月24日 12:29