実際に自分でやってみたことのない者には、何事にせよ完全の域に達するまでにどれほどの苦労をなめなければならないか想像もできない。甘いけれども、甘ったるくはなく、強いけれども苦くはなく、香りが高いけれども不自然ではなく、こってりとしていてべたつかない一杯のチョコレートを供するには、どれほどの注意と技術と経験がいるか、見当もつかないのである。
ブリア・サヴァラン『美味礼讃』
もう五十年も前、ベレの尼僧院長ダレステル夫人はわたしに言った。「おいしいチョコレートが召しあがりたかったら、前の晩から陶製のコーヒー入れでお作らせになり、そのままそっとしておおきなさいまし。一晩の静止はそれを固まらせ、ねっとりとしたおいしいものにいたします。神様もこれくらいの凝り性はおしかりにはなりませんよ。第一、神様ご自身しっとりとした甘いおかたですものねえ」
ブリア・サヴァラン『美味礼讃』