ゲディ・リー


1953年、カナダ・オンタリオ州に生まれる。本名Gary Lee Weinrib。母親の凄まじいポーランド訛りによって「Gary」が「Geddy」に聞こえた事から、それをそのまま愛称・ステージネームとした。
本人は生粋のカナダ生まれカナダ育ちだが、両親はユダヤ系ポーランド移民で、ナチスの収容所を生き延びてカナダに渡ったという壮絶な経験を持つ。このあたりの体験談はニール・パートが「Red Sector A」の作詞をしたときのネタのひとつになった。(同曲はゲディの両親に捧げられた)

カナダの国民的3ピースバンド、ラッシュ(Rush)のベーシスト。カナダ勲章の受賞者。ボーカル、キーボードも兼任しそれぞれ評価も高いが、本人曰く「担当がどれかと言うなら間違いなくベース」「弾いていて一番楽しいのもベース」とのこと。

フィンガーピッキングによるテクニカルなフレーズを得意とする。ギターとベースのユニゾンによる「YYZ」のリフはあまりにも有名。
ラッシュは、ギターのアレックス・ライフソンがロック系パワーコードとクラシックギターのアルペジオ(1970年代)、ポリス風の空間系サウンド(80年代)、グランジ風のオープンコードとエレアコ(90年代以降)など、比較的和音を重視した奏法であるのに対して、ベースのゲディは常にウネウネと動きまくるメロディアスなラインを奏でる。ジョン・エントウィッスル直系の「リードベーシスト」と言えよう。(ゲディ本人も影響を認めている)

奏法

ゲディ本人による奏法解説。短時間だが1フィンガーピッキングをアップで確認できる。本人は自分の奏法のことを「フラメンコ・アプローチ」と呼んでいるようだ。ラスゲアード奏法のような指の使い方をするからだと思われる。

動画にあるように、弱音の時など基本的には人差し指による1フィンガーで、強く弾きたい時には中指〜小指も添えて勢いをつける(これがフラメンコ・アプローチ)。さらにより強く弾く時はスナップを効かせて手のひら全体でぶっ叩くこともある。この奏法を基本に、隙間をハンマリング&プリングやスライドで繋いでフレーズを構築していく。16ビートの楽曲やテンポの早い楽曲などでは、人差し指の腹と爪でオルタネイト・ピッキングを行ったりもする。チャック・レイニーでおなじみのやつですな。

もうひとつ、1フィンガーによる弱点を補うためのテクニックとして、レイキングを多用する。指で1弦を弾いたあと、指を戻さずにそのままの流れで2弦にヒットさせる。2弦→3弦、3弦→4弦でも同様。これにより1フィンガーの利点である音圧を維持したまま、ラッシュ独特のテクニカルなフレーズに対応することができる。滅多に2フィンガーは使わないのがゲディ流。

またダブルストップも多用する。有名な「YYZ」のラインのほか「Force Ten」「Turn the Page」などはイントロの重音が聞かせどころとなっている。ただしダブルストップにおいても2フィンガーは用いず、1フィンガー(+他の指)で弾く事が多い。

以上のようにゲディ・リーの奏法はかなり独特であり、ラッシュという3ピースバンドのプレーヤーとしていかに少ない人数で音圧と音数を稼ぐかという点での工夫が見られる。世の中に音圧のデカいベーシストや、テクニックのあるベーシストは数多いが、この両方を高い次元で兼ね備えている奏者は少ない。ゲディの影響を受けたベースプレーヤーは多いが、似たような音色を出してラッシュの楽曲を演奏するのはなかなか難しいのだ。

サウンド

ニューヨーク在住のベース講師Jarod Griecoによるゲディ・リーのサウンド解説。かなりゲディの音やスタイルに迫っており参考になる。プリアンプのセッティングも公開してくれているので、ゲディ厨のみんなはさっそく真似しよう。

要点は以下の6つ。
(1) ジャズベースを使うべし。ゲディがリッケンを使っていたのは初期だけだ
(2) シグネチャーモデルを買わなくても普通のジャズべで十分。メキシコ製よりも日本製が良い
(3) 新しい弦を使うべし。使い古しの弦ではゲディのようなブライトな音は出ない
(4) 手をフラメンコの要領で開閉し、人差し指の1フィンガーを中心にして弾くべし
(5) 速いフレーズが浮き立つよう、軽くディストーションをかけてトレブリーな音を心掛けよ
(6) 普段の演奏よりもだいぶ強くピッキングしたほうがいいぞ

楽器

◆Fender Precision Bass.
デビューアルバムで使用。

◆Rickenbacker 4001
みんな大好きリッケンバッカー。1970年代のメイン楽器で、ゲディといえばこの機種の印象が強いと思われる。
ジョン・エントウィッスル、クリス・スクワイア、クリフ・バートンなども愛用した、スーパーベーシスト御用達の1本。

◆Rickenbacker 4080/12
ベースとギターのダブルネック。1970年代のライブで「ザナドゥ」などセカンドギターのフレーズを弾く際に使用。
相当な重量があり、腰への負担が大きいため1980年代後半以降はほとんど使用されなくなった。
ちなみにギターのアレックスも、同曲ではギターと12弦ギターのダブルネックを使用。当時の映像は見物である。

◆Steinberger bass
1980年代前半のメイン楽器。当時のライブビデオなどでも、おなじみのヘッドレスのデザインを確認できる。

◆Wal bass
1980年代後半のメイン楽器。

◆Fender Jazz Bass
1990年代以降のメイン楽器。1998年以降はブラックカラーのシグネチャーモデルGeddy Lee Jazz Bassを使用。
Counterparts('93)制作にあたって、エンジニアのKevin Shirleyによる「FenderのベースとAmpegですべて昔と同じようにやる」というコンセプトがあり、それ以降使用している。(ちなみに、その後アンプの方はOrange製に変更されている)

ちなみに余りにも強烈なピッキングのため、楽器変更によるサウンドへの影響は少ないタイプ。スタインバーガー時代に多少線が細くなった程度である。楽器よりも奏者が重要である、というミュージシャン本来の姿を体現している。

備考
  • ラッシュのライブは基本的に歌ものなので、高度なベース演奏をこなしつつ歌も歌い続ける。
  • 若い頃はロバート・プラントを思わせる(というかプラント以上の)とんでもないハイトーンだった。
  • その声域でよく女性に間違えられた。風貌も相まって「魔女ボイス」という称号も。
  • 年齢とともに落ち着き、還暦を控えた現在では「普通のハイトーン」くらいに収まっている。
  • キーボードもガシガシ演奏する。「トム・ソーヤ」 においてPPG (Wave 2.3)を使用したのが有名。
  • 当然ながらキーボード演奏中はベースを弾けないので、(イングヴェイも大好きな)Taurus bass pedalなどのペダルシンセや、キーボードの左手でベースパートを代用。ギターのアレックスがペダルシンセを踏む場合もある。
  • Guitar Player magazineの「ベース殿堂」入り
  • 同誌では6回「Best Rock Bass」に選ばれている。
  • ギブソン社公式サイトで「Top 10 Metal and Hard Rock Bass Players(HR&HM界最高のベーシストTOP10)」の第1位に選出された。
  • また同サイトで「Top 10 Bass Players Who Handle Lead Vocals(リードボーカル兼任のベーシストTOP10)」にも選ばれる。
  • さらに同サイトで「Top 10 Greatest Rocking Bass Riffs(偉大なロックベースリフTOP10)」の第1位に「YYZ」が選ばれた。ここまで来るとギブソン社との癒着が心配になるが、ゲディは基本的にギブソンの楽器を使っていないためたぶん大丈夫。
  • ラッシュは2013年にロックの殿堂入りを果たした。
  • そのラッシュはAC/DCなどと並んで「来日しない大物バンド」として有名。

演奏実例

「YYZ」ー誰もが一度はコピーする代表曲。まさしくベースが主役のインスト。1988年。

「Leave That Thing Alone」ー90年代のラッシュを代表するインスト。このブリブリした音が2フィンガーだと出ないんですよ。2011年の演奏。

「Driven」ー1フィンガー、2フィンガー、サムピッキング、ダブルストップを織り交ぜたパワフルなソロ。

「Freewll」ーSnake&Arrowsツアーより。還暦を迎えてもまったく衰えぬ音圧とテクニック。

「Marathon」ー1988年。ベースが曲調をリードするラッシュらしい楽曲。これを歌いながら弾けたらノーベル賞。

「Animate」ー1994年。16ビートの演奏例で、指によるオルタネイトピッキングを確認できる。曲名は某アニメショップとはまったく関係ない。

「The Spirit of Radio」ー代表曲の2007年の演奏。一糸乱れぬアンサンブルとテクニックを見よ。

「Show Don't Tell」ーラッシュには珍しいPV。メロディアスなベースソロも必聴。


  • テスト -- 名無しさん (2013-07-26 08:22:11)
  • 2番目にコメントくれた方ごめんなさい。ちょうど編集中だったので消えてしまいました。 -- 記事作成者 (2013-07-26 22:53:01)
  • 更新乙! 個人的に世界で一番かっこいいベーシストです -- 名無しさん (2013-08-05 22:28:51)
  • YYZ初めて聴いた時は衝撃だったわ~ -- 名無しさん (2013-10-09 11:51:55)
  • ゲディの奏法はきちがいすぎる… -- 名無しさん (2013-10-14 23:20:44)
  • VIPでもあまり人気ないのね -- 名無しさん (2014-05-11 13:36:38)
  • VIPというより、日本での知名度自体が少ないからなあ、RUSHは -- 名無しさん (2014-05-12 16:39:58)
  • すげー独特な引き方するなと思ったらやっぱワンフィンガーなのか -- 名無しさん (2014-05-25 11:06:58)
  • 大抵はアルバムの売上を見て、採算の取れそうな国にツアーする。日本ではラッシュの高いギャラに見合うだけの売上がないんだろう。 -- 名無しさん (2014-11-27 22:40:10)
  • しばらく2フィンガーでコピーしてたが、やはり1フィンガーが音が似てくる。 -- おら (2017-08-22 12:15:29)
  • 1フィンガーだが、他の指も補助的に使うので、俺は「グーパー奏法」と呼んでいる -- まさる (2018-03-07 13:51:34)
  • 奏法解説、サウンド解説の動画を追加。演奏実例のリンク切れを整理して更新 -- 記事作成者 (2019-03-14 00:59:25)
  • ゲディ厨でマイアング厨だからあいだをとってツーフィンガーでいこうと思った -- 名無しさん (2019-03-14 23:13:44)
  • Marathonできたらノーベル賞に草 -- 名無し (2020-06-02 10:16:48)
  • 本人の功績と記事のアツさとコメ数が全く比例していないの世界一 -- 名無しさん (2021-03-12 18:33:08)
  • ここの記事が某所でパクられてて草 -- 記事作成者 (2022-02-05 11:26:04)
  • ニールパート死去で活動停止なのは残念。 -- 名無しさん (2022-11-23 19:45:16)
  • ゲディの奏法やフレーズは、ラッシュというバンドの音楽性に特化したものだから、ラッシュ以外では活かしにくいよなあ -- 記事作成者 (2023-10-28 15:20:42)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年10月28日 15:20
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。