【太陽がいっぱい過ぎ-夏のチュニジア】
第6話)レストランの出前コーヒー
《チュニジア旅行記|チュニス|カイルアン|トザール|タメルザ|スファックス|シディ=ブ=サイード》
トザールで2泊したのち、早朝の列車で、スファックスに向かう。朝6時半に出発するはずの特急は、7時半になっても現れない。
「こんなの問題じゃない。ここはチュニジアさ」と若者が話しかける。遅れると分かっていれば、宿の朝食(宿代に含まれていた)を抜いてパスした分だけ、悔しい!
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2時間遅れで出発した列車は、昼過ぎにスファックスに到着した。ここは地中海に面したチュニジア第2の街で、何より大きな魚市場があって、シーフードのパラダイスらしい。
宿に荷物を降ろすと、早速スファックスの街に繰り出した。ここも城壁に囲まれたっ旧市街とヨーロッパ風の新市街に街は二分されている。相変わらず今日も太陽はガンガン照っている。しかも海辺に近いせいか内陸部より湿気を感じ、汗ばむ。
ごちゃごちゃした旧市街に入っていくと、やたらと「ジャッキー・ション」「ジャッキー・ション」と声をかけられる。「ジャッキー・ション」とは「「ジャッキー・チェン」のフランス語読みだ。観光地としてはあまりメジャーでないこの街で、東洋人は奇異の目で見られてしまうのは仕方がないが、ちとイラついてしまうなぁ。
大きな魚市場にも行ってみたが、あいにく昼過ぎのため大半の取引は終わっていた。なんとなく気だるい気配があたりを支配していた。すると、
「おい、ジャッキー・ション。カラスミ買わないか?」と魚屋の親父が呼びかけた。
「カラスミ?」
「そうさカラスミさ」
なるほど市場にはたくさんボラが売られていた。だから、その卵のカラスミがあってもなんら不思議ではないのだが、こんな所まで日本の食の影響が届いているとは意外である。
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吹き出た汗と塩をシャワーで流して、夕方、シーフードが自慢と言われるレストランに行ってみた。何でもそこは「今日の魚」をウエイターがうやうやしく持ってきて客に見せ、好みの調理方で料理してくれるのだという。
あまりおハイソなお店だと気後れしてしまうのだが、店構えは多少カーストの低い僕でも受け入れてくれそうな雰囲気であった。シーズンオフのためか、広い店内にもかかわらず、客はそれほど多くない。オイラも今なら貴重なお客のはずだ、堂々と入ろう。
果たしてウエイターは「今日の魚です」とおいしそうな舌平目と鯛を持ってきて、「どうなさいますか?」と聞いてくる。おお、ここは上手そうな鯛でもグリエしてもらおうか、などどブルジョワな思想が浮かんだが、出てきた言葉は、
「コンビヤン?(これ幾ら)」
だったのが情けない。
今日の魚たちは30ディナール(3000円)近くした。チュニジアの金銭感覚に浸かってしまった僕は焦った。
「あのう、他のメニューも見せてください」
ウエイターは一瞬がっかりした顔を見せた。御免なさい、売上に貢献できないで。結局、割安のシーフード・トマトソース煮(これはこれで美味)を頼み、最後に〆のコーヒーを頼む。
「ムッシュー、コーヒーはありません」
え、コーヒーが無いってどういうことよ。「どうして」と僕が言い寄ると、ウエイターは「分かりました。お待ちを」と言って、店の外に出て行ってしまった。あれれれれ。
そして、しばらくすると、うやうやしくコーヒーを抱えて戻ってきた。
「コーヒーでございます。ムッシュー。」
僕はウエイターが出て行った先を目で追った。すると、そこには一軒のカフェが、、、
さてはこいつ、外のカフェで買ってきたコーヒーを出したな。
案の定、あとで明細を見てみると、コーヒー代は一般のカフェの2倍の金額になっていた。
スファックスの人は商売上手と言われている。たとえコーヒー一杯であっても、ビジネスチャンスとあらば、アウトソーシングしてでもモノにする。
僕はこのウエイターにスファックス人の商人魂を見たような気がした。
最終更新:2016年08月27日 10:05