【太陽がいっぱい過ぎ-夏のチュニジア】
第5話)ルアージュでタメルザへ

《チュニジア旅行記|チュニス|カイルアン|トザール|タメルザ|スファックス|シディ=ブ=サイード》

トザールには観光客向けの馬車がたくさんある。僕の泊まった宿はちょうどその馬車乗り場の向かいにあった。朝方、観光バスで欧米のツーリストが大挙してやってきた。シーズンオフとはいえ、それなりにツーリストはいるのだ。観光客の一群と馬車使いの親父との値段交渉があちこちで繰り広げられ、まとまると馬車は次々とナツメヤシの茂るオアシスの中に消えていった。

観光馬車
観光馬車

馬のいなくなった馬車乗り場には、あちこちに馬の”廃棄ガス”が放置されていた。環境に120%やさしい究極のエコカー・馬車であるが、その廃棄物は少々臭うのが厄介である。

さて、今日はトザールから山岳のタメルザ村へ行って見ることにする。ツアーではなく、ルアージュ(乗り合いタクシー)でだ。ルアージュ・ステーションは街の北外れにあった。

 「タメルザ行きはどこ?」
 「あそこだ。中に乗れ。」

指差した向うにクーラー無しのトヨタ・ワゴン車が、照りつける日差しのなかで、「ようこそ灼熱地獄へ!」とでも言っているかのように僕を迎えていた。

車の中には未だ誰も客がいない。他の乗客が来るまで、この停まった車の中でじっとしているのは耐え難い。見るとドライバーらしき人物はカフェの軒下でお茶している。僕もその日陰で待たせてもらうことにした。運ちゃんは僕に話しかける。

 「お前はジャポネか?」
 「ウィ、そうです。」

 「そうか、俺も行ってみたいな、ホンコンに。」

 あのう、、、ホンコンは日本じゃないんですけど。

もう幾人かの客が集まると、乗り合いタクシーは出発した。トザールの街を抜けると風景は茶褐色の不毛の大地を突き進む。この辺りは砂漠と言っても砂丘のような砂地ではなく、ゴツゴツした岩や石の大地だ。道の左には大きな塩の湖が現れる。窓から入る風で、走っている分にはそれほど暑さは感じないが、陽射しは強く乾燥している。

乾いた大地にところどころ見慣れぬ標識が現れる。何だ今の標識は!!

 「ドロマデルさ」と運ちゃん。
 「ドロマデル?」僕のボキャブラリーに無いフランス語だ。

あ、また来た。あ、このマークは

 「ラクダ!」

ラクダ注意の標識
ラクダ注意の標識
(走行中の車から写すのは難儀した)

どうやらこの辺りはラクダが出没するらしい。ラクダが描かれた”ラクダ注意”の標識であった。こんな所でラクダと衝突して故障でもしたら、僕ら人間は1時間とたたないうちに干物になってしまう。それほど空気は熱く乾燥しきっていた。


やがて道は急な坂道と急カーブの連なる山岳地帯に入っていった。山岳と言っても
青々とした植物などない、砂色の岩山の世界だ。しばらく進むとタメルザ村に着いた。

荒涼としたタメルザへの道
荒涼としたタメルザへの道

村唯一と思われるメインストリートに降りたのだが、2~3人の地元民がいなくなると、僕はポツンと取り残された。4DWツアーではポピュラーなタメルザ村であるが、この村だけを訪れる観光客はめったにいないようだ。数件あるレストランも今は眠ったようだ。

すると「La Grande Cascade →(大きい滝、こっち)」と、いかにも名所を指す看板が目に入った。どうやらこの村の観光の目玉のようである。僕は「→」の指す谷間の方へとトボトボ歩いていった。

照り付ける太陽に体の水分が失われる。僕は生ぬるいペットボトルの水を口に含み、貴重なその水を無くさないよう、飲み込まずに口の中に含んだまま歩いていった。

しばらくすると粗末な土産物屋が現れた。数少ない客を逃すまいと売り子が絡みつくが、無視して滝に向かう。

小さな崖を降りると、子供たちの歓声が聞こえた。「La Grande Cascade (大きい滝)」。それは高さ15mもしないしょぼい川の水が落ち込むだけのところであった。こんなものが「Grande(大きい)」と形容されるほど、この辺りで水は貴重なのだろうか。しかし、水の国ジャポン生まれの僕には何の感動も起きない。はるばる苦労してやって来たのに。。。

La Grande Cascade
La Grande Cascade (巨大な滝)?

昼食をとり、しばし長閑な山間の街を散策したのち、トザールに戻ろうと、村のメインストリートに出た。おや、トザール行きのルアージュはどこだろう?

 「あの車だ」

と地元の人は指差すが、他の乗客はおろか運転手すらいない。しばし車の前で人が来るのを待つが30分たっても、一時間たっても誰も来ない。山間の街は静けさだけに支配されていた。

ま、まずい。このままでは今日はもうトザールに戻れなくなってしまうかも知れない。ええいこうなったらヒッチハイクだ。

僕は数少ない通り過ぎる車を捕まえては「この車はトザールに行くか?」と尋ねるが、「ノン」だとか「●●行きだ」などと知らない地名を述べるばかり。このままここで野宿するわけにはいかない。僕は少し焦りだした。

人の気配のないタメルザ村
人の気配のないタメルザ村

すると、「トザールへはお前一人か?」と、ルアージュの運ちゃんが現れた。「一人なら10ディナールだ。」と、通常の3倍料金であるが致し方ない。僕はしぶしぶ了承した。

車は僕一人を乗せて村を出発する。だが、途中で一人、二人と人が乗り込んでくる。お、しめしめ、この調子なら、もしかしたらフツー料金で済むかもしれない。

夕方、乗り合いワゴン車はトザールに着いた。他の乗客は当たり前のように通常料金の3ディナールあまりを払って行く。よし、この流れに合わせて僕も3ディナール渡してばっくれようと思って小銭を探した。が、しかし、、、あいにく小銭がない。

仕方なく僕は10ディナール札を差し出し、「3ディナールだよね」と聞いてみた。

「ノン。10ディナールちょうどだ。」

無論おつりなど返って来なかった。タクシーに乗るときは小銭を十分用意しておく、これは物の値段があやふやな国の鉄則であるが、小銭が無ければは勝ち目は無い。

(続く)


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最終更新:2016年08月27日 09:59