【伊良部 島宿物語】
第1話)旅人が移住者になってしまう宿
《沖縄旅行記|伊良部島|下地島|GUEST HOUSE
nesou(びらふやー)》
「お客さん、ゲストハウスNに泊まってるのね」
宮古島から伊良部島へ渡る小さなバスに乗り込み、運転手に「終点の一つ手前で降ります」と告げたところ、たったそれだけで泊まる宿がわかってしまった。
大橋が開通し宮古島本島から車で移動できるようになった伊良部島ではあるが、まだまだ宿の数は限られているのだろう。
青く透き通った海の上を延々3.5km続く伊良部大橋
青く透き通った海の上を延々3.5km続く伊良部大橋を渡りきる。その先の交差点では、あの「宮古島まもる君」が我々のバスを出迎えてくれた。橋が開通して、彼の勤務地は隣島まで拡張してしまったようだ。ご苦労様です。
「この先にゲストハウスの表示があるからね」
バスを降りる際、運転手は丁寧に道順まで教えてくれた。ゴトゴトとキャスターを引きずって宿の前あたりに到着すると、大柄な男性が佇んでいた。バッグを引く音に気づいて出迎えてくれたオーナーであろう。わざわざ道の前にまで出て、迎えてくれるとはとは大したものだ。
「今日から2泊お世話になります」 と挨拶を入れると
「あ、僕も客なんですけど…」と目の前の男は意外な言葉を発した。その仕草や佇まいは宿の人そのもの。客が客を出迎えるというのがこの宿の流儀なのか。ともかく今日の宿タダモノではない。
「ここの約束事をご説明しますね。」
宿の中では正規のスタッフさんが出迎えてくれ、ゲストハウスのルールを説明してた。
「こちらのお茶やインスタントコーヒーは無料です。自由にお使いください。夕食と朝食は有料になります。レギュラーコーヒーや泡盛も有料なので、ご希望されるときはこちらの紙に記入してください。」と一枚の紙きれを渡された。
そこに食事や有料の飲料、レンタルした自転車やシュノーケリングセットなどのアイテムと日付を客自身が書き込み、ボードに貼っておき、チェックアウト時に精算するという仕組みになっていた。
追加コストは性善説に基づく自己申告制である。ズルをしようと思えばいくらでもできてしまうのだが、ここまでオープンだとそんな気が全く起きない。早速オイラも夕食を頼み、紙きれに記載した。
「夕食は日没後7時半に皆でここで食べますので集まってください。 すぐ近くに佐和田浜があるので 夕陽でも見てから戻ってくるとちょうどいいです」と勧められ、夕焼けを眺めてから宿にもどる。
食卓にはオーナー夫妻手作りの料理が並べられていた。宿周辺に食堂などないので、宿泊客全員で一斉にいただく。何か旅の宿というより合宿のような雰囲気だ。
「彼は漁師をしているSさんで、こちらは漁港食堂の店長をしているMさんです。」
食事の後、宴会の場と化した食堂には、いつしか宿泊客だけでなく近隣住民も集まっていた。
「二人ともこの宿の元客で、今は移住しています。 結構こういう人がいるんですよ。」
え、この宿に泊まるとやがて移住者になるのか?
満更それも悪くないかな。そう思わせる何かを備えた宿と島であった。
最終更新:2018年05月10日 23:16