【バルカン三国縦断記】
第9話)ドゥブロヴニク・カードを使い倒せ
《バルカン三国旅行記|セルビア|ボスニア・ヘルツェゴビナ|クロアチア|》
モスタルからのバスは、ドゥブロヴニク市街の西にある長距離バスターミナルに到着した。事前に旧市街の民宿を予約しておいたので、ターミナルから旧市街へ市バスで向かう。バス代は12クーナ(約190円)、日本とさして変わらず、安くはない。
旧市街入口の停留所に降り立つと、目の前の駐車場には観光バスがズラリと列をなしていた。そして次から次へとツーリストが湧き出てくる。ドイツやフランスといった西欧人ばかりでなく、韓国や中国など東アジアからの団体客も多い。ドゥブロヴニクはまさにザ・観光地 である。
そんな大人気の観光地だから物価も恐ろしく高い。ボスニアでは首都サラエヴォでも1泊1500円も出せば個室に泊まることができたが、ここクロアチアのドゥブロヴニクはドミトリーでも1泊約2500円もする。
まったくお金が次から次へと飛んでいく。
そんなドゥブロヴニクだが、旅行者にお得なカードを観光局が発行している。その名もストレートな「ドゥブロヴニク・カード」は、旧市街の城壁 をはじめ、いくつかの名所・博物館などの入場料がパッケージになった割引券である。1日券170クーナ(約2700円)と安くはないが、城壁の入場料だけでも120クーナ(約1900円)することを考えると、市内観光に1日費やすなら十分元は取れる。
旧市街の観光事務所でドゥブロヴニク・カードを購入し、説明書を読む。すると見たくはないフレーズが飛び込んできた。
ネットの事前予約で10%OFF!
なにぃ?ネット予約しておくと割引が効いたのか!! あらら、17クーナ(約270円)損した!!
さらにこのカード、30クーナ(約477円)相当の市バス1日乗り放題券がおまけで付いていた。旧市街から離れたホテルに泊まっていれば、この1日券は宿と市内を往復するの大変使い手がある。しかし僕は安宿とは言え旧市街に泊まっている。市バスを使うとしたらそのチャンスは長距離バスターミナルから旧市街までの移動だが、それは既にもう12クーナ(約190円)払って乗ってしまった。こんなことならバスターミナルの観光事務所でドゥブロヴニク・カードを買っておけば良かったのだが、もう後の祭りだ。ああ、12クーナ(約190円)損した!!
もう、知れば知るほどお得感より損した感を感じてしまう。
こうなったらこのカードの特典をとことん使い尽くしてやれ。僕はパンフレットに記載されているカード付帯の特典を血眼になって探し出してみた。
おっ、カード提示で食事代が10% OFF!!
発見したぞ、お得情報!! 協賛レストランで10%の割引サービスが受けられる。さらにその中の幾つかは17時から19時までの利用で20% OFFになるというから、これはもう利用するしかない。
「あー、そのカードでウチ20%引きですよ。どうぞどうぞ」
夕方の5時過ぎ、リストに載っていたシーフード・レストランの前で、わざとらしくドゥブロヴニク・カードのパンフレットを広げていると、ウエイトレスが声をかけてきた。話はちゃんと現場のウエイトレスまで通っているようだ。それでは気取ってスズキのムニエルなどオーダーしてみようじゃないか。安心しろ、20%オフなんだ。せっかくの高級食材、楽しんじゃえ!!
するとそこに、「あら美味しそうですね、ご一緒してよいですか」と僕に話しかける日本人が現れた。「どうぞ」と相席を薦めると、還暦を過ぎたその男性、経営していた会社をたたみ今は悠々自適の旅三昧の生活を送っているというから羨ましい。様々な事業を手がけていた男性は、今もネパールのとあるゲストハウスのスポンサーをしており、併設の日本食レストランはカトマンズでも評判なのだと自慢げに某口コミサイトの画面を見せてくれた。
あまりに面白い経験をされた方なので、ついつい時間を忘れ長々と話し込んでしまった。
「じゃ、またどこかでお会いしましょう。」
食事が終わり男性は席を立った。そして僕も会計を済ませ、レシートを受け取る。そして念のため数字を確かめる。あれれ、10%オフになっている。20%オフじゃなかったの? 僕はウエイトレスを呼び寄せた。
「すいませ~ん、20%オフになってません!!」
すると 「20%オフは19時までに食事を終えた場合です。もう19時はとっくに過ぎてますので、通常割引の10%オフです」との返事が返ってきた。
しまった、還暦男性と話し込み過ぎてすっかり時間がオーバーしてしまっていた。これでまたドゥブロヴニク・カードで10%損した気分だ。
お得なカードを購入したはずなのに、何故かお得感より、損した感の方が上回ってしまうのは何でやねん?
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最も物価の高い街を旅の最後に持ってきたのが悪かったのだろうか? こうして妙な損した感を持ってオイラのバルカン三国縦断の旅は終わってしまったのだった。
最終更新:2016年11月06日 08:37