【バルカン三国縦断記】
第6話)サラエヴォ事件
《バルカン三国旅行記|セルビア|ボスニア・ヘルツェゴビナ|クロアチア|》
サラエヴォで2泊した後、次なる目的地モスタルに向かう。朝9時発のバスに乗るためバスターミナル行きの路面電車を待つ。
ゴ、ゴ、ゴ、ゴー
体を揺すって市電が到着した。時刻は8時を少し回ったところ、9時発のバスには余裕で間に合う。
前方のドアから電車に乗り込み、運転手から切符を買った。電車賃は1.5マルカ(約¥93)。切符は磁気式になっており、どこか機械に差し込んで改札を通す仕組みのようだが、入口付近にそんなマシーンは見たらない。
ま、いいか。
ともかくお金を払ったのだから何の問題もあるわけがない。僕は、電車前方右手の席に座り、流れ行くサラエヴォの街並みを眺めていた。すると突然、
「ポリスだ、切符を見せろ」
と、いかつい男たちが僕の前に現れた。サラエヴォでは警察が無賃乗車の取締りを行ってるので注意しろ、とガイドブックが警告していたことを思いだした。やれやれ仕方がないな、ほらこれが切符だよ、ちゃんとお金は払ってるからね。500%の自信を持って僕は自分の切符を警官に見せた。すると
「ポリスだ、切符を見せろ」
と、いかつい男たちが僕の前に現れた。サラエヴォでは警察が無賃乗車の取締りを行ってるので注意しろ、とガイドブックが警告していたことを思いだした。やれやれ仕方がないな、ほらこれが切符だよ、ちゃんとお金は払ってるからね。500%の自信を持って僕は自分の切符を警官に見せた。すると
「電車から降りろ、罰金だ」
えっ、どういうこと!! ちゃんと切符は購入してるではないか!!
「だめだ、この切符は機械を通していないだろ」
機械を通していないと言ったって、ちゃんとお金は払ったではないか!!
「打刻がなければ、また使えるだろ。無賃乗車だ。」
打刻といったって、電車入口に打刻機なんてなかったぞ!!、と抗議をすると
「機械はそこにある。」
警官は三両編成の電車の真ん中あたりを指差した。そしたら、あらら、ある、確かにある。でもそんな中央に備え付けてあるなんて、聞いてません!!
しかし、有無を言わさず切符は没収され、電車から降ろされてしまった。
「罰金だ、26.5マルカ(約¥1634)払え」
26.5マルカ(約¥1634)だと、冗談じゃない。26.5マルカは今回のボスニア滞在中、最も単価の高い買い物だ。オイラが泊まった宿は1泊9.7ユーロ(約¥1,100)。物価の安いボスニアで26.5マルカがいかに高額かわかってもらえよう。
ともかく無賃乗車などしていないのだから、罰金を払う理由などどこにもない。しかし相手のポリス、実は英語がほとんどわからない。ここまでのヤツとのコミュニケーションはほぼボディランゲージに頼るところが大きい。全身全霊の気合を込めて「ふざけんじゃねえよ」オーラを発散させ抗議を続けたが、少しもらちが明かない。もういつまでもこのおっさんたちと係わっているわけにはいかない。
ふぁっK ゆ~!!
と汚い言葉を吐いてこの場を立ち去るふりをし、1つ先の市電の停留所に向かって歩き出した。
何本かの電車が通り過ぎる中、次の停留所にたどり着き、バスターミナル行きの電車に乗った。果たして9時発のバスに間に合うだろうかと気をもみながら、電車は次の停車場に止まる。
と、そこにまた見覚えある男たちが乗り込んで来た。
げ、さっきのポリスたち!!
僕が歩いて次の停留所に移動している間に何本かの電車が通り過ぎた。そのどれかにボリスたちが乗って僕を追い越し、その先の停留所で次なる獲物を捕らえるべくまた乗り込んできた。そしたら偶然、再会してしまったいう訳だ!!
ふふふ、でも残念だったね。ボスニア警察諸君。今度はちゃんと切符は打刻済だよ~ん。
あ、このやろう、と驚いた様子を見せた警察官たちだったが、刻印の入ったキップをこれ見よがしにチラつかせると、スゴスゴと電車を降りて行った。
思わぬハプニングでバスターミナルに着いたのは出発の10分前。何とかモスタル行きのバスに間に合った。結局、オイラのサラエヴォ事件の被害は、最初に没収された市電の切符1.5マルカ(約¥93)分だけで終結したのは不幸中の幸いであった。
さあ、気を取り直して、次の目的地モスタルに向け出発だ。
最終更新:2016年11月06日 08:32