【壱岐→対馬→釜山=島伝い国境越えの旅】
第4話)ノーナッツ、ノーリターン

《壱岐・対馬・釜山 旅行記|郷ノ浦|勝本|厳原|日田勝|影島・ヨンド》

対馬南部に位置する厳原(イヅハラ)で一泊したのち、いよいよ船で釜山に渡る。と言っても釜山行きの高速ジェット船は厳原からは出航しない。ここから80km程北にある日田勝港から出港する。

その厳原から日田勝までは路線バスが1日4本だけ通っているが、このバスが結構スゴイ。所要時間2時間半、料金が片道3350円もするのだ。路線バスとしてあり得ない距離と時間と値段だ。もっとも、まともに3350円を払う乗客は一人もいない。1日乗り放題券が1000円で売られているで、皆それを使っている。

壱岐・対馬・釜山 旅行記|路線バスとして日本一? 対馬のバス
路線バスとして日本一? 対馬のバス

生憎天気は小雨、バスは山がちな島の縦断道を北上していく。意外にもこのバス、結構多くの乗客が乗り込んでいた。小一時間程走ると、

 「まもなく営業所です。ここでトイレ休憩をいたします。」

とバスのアナウンス。途中でトイレ休憩のある路線バスなんて、日本広しと言えどここぐらいであろう。

そこから更にまた小一時間、バスは終点・日田勝に到着。しかし、港というかターミナルというか、船に乗る施設の気配が感じられない。どうしたものかと思っていると、

 「港はここから歩いて10分位だよ」

とバス会社の職員が教えてくれた。

10分位位だよと言われた道を10分歩いても港は遥か先だった。少なくとも15分は歩いて、ようやく国際航路のターミナルにたどり着いた。待合室には想像以上に多くの韓国人が帰国の船を待っていた。出国する日本人は僕を含めほんの数名だ。

壱岐・対馬・釜山 旅行記|日田勝港・国際ターミナル
日田勝港・国際ターミナル

乗船前に用をたし、プレハブ小屋のような出国ゲートを通って、釜山行きの高速船に乗り込んだ。

この高速船には客室乗務員が乗り込んでいた。なかなかの美人乗務員だ。さすが船とはいえ国際線、壱岐や対馬に向かう船とは違うね。

 ギュイーン

鋭い回転音を轟かせ、ジェット船は鄙びた日田勝の港を抜け出した。とそのとき、僕は妙な違和感を感じた。いや正確には違和感というよりも、ある種の存在感の欠如を感じたのである。そう、いつも腰のあたりにあるはずの、携帯電話の存在感。

 あっ!! しまった、日田勝港のトイレに置き忘れてきた。

しかし気づいた時はもう遅し。船はとっくに港を出てしまった。

この船がサービスで顧客にピーナッツでも配っていれば、韓国人の客室乗務員に「ナッツの配り方がなっとらん!」とリターンを命ずることもできたかも知れない。が、そもそもナッツのサービスなどこの船にはない。ノーナッツ、ノーリターンだ。

壱岐・対馬・釜山 旅行記|釜山行き高速船の船内
釜山行き高速船の船内

どうしたものかと思案にくれていると、例の美人乗務員が近づいてきた。そして自分の携帯を差し出し「話せ」と言っているようだ。

 「もしもし」

僕は差し出された電話に問いかける。何か相手も反応しているようだが、声が遠く聞こえない。そうこうするうち高速船は圏外に到達してしまった。

すると美人乗務員さんは「釜山についたらここに電話しろ」と日田勝港の事務所らしき番号のメモをくれた。

どうやら忘れ物を見つけた港の職員が船に連絡をくれたようだが真相はまだ分からない。

壱岐・対馬・釜山 旅行記|釜山港国際ターミナルに到着
釜山港国際ターミナルに到着

釜山港に着くと日田勝の港にすぐさま電話を入れた。有難いことに職員が僕の落とし物を見つけておいてくれていた。着払いで自宅に郵送してもらうよう依頼し、事なきをえる。

いや~、置き忘れたのが日本国内でホントに良かった。海外で紛失したらこうはいかない。

なんとも肝を冷やした日本出国であった。

(続く)


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最終更新:2016年08月24日 19:09