【国がまるごと博物館・キューバの旅】
第9話)マタンサスの葛藤

《キューバ旅行記|ハバナ|マタンサス|トリニダー|オルギン》

ハバナを後にし、バスでマタンサスという街に向かった。今回の旅では帰路もハバナ便が取れず、少し東にあるバラデロ発のフライトしか取れなかった。そのハバナとバラデロの間にマタンサスがあり、帰国前にちょっと立ち寄ってみようと言うわけだ。

キューバ旅行記|橋の街・マタンサス
橋の街・マタンサス

海沿いの街 マタンサスは、幾つもの古い橋で中心部と周囲が繋がれている。レトロな鉄橋が水辺に映え、思った以上に見栄えのよい街だ。

この街ではキューバ唯一の電車を見ることができる。革命前、アメリカのチョコレート会社ハーシーが、工場と港を結ぶため建設した鉄道が今も残り、そこを博物館クラスの古い電車が現役で走っているのだという。

宿に荷を下ろすと、その博物館電車とはどんなものかと、街外れにある駅に向かって、地図上で最短距離にある橋を渡ろうとした。すると、

  「うわ、この橋。タダの土管じゃないか。人が歩けんだろ!!」

地図にあったのは単なる水道橋であった。水道管の上に板が渡され、かろうじて人が通れるようしつらえてあったが、約10mに渡ってはその板も崩れ落ち、土管むき出しのままである。

キューバ旅行記|この橋、タダの土管じゃないか!!
この橋、タダの土管じゃないか!!

ここで二人の自分が自問自答しあう。

●こんな危険な橋、渡る必要ないではないか。

○何を言う。博物館電車は1日に3本しか走っていないのだぞ。あと10分で出発の12:09だ。周り道をしてたら間に合わない。

●お前は鉄道マニアでも何でもないだろ、電車ごときにリスク取ってどうする。

○いや、電車が問題ではないのだ。ワザワザ人の行かないこの街に来たのだから、この街ならではのものを見ておかないと自分の存在意義がなくなる、これはアイデンティティの問題なのだ。

などと勝手に一人問答を繰り返し、最後はどうにかなるさと、そろ~りと土管の上に足を踏み出す。でも「ああ、渡りきる自信がない! もしここで足を滑らし、河に落ちたらどうなる!!」と弱気な思いがよぎったその瞬間、ここマタンサスを本拠地としている野球チームの名前を思い出した。

  クロコダイルズ

え、ここワニがいるのか!!  いや、いてもおかしくないぞ。目と鼻の先にある合衆国のミシシッピー川にはワニがうじゃうじゃいるじゃないか。だったら、ここマタンサスにワニがいたっておかしくない。

  嫌だ、こんなところでワニに食われて死にたくない。

必死の思いが通じたのが、何とか危険な土管を渡りきり、対岸の駅にたどり着いた。すると居ました居ました。ボロボロのビンテージな電車が。

そしてすぐにギギギッーと軋むモーター音とともに、年代物の電車がプラットホームを離れたその瞬間、信じられない光景が目の前に飛び込んできた。

  「おおい、待ってくれ~」

キューバ旅行記|電車を停車させ、乗り込む男
電車を停車させ、乗り込む男

とでも言っていたのであろうか。背の高い男が駅に向かってやって来た。するとホームを離れかけた電車はユル~リと停車し、なんと男が乗り込むのを待つのだった。

鉄道なのに、まるで田舎のバスのようなこのマッタリ感は何だ! まっ、そんなユルッとした空気がこの国の魅力ではあるのだけどネ…

(続く)


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最終更新:2016年08月24日 07:56