【チップと値切りのエチオピア旅行】
第8話)天国へのガイド料
《エチオピア旅行記|アジスアベバ|バハルダール|タナ湖|ラリベラ》
地元で天国と呼ばれるアシュトン・マリアム修道院に向かって険しい山道を登っていく。暫くすると何やら歌うように呪文を唱えて下山する巡礼者の一団に出くわした。一団は全員が老婆だ。その足はほとんど骨と皮で、よくその足で登っていったものだと感心する。
かれらと声を交わした、勝手にガイドのチップ君が言う。
「あの人たちはここから離れた村からお参りに来ました。彼らの村には教会がないのです。3週間かけて歩いてここに来ました。」
さっ、3週間かけて歩いて来ただと! あの老婆たちが!! 信仰の力とは何たるパワーを潜めてるのだ。
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約二時間弱をかけ、やっとのことでアシュトン・マリアムにたどり着いた。修道院は急峻な崖の岩の内側を掘り抜いて建てられた小さなものだった。
「ここで修道士は寝泊りします。」
とチップ君は、崖に掘られた小さな洞穴を指差す。電気も水道もないこんな山奥の、日が暮れたら真っ暗となってしまう埃っぽい洞穴で、ただ神に祈るためだけに暮らしている人がいるなんて…
急峻な崖に建立されたアシュトン・マリアム修道院とそこからの絶景
しかし、高台に建立されたアシュトン・マリアム教会からの眺望はなんとも言えず素晴らしい。地元民が天国と呼ぶのも納得、はるばるここまで来た甲斐があったというものだ。
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浮世離れした深山の修道院を後にし、来た道を戻る。下りは下りで滑りやすく危険だ。足元に気を掛けながら、僕はもう一つのことも気にしなければならなかった。それはチップ君へのおチップを幾らにするかであった。
何度も言うゾ、チップ君。おいらは一度たりとも「ガイドをしてくれ」とは言ってないからな。勝手にキミがガイドしたんだからな。まっ、天国・アシュトン・マリアムへのガイド料を一銭も払わんぞ、と言うほどオイラは悪魔じゃないけれど…
こうした僕の心の葛藤を見透かすようにチップ君は身の上話を始めた。
「僕は学生だけど家は貧しい…、学費や下宿代が高くて大変だ…、etc」
むむむ 心理的に揺さぶりを掛けてきたな。ま、四時間近く付き合ってくれたのだから100ブル(約470円)というわけには行くまい。
すると麓から子供のガイドをつれて登る外国人観光客とすれ違った。
「彼は子供にガイド料300ブル(約1,410円)払っています」
と耳打ちするチップ君、ふふふ、キミの要求額は読めたぞ。
先を進むチップ君に気づかれないよう、僕はサイフに200ブル(約940円)だけ残し、残りは別のところにしまっておいた。
「さあ、麓に着きましたよ。」
「そうか、ありがとう。」
僕は彼の目の前でサイフから全財産(と見せかけた)の200ブル(約940円)を取り出し手渡した。
「えっ、これしかないの?」
と彼の目は訴えていたが、ここエチオピアで200ブル(約940円)はそれなりの金額であるはず。チップ君、次はいいカモが見つかるといいネ。
最終更新:2016年08月24日 10:05