【海鮮王国・済州を行く】
第6話)済州人の密やかな楽しみ
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海鮮王国・済州で刺身を食わずに帰る。それはカンボジアに行ってアンコールワットを見ずに去るがごとく愚かな行為だ。
とはいえ、丸ごと大魚を一匹さばいて供するのが済州式刺身となると、一人旅では食べきれない。なんとか打開策はないものか?
その答は、済州の伝統食にあった。
済州にはチャリ・ムルフェと呼ばれる郷土料理がある。ムルフェとは直訳すると水刺身、生魚を刻んだ薬味野菜とともにコチジャン味の冷汁でいただく料理だ。使う魚がハンチ(ヤリイカ)なら、ハンチ・ムルフェ、チャリ(スズメダイ)なら、チャリ・ムルフェとなる。これだって立派な刺身料理じゃないか。
そういえば、東門市場で魚屋のオバちゃんたちが「チャリ、チャリ」と言いながら、熱心に小さな魚のハラワタを取り除いている光景を思い出した。あの小魚なら2~3匹さばいてもらったって楽勝で完食できるゾ。
昼時、僕はムルフェの食べられる店を探してみた。旧済州の塔洞通りには観光客向けのレストランが幾つも立ち並んでいる。店の外の壁やガラス窓には大きな写真に韓/英/中/日の四ヶ国語で料理名が記載され分かりやすい。
しかし、高価なアワビ料理や豪勢な海鮮鍋をうたう店は幾らでも見つかるものの、チャリ・ムルフェらしき料理を掲げた店が見つからない。
一軒の店で試しにチャリ・ムルフェがあるか聞いてみたが「ウチにはないよ」とそっけない。
チャリ・ムルフェは済州の庶民食。わざわざ観光客に差し出す料理ではないか。ならば外国語表記のない、ローカル向けの食堂に行くしかない。
僕は漁港近くの通りにあるハングルだらけの店に入ってみた。するとカンは当たっていた。さあさあ、待望のチャリ・ムルフェ、いったいどんな料理なのだろう。
待つこと数分、大きな丼に、真っ赤な唐辛子汁たっぷりの一品がやってきた。その冷汁に浸かった具材を、ステンレスのスプーンで一口すくってみる。
むむむ、野菜のシャキシャキ感の中から、コリッとした白身魚の甘い歯ごたえ。それにエゴマの香りが加わり、しばらくして唐辛子の辛味が刺身の甘さを引き立てる。なんという美味!!
チャリ(スズメダイ)の刺身は骨ごとぶつ切りのまま入っている。小魚の骨なのでさして硬いものではなく、むしろそれが噛み応えにバリエーションを与え、食感がさらに楽しくなる。
ふと見渡すと周りは韓国人客だらけ、みな夢中でこのムルフェに舌鼓を打っていた。
本当に美味しいものは観光客に隠して、自分たちだけで楽しむんてズルいゾ、済州島人。だがその密やかな楽しみも今日までさ。オレ様がこうして暴いてやったからな、ウッシッシ。
最終更新:2016年08月26日 22:29