【世界経済を回せ!―復興祈念? 台湾の旅】
第6話)演歌の流れる博物館
||台湾|台北|蘇澳|平溪|十分|九份|の旅行記||
早朝、金瓜石・九份方面にローカルバスで向かう。平溪沿線が石炭で栄えた鉱山の街だったのに対し、金瓜石・九份は金山で繁栄したゴールドラッシュの街だ。
むろん今は廃鉱となってしまったが、昔の姿を留めたノスタルジックな街並みの風情が、映画のロケ地となったことも相まって、特に九份は週末となると身動きが取れなくなるほど人気の観光地と化している。
なので月曜日の今日訪れるよう予定を調整しておいた。取りあえずはバス終点の金瓜石に向かう。九十九折の山道を登り峠を下ると、そこはひっそりと佇む金瓜石。未だ朝9時ということもあり人影もまばらだ。
急峻な山肌に小さな家々がへばり付くように立ち並び、どこに行くにも急な階段を上り降りしなければならず、足の筋肉の乳酸が直ぐに欠乏してしまう。しかし、遥かに海が一望できその眺望は素晴らしい(はずなのだが、あいにく今日は曇りで霞んでいる…泣)。
ここの金山博物館では、本物の金塊に触れると聞き楽しみにしていたのだが、何と第1月曜すなわち今日は休館日だった。
つくづく「金」とは縁のないオイラの人生だぁ(泣)。
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折り返しのバスで九份に向かう。5分も乗れば九份で最もにぎやかな路地の入り口に着く。週末の混雑を避けたつもりであったが、それでもここにはウジャウジャと観光客で溢れかえっていた。
趣いっぱい、観光客もいっぱいの九份
路地のなかを分け入って進むが、なかなか前に進めない。それでも風情のある特産品の店やら趣いっぱいの茶楼やらを眺めながらの散策は楽しく、これなら多くの観光客をひきつけるのも無理はない。
惜しむらくは折からの曇天が濃霧に変わりあたり一面真っ白になってしまい、九份自慢の眺望が全く望めないことだ。
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その代わりと言ってはなんだが、奇妙なものを発見した。人通りの少ない街外れの崖下から日本の演歌が聞こえてきた。何だろうと近づいてみると薄汚い3階建ての建物が霧の中に霞んで見えた。壁には「九份金礦博物館」と書いてある。演歌はここのスピーカーから流れていたのだが、その入り口の面構えはまるで観光客を拒むかのようにぶっきらぼうだ。
中に入ると、館長のオヤジに200元(約600円)を取られた。館内の展示は雑然としていて暗い。すると館長が電気のスイッチを押した。どうやら僕が本日一番目の客のようである。
「コレ、ムシメガネ、キン、ミエル」
館長は恐ろしく怪しい日本語で「虫メガネで石を拡大してみろ、金が見えるだろ」と説明を加えるが、この程度の展示に200元はちと勿体ない。
上の階に登ると砂金を精製する器具が転がっていた。ぼんやりそれを眺めていたら、館長が跡を追ってきて、スピーカーから流れる演歌のボリュームを下げ、
「コレ、サキン、トル」
とまた解りきった説明を加える。やれやれと思った次の瞬間、館長はいきなり展示品のすりこぎ棒を手に鉢の中の鉱石を砕き、次に足挽きの臼でそれをさらに細かくすり潰す様を実演する。
げげ、なんと館長自らのライブパフォーマンスである。
更にすり潰した砂金交じりの砂を、今度は木の戸井に水と共に流し、左右に揺する。
「キン、オモイ、アツマル」
金と砂の比重の違いを利用し、泥の中からわずかな砂金が浮かびあがってくる様はとても興味深く、またなんと気の遠くなる作業であることよ! と驚愕する。
こんな実演展示があるなら200元はちっとも高くない。
「オチャ、ノムカ」
一通りの演技を終え、僕にお茶を薦めた館長は再び演歌のボリュームを上げた。
きっとこの館長、昔は本物のの鉱夫だったのであろう。一仕事を終えた館長の顔はとても幸福そうであった。
最終更新:2016年08月27日 00:56