【ガイドブックに載ってない島の旅・アソ―レス諸島】
第5話)“秘策”は通用せず!

《ポルトガル|アソ―レス諸島|ファイアル島|サォンミゲル島|テルセイラ島》

サォンミゲル島ポンタデルガーダはそこそこ大きな街で、ポルトガル本土の地方の街に似て、石畳の広場を中心に古い造りの家が立ち並ぶ。

サォンミゲル島の首都・ポンタデルガーダ
サォンミゲル島の首都・ポンタデルガーダ

この街から25kmほど西、カルデラ火山の火口湖のほとりにセッテ=シダーデスという神秘的な村があるという。「セッテ=シダーデス」とは「7つの街」という意味で、その昔火山の爆発で7つの村が埋まってしまったことからそう名づけられたそうだ。村に行くバスは1日2本しかないことを観光案内所で仕入れてきた。

翌朝8時のバスで僕はその村へ向かった。帰りのバスは夕方までないので帰りはどうするか?まあいいい、心配いらない。こういうこともあろうかと思い“秘策”は練ってある。ふふふ

バスは海沿いの道を右に左に曲がりながら進んで行く。車窓の右には荒々しい海岸線、左には長閑な牧草地帯。時折乳牛の群れが道に溢れ、バスや車の行く手をさえぎる。アソ―レスにはアソ―レス流の交通渋滞が存在する。

やがて、ヴァールゼアと言う村を右折して、バスは火山地帯の険しい峠の坂道を駆け上って行く。セッテ=シダーデスまではあと5kmほどだ。標高が上がるに連れ次第に霧が濃くなって行く。やがてバスの行く手は真っ白い霧に包まれ、ついに10m先は何も見えないくらいの濃霧に包まれてしまった。神秘の村へ行くのにふさわしい自然の心憎い演出である。

程なくバスは峠を越え、火口の下へと下りて行く。標高が下がるに連れ次第に霧は晴れ、やがて眼下に湖が見えてきた。セッテ=シダーデス村だ。

セッテ=シダーデス村-サォンミゲル島
セッテ=シダーデス村

外輪山に囲まれたこの村は、浮世離れしたおとぎの世界だ。僕はバスを降りて村を散策する。訪れる観光客は僕を含めて僅か4~5人。天気はちょっと霧雨だけど気になるほどではない。高原の冷たい風の音と乳牛の鳴き声がする以外行き交う人も少なく、村は眠ったように静かだ。あまりに静かすぎて「静寂」の音が聞こえてきそうである。僕はゆったりとした時の流れをしばし堪能した。

セッテ=シダーデス村-サォンミゲル島
神秘的な村
セッテ=シダーデス村-サォンミゲル島

やがて霧雨は小雨に変わってきた。そろそろここを離れるとしよう。ポンタデルガーダに戻るバスは夕方5時。今は昼どきだ。さすがに5時間もバスを待つ気はない。そこでいよいよ“秘策”の出番である。

僕はリュックから太いマジックインキを取り出した。そして紙に大きく「Ponta Delegada」と書く。そう、ヒッチハイク大作戦である。この方法の有効性は以前ポルトガル本土の田舎を旅したときに実証済みだ。人のいいポルトガル人は哀れなヒッチハイカーを放っておけない性分なのだ。ただ前回は細いボールペンしかなく、ドライバーに行き先が分かりやすいように、紙に大きくレタリングして塗りつぶすのに偉く苦労した。その反省から、その後旅に出るときは太いマジックが必需品となっているのだ。

さあ、できた。さっそくヒッチ開始だ。早く車よ来い、来い。 来て~。

  ん ?

  おかしい?

  く、車が、車が来ない。!!

まさか車が全然来ないとは思わなかった。これではヒッチどころではない。僕は焦った。なにせこの村、メインストリートに車が全然通らない。

すると、ゴトゴトゴトとエンジン音が聞こえた。やった。僕は音のする方向を振り返った。だが期待はすぐ裏切られた。音の出所は農家のトラクターだ。これでは街まで出られない。

結局1時間かかって、通りかかった車と言えば、牛乳運搬の馬車!だけである。

セッテ=シダーデス村-サォンミゲル島
通りかかった車、、、

こうなったら、セッテ=シダーデス村への分岐点だったヴァールゼア村まで歩くしかない。それには5~6kmほど、あの霧で前がほとんど見えない峠道を超えなければならない。なんだか急に心細くなってきたなぁぁぁ。

半ば観念しかけたとき、湖畔に停まっていた自家用車に乗りこむ夫婦を見つけた。これを逃したら次はいつになるか判らない。僕は車に向かって走っていった。

 「乗せてくださ~い!(必死)」

夫婦連れは、レンタカーで島を回っているフランス人観光客だった。

 フランス人:「ポンタデルガーダには行かないよ」
 僕    :「え、ではヴァールゼア村まで行ってください。そこからならバスがあるから」

フランス人は露骨に嫌な顔をした。でもここで引き下がるわけにはいかない。僕は必死にお願いの言葉を捜した。が、出てくる言葉は「えきっぷ・ふらんせ る・ぷるみえ~(サッカーフランス代表ナンバーワン)」とか分けの判らないことばかり。学生時代にフランス語の授業をサボりまくってたツケが、こんなところに出てしまうとは、、、

しかし哀れな東洋人に同情したのか、何とかヴァールゼア村まで乗せてもらうことができた。

結局、せっかく用意した“秘策”のマジックインキだったが、ここでは何の役にもたたなかった。

(続く)


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最終更新:2016年08月27日 16:35