【イラン、ここは本当に悪の枢軸国?】
第2話)考えを改めろ、Aメリカ!

《イラン旅行記|ゴム|マライヤ|エスファハーン|テヘラン》

ローカルバスを乗り間違えて見知らぬマライアなる街に向かってしまった僕。車掌にも他の乗客にも英語は通じない。いったい今夜はどうしよう。焦りがつのる。するとそのとき、一人の中年親父が僕の元にやってきた。

 「心配するな。ミスター」

恐ろしく聞き取りにくい英語だがなんとか意図は伝わる。もうこの人にすがるしかない。

 「マライヤにホテルはあるか?」
 「いや、ない。」

 「いやーそれは困った。どうしたらいいのだ。」
 「ミスター、心配するな。大丈夫だ。」

「心配するな。大丈夫だ。」と言われてもホテルもないこの街でいったいどうしろと言うのだ?いや、そもそもこの中年親父を信用してはたして大丈夫なのだろうか? でも僕にはもはや彼のいうことを聞く以外に選択肢はない。すると親父は言った。

 「トゥデイ。ユー アー マイゲスト。」

 え? ユー アー マイゲスト、ということは、、、

 「お宅に泊めてもらえるのですか?」
 「イエース。ウエルカム、マイホーム」

おお、何という幸運。今夜の宿が確保できた。この親父さん、名前はアリさん。高校教師のアシスタントをしているという。それで多少の英語が話せるのだという。アッラーの神に感謝である。

バスを降りるとアリさんは乗り合いタクシーを捕まえ自宅へ向かった。彼は当然のように僕の分のタクシー代もサッサと払ってしまった。本当のことを言うと、この時点で僕はまだ一抹の不安を抱いていた。この人を本当に信用していいのだろうか?もしかして誘拐されて身代金を日本政府に要求され、親族一同が日本中から自己責任パッシングされちゃうようなことにはならないだろうな!

15分ほどで乗り合いタクシーは街の中心から離れた3階建ての、失礼ながらやや殺風景な集合住宅の前で泊まった。 「ディス イズ マイハウス。」と得意気なアリさん。一階の小さな扉から階段を昇って3階のアリさん宅の玄関を開ける。イランの一般人家庭ってどうなっているのだろう?

中に入って驚いた。外見の殺風景さとは裏腹に、広々としたリビングにはペルシャ絨毯が3枚も敷き詰められ大変居心地がいい。TV・洗濯機・冷蔵庫はもちろんDVDプレーヤーだって揃っている(僕は持っていないゾ!)。さすがにパソコンは無かったが、ことインテリアに関しては日本の僕の部屋の十倍はすばらしい!

 「おなかは減っていないか?」とアリさん。朝からほとんど食べてなかった僕は思わず 「アイ アム ハングリー。」と反射的に答えていた。するとイスラムのスカーフで顔を隠した奥さんが出てきて、早速フルーツやらイラン風のサンドイッチやらのご馳走を山盛り出してくれる。いやー恐縮っす。

やがて、アリさんはあちこちに電話をかけ始めた。すると一人二人とアリさん宅に訪問客が次々とやってくる。「彼はいとこで、彼はその親戚」と紹介してくれるが、もう誰が誰だかわからんぞ。いつしか10人近い客が集まって宴会状態に。どうやら僕という珍客を紹介したくて電話しまくったようだ、アリさんは。

それでも、ここはイスラムの国。ゲストと食事を共にするのは男性だけだ。奥さんと一人娘のファイサルちゃんをはじめ、親戚の女性陣も食事の世話はしてくれるが、決して同じ部屋で食事をともにすることはない。女性は女性で別の部屋で食事をする。

おいしい食事をいただくと今度はティータイム。小さなグラスに紅茶と茶菓子で長々と楽しむのがこちらの流儀だ。こんなに親切にしてもらっていいのだろうか?せめてものお返しにと僕はみんなの写真を取ってあげた。さすがにイランでデジカメはまだ珍しいのか、撮った画像をその場で再生してあげると、そりゃもうみんな大騒ぎ。アリさん自慢の一人娘ファイサルちゃんはお気に入りの服に着替えて「もう一枚撮って」ときた。

急な外国人の来客にもかかわらず、アリさん宅では大歓迎を受けてしまった。本当に楽しい一晩だった。

イラン人ってすごく親切じゃないか。そんな人たちの住む国を「悪の枢軸国」などと言うやつはどこのどいつだ!考えを改めろよ、Aメリカ!

(続く)


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最終更新:2016年08月27日 10:18