【黒いフランスの旅:グアドゥループ/マルチニック島】
第9話)スーパースターと遭遇か?(2)
《フランス領カリブ旅行記|グアドゥループ島|マルチニック島》
山道でレゲエ髪オヤジに街まで車で送ってもらうことになった。オヤジの顔にはなんとなく見覚えがあるのだが気のせいだろうか、、、
オヤジは助手席に座り、美人のお姉さんが車を運転した。僕は後部座席に座った。そして車内を見渡し、大いに動揺した。足元に転がるCDケースの山を見て。。。
そこには僕の大好きな島のミュージシャンの一人、『カリ』さんのCDが幾つも置いてあった。
おやっ
もっ、もしかしてこのレゲエ髪!
そんでもって、この見覚えのある顔つきは!
まっ、まさか。
本物の『カリ』さん!!
いや、待て。単なるそっくりさんということもあるゾ。有名人に成りすました詐欺師という可能性だって排除しきれない。冷静になれ。
助手席からレゲエ髪オヤジが振り返って僕に話しかける。
「彼女はエヴァ。シンガーだよ。俺はカリっていうんだ。ミュージシャンさ。」
WOW!ホンモノだぁ!
「東京のBUNKAMURAでコンサートをしたんだ。知ってるかい?」
「知ってるよ。だって僕もそこにいたもん!!」
知ってるも知らないも、僕は彼の来日初コンサートに足を運んでいたのだ。知らないわけがない。そう伝えるとカリさんもエヴァちゃんもびっくりしていた。
それにしてもなんという幸運だ。この島に僕を誘ったもの。それは「カリ」さんたち島のミュージシャンの音楽だ。そしてその張本人が今目の前にいて、しかも車で送迎してくれているのだ。
もう僕は興奮状態だった。ありったけのとぼしいフランス語の知識を総動員して、今自分はどんなに幸せかを、もう文章にならない言葉であれやこれやとわめきたてていた。もはや自分でも何を言ってるのかわからなくなってきたが、まあよい、熱意だけは伝わってるに違いない。
そんな一人トランス状態のなか、ちょっとした下心も芽生えていた。後部座席に積んである最新CDアルバム、これだけ熱意を示したら『じゃ。あげるよ』と言ってくれるんじゃないかと、、、
「ああ、これ最新作だよ。スペインでのライブアルバムさ」
… おお、キターッ!いい感じである。
「ぜひ欲しいなあ。幾らなのぅ?」
… 一応値段を聞いてみる。もちろん期待してるのは気前のいい一言だ。さあ来い!
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「ああ。15ユーロでいいよ。」
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世の中そんなに甘くはなかった。
しかし、気さくなスーパースターは別れ際に快く記念の2ショット写真に応じてくれた。これだけしてもらったら言うことはない。世の中なにが起こるか本当に分からない。夢のような偶然、それは時に実現するのだった。
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とはいえ、なぜカリさんは自宅から若手女性歌手のエヴァちゃんと一緒に出てきたのだろう? 島の芸能レポーターに垂れ込んだら泣いて喜びそうなネタだが、これだけ良くしてくれたカリさんのためにも、このことはだけは絶対公表しないでおいてあげよう。
最終更新:2016年08月27日 17:14