【黒いフランスの旅:グアドゥループ/マルチニック島】
第3話)宿のオヤジの仕事とは?
《フランス領カリブ旅行記|グアドゥループ島|マルチニック島》
マイアミからプエルトリコで乗継ぎ、フランスの海外県・グアドゥループ島を目指す。首都ポワンタ・ピートルの空港に着くと、とりあえず今日の宿を確保すべく観光案内所に立ち寄った。
「街にホテルは一軒しかありませんよ。」
「えっ、一軒しかないの? で幾ら?」
「1泊85ユーロです。」
はっ、85ユーロ! それって日本円にすると x165 として、約1万4千円じゃないか!!
「観光客の皆さんはビーチのリゾートホテルに泊まります。ビーチには Gite(=家族経営の民間宿泊所) もありますよ。ここなどどうです」
と紹介されたのは、ポワンタ・ピートルの街にほど近いゴジールの街にある Gite であった。そこなら1泊30ユーロなのだが、それでも5千円近いのは痛い。しかし、どーもこのくらいがこの島の最低価格帯らしいのでそこに泊まることにした。
加えて、グアドゥループ島にしろマルチニック島にしろ、タクシー組合の圧力で空港からの公共交通機関が存在しない。なのでゴジールまで35ユーロ(約6千円)もタクシー代がかかってしまった。徹底的に観光客から搾り取ろうというのがここらの基本政策のようだ。
タクシーの車窓からはココヤシの茂る南国の景色が流れていった。なるほどここは黒いフランスだ。見かける人々は褐色の肌のアフリカ系ばかり。
目指す Gite は、街からやや離れた丘の上にあった。ドアを叩くと上半身裸の白人オヤジが出てきた。「よく来たな。ゆっくりしていけ。今部屋を準備するからな」と娘と奥さんに部屋の準備を命じた。
「いいかお前。夜は外を出歩くなよ。グアドゥループ島にはジャンキーがうろうろしているからな」
とオヤジは腕に注射をするふりして僕に警告した。こんなトロピカルムード満点の美しい島なのに夜は結構ヤバかったりするようだ。
「まあコーヒーでもどうだ」と2階のテラスでお茶をする。テラスには大きな鳥小屋がいくつもあり、オオムやらカナリヤやら、夥しい数のカラフルな南国の鳥たちが飼われていた。オヤジは鳥オタクであった。
「あの鳥はオーストラリア、こっちはニューカレドニア、おお!これは日本のウグイスだ」と自慢げにコレクションを紹介する。「グアドゥループの鳥はいないのですか?」とたずねると、「それは自然の中にいるから飼う必要ないだろう」ともっともな答えが返ってきた。
「じゃ、俺は仕事に戻るからな」
とオヤジはお茶を切り上げた。"仕事"というからにはオヤジもなにか宿の整備でも始めるのだろうと思った。するとオヤジは、鳥かごから巨大なオウムを自分の腕に乗せ、あやし始めた。
オヤジの仕事。それは鳥と遊ぶことだった。
最終更新:2016年08月27日 17:12