【奥林匹克・足球観戦記@人民国】
第4話)治安部隊
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天津に比べ、瀋陽は北にある分いくらかは涼しかった。この街も人口740万人を要する大都市であるが、天津に比べると田舎くさい感じは否めない。目抜き通りも一歩路地裏に入ると人民たちの寄り合い住宅がひしめき、泊まったホテルの裏手は朝になると市がたつ。今朝だって、その喧騒で目を覚ましたくらいだ。
さて、ここ瀋陽でもスタジアムまでどうやって行ったらいいのか皆目見当がつかない。中国には観光客向けのツーリストインフォメーションがない。泊まったホテルの従業員の英語力はないに等しいので、彼らに聞くのも相当あやしい。
幸いなことに瀋陽には日系エアラインの支店があった。そこで本当は必要のないリコンファームをするふりをして情報収集しに行ってみた。
支店を訪れる客は珍しいのか、地元新聞の切り抜きをコピーして、「試合の日は、川向こうのスタジアムまで専用シャトルバスが走ると書いてあります。お泊まりのホテルからはこのバスに乗るといいですよ。」と親切に説明してくれた。
「私たちも皆、明日の試合に行くんです!」と声を弾ませる支店の皆さん。今回のオリンピックで地方共催都市で行われる競技は限られている。それゆえ、たとえ消化試合であっても、街始まって以来の大行事と化している。
某航空会社支店を後にし、瀋陽の駅前通りをふらふらした。すると、大通りにそってポツリポツリと座り込んでいる奇妙な人たちを見つけた。ほぼ100mに一人ずつといった間隔で規則正しく座っている謎の軍団。多くはオバちゃんだが、プー太郎風の兄ちゃんや、よぼよぼの爺さんも多い。よく見るのと彼らは皆、腕に赤い腕章をつけ、これまた赤い日傘をさして、ぼんやり通りを眺めている。いったいこの怪しげな軍団は何者?
僕は赤い腕章団の一人に近づいてみた。すると、その腕章や日傘には、「治安」だの、「安全」だのといった文言が記されているのを発見した。
そうか!
このいかにも一般人たちこそがウワサのボランティア治安要員か!
今回のオリンピックではテロの危険性が叫ばれ、人民国当局は徹底的な対策に乗り出したと聞いていた。その切り札として打ち出したのが、得意の人海戦術を活用した、テロ対策おばさんたちである。彼女ら市民ボランティアは、炎天下のなか日傘の下に隠れて、不審者の一挙手一投足を見張っているのだ。
それにしても、その数といったら途方もない。マンパワーだけはいくらでもある中国ならではの芸当だ。
ともかく治安要員の数だけは申し分ない。しかし、そのクオリティはと言うと少々心もとない。所詮その辺の暇そーな一般ピープルの集まり。果たして本当にオバちゃんにテロリストが退治できるか、非常に疑わしい。でも、当局にとってそんなのどーでもいい事のようだ。人民の動因力を世界に見せつけられれば、それでだけで十分満足のように思えた。
最終更新:2016年08月27日 08:37