【奥林匹克・足球観戦記@人民国】
第3話)呉越同舟

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青年旅舎3日めの朝、第二試合でUSAと引き分けたオランダ人サポーターどもは陽気であった。次の日本戦に勝てば未だ望みがあるからだ。一方決勝トーナメント進出を立たれた僕ら日本人たちの気持ちは晴れない。

宿のロビーには夜行列車で天津に到着したドイツ人がいた。ドイツ女子サカーチームを応援に瀋陽から天津へ追っかけて来たのだという。僕はその逆で、今日瀋陽に向かう。 「オー、ジャパニーズはリッチだ。890元(約13,500円)もする飛行機で行くのか。オイラはプアなドイツ人だからな。瀋陽から電車で8時間かかったよ。」と驚いていた。

北京乗換えの電車なら200元(約3,000円)ぐらいで、天津から瀋陽に行けることは知っていたし、中国でその差額の約700元がどれほどの価値があるかもつかめていたころなので、高価な飛行機にしてしまったことが悔やまれる。

中国では未だに乗り継ぎの列車の切符を購入するのが難しい。オリンピックは開催できても鉄道の予約システムを整える国力はない。昨日行動をともにしたKさんは列車移動で一度北京に泊まってから瀋陽に来るという。僕もそうすればよかった。

「Airport!」

こう叫んでタクシーに乗った。だが人民国では、オリンピック開催都市のタクシー運転手ですら 「Airport」 というタクシー運転手の必須英単語が通じない!すかさず 「飛行場」 とメモ書きしても 「?」 のままだ。

やっとの思いでガイドブックの会話頁から「飛行場」の中国単語を探し出した。「机場」 の簡体文字を探し出して、やっと通じた。やれやれ。

天津=瀋陽間は一日一便だけ、四川航空とかいう聞いたことない会社の直行便がある。まあ選手は専用機で移動するのだろうけど、もしかしたらサッカー関係で多少顔の知れたマスコミ関係者でも乗っているかもしれない。飛行機にしたのはそんな淡い期待もあった。

搭乗口付近の待合室の一角にロープで仕切られたコーナーがあった。オリンピック関係のボランティア数人とジャージを来た大柄の一群がいる。ジャージーには 「NETHERLAND」 のネームが入っている。ありゃりゃ。あれは13日に対戦するオランダ代表のスタッフではないか!やつらはオイラと同じ便なんだ。

オランダ代表スタッフ?
オランダ代表スタッフ?

期待に反して顔の知れたプチ有名人は誰も居なかった。まあマスコミ関係者はすぐに北京に戻って他の競技の取材が待っているのだろう。13日まで瀋陽で遊んでる暇はあるまい。ああ、こんなことなら電車で行けばよかったなぁ、と悔やみつつ、搭乗が始まった。

片側3列席の機内中央の通路を奥に向かってまっすぐ進み始める。すると、前方に固まっているブレザー集団がいる。えっ!まさか!!

 「あわわ、日本代表だぁ!」

おお、森本(カターニャ・伊)だ! 李忠成(柏レイソル)だ! 異様に色黒い本田圭祐(VVVフェンロ・蘭)もいるぞ。うわー、みんな居るじゃん!

しかし、あわただしい搭乗時の機内で立ち止まることは許されない。そのままその場を通りすぎ奥に進む。すると、

 「げげげ、こっちはオランダ代表だぁ!」

先ほどの 「NETHERLAND」 のジャージー軍団はスタッフではなく、選手だった。まさしく呉越同舟。通常のビッグゲームではありえない状況がこの場で生まれているのである。

こんな貴重な瞬間をカメラに収めずにはいられようか。しかしツイていないことに、このフライトに限って僕の席は窓側。結局機内では誰だかわからない選手がトイレから出てくる瞬間しか撮れなかった。

瀋陽に到着すると僕はダッシュで出口を目指した。選手たちは専用レーンでさっさとバスに乗ってしまうのは分かりきっている。だったらそのバス目指して突進である。一般出口から50mほど離れた選手用出口を見つけた。もう日本代表はほとんどバスに乗り込んでいる。ああ行ってしまうのか。

数人の選手が遅れてゲートを出てきた。マスコミ関係者は皆北京にいるため、地元のテレビ局1社をのぞいて、ここでは出迎えのファンも、取材陣のごった返しもない。どうせ返事をしてくれないだろうけど、でも出てきた選手を見つけて思わず大声がでてしまった。

 「最後の一試合、絶対勝てよ、頑張れ!」

やはり無視されたかと思った瞬間、

 「ありがとうございますっ!」

さくっと頭を下げる選手がいた。長友佑都(FC東京)である。さすがは明治大学体育会出身、礼儀を心得ている。

予選突破のユメは絶たれた。でもスポーツ選手だったら最後の最後まで全力を見せて欲しい。オランダ野郎なんかに負けるんじゃないぞ! がんばれ日本サッカー! せめて意地の一勝を見せてくれ~。

日本代表のバス
日本代表のバス

そう願いを込めて、僕は去り行く代表のバスにたった一人で手を振った。回りの人民には「なんか気のふれた日本人がいるなぁ」としか見えなかったことだろう。

(続く)


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最終更新:2016年08月27日 08:41