『GAME MAGAZINE』インタビュー特集
http://www.m-2.jp/gamemagazine/reading/reading_interview/interview_004_01.htm
(観覧不可、Internet Archiveで観覧可能)

21世紀最大の問題作『セガガガ』(もう決定)!!
こんなモノ凄いゲームを作ったのは、いったい誰だ?!


誰も本気だって信じてくれないんです

 破天荒というか、妄想誇大というか、まさに狂気乱舞の『セガガガ』。何より驚きなのが、このソフトがきちんと企画会議を通り、予算をもらって作られていることだ。どう考えても、一筋縄では行かなかったのではないかと思われるが、ゾルゲ氏は、いったいどんな手段を使ったのだろうか。
「『セガガガ』は、今セガがこんな調子だからできたゲームでもあるんです。こういうときは企画の面白さで勝負するしかない。だから気が狂ったのかと思われるような企画を作ったんです。でも、スタッフの85%は本気だと信じてくれないんですよ。社内プレゼンテーションも2回もやったのに、社長は笑って聞いてはくれるけど、それで帰っちゃうんです。しょうがないので、3ヶ月間くらい時間を使ってお金をくださいという話をしたんです。低予算で、早くできるゲームですっていって。ところが、企画を立ち上げたのは、1999年の正月なのに、なかなか完成しなくて、全然できていないじゃないかって、怒られました」

3つの遊び方を盛り込んでみました

 制作に時間がかかったのは、いろいろな意味で調整が大変だったからだが、それはより面白いゲームを求めて、試行錯誤をした結果でもあったという。
「今回『セガガガ』には、3つの面白さを盛り込んでみようと思ったんです。
1.5分で解る面白さ
2.30分でぐっと来る面白さ
3.何回もやりたい面白さ
の3つですね。
はじめの、5分で解る面白さは、操作性のレスポンスや難易度です。長年、プレイヤーが慣れ親しんだインターフェイスを使うことを心がけました。Bボタンを押せばキャンセル、Aボタンを押せばウィンドウが開くという感じで。そうすれば、プレイヤーもゲームにスッと入っていけると考えたんです。戦闘については、開発の最終段階でプログラマーさんが随分頑張ってくれて、読み込み時間をほぼゼロにしてくれたんです。おかげでテンポのよい戦闘が可能になりました」

 『セガガガ』は、そのブッ飛んだ内容とは裏腹に、ゲームとしての基本は非常にしっかりとできている。さまざまな点でプレイヤーがストレスを感じないように、細部まできっちりと調整されているのである。ゾルゲ氏は「時間があったからいろいろやった。それが練り込んだように見えるのかもしれない」というが、無論、これは謙遜だろう。
「次の、30分でぐっと来る面白さは、全体的なテンポの問題ですね。3話進むのにそんなに時間がかからない。でも、しっかりと3話分のストーリーが展開し、ムービーが入る。シナリオも、最初はだいぶボリュームがあったんですが、絞って減らしてしまいました。主人公に、ヒロイン、それからサポート役に、悪役。それだけいればOKだと。キャラクターが多くて話がごちゃごちゃするより、少ないキャラクターで物語を理解しやすいように、シナリオライターさんにはいろいろご無理をお願いしました。でも、話が話だけに、キャラクターのリアリティには気を遣いました。オープニングで、主人公が凄い田舎に住んでいるというシーケンスをわざわざ加えたんですが、あぁいう部分がないと、プレイヤーがよりどころにするところがなくなると考えたんです」

 キャラクターを絞り込んだのは、予算の問題もあったからだとゾルゲ氏はいう。とくに、スケジュール上、ゲーム開発に先行して発注しなければならないアニメーションとの調整は大変だったとのことだ。
「アニメーションは、メインキャラクター中心で発注したんです。だから、後でシナリオをいじりすぎると、アニメーションに出てこないキャラクターが生まれてしまうわけです。これは絶対にまずいので、アニメーションに合うよう話を進めることにはこだわりました。まぁ、予算も潤沢にあったわけではなかったんで、発注したアニメーションも、極力必要なエピソードだけにしました。全体的に間も詰めていますから、アニメ会社の人からは、ここは後何秒かないとつらいですよ、なんてツッコミを入れられたりしましたね。でも、そのへんはみんなプロですから、完成したアニメーションはシャープでテンポの良いものになったと思います」

 ゾルゲ氏の話では、しきりとテンポという言葉が出てくる。実際、細部のストレスが少ない『セガガガ』は、じつに快適に物語が進行していく。クリアまでのトータル時間は約5~10時間(7時間くらいが平均)で、RPGとしては、非常にすっきりした作りになっているのだ。
「テンポのよさにこだわったのは、RPGにある100時間プレイに対する反論があったんです。今、ゲーム業界は、携帯ゲームやインターネットを含めて遊んでくれる人の時間を奪い合っている状況でしょう。そうじゃなくて、遊んでくれる人のライフサイクルに合わせて、ちょっと遊んでくれるものを提供していかないとダメだと考えたんですよ。プレイ時間が長いと、チェックが面倒だという理由も、あるんですがね」

 『ドラゴンクエスト』が日本におけるRPGにひとつのフォーマットを作って以来、業界は、「RPGは長く遊べないといけない」という呪縛に囚われてきたのかもしれない。RPGでありながら、サクサク遊べるという『セガガガ』のコンセプトは、ある意味、斬新で、挑戦的といえるかもしれない。
「ただ、あまりにテンポがよすぎると、早く終わりすぎてしまうので、最後に付け加えたのが、3番目の何回も遊びたくなる面白さです。ゲーム中に「資料室」というセクションがあるんですが、ここに行くと、これまでに見たムービーや開発したソフトのタイトル一覧を確認できるんです。開発可能ソフトは100本ほどあって、コンプリートするには1週間くらいはかかると思います」

 開発室で作られたソフトは、この作品のオリジナルもあるが、大半はこれまでセガが実際に発売してきたソフトになっている。昔懐かしいソフトもたくさんあって、そのパッケージを今見られるのは、往年のファンには堪らない魅力だ(→末尾にごく一部を紹介しているので、そちらも参照のこと)。
「途中の過程を上手くいった人ほど、よりよいエンディングを見られるようにしました。プロジェクトを成功させると、ちゃんとムービー付きのエンディングが見られて、そこまでは行けなかった場合は静止画一枚だけとか。こうした要素がないと、クリアすることが単なる作業になってしまいますから」

身内の話だからこそ、甘い話にはできなかった

 いろいろ驚かされる内容の多い『セガガガ』だが、中でも目立つのがRPGパートにおける「戦闘」時のやりとりだ。これは、正気を失っているスタッフを言葉で説得していくという形態を取っているのだが、そこで飛び交うセリフがもう……。プレイ時のお楽しみということで、あえて例の紹介は控えるが。ちょっとでも業界に足を突っ込んだ経験があると、実際ダメージを受けてしまうこと間違いなしである。
「説得の台詞は、開発中にどんどんと増えていったんですよ。私が説得画面のチェックにいくと、見たこともないような会話がいくつも入っている。でも、ここで止めたらきっと面白くなくなると思ったんで、そのままにしといたんです。そしたら、みんな調子に乗ってどんどん増やしていくんですね」

その過程をちょっとだけお伝えすると、次のような具合だったらしい。
「たとえば、私が『思いつきは企画といわない』という台詞をサンプルに入れておいたりすると、スタッフの方から『なにもしてないのにやった気になってますね』という台詞が出てくるんです」

 これがディレクターとスタッフの「会話」である。とってもフレンドリーで、楽しくなってくること請け合いではないか。未経験者のあなた、このセリフ・バトルに触れてみたいと思いませんか?
「ゲームソフトを開発するSLGパートでは、絵が見えないとイヤなんで、まずフォーマットとして7人のキャラクターがいて、それぞれ動くのが解るように作りました。リアルタイムで動くようにして、遊んでいる最中に手持ちぶさたにならないようにしたんです。はじめは、もっと複雑なシステムも考えていたんですが、このソフトを買ってくれた人は、複雑さを求めていないだろうと思って、簡潔でわかりやすいシステムに変えました」

 ゲーム内で、ソフト開発に携わるのは、主人公が戦闘で説得し、仲間にしたキャラクターたちだ。面白いのは、RPGパートとSLGパートで、キャラクターたちのパラメータが共有されていることである。
「現実の問題として、これは大変だったんですよ。そんなシステム、今まで見たことがなかったですから。でも、スタッフの努力で、RPGパートで捕まえたキャラクターを使って、そのままSLGパートの開発を行うことができたとき、ゲーム的な面白さは一気に上がったんです」

「戦闘→開発」という手順がゲーム進行の基本だが、ストーリー構成は章立てになっていて、ある程度物語の区切りがつくと、幕間劇が挿入される。ところが、これがまた凄い。お姉さんとモゲタンという名の怪獣が登場する人形劇なのだが、もうその内容が……。これについても、あえて伏せさせていただくので、是非プレイして、あの衝撃を味わっていただきたい。
「戦闘と開発の繰り返しだと、プレイヤーが飽きてしまうので、途中にムービーが必要だと思ったんです。でも、ただのムービーだとインパクトがないから、何かとてつもないものでなければといけない」

「とてつもないもの」というゾルゲ氏の目論見は100%達成されたといえるだろう。
「それで適当に人形をつくって、本社ビルの前にいってロケしたんです。撮影は、運動会で子供を撮るような市販のホームビデオで、スタッフにはビール飲ませてやるから、これ持ってろっていって。夏の暑い日でした。守衛さんには、何やってるんですかとか聞かれるし、バケツの水はかけられるし(当日、本社ビルの窓ガラス清掃が行われていた。劇中の映像に注意していると、清掃用のゴンドラが見える)……みんなどこか壊れていたんでしょうね」

 『セガガガ』は、相当なキワモノぶりを発揮しているソフトである。だが、それと同時に中身に目を向けると、ゲームとして、じつに丹念に作り込まれていることもが分かる。その底流にあるのも、単なるヤケではなく、業界やユーザーの嗜好の変化を意識した視点なのだ。ただ、他人事ながらちょっと心配なのは、いわば、自分を笑いのネタにする内容だけに、スタッフが怒ったり、やる気を失ったりしなかったのかということだが……。
「そのへんは、正直おっかなびっくりだったです(苦笑)。でも、『セガガガ』は、はっきりいってセガを笑ってもらうゲームですからね。身内のことを書くんですから、甘く書くことはできません。10人中8人は引いても構わないから、あれでは生ぬるいといわれることだけはないように心がけたんです。それだけじゃなくて、今回は、いろいろと難しい注文ばかり出したんですが、みんなそれにしっかり応えてくれました。なんか、私がこんなところで代表面してインタビューを受けてますが、『セガガガ』が完成したのは、スタッフのおかげです。あらためて感謝したいです。みんな、本当にありがとう」

『セガガガ』がゲームという分野のひとつの里程標になれば最高です

 じつに印象深い傑作(好みは分かれるだろうが、ゲームとしての完成度が高いことは間違いない)『セガガガ』。ところが、なんとゾルゲ氏はこれがコンシューマデビュー作だという。
「今までずっとアーケードの仕事ばかりしていたんですが、もし今後、コンシューマゲームを作るなら、そのときは、世界観のしっかりしたものを作りたいですね」

 ゾルゲ氏は「世界観というと、すぐビジュアルの話ばかりになってしまうが、本当はシナリオを始めとする創作全般の作業から、分けては考えられないもの」だという。これは小説や映画を考えれば、すぐにうなずけるところだろう。
「物語というものを、いかにして人が持っている思いを他人に伝えるかということを、真面目に押し出してみたいと思うんですよ。日本における商業主義的な創作というカテゴリーの中で考えると、まず小説、次に映画、マンガ、アニメ、そしてゲームが受け継いできたのは、何より物語性だと思うんです。それにゲームの特性であるインタラクティブ性を交えて、方向を模索していきたいですね」

 ゲームの持つ魅力を、ゾルゲ氏は今後どのように表現するのだろうか。だが、その前にはゲーム業界を巡る厳しい状況が横たわっている。最後に、その点に関するゾルゲ氏のコメントをご紹介して、このインタビューを終わらせていただこうと思う。
「正直、ゲームはもう終わったメディアなのかもしれませんね。アニメは30年くらい持ったけど、ゲームの寿命はせいぜい15年だった。だから、この先はどうなるのか分からないけれども、ものを作るという行為は、今後も誰かが綿々と続けていくと思います。過去において、どんなメディアにも、メディアそれ自体が自分自身について語っている作品が存在しますね。『セガガガ』は……まぁ、そこまで格好のいいものにはならないかもしれないけど、そういう意味合いも多少はあると思うんです。長い歴史が流れて、20世紀の最後に登場した「ゲーム」という娯楽がどんなものだったのかを語るときに、『セガガガ』が、そうした時代を物語るひとつの里程標として位置づけられていれば、これに勝る喜びはないですね。ちょっと誇大妄想気味かもしれませんが」

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最終更新:2009年10月25日 01:47
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