『サンダーフォースⅥ』ディレクター
株式会社セガ ゾルゲール哲 インタビュー


 発売直前となった『サンダーフォースⅥ』!
 今回はセガ社にてテストプレイをしながら、ディレクター
 のゾルゲール哲氏にお話を伺った。
                   Text=箭本進一

-お、メニュー画面の曲はおなじみの曲ですね。
あれ?最初から全機の装備とクローが揃ってるんですけど?

ゾ:今回は自機ごとに仕様が違うんですよ。
 これまでの『サンダーフォース』はミスした際に使っていた装備が消えたので、好きな装備を思う存分に使えないジレンマがあったんです。なので『Ⅵ』では最初から全部装備が揃っててミスしても装備を失わない自機からスタートします。
 一周クリアすると、ミスすると使っていた装備が消える従来の仕様の自機を使えます。親切版と正統版を選べるんです。そういう隠し機体が存在して難易度が5種、存在します。
 各難易度でクリアするごとにオマケで設定資料が見れます。一番難しい自機でクリアすると、パイロットはアノ人?ということを暗示する資料もでてきますよ。

-『Ⅵ』はまさに「奇跡の復活」ですね

ゾ:今、シューティングというのが商売になってないじゃないですか。だから企画を出しても通らない。
 私もシューティングが好きなので、この現状を何とかしたい。そこで始めたのがシューティング復権がテーマの「プロジェクトSTG」です。現状シューティングは半分趣味みたいなつくりになってますが、ちゃんと商売にしたい。
 「シューティングはマニアックな商品だけれどファンは確実にいるので、そのニーズをちゃんと掴めばいい」と。単発単発で出して爆死するんではなく、セガがシューティングを本気でやる、本気で面倒を見るよ、というところを示すことによってブランドができないかと。
 『サンダーフォースⅥ』も「プロジェクトSTG」というビジョンがあればこそ発売できたという部分があります。

-いま、完全オリジナルのシューティングが少ないのは、なぜだと考えられますか?

ゾ:誰も得をしないからでしょうね。売れないから、作っても損をする。
 でも逆に、こういう業界で、わざわざ損を取りに行ってどうするんだという考えも強くあってですね。得が欲しければもっと官僚とか証券とか、そういう仕事を選べばいいわけで。
 私の場合はゲーム業界に、商売として以上に、表現としての可能性を見たくて足を突っ込んでるわけです。青臭い話ですが、どうせなら自分にしかできないことがやりたい、という。最近はこういうことを言う人が少なくなったんですが、初期のナムコ作品なんかはそういう人ばっかりだったんじゃないですかね。俺はここで暴れたいんだ、みたいな。
 今、ゲームは巨大な工業製品に近いものになってしまって一人で作れるものじゃないから、こういうことを言っててもロクな目にあわないんですが。ゲームというのは本来それくらいの可能性に満ちたメディアであったように思います。
 同時に、自分が遊びたいゲームは自分で作らなければならないという考えもあってですね、『鉄腕アトム アトムハートの秘密』も『サンダーフォースⅥ』も、自分の理想のアクションや理想のシューティングを目指して作っているというのはあります。
 うまくなってくれているかは、また別問題なんですけど。

-なぜ誰も得をしなくなったんでしょう。

ゾ:日本のゲームが縮小傾向にあるのとシューティングの縮小が重なったからでしょうね。
 ぶっちゃけてしまうと、日本でゲームを作ること自体があまり得をすることではない。日本のゲームは日本人しかやらない。
 一昔前のハリウッドで西部劇を撮ったり、今の少年誌で魔球マンガを描くようなものでしょうか

-今回はゾルゲール氏にとって、ミニゲームを除くと初めてのシューティングのディレクションになりますね。

ゾ:シューティングを作るのはずっと夢でした。新人研修の時はサターンで縦スクロールシューティングを作ってました。没っちゃったんですけど。『ミクトラン』というアステカの死神から取ったタイトルで。
 電子世界にマヤ文明みたいなのがある。主人公は電子の生け贄みたいなものにされかかって、それに対して反逆する。いいセンいってたと思うんだけど、作ってる途中で会社が正気に返っちゃって。シューティングなんか売れるわけないだろうと。
 普通に考えればまあその通りで、シューティングは作るだけ損なんですけど、やはり男のロマンがそこにはある。『セガガガ』では開発末期に無理やりシューティングを作ってもらいましたしね。

-『サンダーフォース』を選んだ理由は?

ゾ:セガハードのシューティングといえば『サンダーフォース』という思いがあったからです。
 以前『セガガガ』に入れたおまけシューティングも『サンダーフォース』をモチーフにしたんですよ。

-『サンダーフォース』というタイトルには個人的にも思い入れがある?

ゾ:そりゃそうですよ。家庭用発のタイトルでここまで地位を築いたものはないんじゃないですかね。『グラディウス』や『ダライアス』なんかと並ぶブランドになっている。

-その一大ブランドである『サンダーフォース』の続編を作る上でのプレッシャーは?

ゾ:ありまくり!もちろん私も思い入れがある上で作ってるんですが、皆さんそれぞれに思い入れがある。
 シリーズが5作続いていると好きといってもいろいろな好きがあるわけですよ。『Ⅱ』が好きだとか、『Ⅲ』が好きだとか。で、続編を作る上で『Ⅴ』を取ると『Ⅳ』が好きな人が怒るんですよ。『Ⅳ』を取ると『Ⅲ』が好きな人が怒る。どうやっても人から叩かれるという。つらそうなプロジェクトだなぁと。今回は仕方ないので、全部混ぜてやれということになりました。
 『Ⅴ』というのは私はケレン味のゲームだと思っています。演出重視、スカッと遊んでもらう。『Ⅲ』は家庭用ならではの面白いシューティングを作ろうという素直な作品。『Ⅳ』は豪華満漢全席ですね。シューティングであんなに面を突っ込んでどうするんだろうかというくらい、楽しませてくれる。『Ⅰ』~『Ⅳ』の路線と『Ⅴ』の路線を何とか併存させることで、シリーズの歴史というプレッシャーに対抗したいと。

-遊んでいて思うんですが、基本的に「死んで覚える」旧シリーズのプレイ感覚ですね。

ゾ:「死んで覚える」こと自体はどうかと思うんですが旧シリーズのプレイ感覚を感じてもらえるというのはありがたいですね。地形の陰にアイテムとか置いてみたり、懐かしい敵がいたりね……。
 開発はシューティングで実績のある人が作ってますんで、プレイのフィーリングはちゃんと『サンダーフォース』していて、そこは裏切ってないと思います。
 シューティングってシンプルでなければいかんと思うのですよ。画面を見たら2秒でルールがわかる。敵が出てきたら「あーはいはい、火とか吐くんでしょ」と。シューティングのお約束というのは全肯定すべきと思います。「水戸黄門」なみのお約束。今回の黄門はガチで関節技を決めます……みたいなのは別に見たくないでしょ?シューティングも同じですね。
 コアな部分はとても私なんかには手を出せないくらいマニアックになっているので、そこはシューティングをわかっている制作スタッフにお任せして。『サンダーフォース』らしさですね。全何面でこんな道中があってこんなボスが出て……という部分を守っていただきたいと。そのかわり、そこを守っていただけたら後は何をしても構わない。

-その『サンダーフォース』らしさとは?

ゾ:「家庭用主体である」ということと「演出重視である」ことでしょうね。
 アーケードのシューティングには「3分たったら死んで下さい」という不文律があるんですが、『サンダーフォース』は家庭用ゲームなのでそれがない。家庭用のシューティングにも『ZANAC』みたいに「2時間遊んでてください」という路線もあるんですが、『サンダーフォース』はどちらかというと演出を重視していて難しいことはいわないというところじゃないでしょうか。
 オーソドックスであるということも守るべき一線だと思います。一面ごとに色のバリエーションが違っていて、個性豊かなボスキャラがいて、最後に一番強いボスと戦うというのはシューティングのお約束なんじゃないかと。
 『Ⅴ』も異端児に見えますけれど、作り手のセンスがすごく良くて、実はオーソドックスですよね。

-横スクロールシューティングの魅力はどういったところにあると考えられますか?

ゾ:飛行機を横から見るというゲームは日本人にしか作れないんですよ。今、戦闘機のゲームを作るのであれば、主観か三人称にする。では、なぜ横から戦闘機を見たいかというと、格好いいから。日本人独自の不思議なロマンですね。
 日本のシューティングは『インベーダー』から発展してきたんですが、素晴らしいことに極簡単なルールとなっている。「あなたのX、Y軸は画面のX、Y軸です。ボタンを押したら弾が出ます」と。横スクロールシューティングはこれが90度横になっているわけで、本来ならばあまり長持ちはしないジャンルなんですが、横スクロールシューティングは絵巻物の文化ではないかと思います。世界を俯瞰したいというよりは眺望したいという。
 縦スクロールシューティングだと、鳥瞰図になってしまうので風景をあまり描けない。横シューティングだと世界を描ける。大抵の横スクロールシューティングは宇宙とかSFとか厨二病全開の世界が広がってますが、その辺りも日本人の心を掴むのではないかと。
 今回の『Ⅵ』もバッチリ宇宙でSFになってますよ。

-ボスの出現時に不思議な文字とボイスが出ますね……これは何語なんですか?

ゾ:11世紀くらいに中央アジアで使われていた西夏(せいか)語です。つい最近まで解読されてなかった文字です。今は言語としては死滅して、話している人もいないので、表記や発音なんかも複数の大学の先生に訳をお願いして、話している人もいないので、ボイス素材なども半分ほど喋っていただいてます。あと半分は「プロジェクトSTG」のイメージソングを唄っていただいているBETTAFLASHのCyuaさんです。
 『サンダーフォース』をSFとして再構築したいというところがあったというのが動機です。『サンダーフォース』のボイスは基本的に英語ですが、『Ⅰ』~『Ⅳ』までは銀河連邦というところが舞台ですし、『Ⅴ』は地球のお話になってます。銀河連邦の言葉がゲームの上でローカライズされて英語になっていると考えるのであれば問題ないんですが、今回は銀河連邦と地球が出会わなければならない。
 SF好きの人であれば気になるはずなんですが、異星文明の衝突にはそこに必ずギャップがなければならない。ギャップがないというのは、文明というもののありようについてリスペクトに欠けることになる。二つの異星文明のファーストコンタクトがあるとしたら、そこで銀河連邦の人は何語を喋ってるんだ……と。
 ここでありがちなのは、何らかの人工言語をその場で作ってしまうこと。でも、それだと大抵アルファベットをちょっともじった表意文字とかの、急ごしらえで薄いものになってしまいやすい。『サンダーフォース』の銀河連邦の世界は、そういう安っぽい世界じゃないぞと。異世界の人が異世界の言語を喋っているのであれば、言語体系とか文字体系とかが、ちゃんと我々のものから遠い存在として、しかも裏づけのあるものとして成立していないと失礼だと。
 だから、文字体系も文法も、我々の言葉からできるだけ遠い、しかも実在した言葉からもってきてます。この場合『Ⅰ』~『Ⅴ』は我々がプレイするにあたり英語にローカライズされてたんだという解釈です。だから劇中に出てくる文字やボイスはデタラメでなく、すべて言語としてちゃんと意味が通るものになっています。
 また、オーン帝国(オーン・ファウスト)側の言語も登場しますが、これはモンゴル語です。ボス登場時などはウイグル文字、「オーン」というエンブレムの表記は、元時代のパスパ文字で表記しています。西夏王国というのはモンゴルの元帝国に滅ぼされたんですよ。その辺りの事情なんかも反映させてみました。偶然の一致かもしれませんが「オーン」というのはマントラでもよく使われる言葉ですしね。これも在日モンゴル人を代表するような、かなり偉いモンゴル語の先生にお願いして喋って貰ってます。まさにジンギスカンのような重厚な語り口が、いかにもオーンにふさわしいと思いますね。音声収録のときはスタジオの人が目を白黒させていました。
 『サンダーフォース』は伝統と革新を併せ持つシリーズなので、『Ⅵ』でも皆さんをあっと言わせるところを盛り込まなくちゃいけないと思い、あえてやってみた部分ですが、ただ、トータルとしてはあくまで『サンダーフォース』の世界観を尊重して崩さないよう注意してますので、あまりこの文字にばかり気を懸けてご心配なさらずに、といったところでしょうか。

-(ゲームがステージ5に入る)あ、このBGMの曲調は……古川さんの曲では?

ゾ:古川さんの楽曲で私が好きなのは『グラディウスⅡ』と『A-JAX』なので、オーケストラヒットをギャンギャン効かせた熱くて燃えるシューティング曲をお願いしました
 ボス曲をやって下さってるのが『雷電』の佐藤さんなんですけれど、これがまたいい曲で。TAMAYOさんにも一度お仕事をお願いしたかったというところがありまして。
 『サンダーフォース』の革新の伝統を継ぐために、従来の曲調とは少し変わったものになってます。

-オーバーウェポンが重ね打ちできるんですね

ゾ:今回の大きな特徴の一つですね。うまく使えばボスなんかも瞬殺できる。うまくなれば一周あたり30分以内とかでクリアできちゃう。会社から家に帰ってきて、ソフトをPS2に入れて、好きな難易度で遊んで、あー楽しかった、さあ寝よう!みたいな感じで。
 最初にお金を払っていただいてるんですから、どう楽しんで貰おうと自由です。難しいのが好きな人はHARDとかにして下さい。邪道と言われるかもですが私はこのゲームを遊ぶ時は難易度を一番低くして残機を9とかにしたいですね。ヌルい難易度でバカスカ倒して、格好いい雰囲気を味わいたいんです。殺されるような思いはしたくても、本当に殺されたくない

-『サンダーフォースⅥ』のキーワードは何でしょう。

ゾ:「伝説復活」というところを言わないといけないでしょうね。プレイ感覚としては「スカッと爽やか爽快系」で「演出系」
 難しいことは言わないから楽しんで下さいと。アーケードっぽくてちゃんと面白いというのが『サンダーフォース』として大事なところです。

-「プロジェクトSTG」の勝算は?

ゾ:なくはないと思いますが、皆さんのご協力にかかっています。
 シューティングが大好きな人はいるし、無くなると困る。だけど商売にならないのは団結して動くということが無かったからじゃないかと。僕たちはシューティングが好きで出れば買いますということがわかれば企業は動きます。私の力では足りないかも知れませんができるだけのことはやってるんで、良かったら買ってね


おまけインタビュー
(QRコードで読み込む携帯ページより)

-今まで遊んだ横スクロールシューティングのベスト3を挙げるとしたら、どのタイトルです?

ゾ:ファミコン版『グラディウスⅡ』、『サンダーフォースⅣ』、『ダライアス』ですね。いい意味でのヌルさみたいなのは大事だと思うんですよ。いいからクリアさせろ、みたいな。

-では「プロジェクトSTG」で復活させたいタイトルなどありますか?

ゾ:『ファンタジーゾーン』や『スペースハリアー』ですね。
 実は水面下で色々な動きもあります。やっぱりシューティングがゲーム屋で売ってて欲しいじゃないですか。
 個人的にはシューティングであれば、中身がどんなでも買いますよ。文化財保護だろうと。中身が生ディスクでも買ってるかも。


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最終更新:2009年10月25日 01:24