第8話

死が迫った時は、それぞれが自分でどうにかするしかない。
ソード・サムライXから抜け出てきた根来!完全なる不意打ちなだけではなく、ソード・サムライXをも封じる役割を果たす暴挙。同じ瞬間、桜花に迫るはキラーレイビーズ。剛太は戦部を足止めする、それだけが既に限界へ挑む境地であった。
そう、だからこの場は各人自身が自分でどうにかするしかなかった。

そして秋水、この絶体絶命に動じない!そして桜花、剛太もまた動じない!
戦部と戦り合いながら、剛太が呟いた。
「出歯亀忍者の野郎がどっちを狙うかは賭けだったけどな」
死こそが生を描く。


第8話 もう一つ、キミは強くなった


秋水に忍者刀が迫る刹那、金属音が冷たく高く響き渡った。しかしその音の発生源として、日本刀の煌きは見当たらない。
忍者刀が首をはねる刹那を止めたのはもうひとつの核鉄であった。
「こ、これは!!!!」
驚く根来に応じるように、自身も平行して死に直面している現実すら笑いのけるような声で桜花が呟いた。
「私、戦団に返してもらった核鉄以外にももうひとつ、核鉄を持っていたのよね」
それはつまりドクトル・バタフライの核鉄(LXX)。今、桜花の使用している核鉄。早坂秋水の手にはある核鉄こそが、本来彼女が使っていた核鉄(XXII)!!そう、これはつまり―――!!
「姉さんの力を借りる!ソード・サムライX・アナザータイプ!!!」
左手の核鉄を刃に変えて忍者刀を受け流し、再び繰り出されるは例の一撃。避けるも受けるも不可能。つまり、逆胴!!
根来が抜け道を作るには、まず空間を斬り裂く必要があった。そしてそのタイムラグは、片手でも逆胴を放てる秋水にとっては十分すぎる隙となる!
根来、やはり峰打ちという紙一重で即殺に至る衝撃をモロに受けて戦闘続行不可能の敗着に堕ちる。
「…これで二人目」
残るは戦部と、犬飼。

戦いの全景を描く前に少し、こうはならなかった仮定の話をしよう。つまり、もしも桜花に対し根来と狂犬が同時に迫っていたらどうなっていたかということを。
もし早坂の姉弟が最も望まぬ展開が舞台に転がったならば、桜花は御前様で根来を以前のように防ぎつつ、右篭手を使って「噛み殺されない」ことだけを考えてどうにか受け止めるしかなかった。そしてその間に秋水が二体の狂犬散らす、そういった綱渡りが万一の場合には繰り広げられる予定だったのである。もちろんこれは最悪の後手後手。
しかし剛太だけは揺るぎなく、根来が狙うのは秋水だとほぼ確信していた。
なぜなら犬飼のキラーレイビーズの特性が、“犬笛を持っている者以外を全て、噛み殺す”のである。さらに言えばキラーレイビーズの嗅覚をナメてはいけない。根来がキラーレイビーズに乗じて不意打ちをすることは、実際のところかなり危険な賭けなのである。なぜなら自身が襲われない保障などないのだから。
チームワークなど無いも同然の再殺部隊ではあったが、犬飼と同時に戦闘をする際のフォーメーションといったものは暗黙の了解としてあった。あの時の円山が犬飼から距離をとって斗貴子と対峙していたのもそういうことである。ならば、その後その後の先に挑めば良いという話。つまりは覚悟の未来が答え、戦局打破の根来斃し!

だが劣勢に転じたはずの再殺部隊の一翼、犬飼は嫌味を当てつけるような卑屈さで笑っていた。
「なかなかだが、根来斃しの代償は大きかったようだな!」
「…………チクショーッ」
赤い川が足を伝う、御前様が食いしばる横で桜花が血を流していた。そう、覚悟がもたらす未来はいつだって痛み分けの血戦なのだ。
当然の結果であるが、キラーレイビーズに対し御前様では盾には弱い。それでもあの時の桜花にできた最善の防御は、通り魔の如き犬に噛み殺されないようにすることだけである。
結果として、桜花は浅くは無い傷を数箇所負わされていた。これもまた、もはや戦闘続行は難しい傷である。せめて御前様を駆使し、これ以上は誰にも近づかないように威嚇するのが精一杯か。
「二対二だな」
犬飼がニヤリと頬を割いた。
「…ああ、こうなることも予想済みだ」
秋水は決意に満ちた目をして、そう言い放った。重い声がずしりと足場と覚悟を更に踏み固める。そして桜花も続いて覚悟を示す。
「ココにいくつ核鉄があると思っているの?」
たとえ今が無様であろうと、全ては後に取り繕えば良い。後で核鉄の治癒力を存分に味わえばいい。血と痛みの無い勝利なんて、この世界にはそうそうないのだから。
「姉さん、すぐに済ませるから耐えていてくれ」
秋水、まるで自分までもが痛みを味わっているかのような声だった。いいや、きっと味わっているのだろう。たった二人ぼっちの家族、たとえ当の昔にもがれ分かたれし半身同士であったとしても、心の繋がりがいつだって絆を否定しないように。
「こっちだ!クソ犬!!!」
咆哮が緊迫を貫いた!それは戦況を大きく動かす一手と、そこからの連鎖。モーターギアを逆回転させることで戦部から後退した剛太が、桜花にまだ足りぬと喰いかかっていたレイビーズの一体をなんとか惹きつけ、さらにもう一体の狂犬も惹きつける事にも成功する。
撤退と囮行為。狂犬は標的を選ばない!!
だが相手もさるもの、殺し合うパートナーのいなくなった戦部は、標的を即座に切り替えて秋水に!迫る!
この一瞬での判断力がレコードホルダーたる所以であろうか。
「ここからの俺の相手はお前ということになるな!!」
剛太からフリーになった戦部は秋水に向かい、そして猛攻開始!!対して秋水、W武装錬金でなんとか凌ぐっ。さらには二刀流を駆使し逃さずスキを突いて征くは秋水の斬撃!!秋水が桜花の負った痛みを振り切るように叫ぶ!
「っ手加減はしない、その体、斬り裂かせてもらうぞ!」
ここぞ激戦!秋水の斬撃による切断箇所を、ならばとばかりの瞬きと嘶きを持って回復無効化、死という現実すらもをリフレクト!!
二人の攻防はどこまでも人間的で醜く残酷で、それ故に美しく。そうした殺(や)り殺(と)りによって生まれたわずかの時間、犬飼も手をこまねくほどの甘さはない!戦部との死合う秋水を眺めつつ高らかに叫ぶ!
「W武装錬金か。…ならばコチラも、“その手”で戦らせてもらうぜっ!!!」
犬飼の手に輝くは、さらにふたつの核鉄!!戦闘不能状態の根来と円山の核鉄!!“いつの間に?”“むろん、貴殿らの気づかぬ内に”。核鉄による治癒を失った根来と円山は苦痛に顔を歪めるが、もう呻いてはいなかった。つまり、それがきっと覚悟というヤツなんだろう。
「行くぞ、トリプル武装錬金!キラーレイビーズ・Wアナザータイプ!!!」
アナザータイプが二つで合計四体、本来の二体と合わせて総計六体の狂犬!新規参戦した四体が、現在オリジナルのレイビーズを相手にしている剛太へさらに襲い掛かる!!
たまらず御前様も叫んでいた!
「マズいぞ!ゴーチン!幾らなんでも一人でその人数は…っ!!」
二体でも剛太一人ではパワー不足だった相手だ。分が悪すぎる。
だけど。

躊躇うか、それとも突き進むか。戦士には何時だって理不尽な二択以上が与えられている。
さて、“アイツならどうするだろうか”、“なんと言うだろうか”。“そんなことは決まっているよな”。―――エネルギー全開ッ!!!
「うおぉおおぉぉぉおおおっ」
「そうだ!急げ、ゴーチンッ!!!!」
怒号を上げて剛太は六体の狗を引き連れた剛太!そして秋水と戦部の方へ突進する!!!
「何ィッ」
あり得ない乱入者に戦部驚き、そして叫ぶ。そのスキ逃さず打ち合わせ通りに秋水が“退く”!剛太が、秋水の手を掴み……アウェイ!!
モーターギアの機動力は、キラーレイビーズに決して劣らない。この場で機動力が劣るのは、剛太や秋水ではない。…戦部である。
「何が起きた!?」
あまりに一瞬の出来事に、犬飼は状況を測り損ねる。だが、目の前の光景は、ひとつの成果を示していた。
「ぬおおぉぉぉおおおぉっ」
それは異景。戦部に襲い掛かるは、六体の狂犬。喰われては修復し、修復しては喰われる悪夢。現実。苦痛。惨殺。絶命。地獄。輪廻。血界。叫喚。圧巻。阿鼻叫喚。そして無限!!
「犬笛を持ってる者以外全て、噛み殺すんだったな」
「っな!!?」
気がつけば犬飼の目の前には二つの影、剛太と秋水がいた。
「これで、詰みだろ」
それが、犬飼に与えられた最後通告であろう。目の前にいるのが、戦士の中でも最速の部類に属する攻撃速度を誇る二人なのである。逆胴かモーターギアか。さあ、“死を選べるならどちらがいいですか”。
もはや武装解除しての再武装を許さぬ間合い。まさか核鉄で防ぐなんて芸当も、犬飼には不可能である。戦部が先ほどの剛太のように狗を引き連れて来るのを待つ、そんな期待はもはやするだけ無駄な空想だ。
「降参なさい、無駄に痛みを味わう必要もないでしょう」
レイビーズに襲われる心配も無くなり武装解除が可能になった桜花が、核鉄による回復をしつつ、声をかける。
降参しろ。それを言われるのは犬飼にとって二度目だった。だがあの時と今、追い詰められ方のレベルが違う。さらに、決断を要す。
辺りに響くのは戦部の悲鳴のみ。ぬおお、とか。がああ、とか。
「くそっ」
そして、トリプル武装解除。決着はついた。地を這う寒風が嫌というほどに血から熱を奪う。秋水の日本刀が冷空を静かに撫でた。
「約束だ、俺たちに従え」
全ては、力づくの約束。
従え。

決着の空を見上げて。
「まったく、こうも短期間に何度も負けを経験したら、さすがに自信なくしちゃうわね」
自嘲するように円山が呟いた。そんな円山に対し、剛太が慰めなど一切無い口調で言い放つ。
「戦力の問題じゃあない、作戦の差だ」
「なにそれ。戦力にしたってヴィクターには手も足も出なかったのよ?」
「…そういうことじゃないんだよ」
ひと夏の任務、再殺部隊本来の任務対象はあくまで“ヴィクターⅢ”の再殺であった。
それが意味するIFの事実。もし、再殺部隊が初手から全員で襲い掛かってきていたのなら、間違いなく武藤カズキは再殺されていたということ。剛太や斗貴子も、きっとタダでは済まなかったということ。
火渡の作戦も計画もあったものじゃないやり方が、結果としてカズキ達の命を繋げたのである。
それは、剛太がかつて死闘を演じた一人であるからこそ知っている経験。再殺部隊の強さと、畏ろしさ。
「おい、再殺部隊……いや、錬金の戦士。犬飼。根来。円山。戦部。約束だ、共に戦ってもらうぞ」

―――本来ならオレ達はみんな錬金の戦士。敵としてではなく、仲間として戦うはずだったんだ。

護るべきものが同じなら戦友になれる。護るべきは、それぞれの信念。護るべきは、信念を護るということ。
だからもう再殺部隊の名前に深い意味は薄れることになるのだろう。みんな等しく戦士。錬金の戦士。
「おい、出歯亀忍者」
「なんだ、出歯亀タレ目」
座っている根来に差し伸べられた手。
辛い失恋を抱えて、それでも引き摺る想い。だが、剛太の世界の変化は止まっていなかった。
たとえそれが試行錯誤だったとしても。今は、“まだ斗貴子先輩に戦ってほしくない”。だから、“斗貴子先輩”の代わりに自身が戦えるだけ戦う。そのためなら何だってする。それが、彼にとって今できる、斗貴子を護るということだった。そう信じて。握手。
根来は立ち上がっていた。何に誰に何処に潜るでもなく地に足をつけて、広大な空をただ見上げていた。
守りたいものが違っていても、戦友になれる。何かを守りたいという気持ちさえ持っているならば、きっと。
月を仰ぐ秋水に御前様がぽつりと呟いた。
「カズキンに見せてあげたいな」

キミたちは今日、少し強くなった。
そしてまだまだ、強くなれる。
決着からまた始まる戦いがあるとしても。
立ち上がったならば、あとは戦うだけ。


そうしてまた、あなたたちの期待に応えるかのように死を描く祭がはじまっていく。









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最終更新:2010年04月26日 21:23
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