第7話

戦士ならば死ね。


第7話 早坂姉弟の墓場


ここは、オバケ工場脇の密林。
奇しくもほぼ同刻に、散らばった再殺部隊のうち毒島と千歳を除く四人がその場に到着していた。
ことは予定通りに運び、ここまで到達した。毒島が千歳を探し出したことを発端とし、千歳の協力を経て各地に散らばっていた再殺部隊の面々に与えた嘘の情報を元に互いが互いを意識し出し抜きあった結果である。確認できる再殺部隊の面々は正確には三人だけだが、根来が普段から“潜っている”ことを鑑みたならば、この場のどこかに潜っているとみてまず間違いない。
時刻の偶然は必然でもあった。千歳の偽情報によりここにバラバラと集まった戦士たちだが、円山は途中で確認した犬飼を尾けていたし、根来は根来で戦部に潜り込んでいた。しかし戦部、ほとんど勘でこの時間のこの場所にやってきたのだから驚きだ。もちろんできるだけ同時刻に到着するように毒島による誘導なども行ってはいたのだが、それでもまあなんというか。

4人の再殺部隊の前に、3人の戦士が立ち塞がる。
「来たか、姉さんの情報どおりだな」
「毒島さんがうまくやってくれたようね」
早坂姉妹。そしてもう一人、ナカムラゴウタ。
再殺部隊はその顔を見て、ようやくこの結果に意図を感じ取る。が、そこには大した興味も湧かなかったのだろう。出た言葉に怒りの色はなく、むしろ無関心すら漂う響きがあった。
「見たことある顔がもいるわね。あなたたち、そんな所でいったい何をしているのかしら?」
まず口を開いたのは円山。応え続いて、それをさえぎるように、秋水。
「再殺部隊、お前らに話がある」
口を開き拒む、犬飼。
「俺たちには無い。そこをどけ」
彼らには、保ちたい各人のやり方があった。そして、火渡戦士長の救出に向かいたい意志のない者はいない。再殺部隊の面々はみな、火渡戦士長がいて初めて望む戦士でいられるのだから。
また、剛太とは今はまだあまり顔を合わせたくないのだろう。ただただはっきりと拒絶の雰囲気だけが辺りを充満していく。だがそんな空気は切り裂いてしまえばいい、それで風は吹く。
秋水が先陣を続けた。
「いや、どくわけにはいかない。お前らを自由にさせておくわけにもいかない」
「どういうことだよ?」
秋水が吐いた言葉に疑問を投げかける犬飼。そぅら、怪しげな風が渦巻いていく。
「大戦士長からいくつか任務を預かっているの。火渡戦士長の捜索と救出。そしてホムンクルス・ヴィクトリアとムーンフェイスの制圧」
桜花が説明を挟み込む。戦団の戦士たちは各地のホムンクルス制圧に出張っていて動ける戦士はとても少ない、と。既にヴィクターとの戦いによって消耗著しい状態なのだから尚更だろう。現在この任務に回せるのは剛太や秋水といった新米の戦士、そして戦力としては優れているものの性格・性質に難があって正規兵として主力作戦にはとても組み込めない――、そういう戦士達のみ。
つまりそれが再殺部隊!
だから。
「どうせ口で言っても聞きはしないんだろ?だったら、力づくでお前らを従わせてやるって話なんだぜっ」
御前様が前置き抜きに戦闘の意志を口走る。その為に剛太や早坂姉弟はここにいるのだ、と。
「まさかたった三人で俺たちを相手にしようってのか?」
それはつまり、中村剛太、早坂兄弟vs再殺部隊・犬飼、円山、根来、戦部。
「確かに人数ではこちらが不利だな」
秋水は素直に状況を簡潔な言葉にする。桜花も同調して頷いた。
「そうね。でもある程度の情報はもらっているし、シミュレーションもしてきたわ」
「ああ。それに目の前の四人。相性は決して悪くない」
そして、早坂姉弟のやり取りの横で、無言の少年のギアもすでに噛み合っていた。
これから起こる戦闘は3対4というチーム戦にはならないだろう。再殺部隊は必ず個人個人で行動するはずだ。ならばそこを突く。
「いいか、決めておいたとおりに行くぞ」
剛太が口を開き、連携を静かに確認する。
「姉さん、根来という男への注意を忘れるな」
根来。それは出歯亀ニンジャ。真っ先に桜花を狙ってくる恐れが高い男。
「大丈夫。御前様もいるし、そう簡単に私の死角を突かせはしないわ」
そう言いながら、桜花は右手の篭手を掲げた。
「コレもあるしね」
もちろんコレはブラフ。これから再殺部隊と戦うに当たり、この三人にとって最も避けねばいけないことは桜花が根来に狙われることだった。秋水や剛太の武装錬金は不意打ちにだって反撃が可能な、いわば最速の部類の武装錬金である。だが、桜花のそれは違う。だから、このブラフはちょっとした種まき。花が咲かずとも芽が出ることを願い祈って。根来が潜っている間も会話が成立することは剛太が既に体験している。根来が桜花を狙ってくる可能性を潰すため、今は少しでも迷いの芽が出ればそれでいい。迷いは時間を与える。その差は刹那の世界ではとても大きい。この場でブラフをしかけるだけの価値は十二分にあるのだ。
「お話はもういいだろう」
これまで黙っていた戦部が口を開いた。そう、つまりこれからは戦いの時間。

さあ掌握しろ決意しろ。
さして咆哮!!開幕の合図を高らかに!!!その名称―――。
「武装錬金!!!!!!!」
七人の怒号が、戦いの幕開けをつげた。
剛太たちが狙うは、短期決戦!!!


最初に動いたのは戦士・円山!!一切の容赦もなく殺しにかかる!!!
「バブルケイジ!!」
「ごめんあそばせ。射って、御前様」
消滅の檻が辺りを包む前に、天使の矢が全てを壊す。特性は、高速精密射撃。そしてその間を縫うように。
「モーターギア!!スカイウォーカーモード!」
「近づかせるかよ、キラーレイビーズ!!最初から全開でいくぞ!!!」
安全装置解除!だが、その行為にあまり意味はなかった。
「確かに中村の言っていた通りだ、尾からエネルギーが出ているな。…散らしてやろう」
日本刀の武装錬金、ソード・サムライX!激音とともにキラーレイビーズを受け止め、そしてさらに犬の爆発的突進をいなす!エネルギーをからめた攻撃は全て、ソード・サムライXの前では無力と化す!!
「まだ甘いぞスキありだ、激戦!!!」
「横槍はさせねえ!!モーターギア、射出!!!!」
火花散り、弾かれる。対峙。そして戦部の前に立ちふさがれ剛太!!
「ホムンクルス撃破のレコードホルダー。あんたの相手は俺が努める」
「貴様は、あの時火渡戦士長と戦っていた少年か」
育てればよい戦士になる新米。
「面白い、ならば戦らいでか!」
「ああ、それでいい、オレたちの狙いはハナからそれだ」
桜花と剛太がそれぞれ円山と戦部を封じる。
それは再殺部隊の分断とチームプレイの維持が目的。
そしてその間に秋水は、猛犬と風船を掻い潜り円山に辿り着く!!
「え!!!?」
秋水、円山の懐に潜り込む。まずは厄介な円山を全力で制する!!これが作戦の最優先事項!!体躯の差というものは戦闘における間合いに大きな影響を与えることになるのだから。円山の武装錬金は戦いが長引くほど効いてくるのだ。ならばなんとしても最初にツブさなければいけない。
円山は急いでケイジによる風圧攻撃を仕掛けようとするが、それではこれから放たれる斬撃に対して一手も二手も遅い!!当然間に合うはずもなく。
「ッ逆胴!!!」
直撃!!
円山、声も無く吹っ飛ぶ。そして間を空けてうめくうめくうめくうめく。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
たとえ竹刀であっても胴着を無効化するような一撃である。この一撃は峰打ち、それでも十二分に半身を砕きかねない一撃だ。円山はただちに武装解除を行い、核鉄による応急回復に努めだす。
「まずは一人」
「これで三対三ね」
そう。三対三。しかし今のところはどこにも再殺部隊のもう一人、根来の姿がない。だがこれこそが短期決戦の狙いであった。根来に人数の利を活かした不意打ちをもらう前に、人数を対等にする。これに時間をかけていては、根来に与える隙がどうしても発生してしまうから。そして今のところ、根来に与える隙はつくっていない!
「御前様!次は犬飼を!」
降り注ぐ精密射撃。だが犬飼はレイビーズの一体が盾になるように回避!!そしてさらにその間髪にもう一体が秋水の脇をすり抜け桜花を狙う!エンゼル御前ではキラーレイビーズにはパワー不足!!!秋水がソード・サムライXを片手に振り返り叫ぶ!
「姉さん!!」
誰かが誰かに言っていた。優しさが戦いの場では“甘さ”になる、と。その“甘さ”はいずれキミの命を奪うだろう、と。
「そのスキを待っていた」
ここで根来!!!ここでまさかの秋水狙い!!
円山が既に戦闘不能の今、狙うべきは剛太でも桜花でもなく最大戦力の秋水。そうも判断した上で、根来が出てきたのは、なんとソード・サムライXの刀身から!!!!
完全なる不意打ちの成立。間合いを制し、さらに相手の得物すらも制する一手!!さらに言えば、いかに周囲に気を張ろうと行動時は静止時より反応がわずかに鈍る。
「もらった!!」
完全のスキをついた、回避不可の一撃が迫る!

これは必然であった。実際のところ、根来は一切の迷いなく秋水を標的に定めていたのである。確かに桜花のブラフによる警戒心や、または剛太のモーターギアに同じ手で負けることを避けたかったということもあったかもしれない。だが、それ以上に秋水を狙う理由があった。
根来のシークレット・トレイルは忍者刀の武装錬金である。忍者刀は、狭いところでも振るいやすいようにその長さが通常のいわゆる打刀よりも短めにつくられている。その効力が最も発揮されるのは屋内などの狭いところにおける「間合いを制した」うえでの戦闘だ。だがしかしこのシークレット・トレイルの最も恐ろしい所、それは「間合いに潜り込める」ことにあった。
あの墓地での戦闘で斗貴子を狙い続けたのも、出歯亀というか斗貴子が服装的にも無防備だったこともあったかもしれない。だが、それ以上に斗貴子のバルキリースカートとの相性がいいと判断してのことだったのであった。つまりノーモーションで全方位攻撃が可能な剛太のモーターギアに比べ、斗貴子のバルキリースカートはその内側にさえ潜り込んでしまえば攻撃は比較的にも容易な武装であるということ。そう判断しての行為。さらに振り返れば、バルキリースカートの間合いにもっとも無理が出る頭上からの攻撃にあの時の根来はこだわってもいた。
そしてそれこそが根来にとっての、“戦闘においての最優先の任務は勝利ただ一つ。その為ならば一切、手段は選ばぬ”ということの本質なのである。獲物は一つ一つ潰せた方が、戦り易い。それはつまり、彼にとっての倒し易い人間から倒すということなのだろう。
そしてこの場で最適な標的は、近距離武装である日本刀を駆る秋水だった。当然秋水も自分が狙われた場合を想定していたが、肝心のソード・サムライXを封じる一手に成す術など!!
防御も回避も不可能っ!なぜならその刀身から根来!なのだから。

桜花には狂犬が。そして秋水には兇剣が。
いずれの二人にとっては最悪の状態で、完全な防御が不可能な状態で。
死ぬ。殺される。
負ける。
ここで負ける訳にはいかなくても、負ける時は負けるものだ。

墓穴は掘られた、後は堕ちるだけだ。早坂姉弟に死が迫る。死は平等に、全ての人に訪れるものなのだから。
今の二人なら、“死”も“生きる”も理解できるだろう。
できることは「受け入れる」か「立ち向かう」か、だ。
この章は早坂姉弟の選択と言い換えてもいいかもしれない。
そして桜花の選択は、死を受け入れることだった。

「御前様、逝って!!!!」

それでも生きるということは、迫り来る死を乗り越えることなんだろう。
ならば墓場に堕とされることないように、死すらも受け流して見せろ!!








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最終更新:2010年04月26日 20:45
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