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『Forest of Doom』 Play Report 第一回(K)

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sssc

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『Forest of Doom』Play Report written by かいや


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ドワーフの街、ストーンブリッジには伝承がある。
“戦のハンマー”と呼ばれるハンマーが正当なる持ち主の手にある限り、
いかなる敵が襲いかかってこようとも撃退出来るという伝承だ。
異教平原から山トロル共が攻め入って来たとしても、ジリブラン王の手に
“戦のハンマー”がある限り、街の平和は守られるはずだった。

だが---そのウォーハンマーは盗まれてしまったらしい。
一番近い大きな街、ストーンブリッジへ行ってみようと決めた時の私たちに、
そのことを知るよしはなかったのだけど。
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 「……ブリッジに…」
 「道なりに…」
 「…者はこれだから…」
 「……だよね? ---フィアナ、フィアナってばっ」

エドに肘の辺りを突かれて、私は漸く顔を上げた。
空にはまだ太陽が輝いていて、私を守護してくださる“月”の光を見ることは出来なかった。

 「あ、ごめんなさい。ぼーっとしてました・・・何だって?」
いかに“月”の神の神官といえども、私ほど、月に精神状態が左右される者は珍しいってお師様が言ってた。
今は、月齢24。
月が欠けゆく時期だったから、私は日々をぼんやり過ごしていた。
特に、“月”の無い昼間は、全然ダメ。半分寝たような状態でぼーっと道を歩いていた。

 「これだから、図体ばかりでかくてもダメだと言ってるんだ」
即座に文句を言ったのは、ノームの魔法使いで、名前はドク。
本当は、みんなが一度では覚えらない位すっごく長い名前だったけど、
ドクは2度以上自己紹介する気がなかったので、通称で呼ぶことになった。
ドクって言うのは”先生”とかそういう意味なんだって。
確かに色々不思議なことを知っているのだけど、ノームらしく偏屈だから、
それを教えてくれることは滅多にないけれど。(*1)

 「ストーン・ブリッジまでは、どれ位かなという確認をして欲しかったんですよ」
神経質そうに、荷物を背負いなおしながら、ジャンゴが言った。
彼は最初、「学者」だって名乗ってたけど、本当は「盗賊」だった。
街の学園で学んだって言っていた通り、本当の学者さんと同じ位知識が豊富だ。
弓手としてもなかなかの腕前だし、何より凄く小さな変化や物音に敏感だから、とても助かってる。
彼がパーティに入ってから、格段に不意をうたれづらくなったもんね。

 「前の辻で方向は確認したから間違ってないと言っているんだがな」
やや憮然とした面もちで言ったのは、野伏のアスバル。
アスバルは戦いにおいては剣士としての腕前を発揮するだけで無く、野外活動のプロだった。
人の足跡を追うことも出来るし、木の葉の上を音もなく歩く術も心得ている。
数時間前に、そのアスバルと私で方向を確認したし、チャリス村からストーンブリッチまでは
街道が通っているから間違えようが無いと思う。
私がぼーっとしてたって、私以上の方向感覚を持っているアスバルがしっかりしてたんだから、
間違えようが無いんじゃないの?
途中でゴブリンの襲撃があったから、不安になったのかなぁ?(*2)

 「うん。でもほら。道が二つに分かれているから、確認して欲しかっただけだよ・・・だから、フィアナにも見て欲しかったんだ」
ぼーっとしてた私を現実に戻してくれたエドは言う。
エドは戦士だ。軽やかな動きで敵を翻弄するタイプの軽戦士。私と同じ16歳とはいえ、
そこらの力自慢顔負けの筋力があるから、“軽戦士”だって侮って痛い目をみたヤツも沢山いる。
そのエドの指は、2つに分かれた道---森に続く道と森を迂回する道---の分岐点を指していた。

 「えーと、方向としては、ストーンブリッジは森の向こう側だね。迂回路があるってことは、迂回していっても行けるんじゃないかな?」
私は、太陽と道の両脇にポツポツある木々の枝の伸び方から方向を確認し言った。
こういう時、お師様と旅して歩いた時に身に付けた野外活動の知識が役に立つ。

 「どちらを行った方が良いですかね? 確か、迂回路は隊商が通るって噂を聞いたことがあるので、安全でしょうけど、遠回りですし」
 「あの森はどうやらダークウッドの森らしいな。細い道位は中にもありそうだが・・・」
 「用もないのに危険な森の中に入り込むヤツはおるまいよ」
 「んー。ならさ、急ぎの旅ってわけでもないし、迂回路を行こうよ」
ジャンゴとアスバルとドクの言葉に私はそう返した。

 「・・・そうだな。もうそろそろ日も暮れるし、少し早いが野営場所を探して、明日までに意見を統一することにしよう」
 「そうだね」と返事をした私は、野営に適した場所をアスバルと2人で探した。


私が見付けたのは、入り口が狭くて奥は広い洞窟。
奥にいくほど下っているから、明かりを付けていても洩れにくい良い場所だった。
その洞窟を森の木々の枝葉の方向を微調整して、風が吹き込みにくく、
外から入り口が見えにくい様に手を入れてくれたのはアスバル。
更に彼はみんなが寝る場所の地面を少し掘って柔らかくして、落ち葉を轢いて寝心地を良くしてくれた。
ヘタに場末の宿で寝るより、こっちの方が全然寝やすいや。

それから、火を起こして、水を消毒し、食事も温めた。
野外で温かい食事を食べられるのは幸せだなぁと思いながら、私は言う。

 「そういえば、ダークウッドの森の守護者は、ヤズトロモって魔術師なんだって。
  なんでも当代一の魔法使いのひとりに数えられる程の人で、
  森にドロウが出てきてエルフ達を困らせていた時にそれを一掃したんだって~」

お師様から聞いた知識を、食事時の軽い話題として言っただけ。
だから、この後すぐに、”森の守護者”と会うことになるなんて、誰も予想していなかった。  



(*1)タイタン世界のノームは偏屈で付き合いづらい種族だそうです。
(*2)戦闘ルールを覚える為に、ゴブリン達と戦ったのでした。「『挟撃状態になったら殴る』で待機」とか、
  道の脇に伏兵がいたりとか、下がりつつ射撃とか色々技を駆使するゴブリン達だったけど、
  DM曰く「ルール説明の為ですからね」とのこと(笑)。



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食後すぐに私は洞窟の外に出た。
昇りゆく”月”、私の神に祈りを捧げる為に。

半月と言うには細すぎ、三日月というにはふっくらとした月が、柔らかい光で世界を照らしている。
木々を渡る風のざわめきや、夜行性の動物たちが目覚め活動し始めた音が聞こえる。
同時に、夜の静けさと森の暗さを感じる。どちらにも違和感なく溶け込む24夜の月に祈りを捧げる。

空を行く貴方のように、この旅が健やかでありますように。
日々姿を変える貴方のように、柔軟な生き方が出来ますように。

“月”は私の祈りに応え、奇跡を行使する力を与えてくれた。

祈りが済み、洞窟に戻ると、野営の順番も決まっていた。
私はいつも、中の当番に当てて貰っている。空に月があるその時間が、私にとって一番活動しやすい時間だから。
今回も、特に変更は無かったらしい。
最初の見張りの時間は、私が休む番だから、寝袋に入る為に鎧を脱ぐ準備を始めた。

 「…すみません、ちょっと静かに」
私を制止して、ジャンゴが外に向かって耳を澄ませつつ言った。
 「虫の声がしなくなったな」
アスバルが囁く。
 「木が折れる音がするね」
耳を澄ませて聞き取れたことを私も伝える。

 「それだけじゃありません。悲鳴…? 雄叫び? とにかく誰かが戦っている音が聞こえますよ」
 「大変だ。助けに行かなきゃ!」
ジャンゴの情報に、エドが武器を持って立ち上がった。私も武器を取りエドに続く。
 「今から行っても手遅れってこともあるのになぁ」と言いながらも、ドクも立ち上がる。
既に洞窟の入り口に立っているアスバルが、「右だな。森の入り口の方だ」とみなを先導する。
 「気を付けて下さいよ。良くは判らないが”大きい”生き物と戦っている物音ですからね!」
ジャンゴも弓を手に取り追いかけてくる。


音の源を目指して、私たちは走った。
暗い森の中を走ったにしては、目的地にたどり着くまでにかかった時間は短かった。
だけど---着いた時には、彼の命の火は消えようとしている所だった。

森の木に持たれるように座り込んでいたのは、ひとりのドワーフだった。
辺りの木々は、枝が折れ戦いの跡を見せているが、彼の敵の姿は既に見あたらなかった。
私は浅い呼吸を繰り返すドワーフに近寄り、傷の様子を見、手当を始めた。

 「助かるかな?」
明かりを持って、手元を照らしてくれたエドが、不安げに問いかける。
エドの問いかけに私は小さく首を横に振った。
例え“癒し”の奇跡を使ったとしても、彼の命を止めておくことは私には出来なかった。
せめても、傷の痛みを軽くするのが精一杯だった。
血を止め、姿勢を楽にさせ、水を含ませた布で唇をなぞり---そういた治療をするのが精一杯だった。

 「…誰、か…いる、のか……?」
すぐ側にいても、聞き漏らしそうな小声でドワーフが言った。
 「…戦のハンマーを取り戻さねば…ヤズトロモ殿に助力を…懐に地図と軍資金が…」
一瞬だけ戻った意識で、彼は伝える。

私は彼の手を握り「今宵、月の導きで出会ったのです。貴方の望み、確かに聞き届けました」と伝える。
エドも「判った。戦のハンマーだね。きっと取り戻してみせるよ」と力強く答える。
他の3人は、否定の返事も、肯定の返事もしなかった。
だけど、きっと一緒に彼の願いを聞き届ける「使命」に同行してくれるって信じてたから不安はなかった。

私たちの言葉を聞いて、安心したのか、彼は微かな笑みを浮かべると息を引き取った。


名前すら聞けなかった彼の遺体から、身元が分かるようなものを幾つか手元に残した。
印象指輪と、鎧と盾。紋章が刻まれた防具を持っていれば、彼の部族を探しやすいって思ったから。
武器は、墓石代わりに彼を埋めた地面に立ててきた。 

墓を掘っている間に、ジャンゴは、ドワーフが持っていた小袋と地図入れを取り出し中を確認していた。
地図を見たジャンゴは「これは、ヤズトロモの塔の場所、なんでしょうかね・・・?」と首を捻っていた。
「もう少し分かりやすく描かんと地図の意味がない」とドクも怒っていた。 

埋葬と祈りを終えた後に、私も地図を見せて貰った。
 ---ああ、うん。これはちょっと判りにくいかも。
それは、男性の掌に余るほどの広大な森が描かれた地図。
上1/3程の所を川が横断しており…そして、森の入り口付近に小指の先程の×印がついているだけの地図だった。(*1)

 「実際の森の規模と、この地図をあわせて考えれば…
  入り口から半日もしない間につく、と思うんだが」とアスバルも思案顔。
縮尺が書いてないし、道の書き込みもないもんね。

 「…行くんだろう?」
アスバルが確認する。
 「「うん」」
私とエドが答える。

 「なら、明日実際に森に入った方が見付けやすいだろうな。 …この地図を頼りにするよりは」
アスバルが肩をすくめて言った言葉に、皆は一様に頷いた。

こうして私たちは、当初迂回しようと言っていた森に足を踏み入れることになった。 


(*1)DMに見せて貰った地図には、×印もついてなかった気がします。DMとの話し合いの結果、
  「目印くらい付けてきてると思います」ってことで、何となくの目的地を把握しました。



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かつて、レッドウィードと呼ばれる街があった。
レッドウィードは、魔道師ザゴールに滅ぼされたが、後継として2つの街が出来た。

ひとつはストーンブリッジ。ドワーフ達の街。
レッドウィードの正当後継者の証たる“戦のハンマー”を持つ、ジリブラン王が治める街。

もうひとつは、マイアウォーター。
正当なる証、“戦のハンマー”を欲する街。

秘密裏に、“戦のハンマー”を求める行いは、今まで全て失敗してきた。
だが、此度は、空からの戦力を使うことで、それを成し遂げた。

“戦のハンマー”は、大鷹乗りにより持ち去られたのだ------。

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翌日私たちは、森へと歩を進めた。
地図を見ながら、森の中の小道を進み、特に問題なく数時間が過ぎた。

目的の地点に近くなったので歩みを止め、周りを詳しく調べてみることにした。 
日の光は、枝の隙間から差し込み幻想的な模様を地面に描いている。
その様子を見て、私は溜息をついた。月の光だったら良かったのにって思ったから。

 「・・・この光景を見て溜息を付くのは珍しいと思うぞ」
ポツリと忠告をしたアスバルは、注意深く辺りを見回していた。

 「塔などどこにもないではないか---この地図職人はもっと分かりやすい地図を描くべきだな」
ドクが地図と周囲を見渡して文句を言う。

 「うーん。塔って高いよねぇ? そんな高い建物全然見あたらないんだけど」
上を見上げていたエドも首を捻る。

 「魔法使いの塔だから、魔法で隠されてるのかなぁ? そんな伝承をお師様から聞いたことあるよ」
だから、私は”魔力感知”の魔法を使ってみようかなと思った。
 ---その時。

 「んん? いや、ちょっと待って下さいよ」とジャンゴが止めた。
その後、ジャンゴは凄く不思議な動きをした。
ロープも使わずに一本の木を真っ直ぐ登って行ったの。
私たちは、ビックリしてジャンゴの後ろ姿を見つめていた。

 「ああ、やっぱりだ。ここ、階段になってますよ。
  判りにくいけど、エントランスとアーチがあるでしょう?
  木々にカモフラージュ・・・多分錯覚を利用してますねぇ。
  見えなければ、触ってみて下さい。それで判りますよ」
振り返ってジャンゴが言った。

…ええ? 階段?? 
そんなの全然見えなかった。
でも、ジャンゴの言う通りの場所を触ると、確かに段差があった。
一度段差を見付けて、今度はそれを追うように視線をあげていくと、確かにそこには塔があった。
森の木々に溶け込むようにして建つ白亜の塔が。(*1)
高さは60ftほど。入り口は両開きの大きな扉で、幾つか窓もあった。


階段を確認しながらみんなで塔に近寄り、大きな声でヤズトロモを呼んだ。
ノッカーがついていなかったから仕方ないよね。

やがて、扉の奥から物音が聞こえ、ひとりの老人が出てきた。
 「お前さんがた、何の用かね?」

 「…ドワーフの人、から言われて訪ねてきました。戦士のエドと言います」
その彼の名前を聞けなかったから、エドは言いよどんだ。

 「ふぅむ。そこのお人が持っている盾は“彼”のものかな?
  だとするとストーンブリッジのビックフットの紋章だのぅ」
目を細めて老人は、アスバルが預かっていたドワーフの盾を見て言った。

そうか、彼はビックフット家の人なんだ。
漸く彼の名前の一部を知るコトが出来て、私は少しほっとした。

 「“彼”は何者かに襲われて命を落とされました。
   死を看取った時に『”戦のハンマー”を取り戻す為にヤズトロモ殿に助力を』と言われたので、訪ねてきたんです」

 「ああ、確かにわしがヤズトロモだがのぅ…。
  そうか、ドワーフは死んでしまいおったか…。そうか…。
  ああ、お前さん方、とりあえず中に入りなさい」
私の言葉を頷ずきつつ聞いていた老人は、塔の中に入っていった。
私たちは顔を見合わせた後、全員で彼に続いた。
玄関ホールから、長い階段を登る---老人は大儀そうに休み休み登っていたけれど。


辿り着いた彼の部屋には、足の踏み場が無かった。
良く目を凝らせば、辛うじて人間1人分が通れるだけのスペースが、一筆書きのように続いていた。
老人はその“道”を通り、窓際に置かれたロックングチェアに腰を下ろした。
そして手近にあった黒板を取り上げると、何やら書き付けて私たちに見せた。

『キュア・ライト・ウーンズのポーション---30gp
 シールド・オヴ・フェイスのポーション---30gp
 プロテクション・フロム・イーヴルのポーション---30gp
 ハイド・フロム・アニマルズのポーション---30gp』
 …値段表?

 「ええと。買い物に来たわけじゃないんだけど・・・」
 「おお、そうだったのか? だが、その腰の小袋は、元々ここで使う為にドワーフが持ってきたものだと思うがのぅ。
  それにこの先森を進むのならば、必要になると思うがの」 茶目っ気タップリに言うヤズトロモ。
 「森の中を行く必要があるの?」
 「“戦のハンマー”を取り戻すのなら、行く必要があると思うがのぅ」
彼は、まるで孫を相手にするようにエド話している。

 「確か4日前だったか、この窓から森の中に大鷹が落ちていくのを見たんでなぁ。
  何かあるといかんと思って、わしゃ、使い魔に落下地点まで様子を見にいかせたんじゃ。
  そうしたら、2匹のゴブリンが、“細長い棒状のもの”と、“四角い何か”を別々に運んで行くのが見えてのぅ。
  …今思えば、あれが“戦のハンマー”だったんじゃろうなぁ」

 「むっ。2つに分けて運ぶとはな・・・物の価値が判らんゴブリンめはこれだから」
うん、ドク。しかも、ゴブリンが運んでいったってことは、部族の元に持ち帰っているってことだもんね。
1匹1匹は大したことなくても、部族が相手になると厄介だもんね。

 「ゴブリンというだけでは探しようがありませんねぇ。そのゴブリンに何か特徴がありましたか?」
 「特徴と言うてもなぁ。片方は黒い肌、もう片方は青い肌だったくらいじゃのぅ。
  その時は、まさかそんなたいそうな物を運んでいるとは思わなかったので、詳しい調査をしなかったのが悔やまれるのぅ」
 「青い肌というと、バグベアーかもしれませんね。ゴブリン達と行動を共にすることが多い、ゴブリノイドです」
ヤズトロモの情報から、ジャンゴが推測を述べる。
ゴブリン達について知識のない私には、彼の表情から少し大きくて強いゴブリンなのかなって思う程度だったけれど。

 「他に何か森で異変はなかったのか?」
 「いや。特には無いのぅ。『道の上』は、わしが管理しておるから安全じゃしな。
  …道を外れた所には、ドロウやらフォレストトロルやらが出ることもあるらしいがのぅ。流石にそこまでは管理しきれんよ」
 「大鷹が落下した所までは、道があるのか?」
 「ああ、繋がっておるよ。お前さんなら迷うこともあるまいて---ああ、『地図』を持っているかね? 大体の場所を教えよう」
アスバルに答えながら、彼は地図に落下地点を書き込んでくれた。
4日前だから少し辛いかもしれないけど、アスバルだったらゴブリン達の足跡を追えるかも知れない。
そう考えてじっとアスバルを見た私に、彼は小さく頷いて応えてくれた。

 「じゃあ、まずは、大鷹の落下地点を目指すんだね」
同じことを考えていたらしいエドが言う。
 「おお、おお。もう旅立つのか。 ---ちょっと待っていなさい」
ヤズトロモは、椅子から立ち上がると棚を開けて何かを探し始めた。

 「ドワーフの使命を継いでくれた、善き若者達に餞別じゃ」
彼は見つけだした物---ポーションを全員に2本ずつ配ってくれた。
1本は”癒し”のポーション。もう1本は”幸運”を呼ぶポーションだった。(*2)

それから、私たちはヤズトロモの忠告に従い、ドワーフが持っていた金貨を使うことにした。
街で売っている物より効果が高くて、安いポーションが沢山あるから得だろうってドクが言ってた。
購入したポーションは、みんなで分けて持つことにした。 

 「---幸運を」
私たちを見送るヤズトロモは言った。
よっぽどエドのことを気に入ったのか、こっそり砂糖菓子を渡しながら見送っていたのがとっても印象的だった。


(*1)「見付けた塔は、森にカモフラージュされている白亜の塔です。
   …って、目立つだろっ」とDMも思わずシナリオにツッコンだ素敵な塔でした(笑)
(*2)d20OFFオリジナル呪文で「レストア・グットラック」。運勢点を回復するアイテム。
   実は超重要であることが後に判る。 



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最初の辻を北に進んで、次の辻に出た時だった。
道の真ん中に---つまり通行に邪魔な位置に標識が立っていた。
東西南北を表すだけの標識で、その上にはカラスが1羽止まっていた。

普通と違ったのはそのカラスが、「金貨をくれー」と共通語で話しかけてきたことだった。

私は財布を開き、1枚の金貨をカラスにあげた。
「もっとくれー」というから、もう1枚。
さらに「もっとくれー」というから、もう1枚。
さらにさらに「もっとくれー」というから、もう1枚あげた。

何故か呆然とやりとりを見ていたジャンゴが、「そんなに簡単にあげて良いものなんでしょうかねぇ?」と私を止めた。
 「沢山欲しがるんだから、欲しがるだけの理由があるんじゃないの?」と私は答えた。
 「何か理由があるのか?」胡散臭そうな目でドクがカラスに問いかけた。

 「よ、よくぞ聞いてくれました! 私は呪いで姿をカラスに変えられてしまった人間なんです。
  家には嫁と小さな子供が待っていまして。金貨30枚あれば元に戻れるんですよー!」
まるで涙を拭うように、器用に羽で目の辺りを覆ってカラスは嘆く。

 「そうなんだ。大変なんだね。えっと、私はお財布にあと金貨15枚分あるよ。
  さっきのと合わせれば19枚になるけど、あと11枚足りないね」
 「あ、後15枚!? く、くれるんですか? わ、私も一生懸命頑張って貯めた金貨4枚があるので、
  それがあれば後一歩ですよ! ください、くださいっ!」
 「家族が待ってるんだもんね。早く帰りたいんでしょう? だったら、あげるよ~」
 「あ、ありがとうございます! 家で待っている年老いた母親も喜びます!」

 「おい、こら、ちょっと待て。家で待っているのは嫁と子供じゃないのか?」
ドクが割り込んだ。

 「そそそそそれは、そうそう。実家、実家で年老いた母が待っているんです!」
 「そっかー。奥さんと子供だけじゃなく、お母さんまで待ってるんだ」と納得した私に、
 「いや、ものすっごく、嘘ついてますから」とジャンゴが冷静に突っ込む。
あれ? そうなの?と思ってドクを見ると、ドクも「騙されてるぞ」とボソッと呟いた。

 「えー? 私騙されてる? カラスさん嘘ついてるの?」
 「と、とんでもないですー! 嘘をつくなんてそんなことはー!」
 「無い、というのならゆっくり話を聞かせて貰おうか」
いつの間にかカラスの背後に回っていたアスバルが、カラスをワシっと掴まえつつ言った。

 「ひー、掴まえられたー! し、しまったー! 金貨四枚貰った時点で逃げておけば良かったー!!」
って、カラスが暴れたけど、アスバルはしっかり彼を掴んで離さなかった。


逃げられないって判ったカラスから話を聞いた所、魔法で姿を変えられたのは本当みたいだった。
ヤズトロモの塔に盗みに入って、それで姿を変えられちゃったんだって。
それで、金貨30枚を貯めたら元に戻してくれるっていう約束をしたらしいのも本当。
実は14歳だとか、嫁と子供がいるとか、年老いたお母さんがいるとか、その辺は嘘みたいだって、ドクとジャンゴとアスバルは言ってたけれど。

アスバルやジャンゴやドクは「空から偵察出来る人物は貴重だ」って彼を説得するのに乗り気だったし、
エドと私は新しい友人が出来ることに喜んでいたから、みんなで一緒に来てくれるように説得した。
金貨を集めているって言ってたから、探索に成功したら金貨30枚分あげる約束もして、結局、彼は私たちに同行することになった。
私たちは使命を果たした後にはヤズトロモの塔に戻るし、その際には、彼を元に戻してくれるようにお願い出来るのも大きかったと思う。

彼が現在持っている金貨は9枚。
元々持っていた4枚は器用に羽の間に隠していたけど、流石に9枚は持てなかったみたいだから、私が預かることにした。
それから、彼は「金貨30枚を貯める」という目標と同時に「ぴかぴかに磨いた金貨」の輝きも好きで集めている感じがしたので、
私は彼の金貨を休憩のたびにぴかぴかに磨いた。
今はカラスだから光り物が好きなのかもしれないけれど、凄く喜んでくれるから磨きがいがあるよ。


カラスのグワームを加え6人になった私たちは、さらに北に進んだ。
グァムが、昨日北に歩いていくゴブリンを見かけたからって言ってたから、注意深く辺りを調べながら進むことにした。


まず見付けたのは、森の中にぽこっと空いた穴だった。直径が10ftほどの穴で、斜めに地中から地上に向かって空いているようだった。
穴を最初に見付けたジャンゴと、森での隠れ身を得意とするアスバルの2人だけで、偵察に行く。
ドキドキしながら待っていると、2人は無事に戻ってきた。

 「何か大型の虫のような生き物が行き来している通路ようです」とジャンゴが言う。
ネバネバした粘液の跡があったら、ワームかその手の生き物だろうってアスバルが付け加える。
 私は、直径10ftのワームを想像して・・・「グァムの餌にはならないなぁ」と埒もないことを考えた。

ワームは自然の生き物だろうし、こちらからちょっかいを掛けない限りは襲ってこないだろうってことで、その場から出来るだけ静かに離れることにした。
一行の中で一番忍び足が苦手なのは私だったけど、幸いワームには気付かれなかった様で、無事その場を離れられた。


次に見付けたのは、岩場にある洞窟だった。
大型の生き物も入れそうなぐらい大きな入り口。
アスバルが地面を調べて
 「大型の、靴を履いていない生き物の足跡があるな…。良く行き来しているようだ…。あの洞窟にすんでいるんだろうな」
って言ったから、こちらも近づかないようにこっそり離れることにした。
まさかと思うけど、ヤズトロモが言っていたフォレスト・トロルだったら嫌だしね。

離れる途中ぶつかった岩をゴロって転がしてしまって、ひやっとしたけど、洞窟から何かが出てくる気配は無かった。(*1)


3番目に見付けたのは、樹上にある小屋だった。
粗末な作りの小屋と、そこに登る為の蔦が備え付けられていた。

 「おそらく、蛮族の家ではないでしょうかねぇ。この辺りに住んでいるって噂を聞いたことがありますしねぇ」とジャンゴ。
…口調からすると、その蛮族の人たちって、あんまりお友達になりたくない感じなのかな?と私は思った。

他のみんなも、同じ意見だったらしく、小屋を訪れることなく私たちは先に進むことにした。


(*1)中の人の聞き耳判定をしていたDMが悔しそうにしてました。ちなみにMyPCの忍び足は、出目10して8です(笑)。




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もう少しで、最初の目的地---大鷹の落下地点に着くという私たちを阻んだのは、森を横断する川だった。

川の流れは緩やかで、橋は架かっている様に見えた。
グァムが大空から偵察して来てくれたけど、この川には他に橋が架かっている所は無さそうだって言ってた。
…流れが細い所から、無理に渡ることも出来そうだけど、深さが判らないから嫌だなぁって私は思った。
みんなもそう思ったらしく、結局私たちは橋を渡ることにした。

ただ、問題は、橋の手前の木に、大きな蜂の巣があることだった。
 「スォームか・・・厄介だな」ってアスバルが呟き、
 「うむ、確かに。私の幻覚は虫にも効くが、お前達の武器はヤツラには効かんぞ?
  予備武器の準備は怠ってないだろうな?」ってドクが言った。
私たちは自分たちの武器を見渡して…えーと、つまり切ったり突いたりする武器じゃダメなんだなって、ドクの言いたかったコトを理解した。

軽くて取り回しの楽なライトメイスは持ってたけど、虫を散らすなら棍棒とかの方が便利だよね~と思って、
少し時間を貰って、私は木々の枝を加工してクラブにした。
アスバルも同じようにクラブを作っていた。
ジャンゴは、「火が効きそうですから、私はこれで」って松明を用意していた。


作戦としては、まず、ドクが作った幻で蜂の集団を橋からなるべく遠くまでおびき出す。
その間に、私たちは走って橋を渡りきるってことになった。
走るのならと、私は鎧を脱いで纏めて背負った。この鎧着ていると、
動きづらくて、みんなと同じだけ走れ無くなっちゃうからね。

この作戦は、最初は上手くいっているように思えた。
幻の“熊”は、蜂たちを遠くにおびき出すことに成功したし、
蜂が戻ってくる間に充分橋を渡りきれるだけの時間があった…はずだった。

 「・・・うわっ」
一番前を走っていたドクが、橋に足を踏み込んだ瞬間急にバランスを崩して止まった。
 「この橋、腐っているぞ!」(*1)

…って、えー!?
今更言われても困るよー!
私たちは、橋の手前で一斉にブレーキを踏んだ。
確かに目前で見ると、所々腐っていて、ヘタな所を踏むと崩れてしまいそうな橋だった。
だからといって、渡るのを躊躇していると・・・。

 「うわっ、蜂来たよ!? あっちへ行け!!」
 「くぅ、私の幻覚を見抜くとはっ!」
 「ど、毒があるんじゃないですかねっ。指された所がしびれてきましたよっ!」
 「・・・とにかく渡りきるしかないな」
って、私以外は、凄い速度で空を飛んできた蜂に取り巻かれててんてこ舞いになっていた。
私はたまたま一番離れた位置にいたから、蜂にまとわりつかれなくてすんだけど、それも時間の問題のように思えた。

とにかく、一番移動力が遅いドクを何とか逃がさないとと思って隣を見たら、エドも同じことを考えていたらしく、
 「ドク、早く進んで! ここは僕が何とかくい止めるから!」って叫んでいた。
だから、私もエドの隣に並んで、虫たちを攻撃し始めた。
なわばりを荒らされて怒っているみたいだから、攻撃した相手にまとわりついてくるだろうって思った。
私に攻撃が来れば、他の人は逃げやすいもんね。


一番先にドクが進み・・・橋の中腹でピタッと止まった。
片足が橋を踏み抜いてしまったらしく、落ちずにしがみつくだけで精一杯みたいだった。
足を引き抜こうと力を掛けた瞬間に、その周辺の木ごと、水中に落ちていた。
落ちたドクは、何とか水面に顔を出そうと努力していた。 

 「・・・私も、なんだか落ちそうな気がします」
蜂に刺され青白い顔をしたジャンゴが不吉なことを呟きつつ進んで…言葉通りに落ちた。(*2)
一瞬後には水面に沈んだジャンゴの悲鳴は聞こえなかったけど、“何か”が水中を進んでくる音と、
ドクの悲鳴が聞こえ、そして赤い血が水面に浮かんでくるのが見えた。
血の流れが大きくなるに従って、見えない何かの数が多くなっている気がした。

虫にまとわりつかれながらも、冷静に動きを観察していたアスバルが3番手だった。
彼は、軽やかに橋を渡りきると、対岸で叫んだ。
 「その蜂、どうやら、橋の上には入ってこないぞ!」

私もエドも、虫を散らすだけで精一杯だったけど、アスバルの声を聞いて、一緒に橋を駆け抜けることにした。(*3)
昼日中だったけど、”月”のご加護があったらしく、真っ直ぐ進んだ私たちは、対岸に無事渡りきることが出来た。


そこから、落ちた2人を助けようと努力した。
私は”癒し”の奇跡で、アスバルの傷を塞いだ。
蜂に付けられた小さな傷だったけど、血に反応して群がってくる“何か”が水中にいるみたいだったから。

アスバルが取り出し落としていったロープをエドが拾い上げる。

アスバルは、水面にうつぶせ漂っているドクの元まで泳ぐ。
一瞬沈みそうになったけど、すぐにバランスを取り戻してドクの元まで辿り着く。
その瞬間を待ちかまえていたエドが、ロープの端をアスバルに投げ渡し力強く引き上げる。
アスバルは、ドクの体を抱え対岸に近づいてくる。

私は“癒し”の呪文を準備して、邪魔な荷物を全て捨てた。ジャンゴを助ける為に川に飛び込む為だ。
短時間なら、神のご加護であらゆる束縛から---例え川の流れでも---自由になれるから。
でも、「ジャンゴも無理だっ!!」って川の中からアスバルが止めた。

 「・・・ジャンゴ”も”?」
鋭い制止に、私は思わず動きを止めた。

川岸を登ってきたアスバルは、ドクを地上に降ろしながら言った。
 「沈んだ時に一瞬だけ見えた。 ・・・これ以上に酷い状態になっていたぞ」

仰向けになったドクの体には、数匹の”鰻”が、傷口から生えていた。
体内にも何匹か入り込んでいるようで、所々肌が蠢いているような状態だった。
 「ブラッド・イール---傷から体内に入り込み、血と肉を啜る魚だ」
 「この魚が…! ドクとジャンゴをっ」
エドが、二人の仇を少しばかり取ってくれた。
地上でのたうつ”鰻”は、全然脅威じゃなく、あっさりと踏みつぶされていった。


 「一瞬だけ、遅かったんだね」
ドクの遺体を清めながら、私は言った。
ほんの数秒早ければ、ほんの数匹群がる”鰻”が少なければ、ドクは助けられたかも知れない。
「神官」の目で、遺体を確認した私は、そう感じた。

その、ほんの何かの違いで、私たちはドクを助けられなかった。
ジャンゴも、そんな違いで命を落としたんだのかなって思ったら、急に涙が出てきた。

遺体を清め、祈りを済ますまでは、「神官」でいなきゃって思ってたのに、全然ダメだった。
エドも涙を浮かべていたし、アスバルは無言で水に濡れた装備を改めていた。
私が「フィアナ」から「神官」に戻り、祈りを捧げられるようになるまで、2人は黙って待っていてくれた。
先に空から進んでいたグァムも、戻ってきて、じっと黙って木の上に止まって待っていてくれたみたいだった。


ドクのお墓を作り終えた私たちは、それでも前に進むことにした。
不思議と、戻るという選択肢は出なかった。

もっとも、戻ろうとしても、そこには、ボロボロの橋と”鰻”、そして”蜂”が待ちかまえていたんだけれど。

  -----第2話へ続く。


(*1)本当に足をかけた瞬間に「あ、この橋腐ってまして、渡るには『運判定』が必要です。
  ちなみに水は濁っていて底は見えません」と宣言されました。しかも疾走してたからDC上がってました(笑)。
(*2)運判定に失敗→反応セーブ(DC15?)に成功なら、その場で止まるだけですみます。
  ローグのジャンゴは、当然反応セーブは高いので「まぁ、進めなくても落ちないだろうなぁ」って油断したたら、
  PLさんがダイスを振る前に「なんだか1が出て落ちそう」と不吉なことを申されました。
  「それは言っちゃダメー!!」とみんなで叫んで・・・当然出目は1で落ちました(笑)。
(*3)“わずらわされる”セーブを落としてましたので、移動アクションしか取れません。


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