1-1 「ジェンダーフリー」と「男女共同参画」の言説史

 90年代半ばから後半にかけては、様々な意味で日本のフェミニズムの転換点となった時期として「記述される」。1995年に北京で行われた国連の世界女性会議以降、「ジェンダー」という言葉・概念を女性運動、性差別運動のキータームとして位置づける国際的な動きが強まった。行政が「男女共同参画社会」の形成へと舵を切った一方で、行動する女たちの会の解散やフェミニズムのアカデミズム化、長期不況や「後期近代化」による批判対象としての「公共圏」の変容など、フェミニズム運動の主体や地盤、前提などが大きく変動していた。

 スーザン・ファルーディの『バックラッシュ―逆襲される女たち』(新潮社)が日本で翻訳、出版されたのは1994年。その翌年の1995年、日本に「ジェンダーフリー」(あるいはジェンダー・フリー。「・」に特に意味づけは不要とし、以下、本稿において、書名、引用以外は「ジェンダーフリー」で統一する)という言葉が生まれる。この言葉は、「誤読」によって誕生し、さまざまな誤配と誤解を生み、多くの騒動の契機となり、きわめて政治的な言語になり、多くの象徴闘争(特に、2002年頃から顕在化する、「男女共同参画」「フェミニズム」「ジェンダー論」へのバックラッシュ現象)に関わっていくことになった。

 本稿では、その言説史を詳細にまとめるとともに、その背景についていくつかの考察を加えていきたい。



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最終更新:2007年10月31日 23:26