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 2002年頃より一貫して行われているのは、「ジェンダーフリー」「男女共同参画」の「弊害」を社会問題化するために、批判対象の「過剰性」を強調することで、普段その議論に関心のない層へとスキャンダル=ワンフレーズ=アジェンダを波及させること、その「実態」を過剰な言説(流言飛語など)によって築きあげ、そのことによって批判言説の「正当性」と求心力を高めることだ。『ブレンダ』の件は、その手法として象徴的な事例だといえよう。  それでは、「過激な実例」を列挙し、クレイム申し立てを行うという実践は、政治コミュニケーションとどのように結びついたのか。山谷えり子などのクレイムメイカーが国会や地方議会などで「過激な性教育」などの例を挙げ、係争の対象にしてきたことは既に指摘してきた。それらはどのような成果を挙げることが出来たのだろうか。最も大きな政治的アクションとしては、自民党PT(自民党過激な性教育・ジェンダーフリー性教育調査検討プロジェクトチーム)の存在が挙げられるだろう。その動きについて、以下簡単にまとめてみたい。  2005年3月、それまで国会等で男女共同参画やジェンダーフリーに批判的な発言を繰り返し行っていた山谷えり子参議院議員が中心となって、「自民党過激な性教育・ジェンダーフリー性教育調査検討プロジェクトチーム」(安倍晋三座長、山谷えり子事務局長)が発足した。このプロジェクトチーム(以下PT)の目的は、表向きは性教育やジェンダーフリー教育の実態について調査検討するためということであったが、実際は、12月に迫っていた男女共同参画基本計画の更新を目安に、女子差別撤廃条約や男女共同参画基本計画の問題点について検討をしていた。  自民党の「ジェンダーフリー」に対するスタンスは、4月15日に送信された、自民党が配布しているメールマガジン「自民党 NEWS PACKET」(2005.4.15 Vol.223)に現れている。 >(4) Newsなコトバ・・・・『ジェンダーフリー』 >「よく聞くけどどういう意味?」「どんな仕組みなの?」 >「いまさら他人に聞くのは恥ずかしいな~」と思うことはありませんか? >そんな「コトバ」をピックアップしてみなさんに分かりやすく解説します。 >今週は「ジェンダーフリー」です。 > >●ジェンダーフリーとは > 「ジェンダーフリー」は「ジェンダー」と「フリー」を合わせた造語で、 > 明確な定義はありませんが、一部で「画一的に男女の違いをなくし、 > 人間の中性化をめざす」という意味で使われています。 > この考えに立てば、男女の「違い」や「区別」すら「差別」となり、 > 長年培われてきた価値観や良き伝統文化を破壊する危険な考え方として、 > 危機感を持つ人が増えてきています。 > たとえば、ひな人形や鯉のぼりは「男だけ、女だけというのは差別につながる」 > と伝統文化までも否定し、ひな祭りや端午の節句の行事を > 「男らしさや女らしさの押し付け」として、取りやめた保育園がありました。 > また、ある自治体ではトイレの表示が「男性が黒、女性は赤という決めつけは、 > ジェンダーフリーの観点から好ましくない」と両方黒にした事例があるなど、 > まるで冗談のようなことが実際に行われているのです。 > >●教育現場で広がる「ジェンダーフリー教育」 > ところでこのジェンダーフリーという考え方は現在、全国各地に急速に > 広がっています。 > どうしてなのでしょうか?それは「男女共同参画」という名目で、 > 学校がジェンダーフリー教育を実践しているからなのです。 > ある小学校では、身体検査を男女一緒に行ったり、 > 体育の着替えも男女同室でさせたりしていました。さらには運動会で男女混合で > 騎馬戦を行う、林間学校や修学旅行で男女同室で宿泊させるーなど、 > このような例は全国に広がり、枚挙にいとまがないほどになっています。 > >●さらに過激な性教育も・・・ > また、過激な性教育も行われていることも明らかになりました。 > 例えば、大阪府吹田市で配布されている、小学校1・2年生向けの > 性教育副読本「おおきくなあれ こころとからだ」には、 > 「お父さんは、ペニスをお母さんのワギナにくっつけて、 > せいしが外に出ないようにしてとどけます」という文章が掲載されています。 > また、「セックス人形」を使って性行為を教えていた小学校が東京都内に80校も > あったことが分かりました。 > このような教育が、やわらかく傷つきやすい子供の心へ与える影響は計り知れず、 > 心身の健全な育成につながるはずがありません。 > >●わが党の取り組み > わが党は、こうした「ジェンダーフリー」教育がもたらす影響を深刻に受け止め、 > このほど「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」 > (座長・安倍晋三幹事長代理)を立ち上げました。 > 同チームは今後、パンフレットを作製・配布し、シンポジウム開催などの > 取り組みを通じてこの問題に警鐘を鳴らしていく方針です。 > また、こうした過激な教育が行われている事例を集めるための実態調査を > 全国的に行い、6月末に報告書を取りまとめる予定です。 > > (5)  今週のお客さま  ―高崎経済大学助教授・八木秀次さん― >東京・永田町の自民党本部には、毎日さまざまなジャンルの方がお見えになります。 >今週木曜日、高崎経済大学助教授の八木秀次さんが党本部で開かれた、 >「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態プロジェクトチーム」 >(座長・安倍晋三幹事長代理)の会合に出席し、 >「ジェンダーフリーという思想」というテーマで講演しました。 >八木さんのご専門は憲法学・思想史。大学で教鞭をとるかたわら、 >保守主義という立場から専門の憲法はもとより、 >家族・人権・教育問題などについて積極的な言論活動を展開しています。 >わが党の機関誌「月刊 自由民主」でもおなじみの若手論客です。 >講演で八木さんは、ジェンダーフリーという考え方について、 >「性差の否定、家族の解体、伝統・文化の否定、性の解放を目指すという、 >まさに革命思想に基づいたものだ」と前置きした上で、 >「男女共同参画基本法を制定する際、この政治的意図が入り込んだことに >気づかなかった、自民党に油断があったのではないか」と疑問を投げかけました。 >そして、ジェンダーフリーが広がった背景について、 >「男女共同参画を隠れみのに、政策として巨額の税金を使って >行政や教育の現場が推進しているからだ」と指摘しました。 >さらに、「このような極端な教育が子供に行われていることをおかしいと >感じる健康な親心を、自民党が救いあげて欲しい」と >男女共同参画基本法の見直しなど、積極的な対応を取るように要請しました。 >わが党はこのような教育を「おかしい」と感じる、健康な精神のある >保護者の声を結集し、教育の正常化に全力で取り組んでまいります。  自民党のスタンスは、これまで行われたクレイム申し立てをそのまま踏襲していることが分かる。5月26日には、「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」が開催されるが、参加呼びかけのビラには、「自民党は「過激な性教育」および「ジェンダーフリー教育」が、男女共同参画の美名の下に隠れたマルクス主義であることを明らかにし、学校教育の健全化を図るために、シンポジウムを開催します」と書かれており、そこには「高崎経済大学助教授・新しい歴史教科書をつくる会 会長 八木秀次」がゲストであると紹介されている 。また、安倍晋三 の署名が入った、各級所属議員に配布されたアンケート協力依頼のビラには、「同封の『新・国民の油断』(西尾幹二・八木秀次著)をご参照ください」と書かれており、「つくる会」関連の本が、自民党によって配布されていることがわかる。このシンポジウムで安倍は「社会・文化の破壊」「カンボジアで大虐殺をしたポルポト政権を思い出す」など、ジェンダーフリーに批判的なコメントを述べた上で、それらの根本には男女共同参画基本法があるとし、「基本法そのものを検討したい」と述べている。  以後、PTは「バックラッシュ」にとって大きな役割を果たすことになる。自民党の公式HPに掲載されているニュース欄、デイリー自民には、PTの動きが次のように報告されている。自民党公式HP内にある「ニュース」欄の記述から、PTの動向を確認してみよう。 >【平成17年 4月 5日】 >■ 教育の正常化をめざして「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が発足 > >  「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の初会合が5日開かれ、今後の取り組みについて協議を行った。 >同チームの座長を務める安倍晋三幹事長代理は、「10年前に男女共同参画法が決定され、男女がお互いに支えあう社会をつくっていくという意図は良かったが、ある意味でこれを利用した、問題のあるジェンダーフリー教育が蔓延している。この問題をしっかりと把握し、是正に取り組んでいきたい」とあいさつ。同チームは今後、ジェンダーフリー教育に関するパンフレットの作成・配布や、シンポジウムの開催などの取り組みを通じて国民に問題点を広く訴え、教育の正常化をめざして「草の根保守」の声を結集していきたい考え。また、過激な性教育が行われている実態調査を全国的に行い、6月末に報告書を取りまとめる方針。 > >【平成17年 4月14日】 >■ 「ジェンダーフリー思想」について勉強会を開催 過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」は14日、勉強会を開催し、「ジェンダーフリーという思想」という八木秀次・高崎経済大学助教授の講演を聞いた。 > 八木教授は、「『ジェンダーフリー』は、性差の否定、家族の解体、伝統・文化の否定、性の解放をめざすという、まさに革命思想に基づいたもの」とした上で、「『男女共同参画基本法』を制定する際に、この政治的意図が入り込んだことに気付かなかった保守側に油断があった」と強調。議員からの「なぜここまでジェンダーフリーが広がったのか」という質問に同教授は、「男女共同参画を隠れみのに、行政や教育という公の場で巨額の税金が投入されて政策として行われたため」と指摘。「このような極端な教育が子どもに行われていることをおかしいと感じる健康な親心を、自民党が救い上げてほしい」と、男女共同参画基本法の見直しなど積極的な対策を取るよう求めた。 >  同チームは5月26日に党本部でシンポジウムを開く予定で、多くの国民に問題を理解してもらうため訴えていく方針。 > > 【平成17年 5月26日】 >■ 「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」開催 >  「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」が26日、党本部で開かれ、教育の実態や思想的背景などについて意見交換が行われた。わが党所属国会議員、地方議員や一般参加者など約500人が集まった。 >パネリストは、「過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する実態調査プロジェクトチーム」座長を務める安倍晋三幹事長代理、同事務局長の山谷えり子参院議員、この問題に詳しい高崎経済大学助教授の八木秀次氏、東京都議会議員の古賀俊昭氏、元東京都立学校経営アドバイザーの鷲野一之氏の5名。安倍座長は、「男女共同参画社会で女性がのびのびと能力を発揮することは大切だが、結婚や家族の価値を認めないジェンダーフリーは文化の破壊につながる」とし、「自民党と民主党の大きな違いは、民主党はジェンダーフリーを推進しているということだ」と述べ、家族の価値観を守るわが党との姿勢を明確に打ち出した。パネリストからは、「男女共同参画基本法の精神は大切だが、それを拡大解釈して特殊な思想が教育現場に持ち込まれている」など、と懸念を表明する声が相次いだ。 >  また、実際に学校で使われた性教育人形や副読本などの展示会が開かれ、「こんなものを子どもたちに見せていたのか」と、過激な内容に参加者は驚いていた。 > >【平成17年 6月15日】 >■ 「私が考える、新しい日本」をテーマに学生弁論大会を開催 青年局 >  青年局は15日、首都圏の大学・専門学校に在籍する学生を弁士として「私が考える、新しい日本」をテーマに学生弁論大会を党本部で開催した。弁士は一般公募の首都圏在学の大学・専門学校生で、わが党と将来を担う学生が日本の将来を考えていくことを目的としている。政党としての弁論大会の開催は、日本では史上初の試み。 >  9人の学生弁士が登壇し、それぞれ5分の持ち時間で、今日の日本の政治課題について雄弁に語った。最優秀賞を獲得したのは早稲田大学1年生の二藤泰明さん。選んだテーマは「教育改革」。「人権・個性に偏重した教育を改め、ジェンダーフリー教育を排除すべき」と弁舌を振るった。「スキルではなく自分の理想とする政治を率直に語った。将来は政治家になりたい」と受賞の喜びを語った。 > >【平成17年 6月29日】 > ■ 山谷えり子参院議員が「過激な性教育とジェンダーフリー教育」の実態を解説 「議員にクリック」座談会 >  機関紙「自由民主」の座談会「議員にクリック」が29日行われ、党過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する実態調査プロジェクトチーム事務局長を務める山谷えり子参院議員が、子供を持つ2人の参加者と「過激な性教育とジェンダーフリー教育の実態」をテーマに語り合った。同議員は、異常なまでに過激な内容が書かれた性教育の副教材を紹介。同教材を見た2人はあきれた表情を浮かべながら「親の立場として、学校でどのような性教育が行われているのか心配だ」と述べた。また、同議員は、「教育が正常化しないとこの国はボロボロになる。子供達の可能性が育めるようしっかりと土台作りをしなければならない」と過激な性教育・ジェンダーフリー教育に警鐘を鳴らした。 > 座談会の詳細は後日発行される機関紙「自由民主」に掲載される予定。 > >【平成17年 7月 4日】 >■過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは4日、会議を開き、同チームが行った教育現場の実態調査アンケート結果の集計の中間報告を行った。 >  山谷えり子事務局長は、「アンケートを行ったところ、A4版で90ページにわたる実例が全国寄せられた。中には学校名がはっきり書かれたものもある」と報告。過激な教育の実例に目を通した議員からは、「ショックで声が出ない」など驚きの声があがり、「都道府県ごとに実態例をまとめれば、地域で実際に行われている問題として説明できる資料となるのでは」などの意見が出された。 > 同チームは今後、アンケート結果の集約作業を行い、「男女共同参画基本計画」の改訂に向けて議論を重ねていく方針だ。 > >【平成17年 7月 7日】 >■ 「男女共同参画基本計画」中間整理のポイントについて内閣府から聞く 過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >  過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは7日、内閣府から「男女共同基本計画」改定に向けた中間整理について内閣府に考え方を聞いた。 >  内閣府からは、「男女共同参画基本法」には「ジェンダー」という文言は入っておらず、基本計画の中にある「ジェンダー」も、機会の平等という観点で使われているものとの説明があった。同チームが先月行った調査では、トイレを男女一緒にしたり、着替えを男女同室で行うなど、いわゆる「ジェンダーフリー教育」の実例が2000件以上寄せられている。この調査結果を踏まえ、議員からは「この5年間で、男女共同参画基本計画に基づいて行われた教育による問題が出てきているのは事実」「同計画の見直しの際には『ジェンダー』という文言を削除すべき」との声が相次いだ。 >  同チームは今後、内閣部会などと合同で会議を行うなど、引き続き過激な性教育・ジェンダーフリー教育について検討を重ねていく方針。 > >【平成17年7月14日】 >■男女共同参画基本計画の改定について意見交換 内閣部会、女性に関する特別委員会、男女共同参画推進協議会、過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査PT合同会議 > 同チームの山谷えり子事務局長は、「『性差の区別も差別』とする行き過ぎた教育が行われている実態がある。誤解を招く『ジェンダー』という言葉を、改定基本計画では直してほしい」と訴えた。議員からは、「党の考え方を基本計画に反映するのは当然。さらに議論する必要がある」などの意見が出された。田浦直部会長は、「12月末の基本計画の閣議決定に向けて、節目、節目に合同部会を開いていきたい」との考えを示した。 > >【平成17年10月19日】 >■ 「県別事例集」まとまる 過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >  過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは19日の会合で、冊子「過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する県別事例集」を各議員に示した。学校での過激な性教育について全国各地から寄せられたアンケートを基にしたもので、約3500の実例の中から主なものを県別にまとめた。山谷えり子事務局長は「あまりにひどい状況のために実際に調査した例もある」としながら説明。その後の議論では、政府が今年末の閣議決定をめざしている男女共同参画基本計画の見直し作業をめぐり、内閣府に「ジェンダー」考え方を問うなど、意見や質問が出された。 > >【平成17年12月12日】 >■ 「男女共同参画基本計画改定」で党プロジェクトチームが安倍晋三官房長官に申し入れ >  逢沢一郎幹事長代理を座長とする党過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは12日、総理官邸で安倍晋三官房長官に申し入れを行った。申し入れは、教育現場が混乱していることを踏え、政府が年内の閣議決定を目指している男女共同参画基本計画改定における「ジェンダー」という文言の削除、同計画の閣議決定には家族政策の充実を含めた十分な論議を強く求めている。同プロジェクトチームの前座長でもある安倍長官は、「政府で協議し、皆さんともよく協議していきたい」と述べた。  PTが発足した4月から6月20までの期間、「実態調査アンケート」が行われた。これらの記事で紹介されている「県別事例集」は、それらをまとめたものである。  「事例集」の冒頭には、当時PTの座長であった安倍の「子どもを守るために」と題されたコメントが掲載されており、そこには「全国より寄せられたアンケートでは約三千五百の実例が集まりました。ここに県ごとに整理したものをお届けします。地元の現状把握にお役立てくだされば幸いです」と書かれている。特に過激と思われる事例(正確には、過激な実例が蔓延していると思わせられる事例)の一部は、党のウェブサイト などでも公開された。なお、自民党が歴史的大勝を果たしたこの年の選挙期間中は、トップページからこのページへのリンクとバナーは隠されており、選挙後、元に戻された。  この「事例集」は、その後いくつかのメディアで取り上げられた。例えば世界日報は2006年1月9日付の記事で「自民党プロジェクトチームに保護者などから寄せられた過激な性教育の実例は約三千五百件に上る」と紹介。産経新聞も11月11日付のウェブ記事において「ジェンダーフリー教育をめぐっては過激な性教育とともに同省が設置した「教育御意見箱」に苦情や通報があり、自民党による調査でも全国から約三千五百件の保護者の苦情や告発が相次いでいる」と紹介している。  また、PT事務局長である山谷えり子は2005年10月5日の予算会議において「三千五百の過激な性教育とジェンダーフリーの実態が集まってきております」と延べている。また、「正論」誌上において「PTには全国から三千五百件にも及ぶ「ジェンダーフリー教育」に関する実例が寄せられました。ここへ来て初めて、「ジェンダー」という言葉のもたらすいろいろな問題点が具体的に浮かび上がってきたというわけです」と語り、「文藝春秋」のコラムにおいても「国から約三千五百の実例を集めた」と明記するなど、様々な場面で、この事例を持ってジェンダーフリーや性教育の「過激な実態」を喧伝した。  2005年12月9日、PTはこの「事例集」を拠り所にし、「男女共同参画基本計画改定に当たっての要望書」を男女共同参画局に提出する。その内容は次のようなものである。 > 現在、内閣府において検討されている首記の件につき、過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム(以下PT)は本年三月に発足以来十ヶ月間に亘り、教育の正常化を目指すため議論を重ねてきた。 > 全国的な実態調査も行い、寄せられた三千五百もの実例を調査・分析した結果、「ジェンダーフリー」という名のもと、過激な性教育、家族の否定教育が行われていることがわかった。同時に、教育現場でこのような暴挙が堂々と行われている根拠が、男女共同参画基本計画を恣意的に解釈し、組合組織の活動方針としていることなども現場での調査で確認をした。 > 残念ながら、教育の現場では本来政府が推進している男女共同参画社会とは違った方向へと暴走が進んでいるのが現状である。 > このような点からも「ジェンダー」と「ジェンダーフリー」の違いを認識するには、国内状況が至っていないものと判断し、現在内閣府が提示している「男女共同参画基本計画改定」にあたっては、「ジェンダー」という文言の削除、また多数の問題が指摘されている本改定案については、家族政策の充実を含めさらに十分かつ慎重な論議を行った上で閣議決定するよう強く要望する。 > 尚、本PTでは、調査結果を重く受け止めるとともに、立党五〇年新綱領にもある「男女がともに支え合う社会」の実現に向け、正しい男女共同参画社会の推進を望みます。  この要望書では「ジェンダー」という文言の削除を要求しているが、これこそがPTの狙いのひとつであった。先の五月に行われたシンポジウムや国会の答弁、メディア上でのインタビューや座談会、コラム等においても、安部や山谷らは「ジェンダー」という言葉自体を繰り返し問題にしていた。例えば2005年7月7日におこなわれた「男女共同参画基本計画に関する専門調査会(第一二回)」にPTが提出した資料 などでも、「ジェンダー」「無償労働」などの削除を要求していることがわかる。  2005年12月は、男女共同参画基本計画の第二次計画が策定される月であり、フェミニストや保守論者によって言説上の攻防戦が繰り広げられていたが、自民党PT以外からも多くの要望書が寄せられている。公明党は12月6日に「男女共同参画基本計画の改定に関する要望書」を、日本共産党は12月9日に「男女共同参画基本計画改定に当たっての申し入れ」を、自由民主党男女共同参画新人議員勉強会は12月14日に「男女共同参画基本計画改定に関する提言(案)」を、社会民主党は12月22日に「男女共同参画基本計画の改定に関する要望書」を提出した(資料参照)。PT以外の要望書では自由民主党男女共同参画新人議員勉強会を含め、一貫して「ジェンダーの視点に立つこと」の重要性を訴えている。  この要望書、および一連のPTの動きを受けて、二〇〇五年一二月に閣議決定された男女共同参画基本計画(第二次)には、「『ジェンダー・フリー』という用語を使用して、性差を否定したり、男らしさ、女らしさや男女の区別をなくして人間の中性化を目指すこと、また、家族やひな祭り等の伝統文化を否定することは、国民が求める男女共同参画社会とは異なる。例えば、児童生徒の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育、男女同室着替え、男女同室宿泊、男女混合騎馬戦等の事例は極めて非常識である。また、公共の施設におけるトイレの男女別色表示を同色にすることは、男女共同参画の趣旨から導き出されるものではない」と明記された。また、第一次計画と第二次計画では、このような流れを受けて次のような点が変更されている。 >1 「ジェンダー」概念とその表現 > 第一次計画では、「社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)に敏感な視点」という表現だったが、第二次計画では、「社会的性別(ジェンダー)の視点」とし、ジェンダーの定義に関する詳しい説明が記された。 >2 女性学、ジェンダー学 > 反対派からは、女性学等への批判が展開され、第一次計画にあった「女性学、ジェンダーに関する調査・研究等の充実」と言う表現が第二次計画ではなくなった。しかし、第二次計画では「男女共同参画社会の形成に資する調査研究等の充実」という記述として残されている。 >3 性教育 > 第一次計画においても、「児童生徒の発達段階に応じた」性教育の充実との記述がされていたが、性教育の一部に過激なものがみられるのは基本計画の影響である、という根拠のない批判が展開されたため、第二次計画では「適切な性教育の推進」として「行き過ぎた内容とならないよう」等詳しい記述が置かれた。 >4 選択的夫婦別氏制度 > 中間整理においては、「選択的夫婦別氏制度の導入については(…)国民の理解が深まるよう引き続き努める」とされていたが、第二次計画では、「(…)選択的夫婦別氏制度については、国民の議論が深まるよう引き続き努める」との表現になった。 >5 無償労働 > 第一次計画においては「無償労働の数量的把握の推進」が記述されていたが、第二次計画においては、「無償労働」との表現が落とされ、「育児・介護等の時間の把握」となった。  基本計画がこのように変更され、ジェンダーフリーへの否定的注釈がつけられた後、1月31日に内閣府から「今後はこの用語(ジェンダーフリー)は使用しないことが適切と考えます」という通達が各都道府県の政令指定都市男女共同参画担当課に送付された。  「3520の実例」は、それ自体がクレイム申し立ての証拠として採用されるとともに、以後のバッシング言説の正当化としても利用されていく。だが、自民党の「事例集」は、その作成の手続きにおいても、その使用のされ方においても、いくつも問題が指摘されている。  まず、「県別事例集」がどういう経緯でつくられたのかを確認しておこう。「県別事例集」は、PTが発足した四月から六月二〇日までの期間に行った「実態調査アンケート」をまとめたものだ。先ほども述べたとおり、各級議員には協力要請のビラが送付され、そこには八木秀次(当時は「つくる会」会長)と西尾幹二(当時は「つくる会」名誉会長)の共著『新・国民の油断』が同封されており、アンケートの動機にかなりのバイアスがかかっていることがうかがえる。そのアンケート項目は、次のようなものだった。 >A.過激な性教育について >1.コンドームなど避妊具の使い方実習 >(*全国各地の小学生の父母から悲鳴があがっています) >2.性交シーン、出産のビデオやアニメ、図解資料などの使用 >(*気分が悪くなった子どもたちの声が届いています) >3.性器つき人形などを用いての実習 >(*東京都が一部調査したところ八〇の小学校からセックス人形が見つかりました) >4.ピル(WHOで十代の服用は禁止)の服用をすすめるような教育 >(*三年前、全国の中学三年生にピルを薦める小冊子一三〇万部が印刷されました) >5.中絶の勧めともいえるような表現や性の自己決定権を教える >(*三年前、“日本では中絶が許されている”という記述の小冊子が、全国の中学三年生用に一三〇万部印刷されていました) > >B.ジェンダーフリー教育について >1.体育や水泳などの着替えは男女同室か(*高校でも着替えを同室でしている学校があります) >2.身体検査は男女一緒か >3.林間学校や修学旅行などで男女同室か >(*一部調査したところ、仙台市一二二校中三三校、山形市三六校中一九校、沼津市一六校中九校が同室) >4.男女混合騎馬戦などを行っているか >(*北海道教育委員会の調査では、小学校の七〇~八〇%、中学校の二五~三〇%が混合だった) >5.ジェンダー、ジェンダーフリー教育という言葉を使っているか >(*“子育てはジェンダーフリーで”と書かれた冊子【文部科学省嘱託事業作成】がこの春まで、薦められていました) >6.男らしさ、女らしさを否定する教育をしているか >(*幼稚園、保育園から“ひな祭り”が中止になったという声が全国から届いています) > >C.家庭科教育の問題について >1.これまで家族のかたちを否定、軽視し、現行法から除外される婚姻形態(事実婚や同性婚)など多様な家族観を教えている >2.非婚の母、シングルマザーなど、その生き方を推奨するような表現をしている >3.離婚の勧めともとりかねない内容を教えている  これら質問にはそれぞれ5つの選択肢が並んでおり、「(1)ない(2)ないと思われるが、正確には把握していない(3)おそらくあると思う(4)過去にあったが現在はない(5)ある」の(1)~(5)の中から選択するようになっています。また、(6)の項目として、「(4)若しくは(5)であると答えた場合、具体的にお書きください」と書かれている。この選択肢は数が多いほど「そういう実例がある」という答えになっているが、このアンケート自体に誘導的な仕掛けがいくつもほどこされていることが分かる。このアンケートには、「インターネット、FAXによるアンケートフォーム回答数」が1220件、「FAX、郵送によるアンケートフォーム外のご意見など」が2300件寄せられた。この回答の中には各級議員の返信も含まれているが、これらは回答数であり、実例とは別である。「県別事例集」に掲載されている回答を数えてみると1214件しかない。そのうち、「実例」としてカウントできるのはせいぜい数百件であり 、その数百件すら客観的にみて「過激な実例」であるかはさらに吟味を要求されるものであるため、この「事例集」をもって「『ジェンダーフリー』という名のもと、過激な性教育、家族の否定教育が行われている」ということはできない。  かようにPTもまた、過剰なケースを戦略的に構築しつつ、「過激な実例があるから反対」というスタンスを取った。PTの目論みは、「実態調査」を行い、過剰性を列挙することで、「ジェンダー」の文言を削除することや、基本法の抜本的見直しを迫るものであった。その結果、男女共同参画基本計画に否定的な注釈がつけられた他、「ジェンダーフリー」という文言が議論の場で使いにくくなるなどの効果を生む。この「成果」の後、自民党は安倍政権の誕生などから、それまでとは異なる手法によって「教育再生」を訴えるようにステージを移し 、PTは目立った活動を見せず、「実態調査」を終えた後はそのまま解散したものと思われる。 2002年頃から盛り上がりを見せた「バックラッシュ」言説は、男女共同参画基本計画(第二次)が策定されたことを境目に2005年12月以降、一気に収束していく。毎号のようにジェンダーフリーや男女共同参画への批判記事を掲載していた『正論』も、2006年1月以降は取り扱いの頻度を激減させた。ウェブ上の言説実践も2006年以降は下降気味である。  2006年12月13日、参議院教育基本法に関する特別委員会にて、「ジェンダーフリー」について尋ねられた高市早苗(少子化・男女共同参画国務大臣)は、「現在はジェンダーフリーという言葉を使用しない方がいいということで地方の方にも国から文書を送っております。このジェンダーフリーという用語を使用することについては、第二次男女共同参画基本計画にも明確に書かせていただいておりまして、この用語を使用して、性差を否定したり、男らしさ、女らしさや男女の区別をなくして人間の中性化を目指すこと、また、家族やひな祭り等の伝統文化を否定することは、国民が求める男女共同参画社会とは異なるということで、例えばということで、児童生徒の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育、男女同室の着替え、男女同室の宿泊、男女混合騎馬戦などの事例は極めて非常識であると、ここまで書いているところでございます」と答えている。高市早苗は「反フェミニズム」として有名な政治家でもあり、『正論』などの特集でも名を連ねているが、この発言からはジェンダーフリー批判の文言を反復している一方、この問題に関して「手打ち」にしようという意図がうかがえる。  象徴的な記事がある。『日本経済新聞』2006年11月7日に掲載された次のような記事だ。 > 高市少子化担当相、待機児童解消見直し論を批判 > 高市早苗少子化担当相は7日の閣議後の記者会見で、下村博文官房副長官が保育所確保に税金を投入する待機児童解消策の見直しに言及したことについて「少なくとも2万人の待機児童がいる。解消に向けてがんばらなければいけない」と批判した。同時に「(女性に)仕事をやめて家で子育てしろと言い切ってしまうと、仕事を続けられない、自己実現できないことを理由に子供を産まない人も出てくる。とても残念だ」と指摘した。 > 下村氏は5日の講演で、「(待機児童解消策を)見直す時期に来ているのではないか。ゼロ歳児の母親は無理に働かなくても、しっかりと家庭教育をやってもらうようにシフトしていく方が本来、望ましい」と発言していた。  この記事に象徴されるように、男女共同参画基本計画(第二次)に対して否定的注釈が付いたことで、国政では男女共同参画基本法を見直すべしという声は沈静化していくこととなった。
前:[[2-5-4 「ジェンダー論の嘘」の構築 >http://www12.atwiki.jp/seijotcp/pages/32.html]] ***2-5-5 自民党による「3520の実例」の構築  2002年頃より一貫して行われているのは、「ジェンダーフリー」「男女共同参画」の「弊害」を社会問題化するために、批判対象の「過剰性」を強調することで、普段その議論に関心のない層へとスキャンダル=ワンフレーズ=アジェンダを波及させること、その「実態」を過剰な言説(流言飛語など)によって築きあげ、そのことによって批判言説の「正当性」と求心力を高めることだ。『ブレンダ』の件は、その手法として象徴的な事例だといえよう。  それでは、「過激な実例」を列挙し、クレイム申し立てを行うという実践は、政治コミュニケーションとどのように結びついたのか。山谷えり子などのクレイムメイカーが国会や地方議会などで「過激な性教育」などの例を挙げ、係争の対象にしてきたことは既に指摘してきた。それらはどのような成果を挙げることが出来たのだろうか。最も大きな政治的アクションとしては、自民党PT(自民党過激な性教育・ジェンダーフリー性教育調査検討プロジェクトチーム)の存在が挙げられるだろう。その動きについて、以下簡単にまとめてみたい。  2005年3月、それまで国会等で男女共同参画やジェンダーフリーに批判的な発言を繰り返し行っていた山谷えり子参議院議員が中心となって、「自民党過激な性教育・ジェンダーフリー性教育調査検討プロジェクトチーム」(安倍晋三座長、山谷えり子事務局長)が発足した。このプロジェクトチーム(以下PT)の目的は、表向きは性教育やジェンダーフリー教育の実態について調査検討するためということであったが、実際は、12月に迫っていた男女共同参画基本計画の更新を目安に、女子差別撤廃条約や男女共同参画基本計画の問題点について検討をしていた。  自民党の「ジェンダーフリー」に対するスタンスは、4月15日に送信された、自民党が配布しているメールマガジン「自民党 NEWS PACKET」(2005.4.15 Vol.223)に現れている。 >(4) Newsなコトバ・・・・『ジェンダーフリー』 >「よく聞くけどどういう意味?」「どんな仕組みなの?」 >「いまさら他人に聞くのは恥ずかしいな~」と思うことはありませんか? >そんな「コトバ」をピックアップしてみなさんに分かりやすく解説します。 >今週は「ジェンダーフリー」です。 > >●ジェンダーフリーとは > 「ジェンダーフリー」は「ジェンダー」と「フリー」を合わせた造語で、 > 明確な定義はありませんが、一部で「画一的に男女の違いをなくし、 > 人間の中性化をめざす」という意味で使われています。 > この考えに立てば、男女の「違い」や「区別」すら「差別」となり、 > 長年培われてきた価値観や良き伝統文化を破壊する危険な考え方として、 > 危機感を持つ人が増えてきています。 > たとえば、ひな人形や鯉のぼりは「男だけ、女だけというのは差別につながる」 > と伝統文化までも否定し、ひな祭りや端午の節句の行事を > 「男らしさや女らしさの押し付け」として、取りやめた保育園がありました。 > また、ある自治体ではトイレの表示が「男性が黒、女性は赤という決めつけは、 > ジェンダーフリーの観点から好ましくない」と両方黒にした事例があるなど、 > まるで冗談のようなことが実際に行われているのです。 > >●教育現場で広がる「ジェンダーフリー教育」 > ところでこのジェンダーフリーという考え方は現在、全国各地に急速に > 広がっています。 > どうしてなのでしょうか?それは「男女共同参画」という名目で、 > 学校がジェンダーフリー教育を実践しているからなのです。 > ある小学校では、身体検査を男女一緒に行ったり、 > 体育の着替えも男女同室でさせたりしていました。さらには運動会で男女混合で > 騎馬戦を行う、林間学校や修学旅行で男女同室で宿泊させるーなど、 > このような例は全国に広がり、枚挙にいとまがないほどになっています。 > >●さらに過激な性教育も・・・ > また、過激な性教育も行われていることも明らかになりました。 > 例えば、大阪府吹田市で配布されている、小学校1・2年生向けの > 性教育副読本「おおきくなあれ こころとからだ」には、 > 「お父さんは、ペニスをお母さんのワギナにくっつけて、 > せいしが外に出ないようにしてとどけます」という文章が掲載されています。 > また、「セックス人形」を使って性行為を教えていた小学校が東京都内に80校も > あったことが分かりました。 > このような教育が、やわらかく傷つきやすい子供の心へ与える影響は計り知れず、 > 心身の健全な育成につながるはずがありません。 > >●わが党の取り組み > わが党は、こうした「ジェンダーフリー」教育がもたらす影響を深刻に受け止め、 > このほど「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」 > (座長・安倍晋三幹事長代理)を立ち上げました。 > 同チームは今後、パンフレットを作製・配布し、シンポジウム開催などの > 取り組みを通じてこの問題に警鐘を鳴らしていく方針です。 > また、こうした過激な教育が行われている事例を集めるための実態調査を > 全国的に行い、6月末に報告書を取りまとめる予定です。 > > (5)  今週のお客さま  ―高崎経済大学助教授・八木秀次さん― >東京・永田町の自民党本部には、毎日さまざまなジャンルの方がお見えになります。 >今週木曜日、高崎経済大学助教授の八木秀次さんが党本部で開かれた、 >「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態プロジェクトチーム」 >(座長・安倍晋三幹事長代理)の会合に出席し、 >「ジェンダーフリーという思想」というテーマで講演しました。 >八木さんのご専門は憲法学・思想史。大学で教鞭をとるかたわら、 >保守主義という立場から専門の憲法はもとより、 >家族・人権・教育問題などについて積極的な言論活動を展開しています。 >わが党の機関誌「月刊 自由民主」でもおなじみの若手論客です。 >講演で八木さんは、ジェンダーフリーという考え方について、 >「性差の否定、家族の解体、伝統・文化の否定、性の解放を目指すという、 >まさに革命思想に基づいたものだ」と前置きした上で、 >「男女共同参画基本法を制定する際、この政治的意図が入り込んだことに >気づかなかった、自民党に油断があったのではないか」と疑問を投げかけました。 >そして、ジェンダーフリーが広がった背景について、 >「男女共同参画を隠れみのに、政策として巨額の税金を使って >行政や教育の現場が推進しているからだ」と指摘しました。 >さらに、「このような極端な教育が子供に行われていることをおかしいと >感じる健康な親心を、自民党が救いあげて欲しい」と >男女共同参画基本法の見直しなど、積極的な対応を取るように要請しました。 >わが党はこのような教育を「おかしい」と感じる、健康な精神のある >保護者の声を結集し、教育の正常化に全力で取り組んでまいります。  自民党のスタンスは、これまで行われたクレイム申し立てをそのまま踏襲していることが分かる。5月26日には、「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」が開催されるが、参加呼びかけのビラには、「自民党は「過激な性教育」および「ジェンダーフリー教育」が、男女共同参画の美名の下に隠れたマルクス主義であることを明らかにし、学校教育の健全化を図るために、シンポジウムを開催します」と書かれており、そこには「高崎経済大学助教授・新しい歴史教科書をつくる会 会長 八木秀次」がゲストであると紹介されている 。また、安倍晋三 の署名が入った、各級所属議員に配布されたアンケート協力依頼のビラには、「同封の『新・国民の油断』(西尾幹二・八木秀次著)をご参照ください」と書かれており、「つくる会」関連の本が、自民党によって配布されていることがわかる。このシンポジウムで安倍は「社会・文化の破壊」「カンボジアで大虐殺をしたポルポト政権を思い出す」など、ジェンダーフリーに批判的なコメントを述べた上で、それらの根本には男女共同参画基本法があるとし、「基本法そのものを検討したい」と述べている。  以後、PTは「バックラッシュ」にとって大きな役割を果たすことになる。自民党の公式HPに掲載されているニュース欄、デイリー自民には、PTの動きが次のように報告されている。自民党公式HP内にある「ニュース」欄の記述から、PTの動向を確認してみよう。 >【平成17年 4月 5日】 >■ 教育の正常化をめざして「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が発足 > >  「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の初会合が5日開かれ、今後の取り組みについて協議を行った。 >同チームの座長を務める安倍晋三幹事長代理は、「10年前に男女共同参画法が決定され、男女がお互いに支えあう社会をつくっていくという意図は良かったが、ある意味でこれを利用した、問題のあるジェンダーフリー教育が蔓延している。この問題をしっかりと把握し、是正に取り組んでいきたい」とあいさつ。同チームは今後、ジェンダーフリー教育に関するパンフレットの作成・配布や、シンポジウムの開催などの取り組みを通じて国民に問題点を広く訴え、教育の正常化をめざして「草の根保守」の声を結集していきたい考え。また、過激な性教育が行われている実態調査を全国的に行い、6月末に報告書を取りまとめる方針。 > >【平成17年 4月14日】 >■ 「ジェンダーフリー思想」について勉強会を開催 過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」は14日、勉強会を開催し、「ジェンダーフリーという思想」という八木秀次・高崎経済大学助教授の講演を聞いた。 > 八木教授は、「『ジェンダーフリー』は、性差の否定、家族の解体、伝統・文化の否定、性の解放をめざすという、まさに革命思想に基づいたもの」とした上で、「『男女共同参画基本法』を制定する際に、この政治的意図が入り込んだことに気付かなかった保守側に油断があった」と強調。議員からの「なぜここまでジェンダーフリーが広がったのか」という質問に同教授は、「男女共同参画を隠れみのに、行政や教育という公の場で巨額の税金が投入されて政策として行われたため」と指摘。「このような極端な教育が子どもに行われていることをおかしいと感じる健康な親心を、自民党が救い上げてほしい」と、男女共同参画基本法の見直しなど積極的な対策を取るよう求めた。 >  同チームは5月26日に党本部でシンポジウムを開く予定で、多くの国民に問題を理解してもらうため訴えていく方針。 > > 【平成17年 5月26日】 >■ 「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」開催 >  「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」が26日、党本部で開かれ、教育の実態や思想的背景などについて意見交換が行われた。わが党所属国会議員、地方議員や一般参加者など約500人が集まった。 >パネリストは、「過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する実態調査プロジェクトチーム」座長を務める安倍晋三幹事長代理、同事務局長の山谷えり子参院議員、この問題に詳しい高崎経済大学助教授の八木秀次氏、東京都議会議員の古賀俊昭氏、元東京都立学校経営アドバイザーの鷲野一之氏の5名。安倍座長は、「男女共同参画社会で女性がのびのびと能力を発揮することは大切だが、結婚や家族の価値を認めないジェンダーフリーは文化の破壊につながる」とし、「自民党と民主党の大きな違いは、民主党はジェンダーフリーを推進しているということだ」と述べ、家族の価値観を守るわが党との姿勢を明確に打ち出した。パネリストからは、「男女共同参画基本法の精神は大切だが、それを拡大解釈して特殊な思想が教育現場に持ち込まれている」など、と懸念を表明する声が相次いだ。 >  また、実際に学校で使われた性教育人形や副読本などの展示会が開かれ、「こんなものを子どもたちに見せていたのか」と、過激な内容に参加者は驚いていた。 > >【平成17年 6月15日】 >■ 「私が考える、新しい日本」をテーマに学生弁論大会を開催 青年局 >  青年局は15日、首都圏の大学・専門学校に在籍する学生を弁士として「私が考える、新しい日本」をテーマに学生弁論大会を党本部で開催した。弁士は一般公募の首都圏在学の大学・専門学校生で、わが党と将来を担う学生が日本の将来を考えていくことを目的としている。政党としての弁論大会の開催は、日本では史上初の試み。 >  9人の学生弁士が登壇し、それぞれ5分の持ち時間で、今日の日本の政治課題について雄弁に語った。最優秀賞を獲得したのは早稲田大学1年生の二藤泰明さん。選んだテーマは「教育改革」。「人権・個性に偏重した教育を改め、ジェンダーフリー教育を排除すべき」と弁舌を振るった。「スキルではなく自分の理想とする政治を率直に語った。将来は政治家になりたい」と受賞の喜びを語った。 > >【平成17年 6月29日】 > ■ 山谷えり子参院議員が「過激な性教育とジェンダーフリー教育」の実態を解説 「議員にクリック」座談会 >  機関紙「自由民主」の座談会「議員にクリック」が29日行われ、党過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する実態調査プロジェクトチーム事務局長を務める山谷えり子参院議員が、子供を持つ2人の参加者と「過激な性教育とジェンダーフリー教育の実態」をテーマに語り合った。同議員は、異常なまでに過激な内容が書かれた性教育の副教材を紹介。同教材を見た2人はあきれた表情を浮かべながら「親の立場として、学校でどのような性教育が行われているのか心配だ」と述べた。また、同議員は、「教育が正常化しないとこの国はボロボロになる。子供達の可能性が育めるようしっかりと土台作りをしなければならない」と過激な性教育・ジェンダーフリー教育に警鐘を鳴らした。 > 座談会の詳細は後日発行される機関紙「自由民主」に掲載される予定。 > >【平成17年 7月 4日】 >■過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは4日、会議を開き、同チームが行った教育現場の実態調査アンケート結果の集計の中間報告を行った。 >  山谷えり子事務局長は、「アンケートを行ったところ、A4版で90ページにわたる実例が全国寄せられた。中には学校名がはっきり書かれたものもある」と報告。過激な教育の実例に目を通した議員からは、「ショックで声が出ない」など驚きの声があがり、「都道府県ごとに実態例をまとめれば、地域で実際に行われている問題として説明できる資料となるのでは」などの意見が出された。 > 同チームは今後、アンケート結果の集約作業を行い、「男女共同参画基本計画」の改訂に向けて議論を重ねていく方針だ。 > >【平成17年 7月 7日】 >■ 「男女共同参画基本計画」中間整理のポイントについて内閣府から聞く 過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >  過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは7日、内閣府から「男女共同基本計画」改定に向けた中間整理について内閣府に考え方を聞いた。 >  内閣府からは、「男女共同参画基本法」には「ジェンダー」という文言は入っておらず、基本計画の中にある「ジェンダー」も、機会の平等という観点で使われているものとの説明があった。同チームが先月行った調査では、トイレを男女一緒にしたり、着替えを男女同室で行うなど、いわゆる「ジェンダーフリー教育」の実例が2000件以上寄せられている。この調査結果を踏まえ、議員からは「この5年間で、男女共同参画基本計画に基づいて行われた教育による問題が出てきているのは事実」「同計画の見直しの際には『ジェンダー』という文言を削除すべき」との声が相次いだ。 >  同チームは今後、内閣部会などと合同で会議を行うなど、引き続き過激な性教育・ジェンダーフリー教育について検討を重ねていく方針。 > >【平成17年7月14日】 >■男女共同参画基本計画の改定について意見交換 内閣部会、女性に関する特別委員会、男女共同参画推進協議会、過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査PT合同会議 > 同チームの山谷えり子事務局長は、「『性差の区別も差別』とする行き過ぎた教育が行われている実態がある。誤解を招く『ジェンダー』という言葉を、改定基本計画では直してほしい」と訴えた。議員からは、「党の考え方を基本計画に反映するのは当然。さらに議論する必要がある」などの意見が出された。田浦直部会長は、「12月末の基本計画の閣議決定に向けて、節目、節目に合同部会を開いていきたい」との考えを示した。 > >【平成17年10月19日】 >■ 「県別事例集」まとまる 過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム >  過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは19日の会合で、冊子「過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する県別事例集」を各議員に示した。学校での過激な性教育について全国各地から寄せられたアンケートを基にしたもので、約3500の実例の中から主なものを県別にまとめた。山谷えり子事務局長は「あまりにひどい状況のために実際に調査した例もある」としながら説明。その後の議論では、政府が今年末の閣議決定をめざしている男女共同参画基本計画の見直し作業をめぐり、内閣府に「ジェンダー」考え方を問うなど、意見や質問が出された。 > >【平成17年12月12日】 >■ 「男女共同参画基本計画改定」で党プロジェクトチームが安倍晋三官房長官に申し入れ >  逢沢一郎幹事長代理を座長とする党過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチームは12日、総理官邸で安倍晋三官房長官に申し入れを行った。申し入れは、教育現場が混乱していることを踏え、政府が年内の閣議決定を目指している男女共同参画基本計画改定における「ジェンダー」という文言の削除、同計画の閣議決定には家族政策の充実を含めた十分な論議を強く求めている。同プロジェクトチームの前座長でもある安倍長官は、「政府で協議し、皆さんともよく協議していきたい」と述べた。  PTが発足した4月から6月20までの期間、「実態調査アンケート」が行われた。これらの記事で紹介されている「県別事例集」は、それらをまとめたものである。  「事例集」の冒頭には、当時PTの座長であった安倍の「子どもを守るために」と題されたコメントが掲載されており、そこには「全国より寄せられたアンケートでは約三千五百の実例が集まりました。ここに県ごとに整理したものをお届けします。地元の現状把握にお役立てくだされば幸いです」と書かれている。特に過激と思われる事例(正確には、過激な実例が蔓延していると思わせられる事例)の一部は、党のウェブサイト などでも公開された。なお、自民党が歴史的大勝を果たしたこの年の選挙期間中は、トップページからこのページへのリンクとバナーは隠されており、選挙後、元に戻された。  この「事例集」は、その後いくつかのメディアで取り上げられた。例えば世界日報は2006年1月9日付の記事で「自民党プロジェクトチームに保護者などから寄せられた過激な性教育の実例は約三千五百件に上る」と紹介。産経新聞も11月11日付のウェブ記事において「ジェンダーフリー教育をめぐっては過激な性教育とともに同省が設置した「教育御意見箱」に苦情や通報があり、自民党による調査でも全国から約三千五百件の保護者の苦情や告発が相次いでいる」と紹介している。  また、PT事務局長である山谷えり子は2005年10月5日の予算会議において「三千五百の過激な性教育とジェンダーフリーの実態が集まってきております」と延べている。また、「正論」誌上において「PTには全国から三千五百件にも及ぶ「ジェンダーフリー教育」に関する実例が寄せられました。ここへ来て初めて、「ジェンダー」という言葉のもたらすいろいろな問題点が具体的に浮かび上がってきたというわけです」と語り、「文藝春秋」のコラムにおいても「国から約三千五百の実例を集めた」と明記するなど、様々な場面で、この事例を持ってジェンダーフリーや性教育の「過激な実態」を喧伝した。  2005年12月9日、PTはこの「事例集」を拠り所にし、「男女共同参画基本計画改定に当たっての要望書」を男女共同参画局に提出する。その内容は次のようなものである。 > 現在、内閣府において検討されている首記の件につき、過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム(以下PT)は本年三月に発足以来十ヶ月間に亘り、教育の正常化を目指すため議論を重ねてきた。 > 全国的な実態調査も行い、寄せられた三千五百もの実例を調査・分析した結果、「ジェンダーフリー」という名のもと、過激な性教育、家族の否定教育が行われていることがわかった。同時に、教育現場でこのような暴挙が堂々と行われている根拠が、男女共同参画基本計画を恣意的に解釈し、組合組織の活動方針としていることなども現場での調査で確認をした。 > 残念ながら、教育の現場では本来政府が推進している男女共同参画社会とは違った方向へと暴走が進んでいるのが現状である。 > このような点からも「ジェンダー」と「ジェンダーフリー」の違いを認識するには、国内状況が至っていないものと判断し、現在内閣府が提示している「男女共同参画基本計画改定」にあたっては、「ジェンダー」という文言の削除、また多数の問題が指摘されている本改定案については、家族政策の充実を含めさらに十分かつ慎重な論議を行った上で閣議決定するよう強く要望する。 > 尚、本PTでは、調査結果を重く受け止めるとともに、立党五〇年新綱領にもある「男女がともに支え合う社会」の実現に向け、正しい男女共同参画社会の推進を望みます。  この要望書では「ジェンダー」という文言の削除を要求しているが、これこそがPTの狙いのひとつであった。先の五月に行われたシンポジウムや国会の答弁、メディア上でのインタビューや座談会、コラム等においても、安部や山谷らは「ジェンダー」という言葉自体を繰り返し問題にしていた。例えば2005年7月7日におこなわれた「男女共同参画基本計画に関する専門調査会(第一二回)」にPTが提出した資料 などでも、「ジェンダー」「無償労働」などの削除を要求していることがわかる。  2005年12月は、男女共同参画基本計画の第二次計画が策定される月であり、フェミニストや保守論者によって言説上の攻防戦が繰り広げられていたが、自民党PT以外からも多くの要望書が寄せられている。公明党は12月6日に「男女共同参画基本計画の改定に関する要望書」を、日本共産党は12月9日に「男女共同参画基本計画改定に当たっての申し入れ」を、自由民主党男女共同参画新人議員勉強会は12月14日に「男女共同参画基本計画改定に関する提言(案)」を、社会民主党は12月22日に「男女共同参画基本計画の改定に関する要望書」を提出した(資料参照)。PT以外の要望書では自由民主党男女共同参画新人議員勉強会を含め、一貫して「ジェンダーの視点に立つこと」の重要性を訴えている。  この要望書、および一連のPTの動きを受けて、二〇〇五年一二月に閣議決定された男女共同参画基本計画(第二次)には、「『ジェンダー・フリー』という用語を使用して、性差を否定したり、男らしさ、女らしさや男女の区別をなくして人間の中性化を目指すこと、また、家族やひな祭り等の伝統文化を否定することは、国民が求める男女共同参画社会とは異なる。例えば、児童生徒の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育、男女同室着替え、男女同室宿泊、男女混合騎馬戦等の事例は極めて非常識である。また、公共の施設におけるトイレの男女別色表示を同色にすることは、男女共同参画の趣旨から導き出されるものではない」と明記された。また、第一次計画と第二次計画では、このような流れを受けて次のような点が変更されている。 >1 「ジェンダー」概念とその表現 > 第一次計画では、「社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)に敏感な視点」という表現だったが、第二次計画では、「社会的性別(ジェンダー)の視点」とし、ジェンダーの定義に関する詳しい説明が記された。 >2 女性学、ジェンダー学 > 反対派からは、女性学等への批判が展開され、第一次計画にあった「女性学、ジェンダーに関する調査・研究等の充実」と言う表現が第二次計画ではなくなった。しかし、第二次計画では「男女共同参画社会の形成に資する調査研究等の充実」という記述として残されている。 >3 性教育 > 第一次計画においても、「児童生徒の発達段階に応じた」性教育の充実との記述がされていたが、性教育の一部に過激なものがみられるのは基本計画の影響である、という根拠のない批判が展開されたため、第二次計画では「適切な性教育の推進」として「行き過ぎた内容とならないよう」等詳しい記述が置かれた。 >4 選択的夫婦別氏制度 > 中間整理においては、「選択的夫婦別氏制度の導入については(…)国民の理解が深まるよう引き続き努める」とされていたが、第二次計画では、「(…)選択的夫婦別氏制度については、国民の議論が深まるよう引き続き努める」との表現になった。 >5 無償労働 > 第一次計画においては「無償労働の数量的把握の推進」が記述されていたが、第二次計画においては、「無償労働」との表現が落とされ、「育児・介護等の時間の把握」となった。  基本計画がこのように変更され、ジェンダーフリーへの否定的注釈がつけられた後、1月31日に内閣府から「今後はこの用語(ジェンダーフリー)は使用しないことが適切と考えます」という通達が各都道府県の政令指定都市男女共同参画担当課に送付された。  「3520の実例」は、それ自体がクレイム申し立ての証拠として採用されるとともに、以後のバッシング言説の正当化としても利用されていく。だが、自民党の「事例集」は、その作成の手続きにおいても、その使用のされ方においても、いくつも問題が指摘されている。  まず、「県別事例集」がどういう経緯でつくられたのかを確認しておこう。「県別事例集」は、PTが発足した四月から六月二〇日までの期間に行った「実態調査アンケート」をまとめたものだ。先ほども述べたとおり、各級議員には協力要請のビラが送付され、そこには八木秀次(当時は「つくる会」会長)と西尾幹二(当時は「つくる会」名誉会長)の共著『新・国民の油断』が同封されており、アンケートの動機にかなりのバイアスがかかっていることがうかがえる。そのアンケート項目は、次のようなものだった。 >A.過激な性教育について >1.コンドームなど避妊具の使い方実習 >(*全国各地の小学生の父母から悲鳴があがっています) >2.性交シーン、出産のビデオやアニメ、図解資料などの使用 >(*気分が悪くなった子どもたちの声が届いています) >3.性器つき人形などを用いての実習 >(*東京都が一部調査したところ八〇の小学校からセックス人形が見つかりました) >4.ピル(WHOで十代の服用は禁止)の服用をすすめるような教育 >(*三年前、全国の中学三年生にピルを薦める小冊子一三〇万部が印刷されました) >5.中絶の勧めともいえるような表現や性の自己決定権を教える >(*三年前、“日本では中絶が許されている”という記述の小冊子が、全国の中学三年生用に一三〇万部印刷されていました) > >B.ジェンダーフリー教育について >1.体育や水泳などの着替えは男女同室か(*高校でも着替えを同室でしている学校があります) >2.身体検査は男女一緒か >3.林間学校や修学旅行などで男女同室か >(*一部調査したところ、仙台市一二二校中三三校、山形市三六校中一九校、沼津市一六校中九校が同室) >4.男女混合騎馬戦などを行っているか >(*北海道教育委員会の調査では、小学校の七〇~八〇%、中学校の二五~三〇%が混合だった) >5.ジェンダー、ジェンダーフリー教育という言葉を使っているか >(*“子育てはジェンダーフリーで”と書かれた冊子【文部科学省嘱託事業作成】がこの春まで、薦められていました) >6.男らしさ、女らしさを否定する教育をしているか >(*幼稚園、保育園から“ひな祭り”が中止になったという声が全国から届いています) > >C.家庭科教育の問題について >1.これまで家族のかたちを否定、軽視し、現行法から除外される婚姻形態(事実婚や同性婚)など多様な家族観を教えている >2.非婚の母、シングルマザーなど、その生き方を推奨するような表現をしている >3.離婚の勧めともとりかねない内容を教えている  これら質問にはそれぞれ5つの選択肢が並んでおり、「(1)ない(2)ないと思われるが、正確には把握していない(3)おそらくあると思う(4)過去にあったが現在はない(5)ある」の(1)~(5)の中から選択するようになっています。また、(6)の項目として、「(4)若しくは(5)であると答えた場合、具体的にお書きください」と書かれている。この選択肢は数が多いほど「そういう実例がある」という答えになっているが、このアンケート自体に誘導的な仕掛けがいくつもほどこされていることが分かる。このアンケートには、「インターネット、FAXによるアンケートフォーム回答数」が1220件、「FAX、郵送によるアンケートフォーム外のご意見など」が2300件寄せられた。この回答の中には各級議員の返信も含まれているが、これらは回答数であり、実例とは別である。「県別事例集」に掲載されている回答を数えてみると1214件しかない。そのうち、「実例」としてカウントできるのはせいぜい数百件であり 、その数百件すら客観的にみて「過激な実例」であるかはさらに吟味を要求されるものであるため、この「事例集」をもって「『ジェンダーフリー』という名のもと、過激な性教育、家族の否定教育が行われている」ということはできない。  かようにPTもまた、過剰なケースを戦略的に構築しつつ、「過激な実例があるから反対」というスタンスを取った。PTの目論みは、「実態調査」を行い、過剰性を列挙することで、「ジェンダー」の文言を削除することや、基本法の抜本的見直しを迫るものであった。その結果、男女共同参画基本計画に否定的な注釈がつけられた他、「ジェンダーフリー」という文言が議論の場で使いにくくなるなどの効果を生む。この「成果」の後、自民党は安倍政権の誕生などから、それまでとは異なる手法によって「教育再生」を訴えるようにステージを移し 、PTは目立った活動を見せず、「実態調査」を終えた後はそのまま解散したものと思われる。 2002年頃から盛り上がりを見せた「バックラッシュ」言説は、男女共同参画基本計画(第二次)が策定されたことを境目に2005年12月以降、一気に収束していく。毎号のようにジェンダーフリーや男女共同参画への批判記事を掲載していた『正論』も、2006年1月以降は取り扱いの頻度を激減させた。ウェブ上の言説実践も2006年以降は下降気味である。  2006年12月13日、参議院教育基本法に関する特別委員会にて、「ジェンダーフリー」について尋ねられた高市早苗(少子化・男女共同参画国務大臣)は、「現在はジェンダーフリーという言葉を使用しない方がいいということで地方の方にも国から文書を送っております。このジェンダーフリーという用語を使用することについては、第二次男女共同参画基本計画にも明確に書かせていただいておりまして、この用語を使用して、性差を否定したり、男らしさ、女らしさや男女の区別をなくして人間の中性化を目指すこと、また、家族やひな祭り等の伝統文化を否定することは、国民が求める男女共同参画社会とは異なるということで、例えばということで、児童生徒の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育、男女同室の着替え、男女同室の宿泊、男女混合騎馬戦などの事例は極めて非常識であると、ここまで書いているところでございます」と答えている。高市早苗は「反フェミニズム」として有名な政治家でもあり、『正論』などの特集でも名を連ねているが、この発言からはジェンダーフリー批判の文言を反復している一方、この問題に関して「手打ち」にしようという意図がうかがえる。  象徴的な記事がある。『日本経済新聞』2006年11月7日に掲載された次のような記事だ。 > 高市少子化担当相、待機児童解消見直し論を批判 > 高市早苗少子化担当相は7日の閣議後の記者会見で、下村博文官房副長官が保育所確保に税金を投入する待機児童解消策の見直しに言及したことについて「少なくとも2万人の待機児童がいる。解消に向けてがんばらなければいけない」と批判した。同時に「(女性に)仕事をやめて家で子育てしろと言い切ってしまうと、仕事を続けられない、自己実現できないことを理由に子供を産まない人も出てくる。とても残念だ」と指摘した。 > 下村氏は5日の講演で、「(待機児童解消策を)見直す時期に来ているのではないか。ゼロ歳児の母親は無理に働かなくても、しっかりと家庭教育をやってもらうようにシフトしていく方が本来、望ましい」と発言していた。  この記事に象徴されるように、男女共同参画基本計画(第二次)に対して否定的注釈が付いたことで、国政では男女共同参画基本法を見直すべしという声は沈静化していくこととなった。 続き:[[2-6 「バックラッシュ」の「成果」とはなにか >http://www12.atwiki.jp/seijotcp/pages/35.html]]  

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