24 名前:梅雨空  ◆UOt7nIgRfU 投稿日:2009/07/01(水) 00:36:41 d0PnjcS1
前スレ834からの続き投下するっす

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

霧雨に煙る、いつもの通い慣れた家路。普段と違うのは、頭ひとつ
小さな想い人と傘を共有していることのみ。それだけなのに気持ちは
爆発してしまいそうなほど高ぶっていた。

ふと横に目をやると、モモの左肩が雨に浸食されているのが見えた。
ただ何も告げず、そっと腰に手を回して雨から守ってやった。

「…あ…っ ……すみません」
「遠慮せず、もっと近寄れ」
「……はい」

それを合図に、モモの腕が傘を持つ手に絡んだ。正直胸がドキリと弾んだが
努めて冷静に目線を外して前を見据える。
そうでもしないと、先程からじーっとゆみを見上げている視線とも絡まり
平静さを保てなさそうだったのは、ゆみ自身が一番分かっていた。


「そういえば――――」

濃灰色の景色が続く道すがら、モモから綺麗な声を伴った言葉が躍った。

「かじゅ先輩は一人暮らしだったっすよね?」
「あぁ。実家から通うには鶴賀は少し遠いからな」
「それじゃあ……いわゆる『今日はウチに誰も居ないの』って状況っすね」

ギシっ

これは流石に直球過ぎた。思わずゆみの歩調が変わる。
この投げかけに焦るな。というのは酷だろう。
後方から追い抜きをかける車が発する水を含んだタイヤの音が
ヤケに耳につく。その直後、ゆみの耳には自らの速まった鼓動音が
意識せずとも聞こえ始めた。

「え…っと、まぁそうなるが……だ、誰か居たらそれはそれでホラーじゃ
 ないか? 一人暮らしなのに、今日は誰か居るとか、ないだろう?」
「そりゃまぁそうっすけど……色々と期待してもいいってことっすよね?」
「な、なな、何をだ!?」

クールさもどこかへ吹き飛び、たまらずモモを見下ろすと
そこには熱に浮かされたような乙女の瞳が、可憐な光を湛えていた。

「………っ」

モモが絡め取った腕に力が込められる。ぎゅっと引き寄せられ、求められる
ような視線。モモが望んでいることが何か分からないほど、ゆみは鈍感では
ない。
確かに決勝大将戦の直前、『ここではやめろ』と拒んだままだが、
まさかそれが今日になるとは考えてもいなかった訳で。

「……先輩?」
「…後悔しないな? 止まらなくなっても」

わざとため息をひとつついて改めて意志の確認をすると、モモは一気に
顔を赤らめ、さらに腕に力を込めてこくん。と小さくうなづいた。

(あぁ…これだ。この可愛らしさにいつも自模和了されるんだ…)

強力な媚薬にさらされたような高揚感に、クラクラと目眩に似た感覚に
苛まれながらも、その想いに応えねばなるまい。と生真面目さが頭を
もたげる。

「モモ………」

気づけば自宅まであとわずかな距離まで来ていた。
入り組んだ路地裏。車も通れないほどの細い路地裏。
モモという可愛らしい破壊兵器に撃ち据えられた鶴賀の前部長は、
高ぶってしまった心の赴くまま、佇む電柱の影に身を移す。
もちろん、恋焦がれる者を伴って――――。

「すまない、もう歯止めが利かなそうだ、モモ」
「…せ、先輩、誰か来たらど、どうするっすか…?」
「構うものか。この雨だ。出歩くのもそうそう居まい」
「ふふ、せっかちさんっすね。そんなところも好きなんす」

雨に染められた、古ぼけた電柱の影にふたりは寄り添う。申し訳程度に
傘を斜めに構え、周囲との視界を遮るとそっと柔らかい唇同士を重ね
合わせる。

重ねるだけのキス、そこから互いの舌を絡め合わせる濃厚なものになる
のにさほど時間は要さなかった。

「……ふ…っ、んぁ…ん 好き…っす 世界で誰よりも…」
「モモ……ぷぁ…っ お前が…愛しい……」

唇を割り、温かい口腔を隅々まで味わうような深い深い口づけに
身体も心も溶けてしまいそうになるが、降りしきる雨が火照りを鎮めて
くれていた。
少しずつモモの制服の襟をくつろげ、鎖骨をじっとりを撫ですさる。
電流に撃たれたようにぴくん。と反応する様がゆみの嗜虐心を満たして
ゆく。

すっかり荒くなった吐息をも呑み込んでしまうような深遠なキス。
ガクガクと膝を震わせ始めるのに気づくと、ゆみは惜しそうに唇を離す。

「はぁ……は…っ モモ、家はすぐそこだ。場所を変えるか…?」

しがみついた手がぎゅうっとゆみの制服に皺を与える。蕩け切った表情と
その行動が返答だった。

もはや止める術も謂われもない。そのままなだれ込み、溜めてきた
愛おしさと慈しみ全てを互いにぶつけ合ったのは語るまでもないだろう。

桃の果汁100%ジュースよりも甘く切なく、濃厚で芳醇な営みは
東の空が白み始めるまで継続された。
その様子はまた別の機会にお届けしよう。

ーENDー

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最終更新:2009年07月11日 21:31