387 きよすみてる① [] 2010/02/21(日) 04:06:57  ID:8oi+3b/f Be:

出 演:照&キヨスミーズ、モンプチ団、菫、キャプテン
百合分:ふへへ エロ:あにはからんや ばか度:果てしなく広がる大空のようにばか
ちらっと厨2&ちょこっとホラー風味を含みます 長め 7~8レスほど

if設定:照が清澄、菫が風越 もうやんないとか言っといて、if話
>>21の続きです いろいろスルーするっすよー お願いするっすー

≪前回までのあらすじ≫
咲と衣がきゃっきゃうふふで照と和がプンプン、久と優希はわくわくだけど、まこはやれやれ
そんなこんながアレやコレして、清澄対龍門渕ということに。急遽、清澄ーズは龍門渕家へ…
↓スタート
***********************************
「 龍門渕邸奇譚 」 ~清澄照物語~

「ほあー…でっかいじぇー」 「噂には聞いてたけど、これほどとはねー」
ここは龍門渕家、本邸正面玄関に面した前庭である。
辺りに薄暮の迫るころ、これも龍門渕家の敷地内である深い森を抜け、ようやく到着した。
高級リムジンを降り立った清澄の面々は、一様に唖然として荘厳な邸宅を見上げていた。
ただ独り、照だけはポーカーフェイスである。

「こりゃケーキじゃのうて、マスクメロンかなんかの方がよかったかのう」
先ほどの喫茶店で調達したケーキを掲げて、ため息混じりにまこが言った。

「いらっしゃいまし!ようこそ、清澄高校の皆さん!」
車回しに面した階段の上で、開け放たれた大きな玄関の前に立ち、龍門渕透華が出迎えた。
純白のワンピースを身にまとい優雅な笑みを湛えている。邸内の明かりが服を透かして
そのしなやかな肢体のシルエットをうっすらと浮かび上がらせていた。…ちょっとえろい。

「こんばんわ、透華さん。良い夜ね。お世話になります」 久がニッコリと笑い、言った。
「とーか、ただいまー。じゅんたちはー?」
「おかえりなさい、ころも。中にいますわよ。さ、皆さんも遠慮なく」

一同促されて玄関をくぐった。玄関ホールも広い。豪奢ではあるが悪趣味ではない調度品、
天井には巨大なシャンデリア、まるで映画のセットか何かのようだ。
「ふぁー…すごい」 思わずきょろきょろしてしまう咲に、メイドが一人、近づいてきた。
「宮永さま、お荷物お預かりいたします」 恭しく礼をする。

「あっ、はい、ありがとうございま…って、ええっ!じゅんさん?」 メイド姿の純だった。
「ようっ、久しぶり。よく来たなー。楽しんでってくれよ」 軽くウィンクして咲に言った。
「ようこそ、龍門渕家へ」 「…いらっしゃい」 はじめとともきもメイド姿だ。

「おおう、メイドノッポ!コスプレ趣味があったとはびっくりだじょ!」
「うっせーなタコス!コスプレじゃねえよ仕事着だ!似合わねーのはわかってら!」
「ゆーきちゃん、失礼だよ。似合わないなんてことないです。じゅんさん、かわいい!」
「へ?い、いや…、そうか?」 「はいっ、とってもカワイイですよー。ふふっ」
「その、なんだ…ありがとよ」 「じゅんが照れてるー!」 衣が純の背中に飛びついた。

「うわっ、重っ、こらやめっ!べ、別に照れてねーし!」
「おお、真っ赤だじょイケメン!なんかカワイイじょ! ”じゅんちゃん”って感じ!」
「何をコイツ!」 純が優希をがしっと抱え込む。「相変わらず育ってねーな、お子様め!」
「ぎゃーやめれー!セクハラメイドー!じゅんちゃん!じゅんちゃんさんしょくー!」
「あはははは、さんしょくーー!」 純の背中で衣がはしゃいだ。

「ぷっ、純全三色って、あはは、二人ともダメだよう、あはははは」
「そう言うお前も笑ってんじゃねーか!このっ!」 がしっ 「うきゃーーーっw!」

「…じゅん、楽しそう」 「いつもお子様たちに大人気だよねー、じゅんくん」
きゃっきゃと騒ぐ4人を、ともきとはじめがニヤニヤしつつ眺めていた。

「こっちもあんまり育ってねーなー、ちゃんと飯食ってんのかー?お前ら!」
「ひどーい、じゅんさん!」 「セクハラおやじメイドだじょ!はなせー!」
「じゅん、ころもは?ころもは?」 純の首にしがみつきながら衣が訊いた。
「そう言えば衣はちょっと大きくなってきたんじゃねーか?でも肝心なトコはまだまだ!」
衣をおぶさったまま、咲と優希をむぎゅっと抱きしめた。
「このぺったんこ共め!w 後で旨い飯、腹いっぱい食わしてやるぜ!楽しみにしてな!」
いいお兄…ゲフンッ、失礼、良いおねえちゃんだ。

「う~む、(仲良きことは美しきかな、と言いたいところじゃが…照ねえさんと和は…)」
二人の様子を伺うまこ。意外にも、純とじゃれる咲を見て取り乱すでもなく、無言である。
「ほう…、もう戦闘モードっちゅうわけかい。さすがじゃねえ」 

(くっ…咲のぺったんをコケに!だがここで怒ると咲が悲しむ。我慢だ。でも…)
(くっ…咲さんが年上に弱いのはもう仕方ありません。ここは我慢です。でも…)
(( 井上純!くっつきすぎ!あとで ボ コ ボ コ に 決 定 !! ))
秘かに闘志をたぎらせる二人…と言うと聞こえはいいが、要するに、単なるやきもちだ。

* * *
移動の疲れを癒すため、軽くお茶でもということで、一同は控えの部屋へ通されたが、
咲と優希のお子様チームは、衣とともに純にくっついて邸内の散策に出ていた。
部屋にいるのは、照、久、和、まこの4人である。

落ち着いた照明に、ゆったりとしたソファーが心地いい。
「あー、くつろぐわー。寝ちゃいそう」 ぐっと伸びをする久。
「これから勝負ですよ、部長。もっと真剣にお願いします」 少しムッとして和が言った。
「? …のどか、何か怒ってない?」
「……咲さんに、これは遊び、と言ったそうですね。車の中で聞きました」
「ん?ああ、そういえばそんなこと言ったかなー」

「心外です。私も照お義姉さんも、本気です。真剣ですから」
「あはは、わかってるわよ。別にあなたたちの気持ちを茶化したわけじゃないわ」
「だったら…」 何か言いかけた和を手で制して、久は続けて言った。
「でもね。そしたら、この勝負で咲を取り合う?咲の気持ちとかお構いなしで」

「う、それは…それとコレとは話が別です!」
「でしょ?それにね、遊びイコール適当でいい加減ってことにはならないわ。
人間が最も高いパフォーマンスを示すのって、どんなときか、わかる?」
人差し指を立て、ちょっと得意げに言った。
「なんと、遊んでるときなんですって!
つまりはどんな状況であれ、それを楽しんでしまえる者が一番強いってことね」

「…先週のテレビの脳科学特集ですね。私は鵜呑みにできません」
「へへー、ばれたか。でも私はホントにそうだなって思ったの。遊びったって、いろいろよ。
ふふっ、そうね、例えば命懸けの遊びってのも…アリかもね」 ニヤリと笑う久。
極稀に見せる凄みのある笑顔を、一瞬だけ覗かせた。「う…」 ひるむ和。
「…なーんてね!ま、せっかくの機会だし、気楽に楽しんじゃいましょってことよ!」
ぺかーっと笑いながら、和の肩をぽんっと叩いた。(この人は…やはり底が知れませんね…)

「失礼いたします」 
お茶と軽食のセットを乗せたカートを押して、メイドが一人入室してきた。
手早く用意をすると、「あの…」 思い切ったように和に声をかけてきた。
「はらむらののか様…ですね」 「え?はあ、原村のどか、ですけど…」
「私、杉乃あゆむと申します。透華お嬢様のメイド兼、高校生やってます」 「はあ」
「衣様を、ころもさまをよろしくお願いします!ずっと仲良くしてあげてください!」
和の手を取り、真剣な表情で訴えかけた。
「え、あ、はい、それはもちろん」 「よかった…。ありがとうございます!」
ホッとしたかのように笑顔を浮かべ、深々と一礼すると部屋から退出していった。

「…愛されてるわねー、天江さん」 「じゃの」 「…はい」
「愛…か」 それまで黙っていた照が、ソファーからふらりと立ち上がり、つぶやいた。

「ああ、うん…良い夜ダ…。咲への我が愛ヲ、遍く世ニ知らしめるにふさわしイ…」
「あ、やば…」 「うわ、いきなり魔王モードかい!」 「お義姉さん、まだ早いです!」
テーブルのティーセットがカタカタと振動し始めた。

「ツクヨミの巫女と古き龍の眷族…この上ない贄トナロウ…久、シアイはマダなのカ」
「照、落ち着いて。まだよ…っう!」 ズシンッと得体の知れない圧迫感が部屋を満たす。

「モウ、待テヌ」 「お、お義姉さん!」
照の異能は麻雀という区切られた”場”の中では、無敵の雀力となって発揮された。
しかし、そうでない場合、その力はさしずめ暴風の如く、周囲に魔王の威を示した。暴走だ。
3人は以前に一度だけ、その場に居合わせたことがある。(咲の前で暴走したことはない。)
まこが恐れていたのは、まさしくこの事態だった。

「くぅっ!こうなるともう…」 重圧に耐える和。照は凄惨な笑みを浮かべている。
その禍々しくも美しい横顔は、解放の喜びに打ち震えているようにも見える。

サァッと照を中心に風が巻き起こる!
「ダメっ!皆伏せてっ!」 久が叫ぶ!衝撃に備える3人!!

「……………?」 …何も起らない。恐る恐る顔を上げ、照の方を見ると―。

「あー、久しぶりだ。この感触、この匂い。うん、抱き枕なんかじゃない。本物の照だ」
「ムゥ!ナ、何だ!…え、すみれ!?」

黒髪ロングで長身の女性が、照を背後から抱きしめていた。風越の弘世菫である。
「何だとはご挨拶だな。ここのところ連絡もないし、冷たいじゃないか、照」
「いやだって咲ウォッチングで忙し…じゃなくて!何故お前がここにいる!」
「ん?何処であろうと照のいるところに私がいるのは、自然なことだろう?」
「いや、だからそういう事じゃなくて…って、こっこらどこ触ってるっ!!」

「照は柔らかいな。ああ、癒される…」 ムニムニ 「うわわっばっ馬鹿!やめっ!」

呆気にとられる久たち3人。そのとき、床にひざを着く久にそっと手を差し伸べる者がいた。
「福路さん…」 福路美穂子であった。 「お久しぶりです。上埜さん」 優しく微笑んだ。

「…ありがと。ふぅ、でもどうしてここに?」 助け起こされながら、久が訊いた。
「学校に突然、龍門渕家からのお迎えが。清澄の方々が来るので是非お二人も、と」
「そうなんだ。いやー何にせよ助かったわ。でも、突然って、大丈夫だったの?」
「迎えに来た執事さんにはお会いしたことありましたし、…上埜さんに、その、会いたくて」
最後の方は小声だった。 「ん?ごめん、私になに?」 「い、いいえ、何でもないです!」

「む!照、ちょっと痩せたんじゃないか?…まさか、ダイエットじゃないだろうな」
「知らん!別にどーでもいいだろう!」
「いいことあるか。いいか、いつも言ってるがお前のプニプニ感はとても良いものなんだぞ。
人類の宝と言っても過言ではない。」
「うるさいっ!わけのわからんコトゆーなっ!」

「これ以上乳が減ったらどうするのだ。ここまで育ててきた私の苦労を無にするつもりか?」
「よけーなお世話っあ…だ、だからへ、変なトコさっ…んんっ…さ、わんなあっ!!」

「さっきの優希たちと似たような状況じゃというのに、何じゃろーこの違い。エロいのう…」
「久!まこ!見てないで助け…ひゃあっ!っつ、つまむなばかーーっ!!」

「うわはー、凄いわねー。照にあんなコトして無事でいられるのってきっと彼女だけよねー」
「ひ、弘世さんは、普段はとても理知的で素敵な方なんですけど…照さんのこととなると…」
「美人なのに…残念な方ですね…」 ため息混じりに和が言った。 
(あんたが言うな!) という心の叫びをぐっと飲み込む久とまこであった。

* *
久たちが控えの部屋に通されてから小一時間も経つ頃、迎えがやってきた。
はじめ、ともき、あゆむの3人を従えて、とーか様の登場である。
「お待たせしましたわ、皆さん。食事の用意ができましてよ。腹が減っては何とやらです!
対局前に夕食といたしましょう!…って、あなた、弘世さん、顔をどうなさったんですの?」

菫の顔に、赤い手形が張り付いていた。 「ふふっ、愛の証だ」 にこっと笑う菫。
「う゛ぅ~るるる~~っ」 涙目でうなりつつ腕に噛み付く照を、愛おしそうに抱えている。
「よしよし」 「フーーッ!!」 「??」 状況が飲み込めず当惑する透華たちだった。

一同が廊下に出ると、丁度向こうから純と優希がやって来るところだった。
「あれ、純さんと優希だけですか?咲さんと衣さんは?」
「ああ例のほらあれ、書庫。ちょっと見物するとか言って二人で行ったぜ。30分位前かな。
まだ戻ってないのか?ちょっと外から見物したら、すぐに戻るって言ってたんだが」

「ああ、あの幽霊の出るっちゅー書庫か」 「ゆゆゆゆーれーなんて、ありえません!」
「優希は行かないでよかったの?」 「お腹すいてたから純にタコス作ってもらってた」
「すぐ飯だっつってんのにこいつはw」 苦笑する純。そのとき、

「咲…。咲が呼んでる!!」 唐突に照が声をあげた。すると、

…ズンッ ゴゴゴゥン… 

遠く低く地響きのような音がこだました。 「え…何?今の」
「…書庫の方からだったような…」 ハッと顔を見合わせる一同。
「…咲!!」 「咲さん!!」 照と和が猛然とダッシュ!!

「あ、お待ちなさい、二人とも!そっちは、反対方向でしてよーー!!」
全員で書庫に向かった。

* * *
話は30分程さかのぼる。
咲と衣は広い中庭を突っ切り、大木の茂る森の少し手前、大きな建物の前に到着した。
辺りはもうすっかり日が落ちている。木々の漆黒のシルエットを背に、
ゴシック様式の巨大な建造物が、異様な迫力をもって佇んでいた。

龍門文庫―…。龍門渕家代々に受け継がれた膨大な文書を収めた書庫である。

「どうだ、この蔵が古記録古文書、書画骨董を収めるためだけにあるのだ。笑えるだろう?」
「ふぁ~…」 咲は圧倒されて言葉も出ない。
「さきっ、こっちだ。中はもっと笑えるぞ」 「えっま、待ってころもちゃん」
ゴツイ鍵で施錠された蔵の扉を尻目に、建物の側面にまわった。

建物の補修道具だろうか、木箱やらなにやら積み上げられた一角に衣が屈み込み、
荷物をずらしはじめた。

「やたらと、でっかいが、古い…えいっ。彼方此方痛んだり、崩れたりしている…んしょっ」
ぞんざいに立てかけられた板切れをずらすと、錆付いた通用口らしきものが現れた。
「んん~よいっしょ~」二人でギギギ~っと嫌な音を立てる鉄扉をこじ開け、中に入った。

暗い。そして耳が痛くなるような静寂。「さき、少し目を瞑れ」 衣が咲の手を取る。
「え、うん。あ、わ」 目を閉じた咲の手を引き、衣が進む。
空気が変わった。広い空間に出たようだ。「もういいぞ。目を開けるのだ、さき」

「う、うん……え…う、うわ!ふわあ~~~すご…」
暗闇になれた目に、内部の様子が映し出された。見渡す限りの本、本、本の海である。
高い天窓から薄く月明かりが照らす中、フロアには大きな書架が整然と並んでいる。
壁に沿って天井まで届きそうなくらいに高く設えられた書架にも、重厚な革装本から
和綴じの本まで種々様々に、隙間なく書物が収められていた。

「この辺りは近代から現代に至るもの。まだ整理されてるほうだ。奥に行くほど古くなる」
「そ、そうなんだ」 話しながら先へと進む。咲は目を凝らして奥を見つめたが、
暗闇に遠く霞み、はっきりとは見えない。いや、あれは…

「何か、白い……扉?」 「ん?気づいたか。あれはここで最も古い蔵だ」
「? 蔵の中に、蔵?」 「そう、あの蔵を包み込むように、このでっかい蔵が建っている」
「ええ?何でそんな…」 「さあな。興味もないし考えたこともないが、…ふむ」

じっと奥を見る衣。「…この感じ…何か、を封じているのやも知れぬ」
「ふええ!やだヤダやめて!」 「…何、近寄らなければ良い。触らぬ神に何とやら、だ」
「ううう~…、こわいよう…」 「あはは、大丈夫!ころもお姉ちゃんがついてるぞー!」
「あ、ありがと、ころもちゃん。ね、もう戻ろう?」
「ふむ。明日あかるくなってから出直すか。咲の好きそうな書を見繕ってやろ……むっ?」

突然、ヴゥンッと得体の知れない圧迫感が辺りを包んだ。「ううっ、な、何?これ……?」
ビリビリと建物が振動しているようだ。彼方此方でペキパキと何かが壊れるような音がする。
「…共鳴?本邸から何か…この力、照か? いかん、戻ろう!さきっ」 衣が駆け出した。
「あ、待って、ころもちゃん!ひゃっ」 例によってぺちょっと転んだ。

「あいたた…、あれ?ころもちゃん?」 …いない。
きょろきょろと辺りを見回すが、衣の姿は見当たらない。忽然と消えてしまったかのようだ。
「え、何で?ころもちゃん!どこっ?!」 月が雲間に隠れ、すうっと周囲が闇に包まれる。
不快な低周波の振動が、フッと止んだ。辺りに静寂が訪れる。
「こ、ころもちゃん!ころもちゃん!やだよう!おいてかないでっ!」 返事がない。

震える膝をぎゅっと掴んでから、そろそろと立ち上がった。咲はパニック寸前だ。
微かに周囲の様子が見えるが、自分が建物のどの辺りにいるのかもよくわからない。
勘を頼りに出口と思われる方向へ、おずおずと歩き始めた。

書架の列を一つ過ぎたとき、視界の端に何かがよぎった。……ひと?ころもちゃん?
(「暗闇の奥に佇む鎧武者、書架の間を滑る様に移動する謎の貴婦人…」)
喫茶店での衣の台詞を思い出す。ぷるぷると顔を振り、嫌な考えを追い出そうと試みる。
もう一列を過ぎたとき、「っ!」

 何 か い る

咲と平行して、3列ほど向こうの列を移動している。一瞬だが目の端に写った。
鹿鳴館のようなドレス?…。暗闇で見えないはずなのに、確かに見えたと感じた。
しかし、衣擦れの音はおろか、何の音もしない。
早足になってもう一列を過ぎた。「!」 いる!もう間違いない。しかも一列近づいている。
…このままいけば、次の次の書棚を過ぎると多分…

 咲 の い る 列 と 重 な る

「うぅうう~っ」 咲はその場にへたり込んでしまった。
ふっと空気が動くのを感じたような気がした。音はしない。が、(!…近づいてくる?)
背後に視線を感じる。怖い。動けない。ガクガクと全身が震える。涙が頬を伝う。
「や、やだよう、ひっく、こわいよう…おねえちゃん、おねえちゃんおねえちゃん!!」

『さきっどこだ!おのれ下郎!咲に寄るな下がりおれ!!』 突然、衣の怒声が響いた!
咲に近づいていた気配が、すうっと遠のく。 「こ、ころもちゃん!どこ?!」
『さきっ!今行くぞ!じっとしてるんだ!』 「どこ、どこにいるの?」

真横の棚に手を掛け立ち上がろうとしたとき、 バキンッ 「え?きゃああ!」
何かがへし折れるような音がして、巨大な書架が咲に向かって倒れ掛かってきた!
ぎゅっと目を閉じしゃがみ込む咲!バラバラと本の落ちる音が響く!

「………?」 ぎしっと音がする。だが咲には書架どころか本も当たらなかった。
恐る恐る目を開けると… 「ひっ!」

倒れ掛かる重そうな書架を背に、咲を庇う様に人影が立っていた。
異様な風体だ。古風な甲冑を身にまとっている。兜はつけていないようだが、
影になって顔はよくわからない。だが両の目が燐光を放つように青く光っている。

 案ずるな 娘御よ…

口は動かしていないように見える。頭の中に直接声が届いたように感じた。…優しい声だ。
「…え…女の人?」 光る双眸が、すっと細められた。(…笑った?)

鎧武者は、おもむろに片手をぐっと曲げたかと思うと、倒れ掛かっていた書架に
裏拳を叩きつけた。ズゴンッ!と衝撃が走り、書架は反対側に勢いよく倒れた。
ゴンゴンゴンゴゴゴゴゴ…ズズンッ!! ドミノ倒しの要領で次々と重厚な書棚が倒れ、
最後に大きな地響きを立てた。

呆然として立ちすくむ咲。鎧武者は無言で横を指差し、頷いた。
指差された方を見ると、小さなランプを掲げて、いつの間にかメイドが一人、佇んでいる。
「…出口まで、ご案内いたします」 咲と同じくらいの背格好だ。若そうな感じがするが、
やはり影になって顔はよく見えない。…髪を二つに結っているように見える。
(あ、さっき純さんとかと一緒にいた人?) 「こちらです…」 「あ、は、はい」

静かに佇む鎧武者に、ぺこりと頭を下げて、あわててメイドの後について行った。
「あ、あの…ここ、人いたんですね。でも…」 訊きたいことがありすぎて、言葉に詰まる。
「あの、鎧の女の人とかは…」 「…あのお方は、おやかたさま、ご主人様です…」
「??あ、そうなんですか…」 「夜会服…ドレスの者は此処の司書です…」
「?ああ、鹿鳴館みたいな…」 先を行くメイドがクスリと笑ったように感じた。
「驚かすつもりはなかったかと…此処に人が来るのは珍しいもので…ご容赦ください…」
「はあ…」 何がなんだか、混乱する頭を抱えて歩く。

『さきっ!!』 前方から、衣の声が響いた。姿は見えない。
「ころもちゃん!?」 『そこか、さきっ!待っていろ!』 ぐぅっと前方の空間が歪む。
そのとき、メイドがすっと咲の後ろに回り、その背中をトンッと押した。
「あ、わ」 前に押し出され、トトッと2、3歩たたらを踏む。すると、
前方の歪んだ虚空から、唐突に二本の小さな腕が伸びてきて、咲の服をつかみ強く引いた。

バンッと空気の層を突き破るような感覚とともに、ぎゅっと腰に抱きつかれた。衣だった。
「さきっ!さき!!すまぬ、無事か?大事無いか?」 半泣きで咲にしがみつく。
「ころもちゃん!うん、平気だよ、この人がここまで案内を…」 振り返る咲。
「あれ?」しかし、誰もいない…。いつの間にか、月明かりが戻っている。
20メートル程奥の書架が崩れて、惨憺たる有様なのが見て取れた。

ドガァアアン! 「咲ー!」 「咲さーん!」 大きな衝撃音とともに、照と和の声がした。
正面の分厚い扉が開け放たれて、月の明かりが照らす。全員が駆けつけていた。

「あの、今、照さん…、どうやって鍵を…?」 美穂子が訊いた。
「あーその…、愛の力?ま、考えたら負けよ」 あきれたように、久が答えた。
「ころものお仲間ってこったな。俺達は慣れてるけどなー、こういうの」
純が砕け散ったゴツイ錠前を足でつついた。

「咲!」 「咲さん!」 咲は照と和にむぎゅっと抱きしめられた。
「あう、お姉ちゃん、のどかちゃん、く、苦し…」
「書架が崩れたんだね。大丈夫?二人とも怪我はない?」 はじめが奥を覗いて訊いた。
「う、うむ。怪我はない。ちょっとびっくりしただけだ」 バツが悪そうに衣が答えた。
「こ~ろ~もっ!あれほど明日になさいって言ったでしょ!めっですわ!」
口調は怒りながら、透華は衣を抱きしめた。「くはっ、と、とーか、苦し…」

「咲、平気?こわかったでしょ」 久が優しく声をかける。
「あ、いえ、ちょっと迷子になったりしたけど、ここの人たちに助けてもらいましたから…
あ、あなたですよね。先ほどは、ありがとうございました」 咲はあゆむに礼を言った。
「え?あのー、私は今、皆さんと一緒にここに来たばかりですけど…」
「へ?だって、さっき…あ、あと、りゅーもんさんのおかあさん…なのかな?
鎧を着た女の人で、メイドさんがご主人様って…」
「…うちの母は鎧を着たりいたしません。だいいち今日は父も母も不在ですわ。それに、
基本的に此処は常時無人ですわよ」

「え…だだだって私、確かに…こ、ころもちゃん」
「あー…さき、あのな、あれは多分、位相がずれたのだ。現世と幽世の狭間だ。つまり…」
ちょっと気まずそうに、衣が言った。

「つまりそれって…」 「うん、咲が会ったのは、有体に言えばゆーれーってことだな!」
ぺかっと笑ってしれっと答えた。

「うぅ~ん…」 「わっ、しっかりするのだ!大丈夫、こんなことめったにありはせぬ!」

「って、何で咲じゃのうて、のどかが倒れるんじゃ」 「あわわ、のどかちゃん!」

「あらら大変だ。後始末はおいといて、とにかく一旦戻ろうよ、とーか」
「……(そう、あの方たち、まだ此処に居りますのね…)」 「とーか?どしたの?」

「え?な、何でもありませんわ、さ、戻りましょう」 
「?」 怪訝な顔をするはじめを促して、本邸へ向けて歩き出す。

道すがら、透華は一度だけ書庫のほうを振り返り、くすっと笑った。

* * *

「だから、お義姉さんは咲さんにくっつき過ぎです!」 「私に義理の妹などいない!」
舞台は一転、ここは本邸の食堂である。明るい照明の下、暖かい食事と楽しい会話によって
早々と和は復活した。もうすっかりいつものペースだ。

「咲、ごめんね。お姉ちゃん一緒にいなくて。お詫びに今日は一緒に寝てあげる」
「な!だ、駄目です!独り占めは禁止です!!」 「あうう…」
「あはは、ならば、ののか、ころもと寝よう!ころもはののかの乳枕を堪能したい!」
「は、原村のどかの、ちちまくら…(ごくり)」 「とーか、何、顔赤くしてんのさ」
「しかたないな、照と咲は私が寝かしつけよう」 「すみれはやらしーから、却下!」
「ともきの乳枕とどっちが気持ちいいのかなー」 「…こ、ころも、それ内緒って…」
「あーずるいぞ、ころも!俺だって膝枕してもらったことしかねーのに!」
「…ふたりとも、ばか」 「じゅんさん、そんなことしてもらってたんですかーー!」
「わっ、何だよあゆむ、お前もしてもらえばいいじゃんか!な、いいよな、ともき!」
「のどちゃんの乳枕は極上の寝心地だじぇ!毎日お昼寝に使ってる私の保証つきだじょ!」
「そんなことさせてません!」 「とーかはやっぱりおっきい方がいいんだ!そうなんだ!」
「は、はじめ!何も泣くことありませんでしょう」 「あの、皆さん仲良くなかよく」

「あー…収拾つかんわ。部長、何とかしんさい」 「なによう、面白いのに…ま、頃合かな」

「はいは~い、みんな、注目~!
こういうときの私たちの決着のつけ方って、ひとつだけよね!さて、何だっけー?」

「それは!」 「もちろん!」 「「「 麻雀勝負!!」」」

勝者は抱き枕を指名することができるというルールが急遽決まった。
負けられない闘いがそこにある!「上埜さん…」 美穂子の右目がゆっくりと開いていった。


この夜繰り広げられた全国大会もかくやという激戦は、後に「龍門渕邸の合戦 煩悩関ヶ原」
という呼び名で、長く語り継がれることとなるわけだが、それはまた別のお話…。

***************
以上 読了感謝

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最終更新:2010年02月23日 07:49