436 :ラブストーリーは突然に:2009/12/16(水) 05:03:44 ID:W6EfNB9y

「好きだよ」

そう言われた瞬間、頭が真っ白になった。
だって予想外の人からの告白だったから。
私は自分がモテる自覚はある。
高校三年生まで生きてきた中で、告白された数は二ケタにとうの昔に突入していた。
イヤイヤ、今考える事はそこではなくて。
確かに端正な顔立ちで、性格もクールで落ち着いている。
付き合う相手としては申し分ないだろう。
でも、でもね、私と彼女の何処に接点があっただろうか?
考えてみても思い当たらない。

「別に付き合いたいとかじゃないから、返事はいらない。ただ、誤解されたくなかっただけだ」

真摯な瞳。

「竹井が私の事をなんとも思っていない事は承知だ。私が竹井を好きなる機会が思い当たらないのも無理もない」

一呼吸おいて

「私は竹井の打ち筋が気に入った。そして竹井自身を知る内に好きになっていた」

顔が真っ赤になったのは自分でも自覚できた。
そもそもどうしてこんな話になったのだろう。
そうそう。街角で会って、一緒にお茶しようと言う事になってあの消えるこの話をしていて。

「一方的に私が好きになっただけだ。さっきも言ったように返事はいらない。竹井が誰かと真剣に付き合うタイプにも思えないしな」

図星だ。
確かに私は付き合う事は今まで何度もあったけど、相手が誰であっても半年も持たなかった。
その理由は単純で、私が相手を好きじゃなかったから。
別れる理由は皆同じ。

『好きになってもらえなかった』

そう言って皆去って行った。

「あの」
「せんぱーい」

背後から聞き覚えのある声がして振り向くと、話に出ていた消える子が走ってくる。

「モモ」
「先輩。遅くなって申し訳ないっす。待たせてしまったすか?」

子犬のように加治木さんの腕に纏わりつく。

「いや。竹井に偶然会ってな。話をしていたから時間は気にならなかったよ」
「そうっすか?それなら良かったす。清澄の部長さん、こんにちはっす」
「こんにちは」

先程までの話と異常に高いテンションのせいで、思考が働かない。

「それじゃあ竹井。もう行かせてもらうな」
「清澄の部長さん、失礼するっす」

ついていけない私を残して加治木さんは行ってしまった。


家に帰りついて真っ先にベッドに顔を埋めた。
返事はいらないと言われた。
ただ思いを告げられるだけの告白なんて初めてだ。
今まで告白してきた相手は、断ったら距離を置いていった。
それは断られたのだから、傍には居づらいだろう。
私もその辺は理解できたから、距離を縮めようとはしなかった。
でも、告白だけされた場合はどうすればいいのだろう?
加治木さんとは学校が違うし、今日だって偶々街で会っただけ。
互いに三年生だから合同合宿をして会うなんて事はもうない。
会う機会はもう無い。
それでいいのだろうか?
それから一月私はこの事で悩み続けた。
だけど学校には毎日行かないといけないし、受験勉強だってしないといけない。
なのに、告白してきた時の加治木さんの顔が頭から離れない。
一度も恋愛対象として意識した事がない相手。
別に今まで付き合ってきた相手だって、恋愛対象として考えていない人たちだった。
ただ、自分にそういう感情を持っている事は漠然的でも分かっていたから、頭の中で付き合ったらどうなるかのシミュレートくらいはしていた。
合同合宿の時も、その後の合同練習でも一度もそんな素振りは見られなかった。
むしろそんな態度は私よりも、あの後輩の子に向けられていた気がする。
端から見ても、特別な関係なのだと思うのだから。
二人の姿を思い出すとなんだか腹が立ってきた。
どうして私がこんなに悩まなくちゃいけないのだろう?
返事はいらないと言われたのだ。
加治木さんは私を好きだった。
それで済ませてしまえばいい。
付き合いたい訳じゃないのだから。

「部長」
「何?」

部室に居るのを忘れてたわ。

「鶴賀学園から合同練習の御誘いが来ていますが、部長も良かったら行きませんか?」

和が遠慮がちに誘ってくれる。

「って言うか、私はもう部長無いってば」
「でも、なんか名前で呼ぶのは変な感じがして」
「はぁ~。まこからも言ってやりなさい。部長はわしじゃ~って」
「別にわしは構わんよ。部長なんて肩書はあんたの方がにおうとるし」
「だから私は引退した身なんだってば」

全国大会も終わり二学期になったら、何処の部も三年生は引退扱いされている。
引退扱いされないのは、部活で推薦を取った組位。

「だったら何であんたはここにおるんじゃ?」
「ほら私って頭がいいから、受験勉強なんて必要ないのよ」

なんて。半分嘘じゃないけど。成績はいいから、今のままで志望校には十分に受かると太鼓判を貰っている。
ただ、どうせならもうワンランク上の大学を目指せと言われて、受験する事になったので、その受験勉強をしているだけ。
でも、別に無理してまで行きたいとは思わないから、自分の無理のない範囲でやっているけど。

「言ってんさい。それで、どうする気じゃ?参加するンか?」
「そうね~。参加するわ」

気晴らしにも丁度いいし、何より本人に会って返事をしたい。
幾らいらないと言われても、私の気持ちがもやもやしたままで気持ちが悪い。

「分かりました。では、部長も参加で返事をしておきます」



そうして土曜日。鶴賀学園に行くと、三人の部員が迎えてくれた。

「お待ちしてました。わざわざありがとうございます」

部長の確か津山さんだったかしら?凄くまじめそうで、和と気が合いそう。

「いえ、こちらこそ」

和が挨拶をしている間に部室を見渡すが、一番の目的だった人物はどこにもいない。

「今日は加治木さん達はいないの?」
「あ、すいません。先輩達は受験生なので声は掛けてないんです」

ばつが悪そうに答える。

「あんたと違って、しっかり受験勉強にはげんどるんじゃ」

まこがからかうように言うのを私は苦笑いで受け流す。
居ない者は仕方がない。
そもそも鶴賀は、清澄や風越よりも先に三年生が引退したと聞いている。
二学期が半ば過ぎに顔を出す方がおかしいのか。
私だって志望校がギリギリなら麻雀部には顔を出すなんてことはしないし。
会えないのは残念だが、また機会間もあるだろう。
ん?残念?何が?
会えない事に落胆している?
どうして?
確かに会えないのは残念だが落胆する事の程ではない。

「清澄の部長さん」
「貴方は東横さん」

加治木さんを最も慕う後輩。
なんだろう?

「良かったら一緒に打ちませんか?是非部長さんと打ちたいっす」
「え?ええ」

そうして打った対局はボロ負けだった。
東横さんは私に完全に狙いを定め、点数を稼いでいった。
って言うか、なんだろう?殺気かな?そんなものを感じる。
彼女の背後から黒い何かが見えるようなそんな気が。

「面白かったす。また打ちたいっす」

対局が終わった後は、凄くにこやかな顔で握手までされた。

「清澄部長さん、先輩に話があるんすよね?」
「え?」

なんで気付いたのかしら?
態度には出してないつもりだったのに。

「先輩は今日特別講習を受けてるっすから、お昼御飯を買いに購買部に行くはずっす。今からなら多分そこで待ち伏せれば会えるっす」

そう言って部室から追い出された。
他校の購買部の場所なんて分かるはずもなく、迷いながら何とか人の塊を見つける。
時間からして購買部だろうと予測をつけて近づくと、目当ての人物が菓子パンを加えて塊から出てきた。



「竹井?」

予想通りと言うべきか、加治木さんは驚いた表情をする。

「こんにちは」
「ああ、こんにちは」

とりあえず無難に挨拶をすると、加治木さんも挨拶をしてくれた。

「じゃなくて、なんでここに居るんだ?」

疑問は最もね。彼女は今日も合同練習を聞かされていないらしいし。

「ん~。とりあえず、場所を変えない?」

正直他校の生徒が校舎の中に居るのが珍しいのか、先程から注目されて落ち着かない。

「ああ、そうだな」

その事にかがついてくれたのか、人の居ない屋上に連れてこられた。

「ここなら誰も来ないから」

天気がいいから少し寒いが問題にはならない。

「それで?どうして竹井がいるんだ?」
「合同練習にお呼ばれしたのよ」
「合同?そうか。残念だな」
「え?」

何が残念なのかしら。

「てっきり私に会いに来てくれたのかと思ったのだが」
「あら?どうしてかしら」
「そうだな。私の返事がいらないと言うのが返って竹井の心をざわつかせているのかと思って」

また図星。
何かしら?私って実は顔に出やすいタイプ?

「それで返事をしに来てくれたのかと思ったのだが」

ん、と僅かな微笑を浮かべて首を少し傾げる。

「ええ、返事をしないとなんだか気持が悪いから」
「そうか。まあ、それもそうだな。返事をしないと今後どう接していいのか分からなくなるしな」

加治木さんが僅かに目を伏せる。
綺麗だと思った。

「それで返事は?」

返事が何であろうと構わないと言うのが、態度でよく分かった。

「付き合わない?」

は?ちょっと待って私。何を言っているの?

「まだ私は貴方のこと好きかどうかわからない。今まで付き合った相手も好きじゃなくても付き合ってきたし。でも、なんだか加治木さんの事が頭から離れないし、このまま断ってさよならなんてしたくないと思ったの」



口から勝手にするすると言葉が放たれていく。
でも、口は止まらない。

「だから、それでもいいなら私と付き合わない?私は貴方の事を好きと言えないけど、もっと話をしていたいし、一緒に居たいって思うから」

漸く口が止まった。
自分では言うつもりのない言葉が次々と出てきた。
違うわね。言うつもりがなかっただけで、私の本音だ。

「……」

加治木さんなんだか考え込んでいる。
それも当然か。こんなこと言われて付き合いたいとか思わないものね。
好きじゃないのに付き合わないとか最低だとか思われたかしら。

「竹井」
「はい」
「一つ確認したい」
「何?」
「それは私が好きになってもらえる可能性があると言う事でいいのか?」
「え?」

言葉の意味が理解できない私に加治木さんはもう一度繰り返した。

「好きになってもらえる可能性はあるのか?」
「……ええ」

確かに今は好きじゃないがこれから可能性がない訳ではない。

「そうか。なら、改めて言わせてもらおう」

加治木さんが私の前に立ち、瞳を見つめてくる。

「私は竹井が好きだよ。だから私の恋人になって欲しい」

初めて告白された時と同じでまっすぐな瞳が私の心射抜く。

「あの時は強がったが、本当は断られるのが怖くて嘘をついた。でも、私の好きな人がモモなんだと言う誤解を、竹井にだけはされたくなかった」

私が本当に好きなのは竹井だけだからと耳元で囁かれた。

「でも、それって間違ってなかったかも。あの時返事を要求されたら、こんなに加治木さんの事意識しなかっただろうし」
「なら、私の読み勝ちだな。竹井ならああ言えば、私の事を多少は意識せずにはいられないだろうと思ってな」
「もしかして狙ってたの?」
「まあな。それで竹井。返事を貰ってないぞ?」
「え?さっきしたじゃない」
「あれはお前が告白したんだ。私の告白に対する返事じゃない。もう一度言うぞ?
私の恋人になってくれ竹井」

加治木さんの瞳に吸い込まれそうになるのを、耐えて返事をする

「はい」

返事と同時にそっと唇を重ねた。



タイトルに対してはツッコミはなしの方向で。
保存するときに他に浮かばなかったんです。
部かじゅって結構あってもよさげなのに全然見ないので書いちゃいました。
正統派のクール大人な態度のかじゅにちょっと意地の悪いクールな大人な部長と言ったところ。
私から見ると二人ってそんな感じに見えます。
どっちも大人なんだけど、タイプが違うのだと思います。
キャプテンは母性あふれる大人です。
それでいくと蒲原は子供がそのまま大人になったみたいな感じな気がします。
楽しんでいただけたら幸いです。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年12月20日 15:56