277 :かなるん2の①:2009/10/08(木) 03:25:36 ID:wops64p+



「レスキューみはるん」

きつい日差しも和らぎ 過ごしやすい季節になってきたある秋の日
吉留未春は風越女子高校の物干し場にいた
部の定期合宿で出た洗濯物を取り込みにきたのだ ちょうど手の空いていた未春が率先して買って出た

これまではキャプテンが一人でこなしていた仕事だ
時期キャプテンが内定している池田華菜をフォローする予行演習のつもりもあった
3年生のキャプテンは、部室に来ない日も多くなってきた もう引退の日も近い

「思った以上に重労働だわ…」額の汗を拭う

「だから手伝うって言ってるのにー みはるん意地っ張りだしー」
物干し台の脇にちょこんと座り、池田華菜が不満そうな声をあげた

「ふふっ ごめんごめん でもやってみたかったの」
華菜はぷくっと膨れっ面になる かわいい 「一緒にがんばろうって言ったじゃんかー」

「華菜ちゃんはこれからいろいろ大変だもん 雑用は私がやるわ」
「もー、これだから天使のみはるんはー」「うっ もう、それやめて…///」

4校合同合宿以来、”天使のみはるん”は華菜のお気に入りのフレーズになっていた
折に触れ 辺りかまわず使うものだから、とうとうこの間は1年生にまでからかわれてしまった

少し抗議しようかと、華菜の方を振り向いた
「もう、今度言ったら”にゃんこの華菜ちゃん”って呼んじゃうわよ……って華菜ちゃん?」

華菜は横を向き俯いていた 目の端に涙が光るのが見えた気がした
あれほど慕っていたキャプテンの引退が近いのだ 無理もないかもしれない
(やっぱり わたしじゃだめなのかな…)胸がチクリと痛む

近づいて華菜を覗き込む
「みはるん…」「うん、なに?」「みはるんって、みはるんってさあ…」

「みはるんって、美脚だよねぇ」

「……………はい?」
「何ていうかさ、太すぎず細すぎずバランスがいいっていうか そんでつやつやのぷりぷりでそのー、
そう、ピチピチ!ぴちぴちみはるんだし!」

「なんなんなっなに言いだすのよ華菜ちゃん!」かーっと顔に血が上る
「前から触ってみたかったんだー 触っていい?いいよね?」「えっえっぇえ!?」
上気した顔で華菜ちゃんが迫る 赤い顔 唇 涙目 妙に色っぽくてドキッとする

「だ、駄目っあ、だめだったら華菜ちゃっきゃっ あんっ!」強引に押し倒された
「うにゃーやわらかいしー 冷たくて気持ちいいにゃー」

私の腰に抱きついた華菜ちゃんの熱い指が 内腿の高い位置まで這い登ってくる
「や、やめっあうっ…ぅんっ!」腰から背中に電流が走った 頭の芯がぼーっとしてくる

いやらしくうごめく熱い指は更に私の……ん?熱い指?冷たくて気持ちいい?赤い顔、涙目…

「華菜ちゃん!」がばっと身を起こし、おでことおでこをくっつける
「すごい熱っ!!」「うにゅあー…」ドサッ  華菜ちゃんはそのままその場に倒れこんだ
何で今の今まで気付かなかったのか!助けになるって、力になるんだって誓ったのに!

「か、華菜ちゃんっ?華菜ちゃーん!!」大変っ!大変だっ!どうしよう!!
おおお落ち着くのよ未春! そ、そうだきゅっ救急車!携帯は…部室のかばんの中だ!

「うにゃー…キャプテーン…」「しっかりしてっ!華菜ちゃん!」
かかかか考えるのよ未春! えーとえーとこんなとき、こんなときはえーと

抱きかかえた華菜ちゃんの顔を覗き込む 小ぶりで形のいい唇が小さく開き 苦しそうに喘いでいる
苦しそうでもかわいい…っじゃなくて!

く 唇?そうだ!前に授業で救急救命研修を受けたんだった!じっ人工呼吸だっ!!マウスtoマウス!!
し、しかたないわよねこんなときだもの な、なんかずるいような気もするけど命には変えられないわ!
ファーストキスだけどホントはもっとこうロマンチックな感じで みはるん愛してるよ私もよ華菜ちゃんっ
なんてなーんて状況が理想だったりするけど そうだお昼の後歯を磨いたけど さっきゴンジュース
飲んじゃったけど平気かしら平気よねでもファーストキスがレモン味じゃなくてゴンジュースってどうなの
かしらいやいや餃子とかカレーに比べたらずっとましよね
よよよよし決めた い、いくわ!!いくわよ華菜ちゃん!!!

「…………って馬鹿っ!私のばかーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」


― 翌日

「昨日はびっくりしましたよー 池田先輩と洗濯物を抱えた吉留先輩が
血相変えて部室に飛び込んでくるんですもん」

「うう…」

「『華菜ちゃんが死んじゃうっ』って飛び込んできたときはホント
何事かとおもいました」

「もう勘弁して文堂さん…」
そう、あの後私は華菜ちゃんと何故か洗濯物全部を抱えて 部室に駆け込んだのだ
保健室の存在は頭からすっぽりと抜け落ちていた

「からかってるんじゃないですよ 私は感動しているんです 大体あれだけの大荷物を
抱えて階段を駆け上がるなんて、深堀先輩でも難しいんじゃないでしょうか
それに 気圧される久保コーチなんて 始めて見ましたよ 愛ですよ 愛の力ですよね」

「ううううう……」

華菜ちゃんは ウィルス性感染症やほかの病気ではなく、単なる風邪ということだった
来週には出てこれるらしく、ほっと一安心した
今日私はお見舞いに行く 妹さんたちを保育所へ迎えに行って 親御さんが帰ってくるまで
華菜ちゃんの看病をする予定だ

それにしても恥ずかしい 自分があんなに取り乱すとは思わなかった 何だ人工呼吸って…
でも すんでのところで人工呼吸にGOサインを出す黒い自分に打ち勝ったのだから、その
点はほめてもらってもいいよね …いいよね?


…このとき吉留未春は この後 華菜の体を拭き着替えを手伝うという更なる強大な試練が
己を待ち受けていることに 気付いていなかった…

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以上 読了感謝

次は龍門渕ファミリーの予定

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最終更新:2009年10月10日 02:42