【急性膵炎】

 急性膵炎とは膵臓の急性炎症で、他の隣接する臓器や遠隔臓器にも影響を及ぼしえるものである。慢性膵炎の急性増悪は、それを生じせしめた成因別(アルコール性、胆石性など)の急性膵炎として取り扱う。
 臨床的特長:大多数の急性膵炎は突然発症し、上部腹痛を伴い、種々の腹部所見(軽度の圧痛から反跳痛まで)を伴う。急性膵炎は多くの場合、嘔吐、発熱、頻脈、白血球増加、血中または尿中の膵酵素の上昇を伴う

【急性浸出液貯留】

 多くは膵炎の急性期に出現する膵内及び膵周囲の浸出液貯留で、繊維性の壁を有しないものである。
 臨床的特長:重症急性膵炎では30~50%の頻度で急性の浸出液貯留を生じるが、半数以上の症例で自然に消退する。仮性のう胞との臨床的な鑑別はのう胞壁の有無による。

【壊死性膵炎】

 膵壊死はびまん性または限局性に膵実質が非可逆的壊死に陥ったもので、典型例では膵周囲脂肪組織の壊死を伴う。臨床的には、造影CTで膵実質に明らかな造影不良域が認められるものである。
 臨床的特長:膵壊死組織への感染合併の有無で死亡率に著明な差を認めるため、感染性か非感染性かの鑑別は重要である。

【感染性壊死】

 壊死に陥った膵に細菌の感染を合併したものである。非感染性膵壊死と鑑別困難なことが少なくなく、感染性膵壊死と診断するためには画像ガイド下の穿刺吸引による細胞培養が必要である
 臨床的特長:壊死に感染を生じた場合の予後は不良で、外科的治療の適応とされている。

【膵仮性嚢胞】

 肉芽組織あるいは繊維性の壁構造を有し、膵液や壊死組織の融解物の貯留を伴うものである。膵管との交通の有無は問わない。急性膵炎発症後4週以降に見られることが多い。自然に消失する事もあるが、長期間に渡って存在することもある。また、感染や出血を合併することもある。
 臨床的特長:急性膵炎の患者では時に仮性のう胞を触知するが、通常は画像診断で発見される。仮性のう胞は通常、膵酵素を豊富に含有し、多くの場合、無菌である。

【膵膿痬】

 膵及び膵に隣接した限局性の膿の貯留であるが、内部に膵壊死組織はないか、あってもごくわずかである。仮性のう胞内に明らかな膿の貯留を認める場合には膵膿痬とする。
 臨床的特長:臨床像は様々であるが、多くは感染像を呈する。重症急性膵炎発症後4週以降に生じることが多い。膵膿痬と感染性壊死との鑑別は次の観点から重要である。すなわち、感染性壊死は膵膿痬よりも予後不良であり、その死亡率は約2倍であること、また各々の治療法が大きく異なる場合があることの2点である。なお、急性膵炎に対する手術後に発生した膿痬は術後膵膿痬とし、保存的治療の経過中に発生したものとは区別すべきである。
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参考文献

 (1) 厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班(班長 斉藤洋一)平成元年度研究報告書,18-26, 1991.
 (2) 日本膵臓病学会慢性膵炎臨床診断基準検討委員会: 慢性膵炎診断基準(日本膵臓病学会,1995)
 (3) 中野 哲 胆石性膵炎、今月の治療6(1): 16-19, 1998
 (4) 厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班, 昭和62年度研究報告書, 23-27, 1988
最終更新:2008年03月25日 03:13