作成:足立将之(07/02/09)


地方自治体では、新しいまちづくりを推進するための長期的・総合的な計画を策定している。京都市では、1985年、1993年、2001年の過去3度、京都市基本計画を策定しており、概ね10年を計画期間としている(表1)。

 過去2つの基本計画では、福祉、産業、労働などの行政分野別の縦割りの構成であったが、現在の基本計画は構成を見直し、市民の視点から見た横断的な構成へと変更されている。

基本計画は計画策定当時の社会・経済・環境情勢の変化などを受け、内容には変化が見られる。以下では、現在の基本計画と過去の基本計画の内容にどのような変化が見られるかを、特に環境面での項目を中心に見ていく。

表1 計画の期間と計画策定時の環境情勢

計画名・期間

計画策定時の環境の状況

・京都市基本計画

~伝統を生かし創造をつづける都市~

1985年~1994年

経済が安定的に拡大する中で、人口構成が高齢化し、産業構造の高度化が進み、都市化の傾向にも変化がみられるなどいわゆる経済社会の成熟化が進んでいる。また、公害の発生源については工場などによるものに加えて、自動車などの移動発生源や家庭生活によるものも重要となってくるなど多様化し、その発生形態も複雑化してきている

・新京都市基本計画

~平成の京づくり・文化首都の中核をめざして~

1993年~2001年

好景気の中で経済活動が活発化し、諸活動が都市にますます集中し、大都市におけるに二酸化窒素による大気汚染が悪化した。さらにごみも増加し、処分場不足や散乱、不法投棄が目立つようになった。余暇を求める人々の欲求、過疎に悩む地方の開発への指向を背景にして、いわゆるリゾート開発が広がり、自然の改変が進んだ。

・京都市基本計画

~くらしに安らぎ まちに華やぎ 信頼で築く21世紀の京都~

2001年~2010年

大量生産・大量消費・大量廃棄という、これまでの経済社会システムやライフスタイルのあり方に起因した廃棄物の発生量の増大、最終処分場の逼迫、ダイオキシン問題は社会問題化しており廃棄物・リサイクル対策は、緊急課題となっている。さらに、地球温暖化問題は、人類と生態系の存続そのものに深刻な影響を及ぼすおそれのある重大な問題は、以前課題として残っている








 

 

現在の基本計画の前文には、「あらゆる政策の基本に環境をおいて計画を策定する」という記述がなされており、環境部門の政策だけでなく産業部門、教育部門など他の部門についての政策においても、環境への配慮が表れている。

また、現在の基本計画が策定された前年の平成12年に循環型社会形成推進基本法が制定されたこともあり、持続可能や循環型といった文言の記述が現在の基本計画の中で初めて用いられ、施策にも循環型社会に対応する内容が多く盛り込まれたものとなっている。現在の基本計画では、今まで個別の箇所に記載されていた資源・エネルギーの有効活用に関する内容や廃棄物に関する内容などが、「環境への負担の少ない持続可能なまちをつくる」という項目に一つにまとめられ、特に循環可能という視点に力点がおかれた内容へと変化している。

他にも循環型社会を意識した点として、住民参画に関する章が設けられたことが挙げられる。1992年の「持続可能な開発」をキーワードに地球環境問題などを取り上げた国際会議であるリオ地球サミットで採択されたアジェンダ21において、環境問題に関する情報へのアクセスや、市民参画の重要性が提唱され、10年後のヨハネスブルグサミットでも、持続可能な社会づくりに向けて、市民参加の必要性が確認された。このように、住民の参加は持続可能型社会の実現には必要なことである。現在の基本計画では「市民との厚い信頼関係の構築を目指して」(表1)という章を設け、市民への積極的な姿勢情報の公開、市民が政策形成に参加できる仕組みづくりなど住民参加に関する記述がなされている。市民参加についての記載は、以前の基本計画においては、計画そのものではなく、計画の推進のためにという基本計画で掲げられた施策の促進を図る箇所において、多少の記載が見られるのみであった。基本計画での施策実現のための手段ではなく、施策そのものとして住民参加を捉えた点において、大きな変化であったといえる。

1 「市民との厚い信頼関係の構築を目指して」(第3章)の詳細

基本方向

項目

第1節

情報を市民と共有する

市民との信頼関係構築のための前提として、市政情報の積極的提供や公開を進め、市民との対話を通じ市民の意見・提案やニーズを的確に把握し、市政にかかわる情報を市民と共有する。

■市民の目線での市政情報の提供や公開

■市民との対話による双方向性の確保

■市民と共に政策を企画・実施・評価していくための情報の共有

第2節

市民の知恵や創造性を生かした政策を形成する

市民の多様なニーズに的確に対応したサービスの効率的提供を図るため、代表民主制度を補完する様々な段階での市民参加の下に、市民の知恵や創造性を生かした政策形成を行う。

■市民が政策形成に参加できる仕組みづくり

■個性ある政策を形成するための条件整備

第3節

市民と共に政策を実施する

環境、高齢者介護、子育て支援、防災、まちづくりなど広範な領域で市民の自発的活動への支援等を行い、市民との適切な役割分担を図りつつ協働して政策を実施する。

■市民との協働による政策の推進

■新たな発想・手法を取り入れた行政運営の推進

第4節

市民と共に政策を評価して市政運営に生かす

行政活動の基礎単位となる具体的事務事業だけでなく、これらの事務事業を包括した基本方針を示す政策についても、市民とともに評価を行うことのできるしくみを整え、評価から得られた成果を政策や事務事業の見直しと新たな形成につなげる。

■市民と共に行う評価の仕組みづくり

■公共事業の再評価

第5節

個性を生かした魅力ある地域づくりを進める

地方分権の大きな流れの中、福祉や防災、環境など市民に身近な問題は、できる限り地域の独自性を生かし意思決定を行うことが必要。このため、各区基本計画の策定過程で得たノウハウやネットワークなどを生かし、各区の個性を生かした魅力ある地域づくりの拠点として区役所機能の強化を図り、きめ細かなサービスの提供に努める。また、市民に親しまれる総合行政機関としての役割を強化するため、区役所の総合庁舎化を進めるとともに、新市庁舎の整備に向けた取組を進める。

■魅力ある地域づくりの拠点としての区役所機能の強化

■区役所の総合庁舎化

■新市庁舎の整備

 次に廃棄物関連の内容をみると、これまでの計画では取組主体を行政・事業者を対象としたものであったが、現在の計画においては「市民・事業者・行政の役割分担を明確にしつつ、廃棄物の発生抑制や再資源化、適正な処理を進める」という文言が記載され、市民と一体となったごみ減量とリサイクルの促進に向けたものへの変化が見られえる。

 廃棄物の適正処理についての内容においては、以前の計画では、業者に対する啓発・指導などを行うといった内容であったものに加え、業者の社会的信頼回復のため、表彰制度の導入など優良業者、業界団体の育成に努めるといった内容が追加された。また市民においても、市民参加の普及啓発事業としてシンポジウムやフォーラムを行い、産業廃棄物に関して正しい知識を深める取組を進めることが盛り込まれた。

 また。過去二回の基本計画では数値目標や計画の実施状況についての取り決めがなったが、現在の基本計画では数値目標が始めて記載され、また計画の実施状況についても、2005年に制定された「京都市会の議決に付すべき事件等に関する条約」により、年度ごとに基本計画の実施状況について市会への報告が義務付けられ、その報告内容は京都市のホームページから閲覧することが可能である。

2 環境・市民参加関連の数値目標(目標年度2010年)

市域における二酸化炭素排出量

7,279千トン(1990年)→10%削減

ごみ焼却量(焼却処理する可燃ごみと埋立処分する不燃ごみ)

777,790トン(1997年)→15%削減

ごみ処理量に占める資源回収の割合

2.5%(1997年)→16

市政に関心のある市民の割合

(市政総合アンケート調査)

75%(1999年)→90

公開している審議会等の数

232000年)→ほぼすべて

委員を公募している審議会等の数

42000年)→ほぼすべて

パブリックコメントの実施件数

21999年)→市政の各分野の構想や計画の策定にあたってほぼすべて

市内における民間非営利活動法人認証数

482000年)→450(法人資格取得意向のある団体すべて)

<参考文献>

・京都市基本計画~伝統を生かし創造をつづける都市~

・新京都市基本計画~平成の京づくり・文化首都の中核をめざして~

・京都市ホームページ(京都市基本計画PDF版)

・環境白書(S60H5H13


最終更新:2007年02月10日 01:45