編集:足立(07/02/08)


20世紀は資源の大量消費と技術開発に支えられ、人間は物質的に豊かな生活を享受するとともに、自然災害や疫病による死を軽減させてきた。その反面、環境汚染や自然破壊の進行、オゾン層の破壊や地球温暖化などといった問題が深刻化した。これらの問題に対して技術的な解決だけでは必ずしも明るい将来展望が描ける状況にはなく、むしろ漠とした不安や閉塞感が社会に広がっている。例えば、産業革命に端を発して化石燃料の使用量を増大させた結果、利用可能年数は石油があと40年、天然ガスで70年、石炭で300年足らずと予測されている。このまま資源の大量消費が続けば、21世紀中には化石燃料が枯渇する可能性があり、生活の基本を支えるエネルギーの面における将来への見通しの不透明さが生ずる原因となっている。

 現在われわれが直面している際限のない「成長問題」の起源として、すでに19世紀半ばにはJ.S.ミルが『経済学原理』の中で独自の定常経済論を提起していた。これは、国民所得、消費、投資、物価水準といった経済指標が一定で推移する状態を示しており、経済の「停滞」とも解釈できる。ところが、ミルは「資本及び人口の停止状態なるものが、必ずしも人間的進歩の停止状態を意味するものでないことは、ほとんど改めて言う必要がないであろう。停止状態においても、あらゆる種類の精神的文化や道徳的社会的進歩のための余地があることは従来と変わることがなく、また『人間的技術』を改善する余地も変わらないであろう」と指摘している。表面的には経済が停滞しても、実際には人々の間には文化的な交流があり、むしろ「人間的な活動」が行われるとミルは解釈している。

 アメリカの環境経済学者ハーマン・デイリーは、定常経済論を発展させ、独自に持続可能な社会実現のための3条件を提案した。

①水や森などの再生可能な資源の利用は再生速度を超えてはならない

②化石燃料や鉱物資源などの再生不可能な資源の利用は持続可能なペースで利用できる代用物の生産速度を上回ってはならない

③汚染物質の排出量は自然の浄化能力の範囲を超えてはならない

 これらは持続可能な社会が構築にとって必要であり、それは「成長なき発展」によってもたらされる。すなわち、有限な地球のもとでは「持続可能な成長」は不可能で、「発展」は個別に効用を高めることによって可能となるという。各個人にとって所得の増大が必ずしも効用を高めることにつながらないことは、公害問題が盛んに議論されていた1970年代から指摘されている。所得増大は「生活の豊かさ」を犠牲にして進められてきたともいえる。インド出身のアマルティア・センは経済の目的は「生活の豊かさ」にあるとし、その計測方法として「ケイパビリティ」という概念を提示した。これは、人間の諸機能、識字や体力、学力、他の人々と交流する能力などの総体で、それらを自由に選択できる「幅」まで含むという。このように、持続可能な社会とは環境負荷を下げながら「生活の豊かさ」を向上させる道筋に実現しうるといえるだろう。

 持続可能性の量的な側面は、漁業資源の乱獲競争の反省から生まれた「最大維持可能生産量」の理論を通じて、資源利用の「持続可能性」について論じられるようになったのが最初である。ここでいう「持続可能性」の概念は魚類等の特定の再生可能な生物資源に関し、その収穫には一定の物理的限界があるため、一定量の資源のストックから生み出される純再生産量だけが利用可能であって、それ以上の利用を行えば、ストックが減少し、資源の枯渇を招くことを前提に論じられた。同様の概念は林業における「収穫規整」にもあり、すでに18世紀には森林資源を持続的に収穫するための様々な手法が開発された。

 その後、19世紀から20世紀にかけては産業革命に伴って先進国を中心に大きく経済発展を遂げ、様々な技術開発によって便利な生活を享受することができた。その一方で、20世紀の後半になってからは、温室効果ガスの増加、放射性物質をはじめとした有害廃棄物の処理、途上国の環境悪化、成層圏でのオゾン減少、野生生物の大量死などの問題を契機として、人類社会の持続可能性が問われるようになった。ローマクラブの発表した『成長の限界』、アメリカ政府の刊行した『西暦2000年の地球』は、地球環境と人類活動との間の今日の関係は長く維持できるものではないとの懸念を世界的に巻き起こすきっかけとなった。こうした懸念を生じないように提案された考え方が「持続可能な開発」である。この言葉は、国際自然保護連合が国連環境計画や世界自然保護基金などの協力の下に、1980年に作成した「世界環境保全戦略」の中であった。

 さらに、「持続可能な開発」という言葉は、国連環境計画に発足した「環境と開発に関する世界委員会」により、1987年に公表された報告書「われら共有の未来(Our Common Future)」である。報告書によると、「持続可能な開発」とは将来世代がそのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在世代のニーズを満たす開発であり、鍵となる2つの概念を含んでいる。

①「ニーズ」の概念、とりわけ貧者―それに対して何にもまして優先性が与えられるべき―の不可欠なニーズ

②現在および将来のニーズを満たす環境の能力について、技術や社会組織の状態によって課される限界

 突き詰めると、持続可能な開発とは、資源の開発、投資の方向、制度の変化のすべてが調和し、人間のニーズと切望を満たすための現在および将来世代の潜在的能力を高める変化の過程ととらえられ

最終更新:2007年02月08日 16:57