一部事務組合・広域連合

作成開始:足立(06.06.22

●一部事務組合

1)設立経緯と目的

一部事務組合は、自治体の事務の一部を共同で行うことを目的として、地方自治法に基づいて設置される特別地方公共団体の一つである。広域連合と並んで「地方公共団体の組合」の一つである。地方自治法(第285条の2)では、都道府県知事は、関係のある市町村および特別区に対し、一部事務組合または広域連合の設置を勧告できるとされている。

 一部事務組合の制度が創設された背景には、昭和40年代以降のモータリゼーションの進展等により行政サービス需要が広域化してきたことが挙げられる。また、このような変化に対応するには、個別の市町村には資力の乏しいところもあり、行政運営を効率化も求められていた。個々の自治体から見れば、アウトソーシングの先駆けとも言える。

 平成16年度末時点(平成15年度末)で、1,798組合(2,057組合)が設置されており、その内、衛生に関する業務を行う組合は、739組合(843組合)となっており、一部事務組合の41%を占めている。

 一部事務組合の内、複数の事務事業を行うものは、「複合的一部事務組合」と呼ばれ、昭和49年に制度が創設されている。また、公営企業を共同処理する一部事務組合は、「企業団」と呼ばれ、主に水道事業を担っている。

2)一部事務組合の制度上の特徴

一部事務組合は構成市町村の下部組織として認識されることが多く、市町村の意向・思惑が優先されがちであり調整が困難となっている。組合議会の日程調整や、組合としての主体的な政策立案・計画策定が困難であり、分担金算出方法を巡る紛争などがよく発生する課題として指摘されている。また、一部事務組合の決定に従わない構成団体に対処するための法的根拠がないことも、調整に手間取る原因となっている。

 なお、一部事務組合の構成員は、個人ではなく、自治体であるため、「一部事務組合には、構成自治体の住民と同じ意味の住民はいない」というのが定説となっている。実際のサービスの受け手は住民であるから、一部事務組合に住民は間接的に存在するという解釈が多数説である。このため、一部事務組合では、監査請求はできるが、選挙管理委員会はなく、住民による直接請求はできない。制度上は、規約によって、議会の議員及び管理者(組合の長)を直接公選で選ぶことができる。議会の議員を直接公選で選ぶ例は僅かながらある。しかし、管理者を直接公選で選んでいる例は、知られていない。

 このように、住民からみても目が行き届かないところにある組織であり、また構成市町村の関心も、自前で運用するのに比べて薄くなりがちである。

●広域連合

 広域連合は、地方分権の推進の流れを受けて、一部事務組合の機能・権限を拡張する形で平成76月から施行されている制度である。平成163月1日時点で86の広域連合が設置されている。そのうち、環境衛生に関わる事業を行う組合は、81組合あり、ほとんどを占めている。一部事務組合が、統合により組合数が減少しているのに対して、広域連合の数は増加している。

 広域連合の制度のもとでは、一部事務組合に比べて、広域的な調整の円滑化ができるように、多くの制度が整備されている。

 まず広域計画を立てる権限が委ねられており、広域連合の処理する事務ばかりでなく、構成団体の事務についても盛り込むことができる。また、構成団体の事務の実施について、勧告することができる。勧告を受けた構成団体の是正措置について報告を求めることができる。

 より民主的な仕組みの導入もされており、広域連合の長と議員は、いわゆる充て職は認められず、直接又は間接の選挙により選出される。住民は、広域連合への直接請求を行うことができる。

 上記のように、幾つかの点で一部事務組合の課題が改善されている。一方、広域行政のあり方をめぐる議論の中で提案されたが、制度化できなかったものもある。第23次地方制度調査会答申「広域市町村圏及び地方公共団体の連合に関する答申」(昭和44年)では、広域連合制度の創設にあたり、長を置く方法の他、評議会の設置とこれと併せたシティマネージャー制度の設置も提案されていた。経営の専門家等を外部から雇用し、経営責任者とすることも可能にしようというねらいであったが、広域連合制度には導入されなかった。

●まとめ

1)一部事務組合と広域連合との主な相違点

区分

一部事務組合

広域連合

団体の性格

・特別地方公共団体

・同左

構成団体

・都道府県、市町村及び特別区※複合的一部事務組合にあっては、市町村及び特別区

・都道府県、市町村及び特別区

設置の目的等

・構成団体又はその執行機関の事務の一部の共同処理

・多様化した広域行政需要に適切かつ効率的に対応するとともに、国からの権限移譲の受入れ体制を整備する

国等からの事務権限の委任

・国又は都道府県は、広域連合に対し法律、政令又は条例の定めるところにより、直接事務を処理することとすることができる
・都道府県の加入する広域連合は国に、その他の広域連合は都道府県知事にその権限に属する事務の一部を広域連合が処理することとするよう要請することができる

構成団体との関係等

・構成団体に規約を変更するよう要請することができる
・広域計画を策定し、その実施について構成団体に対して勧告することができる。広域計画は、他の法定計画と調和が保たれるようにしなければならない
・広域連合は、国の地方行政機関、都道府県知事、地域の公共的団体等の代表から構成される協議会を設置できる

設置の手続

・関係地方公共団体が、その議会の議決を経た協議により規約を定め、都道府県の加入するものは総務大臣、その他のものは都道府県知事の許可を得て設ける

・同左
※総務大臣は、広域連合の許可を行おうとするときは、国の関係行政機関の長に協議

直接請求

・法律に特段の規定はない

・普通地方公共団体に認められている直接請求と同様の制度を設けるほか、広域連合の区域内に住所を有するものは、広域連合に対し規約の変更について構成団体に要請するよう求めることができる

組織

・議会-管理者(執行機関)
※複合的一部事務組合にあっては、管理者に代えて理事会を設けることができる

・議会-長(執行機関)

議員等の選挙方法等

・議会の議員及び管理者は、規約の定めるところにより、選挙され又は選任される

・議会の議員及び執行機関の選出については、直接公選又は間接選挙による

2)一部事務組合の問題点と広域連合でのその点の変化

一部事務組合の問題点

広域連合

組織の硬直化

→これは画一的期間構成と言い換えることができ、一部事務組合には管理者と議会が必ず置かれる

一律に長を置かなくてはいけないという点で、むしろ後退した

掌握事務事業の変更と規約事項の制約

→事務事業の変更を行う場合には、構成団体の協議によって規約を変更しなければならない

事務の変更については規約の変更が必要という点で変わりはない

方針に従わない構成団体の取り扱い

→負担割合等の決定に不満を抱き従わない構成団体がある場合手をこまねいているしか方法がない

方針に従わない構成団体に対しては、町に勧告権が与えられ、その権限が強化された

プロパー職員の身分・労働条件

→プロパー職員の身分は構成団体の公務員のように身分が保証されていないので、再編統合・解散などの場合に失職する

身分の不安定さについては変わらない

管理者の当事者能力の欠如

→不利に置かれた労働条件などについて組合が交渉する場合、構成団体に聞いてみるしかないといった形で逃げられてしまうことがある

権限の強化された長は、直接交渉の当事者としての責任もまたその自覚も強まるものと思われる

住民の地位

→一部事務組合には、その構成団体と同じ意味の住民はいないというのが定説ではあるが、実際には一部事務組合の提供するサービスの受けては底にいる住民である

いっそうすっきりしない規定になったともいえる

<参考文献>

1)平成18年地方財政白書「一部事務組合等による事務の広域的処理の状況」(総務省)

http://www.soumu.go.jp/menu_05/hakusyo/chihou/18data/18czb1-6.html

2)宮崎伸光(1994)一部事務組合と広域連合.自治労通信1994.9.1

3)木村正孝(?)城南衛生管理組合と市民参加の可能性.月刊自治研

4)「地方公共団体間の事務の共同処理の状況調査」(総務省・平成147月)http://www.soumu.go.jp/kouiki/kouiki1.html

最終更新:2006年06月23日 09:53