ディスポーザーの普及と課題

作成:野瀬光弘(6月19日)


1.ディスポーザーのタイプ

 ディスポーザーは、生ごみを台所に置かずその日のうちに始末したい、老人家庭などでごみ集積場まで運ぶのが辛いなどという生活上の問題や、家庭ごみの中でも大きな割合を占める生ごみ削減の必要性を背景に近年普及してきた。

 ディスポーザーは、下水道への接続という観点からすると、「直接投入型(単体)ディスポーザー」と「処理槽付きディスポーザー」に分類される(図12・・・省略)。前者は、流し台の下の配管に取り付け、生ごみを水と一緒に流し台の排水口に投入、ディスポーザーによって生ごみをすりつぶすように粉砕し排水管に排水する。後者は、ディスポーザーで処理した後に、さらに排水浄化槽で水質を一般家庭なみの水質に処理して下水道に流す。


2.食品廃棄物の発生とディスポーザーの設置

 表1に示したように、平成13年度の時点で食品廃棄物の総発生量は約2,200万トンで、8年度の1,940万トンに比べるとやや増加している。平成8年度のリサイクル率は産業廃棄物が48%だったのに対して、一般廃棄物はわずか0.8%に過ぎなかったが、食品リサイクル法の影響で事業系を中心に比率は上がっていると推察される。

    表1 食品廃棄物の発生量           単位:1,000トン

区分

産業廃棄物のうち動植物性残渣

一般廃棄物

合計

事業系

生活系

全国計

4,110

3,618

14,184

21,912

   資料:バイオマス情報ヘッドクォーターのホームページ

   注:ホームページに試算方法が説明されている。

 家庭等から発生する生ごみは、害虫、害鳥、害獣による周辺衛生環境の劣化対策など、様々な保管上の配慮等が必要となるため、特に集合住宅の建設などでは問題となる。そこで、ごみの排出抑制、周辺の衛生環境、利便性といったニーズを満足する対策としてディスポーザー排水処理システムによる生ごみ処理の導入が進んできた。図3(省略に示したように、全国の集合住宅ディスポーザー排水処理システムの竣工物件、戸数は平成8年から16年にかけて着実に増えていることがわかる。

 地域別にみると、首都圏と近畿圏が圧倒的に多く両地域を合計すると約90%を占めており、続いて九州・沖縄、東海の順番となっている(表2)。なお、平成165月に行われた下水道管理者1,953へのへのアンケート調査によると、直接投入型ディスポーザーは条例による禁止と要項等による自粛は合計48%にのぼり、制限なしの39%を上回っていた。処理槽付きディスポーザーは条例による禁止と要項等による自粛の合計が21%と比較的小さかったが、条件付きでの設置許可34%と制限なし41%は拮抗していた。

 表2 地域別のディスポーザー排水処理システムの竣工物件、戸数(平成16年現在累計)

地域

物件数

戸数

北海道

30

1,784

東北

8

677

北関東

11

806

首都圏

674

96,039

甲信越

9

548

北陸

24

1,132

東海

58

4,095

近畿

26

26,233

中国

7

518

四国

1

37

九州・沖縄

79

5,737

合計

1,167

137,606

   資料:茨城県薬剤師会公衆衛生検査センターのホームページ


3.ディスポーザー導入の影響

 家庭でのディスポーザー導入は、市民生活にとどまらず、下水道システムやごみ処理システムに様々な影響を及ぼす。以下では影響の内容をかいつまんで紹介する。

(1)下水道システムへの影響

①排水設備への影響

・堆積及び付着

 必要な勾配が確保されていない場合等において、配水管や桝等に貝殻や卵殻類等の堆積、スライムの付着が生じる可能性がある。特に、屋内の横引枝管の緩勾配の箇所、トイレ・風呂・洗濯等の排水との合流前の台所排水のみの箇所ではフラッシュ効果が少なく、堆積・閉塞の可能性が高まる。

・悪臭

 ディスポーザーの導入により、従来と比べて悪臭が発生しやすくなる、あるいは新たに発生する恐れがある。


②管渠への影響

・堆積物の増加

 たわみ部分等において卵殻や貝殻等の堆積物が増加する可能性がある。管渠模型実験で「たわみ」における堆積物の堆積・掃流状況を調べたところ、時間経過とともに「たわみ」部が堆積物で満たされ、堆積物表面が順勾配になってから流況が正常に戻ることが確認された。

・悪臭及び腐食(硫化水素の発生)

 硫化水素の発生が助長され、悪臭の発生及び腐食が進行する。汚水が流下している状況でも、圧送管や一部の自然流下管渠(流速が小さいあるいは水深の大きい管渠)では汚水が嫌気状態となり、硫化物が生成することがある。


③ポンプ場施設への影響

・沈砂発生量の増加

 粉砕厨芥の一部が下水中の土砂、砂利、巨大な浮遊物とともに沈砂池で除去され、沈砂発生量が増加する。

・スクリーンし渣発生量の増加

 一般に細目スクリーンの目幅は、汚水用では1525mm、雨水用では2550mm、粗目スクリーンの目幅は50150mm程度のものが用いられる。繊維状の破砕物やそれらが絡み合って粒径が大きくなったもの、紙等のスクリーンに捕捉された夾雑物に付着した破砕物や油分がスクリーンし渣になると考えられる。

・堆積物及びスカムの増加(ポンプ井等)

 ポンプ井では汚水が滞留するためディスポーザーの導入により堆積物が増加する。厨芥のうち野菜くずや油分等の比重の小さい成分はポンプ井でスカム(排水中の有機物が腐敗、発酵することにより発生するガスによって、懸濁物質、繊維質、油脂質、細菌が浮上して水表面にできるスポンジ質の厚い膜状の浮きかす)となる可能性がある。水面に発生したスカムは掃流されにくく、悪臭の原因となることが予想される。

・硫化水素の発生に伴う悪臭の発生及び腐食の進行

 汚水がポンプ井等に長時間滞留する場合は、汚水が嫌気化しやすく、堆積物が硫化水素腐食等の原因となることが懸念される。


④合流式下水道への影響

 晴天時の暗渠内堆積物が増加し、それが雨天時に掃流されて放流水の汚濁負荷を増加させる恐れがある。管渠に堆積しやすい卵殻や貝殻等により固形物の流出量が増加することも想定される。


⑤水処理施設への影響

・流入汚水量及び汚濁負荷量

 下水処理場への流入汚水量増加はわずかだが、流入汚濁負荷量が増加すると考えられる。

・最初沈殿池

 排水中固形物の沈降特性に起因して最初沈殿池除去率や生汚泥の有機物含有量等は導入前と同等もしくはそれ以上となり、生汚泥量は増加し、超流ぜきへの夾雑物の付着や汚泥腐敗によるスカムの発生等が生じる。

・反応タンクと最終沈殿池

 流入汚濁負荷量の増加に伴い余剰汚泥発生量とともに必要酸素量が増加する一方で、SRT(汚泥滞留時間)が減少すると考えられる。

・高度処理

 硝化細菌の増殖に必要なSRTが確保できなくなる等により硝化反応に支障をきたす恐れがある。流入窒素負荷量の増加と比べて有機物負荷量の増加が大きいことから、脱窒速度が向上するかもしれない。また、凝集剤が添加等といった物理化学的リン除去の場合、流入負荷に比例して添加量が増加してしまう。


⑥汚泥処理施設への影響

・汚泥濃縮

 投入汚泥量に伴って固形物負荷が増加すると固形物回収率が低下し、分離液のSS濃度上昇する。投入汚泥の固形物濃度、有機分が高くなると、汚泥の沈降分離・濃縮性が悪化する危険性がある。

・汚泥消化

 有機物量の増加により投入汚泥量当たりのガス発生量の増加がみられ、短期間で容易にガス化される易分解性有機物の増加でも消化率が高まり、ガス発生量が増加する。

・汚泥処分・有効利用

 埋立処分している場合は最終処分量が増加し、処分場の残余年数が減少するといった影響が考えられる。


(2)ごみ処理システムへの影響

①可燃ごみの量及び質

 厨芥ごみの一部が下水道へ流入することにより、家庭等から排出される可燃ごみの量が減少し、その水分が低下することで湿基準低位発熱量(ごみ湿重1kg当たり完全燃焼時に発生する熱量から水分の蒸発熱を減じた値)が増える。


②収集・運搬

 ごみ収集車の収集・運搬量の減容化により、収集・運搬時間、必要車両台数の減少が期待される。可燃ごみ中の悪臭発生原因が減ることによって収集・運搬作業環境の向上が見込まれる。


③中間処理

 湿基準低位発熱量の増加により炉内の温度が上昇し、炉寿命の短縮、火炉負荷の制限による炉投入量の減少等が考えられる。


(3)市民生活への影響

 市民生活への影響は表3に示したような内容が想定される。これらの項目について、北海道枝幸郡歌登町(現枝幸町)のディスポーザー利用者にメリットとデメリットに関する意識、今後の利用意志をアンケートで尋ねた(平成121415年にそれぞれ100110102世帯を対象)。メリットのうち、台所の衛生面の改善を「とても感じる」、「ある程度感じる」と回答した人の割合は75%、ごみ捨て労働力の軽減は68%と多く、利便性と衛生面への意識が高かった。デメリットとしては、騒音・振動の発生をあげた人が69%にのぼった。なお、今後も使い続けたいと答えた人は78%だったことから、ディスポーザーに対する評価の高さが感じられる。

  表3 市民生活への影響内容

項目

内容

利便性・衛生面の改善

ごみ捨て労力の軽減

台所の衛生面の改善(臭い、ハエ等の発生が低減)

ごみ集積場の環境改善

ネコ・カラスによるごみ散乱の低減

悪臭・汚汁発生の低減

使用上のトラブル・問題点

騒音・振動の発生

排水設備の詰まり、故障の発生、使用時の安全性等

料金の増減

電力・上下水道料金の増加、ごみ料金の削減

  資料:国土技術政策総合研究所のホームページ


参考文献・ホームページ

(1)http://eco.goo.ne.jp/word/recycle/S00045_kaisetsu.html(環境goo「ディスポーザー」)

(2)http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/04/040727_.html(国土交通省都市・地域整備局下水道部「ディスポーザー導入時の影響判定の考え方」最終取りまとめ)

(3) http://www.ibaraki-kensa.or.jp/disp/(茨城県薬剤師会公衆衛生検査センター)

(4)http://www.biomass-hq.jp/b

最終更新:2006年06月19日 11:15