一般廃棄物処理の民営化

野瀬光弘(作成:6月5日)


1.背景

 ごみ量の増加や質の変化、最終処分場に逼迫等に伴って廃棄物行政は焼却-埋立処分から資源としてごみを再利用する(リサイクル型処理)方式へと転換しつつある。リサイクル型の処理は、発電などの熱源として再利用する方法、プラスチックなど製品原料として再利用する方法がある。こうした新たな廃棄物処理方式の運用には、高度な技術力、駆使できる人材と支える資金が不可欠となる。

 焼却時のダイオキシン類対策では、焼却炉の不完全燃焼や排気ガスが一定温度を下回るときに発生しやすいことから、24時間の連続炉によって炉内温度を一定以下に下げないことが求められている。このため、焼却炉を新設する場合に連続炉に必要な廃棄物量に満たない市町村は広域処理を図ることになる。既設炉では、燃焼管理の適正化、施設改造、ろ過式集塵機の設置などによってダイオキシンを処理するために、溶融固化処理が進められている。ところが、多くの市町村では財政事情が厳しく、直ちに施設整備を行う余裕がなくなってきている。


2.
PFIの適用

 こうした厳しい財政状況を背景に、全国の地方公共団体で民間の資金と経営能力・技術力(ノウハウ)を活用し、公共事業を実施するためにPFIPrivateFinanceInitiative(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)の略)と呼ばれる手法が拡大しつつある。以下では、一般廃棄物処理を中心にその展開過程と運用事例を紹介する。

(1)導入の経緯

 PFIとは、平成411月にイギリスで導入され、日本でも9年頃から中央省庁で検討が始まり、117月には「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の推進に関する法律」(以下ではPFI推進法とする)が制定された。平成12年にはPFI推進法で規定する基本方針が定められ、それを補完するガイドラインも13年にはまとめられた。この間多くの地方自治体がPFI導入について検討を進めており、平成185月時点で232件が実施方針を策定・公表した


(2)
PFI事業の特徴

 これまでは、第三セクターのように公共と民間が1つの会社を設立して事業を進めていくというのではなく、公共と民間がそれぞれの役割分担を明確にして民間に任された部分は全て民間の責任で行われることになる。PFIでは、公共側は事業の基本計画や民間の事業条件を設定し、事業を監視するということを役割として担い、一方、事業の計画、施設の設計、資金調達、建設そして維持管理、運営に至るまでできるだけ多くの部分を民間が担う方向で事業が進められる。

 PFIの事業主体としては、公共施設等の管理者となる国、地方公共団体、特殊法人等の公共法人が発注者となり、選定事業者によってPFI事業を実施するための特別目的会社が設立され、事業が実施に移される。PFI事業候補の選定対象は、以下の3つの要件を満たす事業とされている。

PFI推進法第2条で定める施設

 公共施設(道路、河川、公園、水道、下水道等)

 公用施設(庁舎、宿舎等)

 公益的施設(教育文化施設、医療施設、社会福祉施設、駐車場、公営住宅等)

 その他の施設(情報通信施設、熱供給施設、観光施設、研究施設等)

 上記施設に準じるもので政令で定める施設


②投資額が
3億円以上の事業(既存公共施設等の管理運営の抜本的な見直し事業を含む)


③基本構想程度(事業規模、業務内容等について想定できる程度)までの検討がなされている事業


(3)廃棄物処理と
PFI

 現在、いくつかの公共事業がPFIの手法によって進められており、廃棄物処理施設についても以下の表のように計画・運用が行われている。PFIを導入した全国14か所のうちすでに6か所で運用が始まっており、平成20年前半にかけて続々と供用が開始される予定となっている。

 表1 PFIによる廃棄物処理・リサイクル施設の事例

事業名称・施設名

発注者

時期

留辺蘂町外2町一般廃棄物最終処分場整備及び運営事業

北海道留辺蘂町

平成164月供用開始

稚内市廃棄物最終処分場整備運営事業

北海道稚内市

平成1910月供用開始

(予定)

大館周辺広域市町村圏組合・ごみ処理事業

秋田県大館市

平成176月供用開始

2クリーンセンター(仮称)整備・運営事業

岩手県

平成21年度供用開始

(予定)

彩の国資源循環工場整備事業(サーマルリサイクル施設)

埼玉県

平成186月供用開始

長泉町一般廃棄物最終処分場(仮称)の整備・運営事業

静岡県長泉町

平成184月供用開始

(仮称)浜松市新清掃工場・新水泳場整備運営事業

静岡県浜松市

平成214月供用開始

(予定)

田原リサイクルセンター炭生館

愛知県田原市

平成174月供用開始

名古屋市鳴海工場整備・運営事業

愛知県名古屋市

平成217月供用開始

(予定)

堺市・資源循環型廃棄物処理施設整備運営事業

大阪府堺市

平成254月供用開始

(予定)

(仮称)姫路市新美化センター整備運営事業

兵庫県姫路市

平成224月供用開始

(予定)

倉敷市水島清掃工場

岡山県倉敷市

平成177月供用開始

益田地区広域クリーンセンター整備及び運営事業(益田地区広域市町村圏事務組合)

島根県益田市

平成204月供用開始

(予定)

(仮称)北九州市プラスチック製容器包装選別施設整備運営事業

福岡県北九州市

平成194月供用開始

(予定)

資料:PFI推進委員会のホームページなど


 一般廃棄物処理事業が
PFIに向いている理由としては下記の4項目があげられる

①ライフサイクルコストの中に占める運営、維持管理費のシェアが大きい

 一般廃棄物の処理には、大型の施設が必要となるが、ライフサイクルコストに占める運営費、維持管理費は意外と高い。廃棄物の焼却では、施設運転の人件費に加えて、施設の維持管理やオーバーホールのために多額の費用がかかる。そこで、PFI的な事業形態をとれば、民間事業体は利益向上のために、その削減を図ると考えられる。


②民間事業者の方が公共団体より高いノウハウを持っている

 一般廃棄物処理施設の運転業務は、多くの自治体で民間事業者に委託されているが、その内容は公共側の管理者の下で、就業時間や人数まで拘束されている。大手の民間事業者であれば、運営を任されても実務上困ることはほとんどない。また、溶融などの高度な技術が要求されるようになると、ほとんどの市町村は独力での対応が困難となる。溶融技術の開発はほとんど民間企業に頼っており、将来に向けたその管理や運用は民間事業者を貫には考えられない。


③地域住民から見て信頼性の高いサービス体制を構築する

 一般廃棄物処理事業にPFI的な事業方式が導入されると、公共側は処理事業を委託するために、民間事業者との間で管理基準や問題が起こった場合の対処方法を様々な角度から決めなくてはならない。民間事業体の指摘を受けながら、基準や対処方法を決定していく過程を経て、公共側はリスクマネジメントに関する重要な支店が欠落していることに気づかされる。こうして、ジャッジ(公共)とプレーヤー(民間)の役割分担が明確に決められ、住民側から見て信頼性の高い事業管理システムができあがる。


④民間企業の付加価値の向上

 もともと公共サービスを提供する施設は、ソフト面でのサービス提供の手段として整備されるべきだが、日本ではサービスのマネジメント能力の向上が遅れ、施設ばかりが立派になった経緯がある。このため、サービスをマネジメントする企業が育たず、施設納入を行う企業が目立つようになった。民間参入の拡大により、世界の廃棄物処理事業はマネジメント手動になっている。これまで廃棄物処理事業に関係してきた日本の民間企業が環境産業の分野で発展を遂げるには、単なる施設納入からマネジメント・ビジネスへと進化する必要がある。PFIは民間企業に進化の場を提供する格好に機会といえる。


(4)
PFIの課題

 一般廃棄物にとってPFIが適切な側面は認められるものの、問題点もいくつか指摘されている。PFIは公共事業費削減を狙いの一つとしているが、維持管理費の部分では公務員からパート・派遣労働者へのシフトが起こりうる。これは、公務員の身分保障を背景に一定の質を築き上げてきた事業を民間に委託してしまうこととなり、質の低下と自治体のリストラが危惧される。また、公共サービスの民間委託は住民や利用者にニーズに合致しないことが以下のように指摘されている。


①廃棄物処理の場合、企業収益を追求するとどうしても事業は大規模化せざるを得ない。このような大量廃棄物処理事業は、
3Rに代表される廃棄物政策とは根本から矛盾しており、PFIではごみの削減にはつながらない。


PFIの入札から事業者選定までの過程で住民は排除されており、情報公開や説明責任が不十分である。事業実施方針案が作成され、行政担当者が許諾すると、ホームページに内容が公開されるが、住民への説明をされることはほとんどなく、意見を取り入れる仕組みも整っていない。


3.大阪市における廃棄物処理事業の見直し

 大阪市経営企画室では、平成17年度から1567主要事業ユニットを対象に分析を実施している。現在、改革本部においてプロジェクトチ-ムによる検討、外部委員によるヒアリング等による検討などを行っている。環境事業(廃棄物処理)については下記の方向性が示された

①ごみの減量・リサイクルに事業をシフトするとともに、家庭ごみ収集の有料化の可否も検討。


②収集輸送の分野では、大幅な人員減に向けて、例えば収集は車両
1台につき運転手1人と収集作業員2人だが、大型車の導入と合わせて2人体制にシフトするなど効率化を図る余地がある。


③処理・処分の分野では、収支改善を図ることが重要であり、民間収集業者への工場受け入れ手数料の見直しなどについて検討の余地がある。


④運営体制については、当面は事業ごとに会計を分割し、個別に評価できる体制を構築する。さらに今後、経営形態・運営方法の再構築について検討を行う。

 大阪市の関淳一市長は、平成17年の出直し選挙の公約でごみ処理の独立法人化の方針を打ち出した。ところが、地方独立行政法人法が対象とする業務にはごみ処理が含まれておらず、法改正が必要となることから、実現に向けてのハードルは高いといえる。


参考文献・ホームページ
(1)http://www.ufji.co.jp/report/ufj_report/302/11.pdf(松崎俊一「一般廃棄物処理民営化の課題と展望」SRCReport3(2)
(2)http://www8.cao.go.jp/pfi/iinkai.htmlPFI推進委員会)
(3)井熊均(2002)実践!PFI適用事業―分野別事業化の手引き―.ぎょうせい,207p
(4)建設政策研究所(2002)検証・日本版PFI.自治体研究社,194p
(5) http://www.city.osaka.jp/keieikikakushitsu/kaikaku/kaiken/shiryo/jigyo20051006.html(大阪市経営企画室)
最終更新:2006年06月06日 09:04